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漫画家の部屋

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第二章

「だからね」
「暑くてもなの」
「平気だよ、この部屋ではね」
「そうなのね」
「暑くてもね」
 夏でもというのだ。
「俺やってくから」
「ううん、じゃあ私も応援するわね」
「そうしてね、いやしかも夏はね」
 この季節はとだ、銀一は咲に話した。
「こうして余裕がある状況じゃないからね」
「そのコミケとか?」
「そうそう、それがあるし今年は特にね」
「特に?」
「連載二つの他に読み切りの仕事も入ったから」
「あっ、お仕事貰えたの」
「そうなんだ、お師匠さんもよかったなって言ってくれたよ」
 銀一がアシスタントを務めていたその漫画家がだ。
「どんどん描けってね」
「それで実際に描いていくの」
「そうだよ、描かないと上手にならないし」
 漫画そのものがだ。
「絵もストーリーもキャラの組立もね」
「全部がなの」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「俺はどんどん描いていくよ、勿論サイトの漫画もね」
「描いていくのね」
「そう、全部描くから」
 そう決めているかだというのだ。
「咲ちゃんが来てくれても」
「こう気楽にお話も出来ないの」
「忙しいからね」
 だからだというのだ。
「その時は御免ね」
「けれど来ていいのね」
「うん、それはいいよ」
 家に来ること自体はというのだ。
「それで漫画も読んでいいから」
「こうしてお話出来ないだけで」
「朝は走ってお風呂入ってそれからずっと仕事だけれどね」
「食べものは?」
「それは食べるよ」
 忘れずにというのだ。
「三食しっかり、ただ寝ることはね」
「それはなの」
「まあギリギリまで切り詰めることになるから」
 睡眠はというのだ。
「ただ寝ることは寝るから」
「それは忘れないの」
「毎日ちゃんと寝ないと後でくるからね」
「後から?」
「そう、結構漫画家の早死があるのは」
 昭和の巨匠も六十代前半で、というのがままある。それはやはり若い頃の徹夜続きが影響しているという指摘がある。
「徹夜のせいみたいだから」
「だからなのね」
「毎日少しずつでも寝るよ」
「忙しい時でも」
「それでももうゲームも外出もなしで」
「時間のある時は」
「仕事だから」 
 漫画の執筆、それだというのだ。
「咲ちゃんもそこは頭に入れておいてね」
「うん、わかったわ」
「もう少ししたらその時だから」
 その夏だというのだ。
「宜しくね、今から心配もしてるよ」
「夏のことで」
「ちゃんと出来るか」
「そう、けれど俺はやるからね」
「頑張ってね」 
 咲は夏を迎える銀一にエールを送ってだ、そうして今はよく冷えたアイスコーヒーの味を楽しんだ。それは薄くてミルクもシロップもかなり入れた甘いものだった。 
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