| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

精神の奥底
  62 怪物の品格 〜前編〜

 
前書き
今回はロックマンVSナイトメア・テイピアです。
今回と次回による前編・後編の二部構成となります。

FM星人と戦い地球を一度救ったロックマンがFM星人でも無い未曾有の敵と戦うことになり、どう攻めるかという手探りな部分と、スターダストのように完全にナイトメア・テイピアとの殺し合いではないというところが、ロックマンの戦闘のミソとなります。
あと少し短めです。

最後までお付き合いください! 

 
「うわぁぁぁ!!」

少年の叫びとともに、ガラスが砕け散った。
閑静な住宅街を象徴するかのような西洋建築の図書館は無益な争いから飛び火した戦火によって、文字通り燃え盛っている。
既に図書室には完全に火が回り、勢力を拡大している。
まだ原型は保っているものの崩れるのは時間の問題だった。
その光景を一言で言うならば、『地獄』だった。

「クッ…」
『スバル!しっかりしやがれ!』

ロックマンはその中から窓を突き破って飛び出してきたのだ。
全身の至る部分が焦げており、その熱の凄まじさを物語っている。
電波変換し、全身をウォーロックと融合することで強化された肉体とそれによって生成された電波スーツを身に纏ってもこの有様だ。
もう常人なら到底生きていられる状態ではない。
この状況に一般人が巻き込まれていないのが唯一の救いだった。

「アイツ…こっちの攻撃が効いてないのか…」
『あぁ…だが、このまま焼け死んでくれる…わけも無いか』

ロックマンの後を追うように、地獄からナイトメア・テイピアがその巨体を現した。
ロックマン同様に全身のスーツが焦げて、鼻を突く煙を放つ部分が見られるが、火事によるダメージを受けた様子は皆無だ。
不死身にも思えるその姿にロックマンは恐怖を覚えた。

「一瞬ヤバイかと思ったけど、大したことないな」
「バケモノ…」

「バケモノ…だと?」

しかしロックマンは次の瞬間には違和感を覚えた。
ナイトメア・テイピアが一瞬、言葉に詰まった。

「オレがバケモノに見えるか?」
「…少なくとも普通の人間じゃないだろ!」
「オレは普通の人間だ。お前のように電波体に精神を乗っ取られない特異体質というわけでもない」
『普通の人間が電波体の力も使わない単独変身で、これほどまでの力を発揮できるはずがねぇ!』
「ハッ!宇宙の何処から来たかも分からないバケモノとそれの力を弄ぶバケモノがよく言う」
「なんだと!?」

「バケモノ」という単語に過剰に反応し、今まで精神を(つつ)く発言でこちらの冷静さを欠かせようとするナイトメア・テイピアと初めて会話が成立した気がした。
電波変換する前の安食の状態から人間らしさというものをまるで感じることができなかった。
それが今のことで自分と同じ理性を持った人間であることを理解できた。
しかしナイトメア・テイピアは攻撃を止めない。
その鋭い拳の嵐がロックマンを襲う。

「お前たちの何なんだ!?目的は何だ!?」

ナイトメア・テイピアからあまりに人間らしさを感じることができず、もしかしたら目的など無く、無差別に行動しているのかとも思った。
だが理性を持っており、会話が成立する相手である以上、何らかの目的を持って行動しているはずだ。
ロックマンは拳を交わしながら、FM星人とは違う未知なる敵の正体に切り込む。

「今更聞いてどうする?」
「?…どういう意味だ?」

拳を体全体で受け止めた膠着状態の中でナイトメア・テイピアは不敵な笑みを浮かべた。
次に放たれる言葉が突き刺さる前に既にロックマンの背筋には悪寒が走っている。
戦闘中にも関わらず、最悪の想像が頭を駆け巡り、一瞬の隙が生まれた。
ナイトメア・テイピアはそれを見逃さない。
ロックマンはとっさに防御態勢を取るが、10メートル程後方へと押しやられた。

「クッ…」
「あと数時間でこの街が終わるってことだよ!!」

想像は言葉のニュアンスの違いこそあれ、ほぼ的中した。
まだ経済や政治のことに関して知識は少ないロックマン=スバルでも相手のやろうとしていることの重大さは分かる。
FM星人の地球侵略とは規模が違うとはいえ、あれはまだ地球全体に知れ渡る前に対処できたからこそ、今の平和な生活がある。
だが今やろうとしていることは、既に計画は始まっているのだ。

「もう気づいてるだろ?我々が行ったインターネットシステムのダウン、これでニホンには混乱が蔓延した。既に世界の一部にも広がり始めている」
『やっぱりお前らの仕業だったか!』
「あぁ。ここでちょっと手を加えてやれば、この混乱は世界中に広がる。文字通り爆発的にな!」

