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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#41
  FAREWELL CAUSATION~PHANTOM BLOOD NIGTMARE FINAL~




【1】


 ヴァグオオオオッッッッ!!!!
 高層から血飛沫と羽根吹雪を散らし斜角軌道で撃蹴された少女の躰が
無情に硬いアスファルトへと着弾する。
 濛々と舞う粉塵と紅蓮の火の粉、地点はクレーターのように抉れ
その原因と結果の相対差が受けた衝撃の凄まじさを物語る。
 頭上で仕留めた獲物を見下ろすでもなく、
濡れた炎の翼を鷲掴みにして吼える血染めの獅子。
 パワー、スピード、威圧感(プレッシャー)
何れを取っても此処より離れた場所で真の姿を顕した
“千変” の雷獣に劣らぬ恐嚇。
 紅世最強は己だと云わんばかりに、
鳴り響く咆吼が少女の白肌を痿痺(いひ)させた。
「あぁ……う……!」
 鋼の牙に蹂躙された左肩、肉ごと双翼をもがれた背中、
通常ならば再起不能、そうでなくとも戦闘を継続出来る状況ではない。
 間断なく流れる深紅の液体、その溶かした宝石のような滑らかさ艶やかさとは
裏腹に、地獄の惨苦が少女の神経を掻き毟った。
「あぁ……ッ! うぅ!! あうぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッッッ!!!!」
 押し殺そうにも押し殺せない、生命の危難信号が意志を無視して明滅する。
 圧迫するように抑えた左肩、応急の止血も出来ない背中、
着弾の衝撃に疵痕は更に裂け、自死を仕向けるが如く苦悶と激痛が合奏する。
 強力な紅世の戦士と雖も一人の少女、
「痛み」 対する抵抗力は男より低いのだ。
 ズドゥッッ!!
 間近、遙か遠方にも関わらずそう感じられた爆砕音、
その中心に頭上から直下で急降してきた獅子の王に、山吹色の光が傅いた。
 足場にしていた背後の大樹、ソレすらもこの王にとっては
己に従属する灌木に過ぎなかった。
『Luuuuuuu……GUGU……』
 威嚇ではない、手負いの獲物を捕食するために漏れる獅子の唸り、
刻印の如き双眸が緋色に発光し、そのまま音を置き去りにして
地に伏す少女へと襲い掛かる。
(ひ――ッ!)
 戦慄く口中で悲鳴を飲み込んだ少女を称えるべきか、
しかし血染めの獅子はそのような自制など意に関さず四足の狂走、
路面に凄爪が一瞬しか触れない、だがその反動と衝撃のエネルギーを最大限に活性し、
四肢の駆使で爆発的に稼働し最終的には音速を超えた雷速にて、
刃の尾を振り立たせの鬣を揮い挙げ、
撃砕したコンクリートを撒き散らしながら少女の喉元へと急迫する。
(く、来るな――ッ!)
 大刀を脇に挟み、右掌で夥しい炎弾を乱射するシャナ、
だが恐慌状態の遮二無二接近を拒む精神のため照準が覚束ず、
かろうじて命中したモノも堅牢な装甲に弾かれ獅子の猛進を止められない。
『LUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッッッッッッ!!!!!!』
 紅鎧内部のソラトの声か、それとも変貌した邪剣が哭いているのか、
シャナの手前で一度跳躍した獅子が両腕を押し広げ抉った傷口目掛けて 
頭上から襲来した。





 グギャギイイイイイイイイイイィィィィィィィッッッッッッッッ!!!!!!!





