剣士さんとドラクエⅧ
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115話 亡霊2
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わぁ!その骨の盾なんてすごくかっこいいね、装備できるのはヤンガスだけなの?わぁ、ヤンガスにとっても似合うね、あつらえたみたいだ!
この洞窟、海賊が使っていたっていうことが分かっていたらさ、次に私たちがするのはどう考えても「お宝探し」!……みたいなことになるよね?
魔物は相変わらずどんどん襲いかかってくるけれど、どれだけ数が多くても広くないから相手にする数はとても少ない。室内だから残念ながらゼシカのイオナズンには頼れないけれど、あまり困ることもないくらい。
代わりに炸裂しているのはすっかり見慣れたメラゾーマで、上からじゃなくてメラミみたいにまっすぐ打ち込んでいるんだよね、発射速度はいつも通りだけどそういう方向を変えるなんてアレンジができるってすごいなぁ!不意打ちできるじゃないか!
だって魔法だよ?剣術でアレンジって言っても横斬りか縦斬りか、はたまた真っ二つか突き刺すか、それか剥ぐ?えぐる?そんな感じにバリエーションがあるけれど、私から見たらそんなに違いはないんだよね。だって私の前から攻撃が出るのには変わりないんだから。背中から剣撃でたりしないし。羨ましいって思うのは魔法が使えないからそう思うだけなのかなぁ?
「ゲルダさんに先行かれちゃうと思うと焦るけど、お宝探しは面白いね。一体何に気をやればいいんだろ!」
「戦闘に気を遣ってくれ……」
「それはもちろん最優先事項さ!」
戦闘、あぁ戦闘ね。とまぁ認識なんてそんな感じだよ。町の外に出ればそこは魔物の居住地だよね、だから息をするのと同じように警戒してるし……。もちろん慢心なんてしないけどね。息するのを忘れるかい?まばたきしなくて慌てるかい?大丈夫だよ。
ひょいと鋭く迫ったキングマーマンの爪を躱し、エルトのギガスラッシュが掠めるのも構わず……ていうか今更私たちが息を合わせられないはずもないし……斬り込む。剣技、五月雨剣とは名ばかりの物理的な連続攻撃ですっかり目の前が開けちゃった。ちょっとつまらない。
まぁ、いいよね、戦わない方がいらない体力も魔力も使わないでしょ?特にゼシカ。ククールのベホマも本当なら使わない方がいいに決まってるし、のど飴の消費も減る、よね?最近ククールからミントみたいに爽やかな香りがすると思ったら魔法の唱えすぎで痛めたらしいんだ……。
「あっちかな?」
「そうらしいね。邪悪でもないけど、変な気配がするよ」
「確かにするわね」
ゼシカは眉を潜めて出会ったばかりのククールみたいな感じよ、なんて言う。出会ったばかりのククール?今よりはそりゃあ戦闘経験もなくて、だから優男って感じが強くて、なんだか自分に言い聞かせていた記憶。今も言い聞かせていることがあるけど、なんだろうね。前は焦燥感があったけど今はそうじゃない。
ていうかククールって言われてたほどなんかあるわけじゃないし。すごく真面目、酒場で酒を飲んでることが全くないとかそうじゃなくて、切り替えがうまくて絶対に羽目を外さない大人って感じ。顔はもちろんだけどかっこいいよね、うん。私はこうはなれないよ。
「それならすごく騎士らしいってこと?」
「違うのよ、もっとわかりやすい例ならクラビウス王かしら」
「ダンディー」
「そうじゃないわ」
うーん。すぐそこにいる感じだし、見た方が早いかなぁ。戦うことになりそうだと本能が警笛を鳴らしているし。魔法を使ってくるなら対策しとかないとなぁ。ともかく自分にマホバリア。ほかのみんなは私ほど弱くないし自力で頑張って欲しい。
いそいそと氷の盾と鋼の盾を取り出し見比べ、氷の盾を選択。要らなそうならさっさとしまっちゃえばいいや。
すっかり魔物との戦いで魔力を消費してしまったらしいエルトの魔法の聖水一気飲みなんて珍しいものを見、ククールが飲んでいるのはもう水分補給並によく目にするなぁ、いつもありがとうと思いつつ。
ていうか、この気配どう考えても人間どころか「生きている」とは思えないんだけど邪悪じゃないし、だからっていいわけでもない。なんだろうなぁ?