デンサンシティは近年のニホンの発展の中心、外資系の企業も多く参入し、世界のIT文明を牽引している。
しかし既にインターネットシステムがダウンし、ニホンは1970年代にでも逆戻りしたのではないかと錯覚するような様相を呈しているのだ。
そんな状況で更に追い打ちをかけるような事件がこの街で発生すれば、ニホンだけでなく世界中にパニックが広がることは避けられない。
しかし今、目の前に立ちふさがっているナイトメア・テイピアは強敵だ。
これまでのこちらの攻撃は不意打ちの一撃以外は通用していないに等しい。

「さぁ、もう後が無いぞ?」

ナイトメア・テイピアはシャドーボクシングで威嚇しながら、轟々と燃え盛る図書館を背に、ロックマンに向かって一歩、また一歩と近寄ってくる。
誰から見ても力の差は歴然だ。
しかしロックマンには“切り札”があった。

「まだ…僕にはこれがある!!」

ロックマンは勢い良く切り札を取り出して、ナイトメア・テイピアに見せつける。
そして左腕に装備されているウォーロックをトランサーに戻すと、トランサーのカードスロットにそれをインサートした。

「何だそれは!?」

『スターブレイク!ロックマン・アイスペガサス!!』

次の瞬間、吹雪が吹き荒れ、ロックマンに襲い掛かったナイトメア・テイピアの行く手を遮る。
先程まで真夏の庭園だったというのに、一瞬で近づく者を遭難へと誘う雪山さながらの光景へと変貌を遂げた。
周囲の草木の葉や花びらは宙へと舞い上がり、吹雪とともに吹き荒れる。

「うぅぅ…目くらましか…!?」

それはものの数秒で収まったものの、そこにロックマンはいなかった。
ナイトメア・テイピアは周囲を見渡した。
神経を研ぎ澄まし、インビジブルや高速移動、全ての可能性を疑う。
だがその解答は上空から降ってきた。

「何処だ!?」
「ここだ!!!」

ナイトメア・テイピアは飛来したロックマンによって受けた攻撃により、バランスを崩して倒れた。
その光景はナイトメア・テイピアの巨体も相まって、かなりの迫力だった。
それを確認する前にロックマンは軽く旋回すると地面に着地した。

「…変わった?」

ナイトメア・テイピアの前に再び立ったロックマンの姿は先程までと違っていた。
あまりの変化に目を疑う程だ。
そして同時にそのあまりの美しさに息を呑んだ。
全体的にウォーロックの狼や猛犬を模したようなスタイルからユニコーンかペガサスを模したようなスタイルに、体色も吹雪を思わせるアイスブルーへと変貌を遂げている。
何より、背中からは美しい翼が生え、飛行能力を獲得していた。
それは地球の通信を支える3つのサテライトの管理者から与えられた能力、『スターフォース』の1つである『アイスペガサス』だった。

「姿が変わったくらいで…」
「時間が無い…急がなきゃ…」

ナイトメア・テイピアはスターダストとの戦闘を思い出して警戒していた。
スターダストは戦闘の最中、いきなり姿を変えて暴走を初めた。
ほんの数日前の出来事故に鮮明に脳裏を過る。
同時にロックマンは火が燃え盛る図書館の方に意識が向いていた。
この騒ぎに気づいた近隣住民が通報でもすれば、消防署や警察署の人間がすぐにでもやってくる。
そうなればこの常軌を逸した戦いに巻き込みかねない。
下手をすればナイトメア・テイピアの人質になってしまう可能性もある。
幸いにも人の出入りが少ない場所のせいか、まだサイレンの音は聞こえないが、煙が上がっていればそろそろ誰かが気づいてしまう。
ロックマンは出方を伺うナイトメア・テイピアとの膠着状態を打ち破り、動き出した。

『スターフォースビッグバン!マジシャンズフリーズ!!!』

「なに!?」

ロックマンは飛び上がると、図書館を中心にその一帯を巨大な魔法陣で包み込み、一瞬で周囲の熱を奪った。
図書館を焼き尽くす勢いで広がっていた炎は消えるのを通り越して凍りつく。