 咄嗟に押し出した剣の横腹にて迫り来る虐牙と凄爪をガード、
ギリギリメ゛リメ゛リと喰い込む三重の殺傷は、
並の刀剣では刹那に砕かれていただろう。
 しかし武器だけは互角で在っても圧倒的総力差、
ズギンッ! と痛んだ疵痕と共に硬直する躰、
その僅かな隙に鋼の膝蹴りが情け容赦なく捻じ込まれる。
「――ぅ゛!?」
 苦悶さえも腹腔で押し潰される迫撃、続いて。
『LUUUUUUUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!』
 獅子の全身に無数の紋章が迸り、ミエナイ刃が少女の躰を縦横無尽に切り裂いた。
「くあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
――――――――――――――――――!!!!!!!!!!」
 能力の余波で吹き飛ばされ、ここに至ってようやく発声を赦された少女、
血色の刃紋を浮かべる獅子を擦るように、
無数の裂傷が刻まれ舞い散る血華が空間を濡らす。
 装甲の形態を執っているとはいえ元は紅世の宝具
吸 血 鬼(ブルート・ザ・オガー)” 変則的殺傷力は残っており、
以前を遙かに凌ぐ汎用性を宿して獲物の嘆きを貪り喰らう。
 圧倒的、絶対的、そして絶望的、単体での白兵戦なら
他の徒の追随を赦さぬほどの戦闘力を今のソラトは獲得していた。
 欲望乃ち闘争本能、 “奪う者” こそ最も強い、
過去、未来の例を出すに及ばず、
悪こそ正に殺戮の頂点、頽廃の焼土に咲く黒き華。
 したたかに路面へ右肩胛部を打ち付け滴る鮮血が黒衣の内から零れ落ちる。
 苦痛に喘ぐ間もなく危機に際して反応した躰が側面へ跳び去る、
散った一抹の赤い雫、それが路面に沁みる前に
血染めの獅子が撃ち落とした凄爪でコンクリートを爆砕した。
 猛烈な爆風と飛礫が回避圏内にいる少女の素肌を打った。
 着地を待たず突き立てた大刀を舵手代わりに、強引に軌道を換える。
『LUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――――――――――――
―――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!』
 刹那までいた所に、狂吼の獅子が突っ込んで来た。
(迅過ぎる――ッ! 強過ぎる――ッッ!!)
 さながら 『近距離パワー』 と “遠隔操作” の接近攻防、
かろうじて躱すだけで手一杯、僥倖にも救われて被虐しないのが精一杯、
弾丸が一発入っているロシアンルーレットを一人でヤってるようなモノで
抜き差し成らない状況に陥るのは時間の問題。 
 凄まじい猛攻を繰り返していた獅子の王が初めて停止した、
シャナに背を向けたまま刃の鬣がキリキリと震えている。
 しかしどんな低位の遣い手だろうと攻め入る好機等と愚考出来る筈もなく、
睨まれる迄もなくその威圧感に拠って微動だに出来ない。
 強引な回避行動の累積によって更に裂けた傷口、流れる血が腹部から大腿に伝う。
(大丈夫……大丈夫……アイツよりは迅くない……アイツよりは強くない……!)
 真実のほどは確かではない、だが少女は恐怖に屈しそうになる己を必死に奮い立たせた。
 助けて欲しいと縋ったら自分自身に負けたら、
もうアイツの傍には居られないから、ソレが何より一番怖いから。
 幾つもの戦いを経て生まれた絆、空条 承太郎と空条 シャナは互いを頼らない、
決して相手を寄る辺にしない、ただ信じる、信じて戦い抜く。
 それだけで力が湧くから、受けた痛みも、流した涙も、
みんなみんな、勇気に変わっていくから。
 少女の裡に宿る何よりも純粋な想い、
それに向けて血染めの獅子が無情の牙を剥き出しにする。
『LULULUuuuu……GU、GU、GU……ッッ!!』
 胸元で凄爪の両腕を交差し、装甲を呻かせながら高まっていく存在力。
 構えはティリエルの流式に酷似しているが溢れる暴威はその比にならず。
 この隙に急所へと大刀を突き立てる様を巡らせてみても、
鋼の鬣が容易にそれを阻止する。
 ならばがむしゃらに距離を取り損傷を出来る限り抑えるべきなのだが
足下が冗談のように動かない、それどころか逆に招き寄せられるような
誘引力すら感じる。 
 コレは草食動物が捕食者の射程距離に囚われてしまった時と全く同じ現象、
本能、細胞、遺伝子の奥底に埋め込まれた生態階層の摂理。
 ギラリと刻印の瞳が少女を一瞥した、ゾワリと背筋に氷柱を突き込まれた感覚と
自虐的な安堵が全身を駆け抜けた。





