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提督はBarにいる。

作者:ごません
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EX回:11 鎮守府の秋祭り~当日編⑦~

 金剛と榛名に挟まれ、嫌な気分……というより夢心地だったその時、急に携帯していた無線が鳴る。

「はい、こちら提督。」

『あー、提督?こちら海上見回りグループA班の北上様ですよ~。』


 連絡を寄越したのは北上。ウチの鎮守府の中でも古株で、その普段のユルさと海域攻略の時の頼り甲斐からか、駆逐艦に慕われている。……が、本人は駆逐艦のその幼さ故のかしましい感じが嫌いらしくいつも逃げ回っている。そんな彼女は重雷装巡洋艦。魚雷戦に特化した火力偏重型の艦娘だ。しかしその火力は凄まじく、特に夜戦となれば敵の姫級や鬼級と呼ばれる特異型の深海棲艦すら一撃で沈める事すらある。誰が呼んだか「ハイパー北上様」。本人も存外その呼び方を気に入っているらしい。

「おぅ、どうした?何かトラブルか?」

『あー、トラブルか解んないんだけどさぁ。会場って晴れてる?』

 あ?妙な事を聞く奴だな。晴れに決まってるだろうに。

「晴れてるぞ。そっちも晴れてるだろ?」

『いやぁ、それがさぁ。どうにも妙な霧が立ち込めてるんだよね~。そのせいか解んないけど、通信にも微妙にノイズ走ってるし。』

 言われて気がついた。確かに北上との通信が不鮮明だ。悪天候でもない限りクリアに聞こえるハズの通信が、だ。例えるなら……そう、ラジオのチャンネルの周波数が少しだけズレているような、そんなノイズの入りかただ。

『気にする程では無いかもだけどさぁ、一応ね。あ、あと提督も金剛達とイチャついてないで仕事しなよー。報告終わり~。』

「あぁ、ごくろうさん。そのまま続けて、定時で交代してくれ。」

 俺はそう言って北上との通信を切った。結局、海上の見回りは全員が交代で行う事になっていた。全員が平等に祭りを楽しむ為、だとさ。そういうチームワークの良さがココの売りだからな。



『しかし………霧。霧か。』

 海と霧は組み合わせとしてはあまりよろしくない。海で霧が発生すると時空が歪んでいる証拠だ、なんて唱えるSF研究者もいる位だ。『さ迷えるオランダ人』……フライング・ダッチマンのように世界の狭間に放り出される、なんてのはお伽噺やよくある都市伝説だと思っていた。あの時までは。

 霧の艦隊事件ーー。あの頃鎮守府に着任していた提督からすれば、あんな物は出来の良いB級映画だと思いたい位にぶっ飛んだ現実だった。不可解な霧がハワイ諸島海域を包み込み、そこに巨大な戦艦群……通称『霧の艦隊』が現れた。それと同時に、横須賀の大本営にも第二次大戦中の伊号潜水艦を象った霧の艦・イオナが出現。彼女とそのサポートユニットである霧の大戦艦・ヒュウガの談によれば、彼女達『霧』はこの艦娘が存在する世界とは別の世界線……つまりはパラレルワールドの住人であり、何かの事故かトラブルによってこの世界に飛ばされたらしい。そしてその世界に帰るには、深海棲艦と手を組んだ霧の大戦艦・コンゴウを倒さなければならない、と。

 戦いは熾烈を極めた。何しろ相手は昔の戦艦のサイズにレーザーやミサイルなどの兵器を満載し、果てはバリアや超重力砲なる空間を歪める重力エネルギーの奔流を発射する事さえ出来る。アレを生で見たときは、

「おいおい、グラビティブラストだよアレ。どこの機動戦艦ナデ◯コだよ。エステバリスドコー?」

 と、現実逃避したくなる程の破壊力だった。しかし、イオナ、タカオ、ハルナといった霧の艦の協力もあり、一連の騒動は幕を下ろした。……ハズだが。

『まさか、またあの時のような事が起ころうとしているのか……!?』

「テートクぅ?何難しい顔してるデスかー?」

 みると、金剛が心配そうにこちらを覗き込んでいる。どうやら、心配してるのが顔に出ていたらしい。大分険しい顔をしていたんだな。

「何でもねぇよ、心配すんな。」

 そう言って俺は金剛の頭をワシャワシャと撫でてやる。

「あ、あの~…。」

 そこにおずおずと声を掛けてくる男が一人。そちらを見ると、白く見覚えのある服が目に入った。



 それは俺が今着てるのと同じ提督である事を示す白い軍服。という事は、この方が彼の美保鎮守府の提督か。俺は急いで襟を正し、敬礼する。

「美保鎮守府の提督殿でありますな。お会い出来て光栄です。私はこの鎮守府を預かる◯◯大将です。以後、お見知り置きを。」

 敬礼をした相手はかなり狼狽えているようだ。何でだ?そういえば少し、いやかなり聞いていた年齢よりも若く見える。……いや、童顔なだけだろうな、恐らく。それに後ろに控える艦娘達。金剛・比叡・日向・赤城・龍田・夕立。そして見慣れない重巡と駆逐艦らしき艦娘。やっぱりだ、チラリと見かけたあの女の子だ。戦歴を見ればかなり歴戦の艦娘のハズだ。古強者達が放つ独特の風格が……あれ?なんか、気のせいか、すっっごい錬度がウチの艦娘達に比べて低そうに見えるんですけど?いやいや、そんな筈はないよな、ウン(錯乱)。

 時計を見ると、時刻はそろそろ公開演習の予定時刻である午後2時近く。調度良い、そのまま演習会場の方へ向かうとしよう。

「さぁ、時間もそろそろですから、会場に向かいましょう。」

「へっ?会場?なんの?」

「ハハハ、今更何を仰いますやら。これから、私の艦隊と貴方様の艦隊とで、模擬演習を行うのではないですか。」

「え……えええぇぇぇぇ!?」

 おぉう、何とも新鮮なリアクション。まるで今初耳みたいなリアクションだなぁ。あ、そうだ。折角だし、此方も同じ編成で挑むことにしよう。

「大淀ぉ、この方々と同じ編成で演習やるから。招集かけといてくれや。」

 了解しました、と大淀が敬礼したのを確認すると、俺は急かすように美保鎮提督の背中を押していく。何でだろうな、凄く抵抗されるんだが。まぁいいさ、会場に着けばやる気も出してくれるだろう。 
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