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狐の穴

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第一章

                 狐の穴
 その山には昔から言い伝えがあった、化ける狐達が多くいてだ。
 彼等が住んでいる穴がある、彼等の家なのでその穴に入ると後で狐が団体で来て仕返しに来るというのだ。
 その話を山の近くの寺の小僧の知行と善行が聞いてだ、こう話した。
「本当かな」
「嘘じゃないかな」
 二人で寺の掃除をしつつ話した。
「狐が沢山いるにしても」
「穴に入ったら仕返しに来るとかね」
「まずないよね」
「そもそも化けるとか」
「ないんじゃない?」
「そうだよね」
 彼等は狐が化けることすら信じていなかった。
「狐が化けるとか」
「そして人を化かすとか」
「ただそう言われているだけで」
「ないんじゃない?」
 こう二人で話していた、だが。
 その二人にだ、寺の和尚は真面目な顔で言った。
「狐は化かすぞ」
「和尚様いつもそう言われますが」
「本当ですか?」
 二人は修行や他のことには素直だがこのことには懐疑的だった。
「狐が化かすとか」
「それ嘘じゃないですか?」
「僕達も狐は見てますけれど」
「ただの獣じゃないですか」
「獣が人を化かすとか」
「そんなことは」
「いや、ある。都にはそうした話がある寺もあってな」
 和尚はいぶかしむ二人に真剣に話した。
「そしてな」
「狐が、ですか」
「人を化かすんですか」
「化けて」
「そうして」
「人に化けたりもする、これは本当のことだ」
 和尚の顔は真剣なままだった。
「だからあの山に入ってもな」
「その穴に入ることは、ですか」
「止めておけっていうんですか」
「狐達が仕返しに来るから」
「だからですか」
「殺されないが袋叩きに遭うらしい」
 化ける狐達によって寄ってたかってだ。
「だからな」
「ううん、そうですか」
「そうなるんですか」
「信じられないですが」
「そんなことは」
「ある」
 こう言うのだった、あくまで。
「だからあの山の穴には入るな」
「狐達が住んでいる大きな穴は」
「絶対に」
「そうだ、いいな」
 和尚は二人に注意していた、そのうえで守護大名の家臣のところに行って法事を行うのだった。だが留守番の二人は。
 和尚の言葉を信じずにだ、二人だけになるとこう話した。
「やっぱりね」
「信じられないね」
「狐が化けるとかね」
「人を化かすとか」
「とてもね」
「考えられないよ」
 こう言うのだった、あくまで。
「そんなことは」
「お師匠様もおかしなことを言うよ」
「本当にね」
「絶対にそんなことないって」
「穴に狐がいても」
「普通の狐だよ」
 こう二人で話してだ、そのうえで。
 善行と知行は後日和尚の隙を見て山に入り穴を探した、すると。
 実際に怪しい穴を見付けた、先に見付けたのは知行だった。彼は穴を見付けるとすぐに傍にいた前行に言った。 
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