『LUUUUUUUUUUUUUUUUUUUGAAAAAAA
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
――――――――ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!』




 狂吼と同時に揮り解かれた両腕、戦慄する空間、
スベテの因果に相乗して不可視の刃が全方位に射出された。
 縦横無尽、狂瀾怒涛の勢いで飛ばされた血刃が
周囲の高層ビルを材質、構造、強度一切を無視して
バラバラの真一文字に寸断する。
 変則的殺傷力を持つ紅世の宝具 “吸 血 鬼(ブルート・ザ・オガー)
その真の能力(チカラ)を解放した今は啖らい込んだ嘆きを上乗せして
斬撃を放つコトが可能となる。
惨 血 凘(ブルート・ザ・ブリード)
 近距離パワーを凌駕する破壊力とスピードに、
凄まじい威力の遠隔攻撃まで出来る血染めの獅子、
紅世の獣王に死角なし。
 急所を覆うを刀身の面積をフルに使った斜面受け、
黒衣の硬質化、変質伸長させた鎖を環状(リング)展開した三重の防御陣が
全て諸共にいとも容易く弾き飛ばされた。
 狂撃と共に発生していた真空破、
ミエナイ双つの刃が交錯し少女の躰を無惨に裂く。
「あああああああああああああああああああああ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 堪えた戦士の呻きではなく少女の生の悲鳴、
(ガジ)られた疵口を交差して刻まれた惨華の繚乱が空間をしとどに朱濡らす。
 下腹部の弛緩、ショックで心肺が停止しかねない地獄の激痛。
 巻き起こった烈風に少女の躰は嵐の中の落葉に同じく無軌道に飛ばされる。
 コレでもう左腕は使えない、一撃必殺の威力を誇る剣技、焔儀は完全に封殺、
加えて肉体のダメージも甚大、己より迅い相手に瞬間的な対処が出来ない。
 遙か遠方の運河に少女が入水したのを獅子の感覚が鋭敏に察知したのと同時に、
周囲のビル群が積み木細工のように軒並みズリ落ちた。
 総数500を越える切断面は鏡のように乱れがなく、
斬片は微塵の隈無くピタリと合致する。
 その威力、精度、射程距離、DIOの持つ超絶の流法(モード)
空 裂 眼 刺 驚(スペースリパー・スティンギー・アイズ)】と較べてもまるで遜色なし。
 敵には敵の、悪には悪の信頼が有り絆が在る、
ただでさえ強い紅世の “愛染自” ソラトは
この闇の相関系に組み込まれる事により、
本来を遙かに逸脱する能力(チカラ)を手に入れる結果となった。
 DIOが一度戯れに視せた過去の幻像、
ソレが少年の心の裡に消えるコトなき「憧憬」となって焼き付き
この凄技を発現させるきっかけとなった。
 何が福音となり何が凶兆となるか、
それは最後になってみなければ解らない、
正義、悪、スベテの因果を内包したまま
『運命』 という巨大な流れはただ其処に在り続ける。
「素晴ら、しい……」
 光燐舞い散る幻想の大樹、その幹の中から紅世の美少女は
斬裂された都市の街並みを見据えていた。
 降り注ぐ残骸、それすらも傅くように中心部を避け
両腕を押し拡げ吼える実兄をティリエルは慈しむようにみつめる。
「素晴らしい、素晴らしいですわ、お兄様。
吸 血 鬼(ブルート・ザ・オガー)” に込められた存在力を呑み尽くして尚、
微塵も揺るがないその器。
凝縮されて迸る力を完全に制御しているその顕在。
もう私など、アナタの足下にも及びません」
 麗花の装飾が成された手を祈るように組み、
一抹の淋しさを滲ませながらもティリエルは感銘を漏らした。
 既に恐慌からは立ち直り先陣に切り込む兄を
いつでも援護できる体勢を整えていたが、
その必要がまるでないコトに驚嘆していた。
 余りに凄まじい一方的な猛攻、下手に援護などすれば却って誤射を誘発し
優勢を阻害してしまう局面。
 もう自分は必要ない、一対一の白兵戦なら、
紅世最強の獅子 “愛染自” ソラトは誰にも負けない。
 飛び立つ雛をみつめる親鳥のように、冷たい戦風の吹く大樹の中で、
憂いを伴う充足した心情で少女は手に込める力を強めた。





   ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッッ!!
  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッ!!!!!!