「やった…か…?うっ…」
『おい、スバル!?』

その冷気はナイトメア・テイピアの巨体をも飲み込み、一帯を雪山さながらの銀世界へと変貌させる。
現状のロックマンが持ち得る最強の攻撃の1つだった。
その威力は周囲の環境すらも変えてしまう。
現に今、異常気象による熱中症になりかねない炎天下すら、近づく者に凍死をもたらす極寒の冬へと変えてしまった。
その上、使用者の肉体に負担を掛けてしまう。
本来、電波体では無い人間が電波体の力を使って変身した姿が電波人間であり、厳密には普通の電波体とは異なる存在だ。
その負担はスバルとウォーロックで分け合うような形を取っているが、ベースとなるスバルの肉体の方への負担の方が多い。
それに電波体にとっては通常のダメージや体力を削る程度であっても、それが人間にどのような影響を与えるかはまだまだ未知数だ。
ロックマン=スバルとしてもできれば使いたくはなかった。
しかしFM星人を上回るかもしれない脅威を前に使わざるを得なかった。
ゆっくりと膝をつき、呼吸を整える。
体力を奪われると同時に内蔵に響くような苦しさに襲われた。

『逃げてはいなかったはずだ。流石にあのバケモノのこれで…』
「火は?」
『大丈夫だ、消えてる。サイレンの音も聞こえねぇし、近くに一般人もいない』
「ウォーロック?」
『バカヤロー、甘っちょろいお前の考えてることくらいお見通しだ!』
「ありがとう…」

徐々に冷気によって発生した霜が晴れていく。
凍りついた図書館の屋根が氷山のように姿を現し始める。
まるで初日の出でも拝むような気分だった。
同時にナイトメア・テイピアに何を尋ねるかを考え始める。

お前たちは何者なんだ?
何をするつもりなんだ?
街が終わるって何が起こるんだ?

もう1人のロックマンは何者なんだ?

聞きたいことは山のようにある。
だがその一瞬に事は起こった。

「このクソガキめ!!!」
「!?」

何かが砕ける音がしたかと思うと、冷気の霜の中から巨大な拳がロックマンに襲い掛かった。
ロックマンは反射的に身体に鞭を打ち、一歩下がって避ける。
そして次々と襲い掛かってくる拳を交わしながら、後方に向かって飛び上がる。

『アイススラッシュ!!』

左腕から氷の礫を連射して、対象の動きを封じて距離を取る。
ナイトメア・テイピアは仕留められていなかった。
それどころか何かエンジンが入ったかのような更に機敏な動きを見せる。

『嘘だろ…』
「スターフォースビッグバンでも倒せないなんて…何なんだ」
「手加減したのはお前たちだ。オレに確実にトドメを刺そうと思えば出来ただろう?だがお前たちは火を消すを優先して狙いを僅かに外した」

その通りだった。
確かにロックマンはスターフォースビッグバンを直撃させることはしなかった。
それも今回に限った話ではない。
その強大な威力から、直撃させれば変身している人間の命まで奪ってしまう可能性もあるからだ。
直撃させずとも十分に相手を戦意喪失に追い込むことはできる。
特に今まではクラスメイトなど親しい人間が敵に操られていたことが多く、スバルも無意識だったのだが、薄々は感じ始めていたことだ。

「だけど…直撃させたらお前の命まで!」
「ハッ…甘いな。殺さなくてどうする?」
「なんだって!?」
「オレはお前を殺すことに躊躇いはない。対してお前はどうだ?」
「うぅ…クッ…」

その瞬間、背筋に悪寒が走った。
子供同士の冗談ではない。
ナイトメア・テイピアは間違いなくロックマンを殺すことをまるで躊躇っていない。
ロックマンは今までの敵との決定的な違いを違いを悟った。
生きてきた世界が違うのだ。
スバルは普通の中学生で人の生死に関わる機会はほぼ無い。
争いごとに関しては、この短期間で地球の存亡を掛けた争いに巻き込まれたものの、今までのFM星人たちも決して自分を殺しに来ていていたわけではなく、ウォーロックの持つ『アンドロメダの鍵』を狙っていたに過ぎず、スバルもFM星人に操られて戦わされている身近な人間を助けるために戦っていた。
傍から見れば殺し合いには近いものの、厳密にはそれが目的でも通過点でも無い。
相手は本気で自分を殺そうとしている。
ナイフを持った男が自分を殺そうと追いかけてくるようなものだ。
それに気づいた瞬間、今まで感じたことの無い恐怖を覚えた。

『怖気づくな!スバル!今度は直撃させろ!』
「でも!?」
『あんなバケモノ、いっそこの世から消し飛ばしてやれ!』
「うっ…」
『殺らなきゃお前が殺られるぞ!!』
「クッ…分かった!!」

