手は早いが
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第一章
手は早いが
ベトナムは女が強い国という、このことはあながち間違いではない。
「建国からです」
「ベトナムの女性が強いのは」
「そこからですね」
「そうです」
ハイフォンの大学で歴史を学んでいる青年ゴー=チ=ウォンは同じく歴史を学んでいる後輩達に対して扇風機の風が強い研究室の中で話していた。痩せた面長の顔と黒く細い髪の毛とはっきりした目を持っていて一九五近くある長身は座っていてもかなりのものだ。その彼が語るのだ。
「徴姉妹からですね」
「あの姉妹が立ち上がって」
「それでベトナムの歴史がはじまりましたね」
「そういえば」
「後漢の圧政に反旗を翻し」
まだ十四歳と十三歳であった、その二人が民衆達を率いて蜂起したのだ。
「象に乗り出陣したのがはじまりです」
「そしてこれまでですね」
「何かと女性が強いですよね」
「フランスとの戦争でもアメリカとの戦争でも中国との戦争でも」
「女の人が頑張りましたね」
「猛女、烈女の国です」
ゴーはこうまで言った。
「我が国は」
「並みいる強国を退けてきましたが」
「それには女の人が強かったからという面もあるんですね」
「自ら武器を手に取り戦う」
「それも前線で」
「弓矢や槍はおろか」
若しくは旧式の銃だ、ベトナムの民衆はこうしたものを手に大国と戦ったことは歴史にある通りである。
「罠も仕掛け鋤や鎌でも戦う」
「本当に強いですね」
「我が国の女性は」
「まさに猛女の国ですね」
「烈女の」
「はい、しかし」
ここでだ、ゴーはその顔を強張らせてこうも言ったのだった。
「それは大国との戦争に向かうだけでなく」
「国内にも向かいますね」
「それもプライベートで」
「ごく普通に」
「何度も言いますがベトナムの女性は強いです」
また言ったゴーだった、その強張った顔で。
「喧嘩になれば」
「怖いですね」
「信じられない位に強いですから」
「それこそ豹みたいに」
「そうです、まさに獣です」
その域の強さだからというのだ。
「決して喧嘩はしないように」
「俺もうしました、妹と」
「僕も従姉と」
「近所の女の子と」
「彼女と」
だが殆どの者がこう言ったのだった。
「噛まれて引っ掻かれて」
「殴られるわ蹴られるわ」
「武器は持ち出しますし」
「格闘技の技さえ繰り出してきますよ」
「それは愚かな」
ゴーは彼等の話を聞いてまた言った。
「あれだけ強い存在を相手にするとは」
「後悔してますよ」
「相手が女とかいう理屈は通用しないですね」
「こと我が国においては」
「そうですね」
「ベトナムで最強の存在です」
女性こそはというのだ。
「ですから」
「決して、ですね」
「敵に回してはならない」
「そういうことですね」
「最初から」
「私は両親に言われました」
他ならぬ彼等にというのだ。
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