 俯瞰から見下ろす運河対岸の縁、石造りの壁面から伝う血が
澄んだ水面に溶けて広がっていく。
 瀕死の惨状でようやく水中から藻掻き出した少女。
 純粋無垢な躰に刻まれた眼を覆いたくなるような裂傷の数々。
血痕で別物のように染まった制服。
勇戦の過程で生まれた気高さはなくただ一方的に
甚振られた悲愴だけが胸に焼き付く。
 朽ち木のような弱々しさで路面に立てられた切っ先、
震える指先、輪郭、儚い囁きの元凶は全身に付けられた地獄の爪痕。
「あ……ぁ……う……ぅ……うぅ~……」
 少女の見た目そのままに、加虐蹂躙の限りを尽くされた精神は
一時的な 「退行」 を引き起こしその脆さを以てボロボロに毀れていく。
「うああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――――――
―――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
“痛みは頭を冴え渡らせ力を湧きあがらせる”
等と(のたま) う白痴なる者がいるが、
痛みは痛み、それ以上でもそれ以下でもなく、児戯でもない限り、
そのような都合の良い話は戦場の何処を引っ繰り返しても転がっていない。
 少なくとも今の少女の惨況を目の当たりにすれば
そのような日和ったコトは口が裂けても吐けないだろう。
 痛みは心を殺す、魂を壊す、他者を従属させるのに、
最も直接的で原初的な手段。
(助けて欲しい……ッ! 傍にいて欲しい……ッ! 
一人じゃコイツは強過ぎる……ッ! ティリエルって女も残ってる……ッ! 
今のままじゃ絶対負ける……ッ! 二人なら……ッ!)
 禁句としている言葉の数々が恐慌状態の精神を奔流として理性の壁を突き破る。
 それを声にしなかっただけでも称えるべきであろう、現に。
「もう無理だッ! 転進せよ! 最早単独では一矢報いる事すら叶わぬッッ!!」
 火を呑むような断腸で状況に堪えていたアラストールが遂に声を荒げた。
 誓約を違える事が却って少女を苛むかもしれないが、
最早この状況で綺麗事は言っていられない。
 ヴィルヘルミナ、願わくばジョセフ、エリザベスと合流できれば負傷の治癒も可能。
 あの男も決して責めまい、寧ろ英断だったと少女の身を憂慮する筈。
(赦せ……ッ!)
 最早返答を待つ時間すら惜しい、フレイムヘイズと王の精神を入れ換える禁儀、
“霞幻ノ法” を発動させるため胸元の神器、コキュートスが紅く光る。
「ダメッッ!!」
 弱き者が振り搾る勇気のように、
意志と無関係に双眸から流れる雫に頬を濡らしながら
少女は懸命に王の苦渋を遮った。
「“それだけは” 赦さないッ! “そんなコトしたら”
アラストールでも絶対に赦さないッッ!!」  
 フレイムヘイズに執って、使命遂行こそ至上の事、
故に己が一命を賭しても完遂出来ないなら即座の撤退、
生還こそが目的の第一義となる。
 事実数年前の彼女ならそうしていた、
“千変” “壊刃(かいじん)” そして “悪魔皇(あくまおう)
勝算の視えない相手には交戦は疎か近づきもしなかった。
 故に今回の例も同じ事、勝機薄く尚かつ置かれた状況が最悪過ぎる。
 死ねば恥も外聞もない、故に撤退は最優先事項、異論を挟む余地などない筈。
(――ッ!)
 ここまで思考して、アラストールもまた転進に厭忌を感じている己に気づいた。
 少女の気持ちが同調したのか、それとも自分でも知らない間に
心奥へ変化が生じていたのか、戦場では当然の賢明を愚者の拙劣と解し始めていた。
「私も、昔は同じように考えてた。
自分の戦略が破綻したなら、
敵なんか捨ててとっとと逃げればイイって。
もっと強くなって “いつか” 討滅出来ればイイって……!」
 苦い果実を噛み砕くように、少女は過去の自分を強烈に戒む。
「後に残される人達の事も考えず――!
罪もない人々が殺される意味も考えず――!」
 此処に至ってアラストールはシャナの想っている事を明確に認識した。
 何故このような暴挙を遂行しようとしているのか、
「使命」を違えてまで自ら死地に留まろうとしているのか。
「目の前に在る、たった一つの生命(いのち)
ソレを蔑ろにしたら、紅世の徒と変わらない。
“アノ男” と何も違わない。
自分しか、 “自分の気持ちしか” 大切じゃないなら、
そんなのは 『使命』 でもなんでもない! ただの身勝手な思い込みよッッ!!」
 血を嘔くような想いで、シャナは躰は疎か心まで傷を晒し
その痛みを受け止める。
「 “アイツ” は、絶対そんな事しないッ! 
自分が窮地に陥ったからって、
目の前の生命を見捨てるなんて事絶対にしないッッ!!
“二度目” なんてない!!
辛い事、苦しい事、自分自身から逃げ出すヤツに、
“いつか” なんて日は永遠に来ないのよッッ!!」
 フレイムヘイズの 『使命』
最初は現世と紅世両界の調和(バランス)を保つため、
崇高な目的が在ったのかも知れない。
 だが余りに永き時の流れ、壮絶な戦いの終わりなき積年に、