ロックマンは更なる切り札を取り出す。
さっきが水色のカードだったのに対して、今度は鮮やかな緑のカードをトランサーにインサートする。

『スターブレイク…!ロックマン・グリーンドラゴン!!』

今度はロックマンを春の息吹という単語を絵に描いたような竜巻が包んだ。
周囲の砂利や木の葉を巻き上げ、庭の景観を荒野へと変貌させる。

「また姿が変わった…」

ロックマンは体色が水色のアイスペガサスから、全身に名前通り龍のような意匠が盛り込まれた深緑の姿へと変わる。
風や自然現象を司る『グリーンドラゴン』、3つのうち2つめの禁じ手だった。

『スターフォースビッグバン!エレメンタルサイクロン!!!』

ロックマンは全身に竜巻を纏い、ナイトメア・テイピアに襲い掛かる。
今度は外さない、ロックマンは自分が死ぬ恐怖から何かのタガが外れたように全身に力を込めて放つ。
その証拠にウォーロックですら、驚く程に激しい嵐と化していた。
直撃すれば、威力もいつもの比ではないだろう。
しかしナイトメア・テイピアはいつものペースを崩さない。
一度、深呼吸をすると、拳をゆっくりと握り締めた。

『ナイトメア・フィストⅡ!!』

ナイトメア・テイピアはロックマンが予想もしない手に打って出た。
力を右の拳に集中し、竜巻に向かって殴りかかったのだ。
しかしその威力は通常よりも強化されたエレメンタルサイクロンすらも突き破り、竜巻の中心にいたロックマンの胸ぐらを捉えた。

「なに!?うわぁぁぁ!!!」

予想外の事態にロックマンの思考が一瞬止まってしまった。
何が起こったのかが分からない。
竜巻を突き破った次の瞬間、ロックマンは胸ぐらを掴まれて、竜巻の外へと放り投げられた。
気がつけば、まるで頭を冷やせとでも言わんばかりに庭の中央を彩る噴水の中へと叩き込まれていた。

『スバル…まだだ…』
「クッ…分かって…あぁ……」

噴水から飛び出すと、ロックマンは最後の切り札、『ファイアレオ』のカードを取り出す。
できれば一番使いたくなかったカードだ。
これは氷でもなく、竜巻でもなく、炎を操る。
しかし炎が地球においてはもっとも身近で危険なものでもあった。
炎が燃えるのに必要な酸素が豊富で、生き物だろうと建物だろうと、なんでも燃やし尽くしてしまう。
ゆっくりと呼吸を整えながら、トランサーにカードをインサートしようとする。
だがその瞬間、全身を支える支柱が壊れたように、力と意識が抜けていった。
それはスバルだけでなく、ウォーロックもだった。
全身が発光し、身体を覆うウォーロックの肉体をベースにしたスーツが崩壊し、中から現れたスバルがまるで操り糸を切られたマリオネットのように倒れ込んだ。





 
 

 
後書き
今回、スターフォースが登場しました!
設定上は流星1と2の間ということで、まだトライブオンの力を手に入れていないので、スターフォースがまだ使えます。
でも負けちゃいましたけどね(笑)
そしてレオは登場しないという...

ペガサスとドラゴンに関しては、変身時や必殺技の演出の部分に拘ったつもりです。
あとロックマンがあまりスターフォースを使いたがっていないという部分の描写を入れました。
ゲーム上では基本的にウェーブロード上での戦闘でしたが、今回は現実世界での闘いということで、実際に戦うとなるとそういう制限って出てきてしまうと思うんですよね。
ウルトラマンとかも平然と市街地で戦ってますけど、うっかり人とか車とか踏み潰しちゃうかもしれないし、特殊部隊も戦闘機からミサイル撃ってますけど、避けられてビルとかに直撃したら危ないし...

あと、彩斗は最初からディーラーという悪の組織に身を置いている、元から社会の暗部にいて仁義のない闘いに巻き込まれているわけですが。
ごく普通の少年であるスバルが共通の敵であるナイトメア・テイピアとの闘いを通じて、同じく今までのFM星人との闘いでは無かったタイプの命のやり取りの世界を突きつけられて、怖気づく辺りが彩斗の闘いと違う部分ですね。
基本的に闘いの部分は同じ人(僕)が書いているし、敵は彩斗と共通のナイトメア・テイピアなので、戦闘描写は嫌でも似てきてしまう部分はあるのですが、そういう部分で違いを出していければなと思います。


さて次回は後編です。
変身が解け、意識不明のスバルはどうなるのか、スバルの発言に対していつもとは違った反応を見せた安食は?

実はこの前編・後編はナイトメア・テイピア=安食にフォーカスした話になります。
前にも少し書いたのですが、この章では一人ひとりのキャラクターを少し掘り下げるつもりだったので、今回と次回は安食編ということで(*^^*)

次回は近日中に更新できるできるように頑張ります。
あと次回も今回同様、短いです。

感想、メッセージ、質問等はお気軽に!
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