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亡霊の一撃に吹っ飛ぶゲルダさん。落ち方を見るにたいした怪我はなさそうだ。ヤンガスの様子を見るとやっぱり落ち着かない感じ。下手に触れたら何されるかわからないけど……。とりあえず端に寄せておく?え、報復が怖い?……そう。まぁ、大丈夫かな。
ヤンガスが恐る恐ると言った感じで彼女にベホイミをかける。それで目に見える傷が塞がったから大丈夫だよね。
早速すごく楽しそうに剣を引き抜いたトウカを抑え、ククールが相手の攻撃は相当強そうだと思ったみたいでスクルトを唱える。それを見ていたゼシカはトウカ、僕、ヤンガスと順々にバイキルトを唱えてくれる。
対する亡霊……名前はキャプテン・クロウとかいうらしい……は読めない表情でこちらを見ているような、見ていないような。こっちから話しかけなきゃ動けないのかな?
そして挑んだ僕らには、しょっぱなから凍てつく波動とかいう洗礼が待ち受けていたんだけどさ。補助効果が消えたのは痛いけど、この手の魔法のプロの中のプロであるククールはすかさず唱え直してくれたし。
とはいえ食らった瞬間の、やっと広い空間に出て槍を使えるようになった僕からしたらその手とか剣とかを広げたモーションなんてただの隙なんだよ。
だから大したダメージも通らないけどさ、槍で突き通す、というか。どんと向こうに突き飛ばす感じで近寄らせなかったらいいよね。槍は突いてなんぼのものだよ。
よろめいた隙に紫の光を帯びたトウカが下から手酷いとしか言いようがない強烈な一撃を加えるし。あの光は魔法じゃない、テンションだと思う。
普段、手数でごり押せばそんなまどろっこしいことをしなくてもいいからか、そんなに使っているのを見ないけど、亡霊とかそういう「魔物」には何も付加していない攻撃は通りにくいもんね。それでも普段は何もしなくてもぶった斬れているから見ないんだろうけど。
至近距離からサーベルで斬られそうになるのを楽しそうに楽しそうに鍔迫り合いをして受け止め、亡霊に打ち勝つほどの力でどんと突き放す。また一瞬よろめいた隙に僕は懐に飛び込むごとく雷光一閃突きをお見舞いした。
確かな手応えは目論み通りのダメージを与えたことを確信させる。でも僕はその余韻に浸るまでもなくトウカに腕をぐいっと強く引っ張られた。正直、肩が外れるかと思ったよ。でもその判断は正しかった。
次の瞬間、ヒュウと鋭い風切り音が耳に遠く聞こえたんだから。
僕は全身を切り刻まれるような痛みを感じ、とっさに根源に向けて薙ぎ払う。手応えは薄く、命中しただけでも僥倖、かなぁ。
降り注ぐようにベホマラーの温かく柔らかい光が僕らを癒す。たらりと頬から血を流しているトウカが口角をにいっと釣り上げるのを目撃しながら。
そして彼女は跳んだ。ぶわりと前髪をはためかせ、瞳を爛々と輝かせて、獰猛な笑みを浮かべて、光のように素早い動きでキャプテン・クロウに突撃して。
「そう来なくっちゃねぇ!」
あはは!といっそのこと無邪気に聞こえる笑い声がこだまする。それに少しだけ遅れて連続的に剣を打ち合う音。それはどんどん、どんどん早くなっていく。
ものすごく無茶苦茶に力任せに剣を振っているにしか見えない連撃は、再び飛んできたバイキルトによって凶暴さが増し、哀れな亡霊は無理矢理ねじ伏せられた。
とはいえキャプテン・クロウの方だって楽しそうだったんだから同罪だ。戦闘を始める直接に力を見せろとか言っていたんだから死してなお戦いを求めていたってことだよね?とんだ戦闘狂じゃないか……。
いつの間にか投げ捨てられて出番の欠片もなかった氷の盾が寂しく横たわっているのに気づいたのは戦闘が終わってからで、すっかり忘れているらしいトウカに渡すべく、剣を捨てて降参した亡霊を尻目に僕はそっと拾い上げた。
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