いつしかその理念も形骸し意味も風化していたのではなかったか。
 世界のバランスを保つと(うそぶ) きながら
たった一つの存在(せいめい)を蔑ろにする、
コレは明らかな 「矛盾」
 目の前の小さな命すら救えぬ者に、救わぬ者に、
世界という余りにも巨大過ぎる存在は救われない。
 それでは結局 “何の為” の 「使命」 なのか?
 ただ己が滅びたくないだけ? 
自己の生存のみを崇高とする欺瞞ならば
それは痴者の妄言となんら変わらない。  
 いつ終わる? 一体いつこの少女は、この戦いの煉鎖から解放される?
 シャナを大切と想うなら、己が身命を賭して愛すると誓ったなら、
ソコまで考えて然るべしではないのか?
 アノ男は、一体どう考えていた――
「アラストール、私を、卑怯者にしないで……
アイツの優しさに甘える、臆病者にしないで……
多分逃げてもアイツは責めない、それは解ってる!
でもそんなの “私” じゃない!!
アイツと共に戦い続ける 『空条 シャナ』 じゃ絶対ないッッ!!」
「――ッ!」
 強さと共に冠せられるフレイムヘイズの真名、
ソレ以上の響きを以て少女の喊声は戦場を駆け抜けた。
「おまえ、……おまえは――」
「 “私達” に限界なんてない!! 
決めない!! 意味ない!! 存在しない!!
空条 承太郎と空条 シャナに敗北はないのよッッ!!」
 一閃、指の隙間に瞬現した打剣状の焔儀、
“蓮華” が高速で背後左斜めに射出された。
「くっ――!」
 紅蓮の小刀が突き立った壁面が燃え脆く毀れ落ちた場所から抜け出る影、
ジョセフのスタンドと同じように荊へと変質させた蔓を
ドレスの片腕に巻き付けたティリエルが殆ど気配を発さずに姿を見せた。
「そろそろ来る頃だと想ったわ。
大樹が在るならその傍におまえがいるって、
それはただの思い込みだものね」
 無論ソラトの超凄惨な戦闘力も折り込み済み、
シャナの現在位置を知らせると同時に
今現在(ソラト) 一色で染まっている相手の意識の虚を突く巧妙な策。
 恐慌状態の彼女なら木偶のように喰らっていただろう、
だが灼熱の咆吼、それによって研ぎ澄まされた神経が
ティリエルの奇襲を封殺した。
 完膚無きまでに打ちのめされたとしても、
筆舌に尽くしがたい汚辱、屈辱、恥辱に塗れても、
裡に宿る黄金の光と共に成長し絶望に立ち向かう、
視る者を否応なく喚起させるその姿は正に、
フレイムヘイズではなく 『人間』 そのもの。 
 ズグァッッ!! 
 ティリエルが存在を晒してから数秒待たずに、
シャナを挟撃する形でソラトが頭上から襲来した。
 そのまますぐに猛攻を仕掛けて来ると想われたが僅かに理性が残っているのか、
凄爪で手招きをして傍にティリエルを呼び寄せる。
 瞬間ティリエルの右腕を覆っていた荊が元の存在力に還元され、
それはすぐさまに別の構成に紡ぎ直され放散、運河に咲く大輪の華々。
 それを足場にティリエルは淑やかな跳躍で
ドレスの裾を靡かせながら華麗にソラトの脇に着地した。
『Luuuuu……Guuu……』
「お兄様、御立派になられて」
 強堅な血染めの装甲、その胸部に花飾の手を当て
ティリエルは実兄に寄り添った。
 言葉は発しなかったが獅子の唸りも幾分和らいだ、
ギラついた凄爪(ツメ)がドレスを傷つけないよう細い腰へ回される。
 状況はより最悪に、ソラトとティリエルの合流、
彼我の戦力差は論じる事が愚妹な程に、
文字通り常人と吸血鬼ほどに開ききっていた。
 しかし。
「……」
 少女は、笑っていた。
 傷だらけの躰、血塗れのセーラー服を無惨に晒しながらも
黒衣を戦風に揺らし、長い髪を靡かせながら笑っていた。
「どうした? 何か策でも有るのか?」
 対峙する二人に覚らぬよう、極力抑えた声でアラストールが訊く。
「いいえ、何もない。ただ、 “面白くなってきた” と想っただけよ」
「な――!?」
 紅世最強の王 “天壌の劫火” をして、
思わず絶句するほどの驚駭を起こさせる少女の返答。
 一瞬、少女の存在に重なって別の者の姿が垣間見えたような気がした。
(アイツなら、こういう時多分こう言う。
勝算のない賭けほど、狂気の沙汰ほど面白いとか言ってたから。
前は意味が解らなかったけど今なら解る、いいえ、実感が在る……!)
 ナニカが生まれる実感が在る、
どうしようもない絶望、抜き差しならない惨況に
立ち向かう事で初めて生まれる、新たなるナニカが。
「策なんかない、在るのは、たった一つ……」
『LUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA―――――――――――――
――――――――――――――――――ッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!』 
 終わりを待たず、血染めの獅子がコンクリートを爆砕して強襲する。
「 “勇気” よッッ!!」
 大刀を地に突き立てたまま、右手に黄金の長鎖を握り締め、
逆水平に構えた指先を少女は眼前に差し向けた。


