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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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第76話 日本売買計画

 坂本龍馬は一路グラバーの使者とともに札幌へと向かって馬を走らせていた。が、その後ろから追走してくる馬の蹄の音が聞こえてきた。
 龍馬が後ろを振り返ると新撰組の旗を鉢巻きにした男が猛スピードで追いかけてくるのをみた。
(ちっ、こんな時に)
 龍馬は心の中で舌打をして、馬を止めた。
「どうしたのだ、ミスター坂本?」
 使者の二人も馬を止め、急に止まった龍馬に問いかけた。
「いやぁ、どうやら、決着をつけなければならない男が、追いかけてきてしもうた」
 龍馬は猛追してくる男をみつめた。
「時間がない、すぐに出発しなければ」
 使者は龍馬をせかした。
「先にいっとうせ。すぐに決着をつけて追いつくきに」
 龍馬の強い決心を使者は感じた。
「わかった。が、すぐに来てくれ。ミスター・坂本」
 使者は龍馬を置いて走り出した。
「ちゃちゃっちゃ。やはり、おまんか、土方君」
 龍馬はにやりと笑った。
「坂本、逃がさん」
 土方は龍馬を鋭い視線で睨みつけた。
「土方君、君と話している時間はわしには、ないのきどなぁー」
 相変わらず飄々とした物言いで龍馬は土方に言った。
「坂本、貴様の狙いはなんだ?天草はこの日本を滅ぼすとか荒唐無稽な事をほざいてはいたが、ことによってもぶった切る事に変わりはないがな」
 土方は皮肉を込めた笑みで笑った。
「そうじゃなの、わしの狙いも荒唐無稽ではあるんじゃが」
 龍馬は頭をぽりぽりと掻いた。
「土方君、地球儀とやらを見たことがあるか?」
 龍馬は、突拍子のない質問をした。
「あるが、それがどうした?」
 土方は訝しげに答えた。
「わしはの、土方君、日本は地球の鍵穴だと思っちゅう。なんか、そんな感じに見えるじゃろ?」
 龍馬は楽しそうに笑った。
「だから、なんだ?お前の妄想話に付き合っている程、俺は気が長いわけじゃない」
 土方は、苛立ち語気を強めた。
「まぁ、まぁ、わしも時間があるわけじゃないぜよ。けれど、わしの狙いを聞いてきたのは、土方君、君自身ぜよ。少し落ち着いてわしの話を聞いてもよいと思うが?」
 龍馬は冷ややかな目で土方を見つめた。
「わかったよ、お前の与太話を聞いてやる。聞いた後は、ぶったぎってやるから、覚悟しろ」
 土方は典太に手をかけた。どういう訳か、これがこの時代での最後の戦いと土方は感じていた。
「わしが、日本は地球の鍵穴と思ったのは、何もその形だけで、そう思っちゅる訳じゃないぜよ。日本ちゅいうのはの、土方君、世界の中心にあるとは、おもわんか?」
「それは、お前がいう地球儀の位置関係の事をいっているのか?」
 龍馬の問いに対して土方は問いで返した。
「まぁ、土方君の問いは、半分正解だと思う。確かに地球儀上で言えば中心にいちするの。アメリカ、ロシア、清国と巨大な国に囲まれとる」
 龍馬はうんうんと頷くように首を振った。
「だがの、土方君。もしも、その国が日本を狙っているとしたらどうする?」
「なぜ、そういえる?」
 土方は龍馬の予言めいた問いに少々驚いた。なぜなら、今、その大国が攻め込んできたなら、日本はひとたまりもないだろう。
「日本っちゅのはの、土方君。アメリカがロシアに行くにも深刻に行くにも通られねばならない国なんじゃ。清国やロシアもそうじゃ。ましてや、伴天連もそうじゃろう。しかも、日本には、様ような資源や職人、文化が根付いちゅう。各国は、そういう物が喉から手が出るほど細がっているんだよ。この戦争だってそうじゃ。もし、政府にアメリカやエゲレス。そして、蝦夷政府がフランスなどが後ろについたとしたら、日本は大国の代理戦争を政府と蝦夷で繰り広げ事になちょっただろう」
「そんなことはなかっただろう?榎本も官軍もそんな馬鹿じゃない」
 龍馬の言い分に土方は反論した。
「でもなー、土方君。諸外国は未だに狙ってるよ?だから、わしは・・・・・・・」
「だから、なんだ?」
 龍馬が言いよどんだところが、狙いなのだと土方は察した。
「わしはのぉ、土方君。諸外国に日本を売ってやろうと思うちょる」
 龍馬はにやりと不気味に笑った。
「馬鹿な、そんなことが出来るわけなかろう!!俺は認めていないが、日本には政府もある。いくら馬鹿な薩長でもそんなことは許さいだろう」
 土方はそんな絵空事に呆れて苦笑いを浮かべた。
「いいや、すでに動きだそうとしている。日本売買計画が」
 龍馬は真顔で答えた。
「では、その計画とやらをお前の冥途の土産に聞いてやろう」
 土方も真顔になった。
「いいかい、土方君。何も国土として日本を売るなんて言ってないきに。確かに国土を売ることはできんぜよ。そんな事したら、おまんが言うように政府が黙っていない。けどの、それ以外はやりようによっては、日本を空洞化することが出来る。例えば、物資や技術産業をうっぱらう。そうすれば、どうなると思う?」
 龍馬は饒舌に語り、土方に質問を投げかけた。
「日本には金が集まる」
「そのとおりぜよ。じゃが、日本には金が増えても買う物がないとしたらどうする?」
 龍馬はにやりと笑った。
「買う物がなければ、買い戻せばよかろう」
「そうじゃの。では、買いも戻せなかったどうする?日本は四季があり、美しい国じゃ。けど、その分、作物などは天災に見舞われる。金はあるけど、変えない。それは、金の価値というものがなくなったという状態になるとは思わんか」
 龍馬は再び真顔になって土方に言った。
「すでにわしは、その段取りをつちゅる。わしは、これから大陸をわたらないかん。時間がないきに」
 龍馬は馬から降りた。
「お前の好き勝手にはさせん。ここで、地獄に突き落としてやる」
 土方もまた、静かに馬を下り典太を抜いた。
 
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