居眠り
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第一章
居眠り
田中小鳥には悪い癖がある、それは癖というよりかは彼女独特の困った身体的特徴だった。
膝までの髪の毛は染めておらず黒いままだ、大きな吊り気味の目は大きく整ったものだ。面長の顔で鼻は高くすらりとしていて唇は程よい大きさだ。背は一六七程で胸が制服の上からでも大きく目立つ。脚も実に奇麗だ。
成績もよく合気道部では二段の腕だ、性格も愛嬌があり同級生や後輩達への面倒見もいい。人に嫌われる性格ではない。だがその彼女の困ったところは。
「あんた一回寝るとね」
「起きないのよね」
小鳥は自分から友人の浜口梨沙にこう返した、自分でもわかっているのだ。梨沙も長い黒髪だが小鳥程ではない、背は一五三程であるが大きな胸と高校生には思えない色香がそこにある。白い肌に二重の蒲鉾形の目で眉は細く上の方で少し曲がっている。スタイルは全体的にいい。グレーのミニスカートとネイビーブルーのブレザーに青いネクタイという制服だ。
「本当に」
「それ体質よね」
「そうなの」
自分で認める。
「これがね」
「一旦寝たら中々起きない体質なのね」
「夜も一旦目を閉じたら」
もうそれでというのだ。
「何があっても起きないの」
「何があっても」
「それで毎朝目覚ましを何個も用意していてね」
「一斉で鳴る音でなの」
「起きてるの」
「何個もって」
「二十個」
それだけの数のというのだ。
「全部でね」
「もうそれ何個もってレベルじゃないわよ」
梨沙は小鳥のその返事に眉を曇らせて返した。
「二十個って」
「これ位あってお母さんが部屋に飛び込んでフライパンをガンガン叩かないと」
「起きないの」
「そうなの」
「だから授業中に居眠りしても」
成績のよさは予習復習を欠かさず授業を真面目に聞いているからでもあるが時として居眠りをしてしまうのだ。
「起きないのね」
「さっきの現国の授業でもね」
「上野先生呆れてたわよ」
「声をかけても起きないから?」
「やれやれっていったお顔で放っていたわよ」
「そうだったの」
「一旦寝たら自分で目が覚めるかそれだけ目覚ましかけてないと起きられないのね」
梨沙も小鳥の睡眠についての事情を理解した。
「そうなのね」
「子供の頃からそうなの」
「すぐに寝られて起きない」
「もうぐっすりよ」
「凄い体質ね、そんなのだったら」
それこそとだ、ここでこう言った梨沙だった。
「傍に雷落ちても平気そうね」
「雷の夜も台風の夜もね」
そうした時もというのだ。
「ぐっすり寝てたわ」
「雷や台風の音で起きなかったの」
「そうだったの」
「ううん、凄いわね」
「そうした体質なのよ」
「やれやれね、そんなのだったらね」
それならとだ、梨沙は小鳥にあらためて言った。
「地震が起きても寝てそうね」
「そうかもね」
「気をつけなさいよ」
梨沙は友人に忠告する顔で告げた。
「すぐにぐっすり寝られることはいいことでも」
「起きないことは」
「そう、よくないから」
だからだというのだ。
「幾ら何でもね」
「そうなのね」
「そう、本当に注意してね」
「起きないことも極端だと駄目ってことね」
「あんたの場合極端だから」
それ故にというのだ。
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