←TOBE CONTINUED…




 
 

 
後書き


はいどうもこんにちは。
今日より今年の掲載を始めようと想います。
皆様宜しくお願い致します。
さて、ソラトが強えーの強くねーのという話ですが、
原作の頭の○タイ○○○で終わらせたくなかったので
強くて妹想いなお兄ちゃん(ただし鋼鉄の獣)にしてみましたw
お気づきの人はお解りの通り、ジョジョでコンビで出てくる敵は
最初のド派手な方ではなく「残った一人の方が」よりヤバイという話です。
どこぞの○タレも「でも!」とかいってしゃしゃってくるなら
「コレ」とヤってみろという話で、出来ないなら結局莫迦が熱に浮かされて
○ョーシこいてたというだけの話です。
(ルーシーが(聖人の)遺体が身体にあるせいで
どれだけスティール氏に逢いたくても逢いに「いかなかった」のに
なんでコイツはヘラヘラした面で学校行ってるンだか・・・・・('A`)
他人が巻き込まれるトカ考えないンですかネ・・・・・('A`))
基本ワタシは小心で内気な主人公が「努力」して「成長」する話は
好きな部類なのですガ(「将太の寿司」とか「ホーリーランド」とかスゲー好き)
ドンだけ話が進んでも微塵も成長しない寧ろ悪くなってる
山○邦○(旧名)みたいなヤツってホントにいるんですネ・・・・('A`)
新年早々毒吐いてますがまぁアレが好きって人もそういないでしょうし
(いたとしても礼儀も何もなってない○○ばっか・・・・・('A`))
良しとしちゃいましょう。
ソレでは。ノシ 
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