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真田十勇士

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巻ノ六十九 前田慶次その六

「あたれば厄介なので」
「身を慎んでこそですな」
「いざという時万全に戦えまする」
 それだからこそというのだ。
「川魚を生では食しませぬ」
「そういうことですな、しかしです」
「揚げるとですか」
「これが実に美味いので」
「我等に馳走して頂けますか」
「この店はよい店でして」
 慶次は笑いつつだ、幸村達に話した。
「おなごもよければ酒も料理もです」
「そのどれもがですか」
「非常によいので」
「だからこそですか」
「はい、真田殿はおなごは」
「奥がおりますので」
 これが幸村の返事だった。
「こうした遊郭にはです」
「入りませぬか」
「入ったこともはじめてです」
「左様ですか」
「酒や美味いものは好きですが」
「しかしこうした店は」
「今まで入ったことがありませぬ」
 また答えた幸村だった。
「酒や美味いものも他の店で楽しんできました」
「左様でござるか、しかしです」
「この店はですか」
「酒も馳走も美味いので」
「この度はですな」
「こちらをお楽しみ下され」
 幸村も十勇士達も女色にはこれといって強い関心がなく遊郭にも興味がないことをわかっていてそのうえで勧めたのだ。
「是非」
「それでは」
「では酒と馳走を口にしつつ」
 慶次は再び幸村に話した。
「話をしましょうぞ」
「はい、実は慶次殿のところに参上したのも」
「わしとですな」
「お話をしたいが為ですし」
「ははは、わしの悪さの話ですか」
「そうなりますな」
 幸村は微笑んでだ、慶次の笑っての言葉に応えた。
「やはりです」
「左様ですな、では今より」
「酒と馳走を楽しみつつ」
「話をしましょうぞ」
 こう二人で話してだった、十勇士達と共に酒それに鯉を揚げたものそれに豆腐や湯葉を口にしつつだった。彼等は話をはじめた。
 朱、漆を塗った見事な大杯で飲みつつだった。慶次は幸村に言った。
「いや、まことに叔父御はです」
「慶次殿がそうされてですか」
「怒りまして」
「冬に風呂と称して水風呂を馳走されますと」
「これ以上はないまでに怒られて褌一丁でわしのところに怒鳴り込んできてです」
 そしてというのだ。
「あのでかい拳で顔を張り飛ばしてきました」
「それはまた」
「水風呂は貴様がしたのだと」
「そしてそれは」
「わしがしました」
 笑って言う前田だった。
「まことに」
「前田殿が思われた通りに」
「そうしました、しかしですぞ」
「前田殿が、ですな」
「褌一枚でそれがしの部屋まで駆け込んできて」
 水風呂から飛び出るなりだ。
「殴ってきたのです」
「それも思い切り」
「全く、叔父御はいつもこうでして」
「慶次殿の悪戯にですか」
「いつもかかりますが」
 しかしというのだ。 
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