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真田十勇士

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巻ノ七十 破滅のはじまりその八

「二百五十万石の力があり」
「知勇兼備であられ」
「徳もある」
「そうした方であられ」
「野心もな、今は消えておるが」
「消えていても」
「それはもたげていないだけじゃ」
 そうした意味で消えているだけだというのだ。
「だからな」
「何かあれば」
「出る」
 そうした野心だというのだ。
「だからじゃ」
「徳川殿には隙を見せるな」
「そのうえでじゃ」
「お力を借りよと」
「まあ御主なら大丈夫じゃ」
 秀次、彼ならばというのだ。
「それなりの歳で資質もあり家臣もおる」
「だからこそ」
「徳川殿もな」
「野心を起こされず」
「無事に御主を助ける」
「左様ですか」
「御主ならな」
 秀次の年齢と才覚ならというのだ。
「大丈夫じゃ、むしろ何かあればな」
「徳川殿を頼り」
「又左殿とな」
「そしてですか」
「天下を治めよ、大坂城に入りな」
「わかり申した」
「さて、ではじゃ」
 ここまで話してだ、秀吉は。好々爺の笑顔で秀次にこうも言った。
「茶を飲まぬか」
「茶ですか」
「そうじゃ、とびきりの茶が入ってな」
 それでというのだ。
「虎之助があちらから送ってくれたものじゃ」
「朝鮮から」
「いや、あちらでは茶を飲まぬそうじゃ」
「そうなのですか」
「我が国と明ではよく飲むが」
「朝鮮ではですか」
「茶は飲まぬ」
 そうだというのだ。
「だからな」
「そちらからの茶ではありませぬか」
「うむ、明との戦であちらの将が持っておった茶が手に入ってな」
「その茶をですか」
「こちらまで送ってくれた」
 大坂までというのだ。
「わしへの献上ものとしてな」
「では」
「これから飲もうぞ」
 その茶をというのだ。
「よいな」
「わかり申した、それでは」
「これから飲もうぞ」
 こう話してだ、そしてだった。
 秀吉は秀次を気前よくかつ人懐っこく茶に誘いそうして共に飲んだ、秀次から見た彼はこれまで通り優しく寛容な叔父だった。
 幸村はこの時は父昌幸が都に来てそのうえで彼を屋敷に留めてそこで茶を飲みながら上田のこと等を聞いていた、しかし。
 その場でだ、朗報が来たのだった。
 家臣の一人が二人のところに来てだ、こう言って来たのだ。
「茶々様ご懐妊です」
「何と、茶々殿がか」
「はい」
 家臣は頭を下げたまま昌幸に答えた。
「間違いないとのこと」
「そうか、姫ならよいが」
「父上、それは何故ですか」
 幸村は父の今の言葉にすぐに問い返した。
「姫ならよいとは」
「もう次の天下人は決まっておるからじゃ」
「関白様で」
「そうじゃ、だからじゃ」
「若しご子息ならば」
「その時はどうなる」
「太閤様のお子ですか」
 幸村もこのことからすぐに察した、そのうえで父に答えた。 
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