最高のご馳走
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第五章
「いや、いいですね」
「これは絶品です」
「野菜料理も肉料理も言うことがありません」
「流石は菊池さんのシェフです」
「これは見事」
「幾らでも食べられます」
笑顔で絶賛する、その笑顔を見つつだった。
菊池も食べる、すると。
昨日より美味かった、メニューも味付けも同じである筈だが。もっと言えば食材も。
美味い、それで食事が終わり二人が帰ってからだった。
午後の仕事の準備をしつつだ、菊池は太田に言った。
「実は今朝家族と一緒にお粥を食べたけれど」
「美味しかったのですね」
「同じお粥でも一人で食べるとね」
これはというのだ。
「美味しいことは美味しいけれど」
「物足りない」
「そう、けれどね」
「今朝は違ったのですね」
「そこで何となくわかってね」
そしてというのだ。
「このお昼で確信になったよ」
「何故昨日のお昼は今一つだったか」
「うん、一人で食べるとね」
そうしていると、というのだ。
「お店でも周りに誰かいるとね」
「他のお客さんですね」
「違うんだ」
「一人だと、ですね」
「これがね」
随分、という口調での言葉だった。
「どれだけいい腕のシェフが作ってもね」
「今一つですね」
「そうなんだよね」
こう言うのだった。
「美味しくてもね」
「物足りないね」
「そうなんだね」
わかったという言葉だった。
「わかったよ、最高の調味料が」
「それは笑顔ですね」
「誰かの笑顔を見つつ食べると」
そうすると、というのだ。家族なり友人なり仕事相手なり他の客なりだ。何はともあれというのだ。
「味がさらにね」
「よくなりますね」
「美味しくなるんだ」
その笑顔の分というのだ。
「そういうことだね」
「はい、それでは」
「これからは出来る限りね」
「どなたかと一緒にか」
「誰かがいる店でね」
食べてそして舌鼓を打つ人の顔を見つつというのだ。
「食べる様にするよ」
「それでは」
「そういえば個室で一人で食べてもね」
そうした時のことも思い出した、ここで。
「誰かと食べる時より面白くなかったね」
「そうですね」
「そういうことだね、人の笑顔こそが」
まさにとだ、菊池は言った。
「最高の調味料だよ」
「では美食倶楽部の会員の方々にも」
「そのことを話すよ」
「それでは」
「うん、最高の調味料についてね」
美食を心から楽しむ者として、というのだ。そして実際にだった。
彼は倶楽部の会員、同志達にこのことを話した。そのうえで彼等に笑ってこうも言ったのだった。
「あの伝説の美食倶楽部とは違う結論になりましたな」
「あの美食倶楽部は最後は不思議な結論に至りましたが」
「我々は違いますね」
「笑顔こそが最高の調味料」
「美味しいものを食べた時の笑顔が」
「そうなりましたな、では皆さん」
菊池は会員達にあらためて言った。
「今日も食べましょう」
「はい、笑顔と共に」
「心から楽しく」
会員達も話す、その誓い通り心から美食を楽しんだのだった。笑顔と共に。
最高のご馳走 完
2016・6・14
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