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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#26
  FUTURE’S MEMORYⅡ~Darkness Hell Crowd~

【1】



「RUUUUUUUUUUUUUUOOOOOOOOOO
OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO
―――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
―――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!」




 現世と紅世、異なる二つの世界、その伝説的存在が喚声を挙げる。
 決して相手に怯まぬように、己が敵を凌駕せしめる為。
 猛烈な勢いで振り上がった巨竜の脚、
大きな影が街路を覆いソレが色濃く染まる(まにま)に敲き堕とされる。
 ヴェギャンッ! という破砕音、
爆発物に酷似しているがその本質は純粋な力の塊、
故にベクトルは上方へと拡がらず大地を支える岩盤へと突き抜ける。
 明らかに、生前を凌ぐその威力、
太陽の下で生きられなくなった代償は、
より大きな破壊の奔流となって牙を剥く。
 先刻までのイルヤンカならば、
その威容が誇示する絶対の自負が故に
相手を見下ろすだけだっただろう。
 しかし、今は小さきといえど 『それ故に』
圧倒的な精神力を有するその存在を眼で追っている。
 スタンドの隕石落下以上の衝撃の爆心源、
その反動で放射状に噴き挙がった街路の残骸に男はいた。
 決して一所には留まらず、気配も最小限に裏返ったアスファルト、
捻じ切れたレインツリー、そのままの状態で浮くオープンカー等を
足場に、そして煙幕に、巧妙に余波を()なしながらこちらの隙を窺っている。
 その高速精密移動を繰り返す躯の内側で、
共鳴するように明滅を繰り返す力。
 おそらくソレが、存在の力を爆発させるフレイムヘイズのように
身体能力を強化しているコトに他ならない。
 人間の中にも、紅世の王と “契約” を交わす事なく
『自らの力のみで』 超常的な存在と成り得る者が居ると
生前耳にした事が有る。
 皮肉にもソレと邂逅したのは死者と成った後、
己を甦らせたのもソノ力に拠るモノで在ったが。
 残骸の豪雨の中を飛び回るこの男は、
間違いなくその中で最上位に位置する者、
何故なら感じる力が 『一つではなく』
(どういう事だ? あの男の裡から二つの存在を同時に感じるとは。
しかも明らかに宝具や他の徒に拠るものではない。
紅世の王以外に、己が存在を他者に注ぎ込める者が人間にいるのか?)
 巨体とは裏腹の明察で、ジョセフの裡に宿る存在を見抜くイルヤンカ。
 だがソレが、己を驚愕せしめた男と同等以上の存在であるコトを彼は知らない。
 さながら猛々しく吼える獅子の如く、
永遠の友は死してなおジョセフを護る、
否、共に闘う。
(なればッ!)
 律儀に相手に付き合う必要もないだろう、
本質が解らなければ己の領域で勝負すれば良い、
(そびえ) る両翼を羽撃かせ、人間の射程圏内から脱すると同時に
一方的に攻撃を加える事の出来る天上へと飛び立つ、が。
 ガグンッ!
 背面を劈く違和感、(とどこお) った飛翔エネルギーが分散したため顎部(がくぶ)にまで衝撃が走る。
 これまで存在を意に介さなかった自身の重力、
それが今まさに全身の自由を奪う縛鎖となって
イルヤンカに襲いかかった。
「な……!?」
 幾度目か解らなくなった驚愕と共に、
巨竜は己が両翼に巻き付く存在に眼を瞠った。
 ソレは、翼の付け根に巻き付いた紫の荊、
先刻老人が使った能力(チカラ)に酷似しているが、
大きさは現物と寓話ほどに違う。
 その存在感、躍動力共に人型の状態で引き千切ったモノとは比較にならず
“甲鉄竜” 足る自分の膂 力(りょりょく)を完璧に抑え込んでいる。
 だが、どうして術の発動に気がつかなかった?
そのような素振り、襲来音などが有れば見破っていた筈。
 しかし巨体を大地に縛り付けるこの荊は、
何の脈絡もなく一瞬で出現したとしか想えない。
「へっへっへ」
 五階建てのビル屋上、スチール製のポールに悠然と立つ男が
健康的な歯を剥き出して少年のような笑みを浮かべていた。
「まぁ~たまた、ヤらせていただきましたァン!」
 マフラーを戦風に揺らし両腕を組んだ状態で
若きジョセフはイルヤンカを見据える。
「アンタ? このオレに同じ手が二度通用するって想ったのか?
確かに威力は恐ろしいが直撃(あた)らなきゃあどうってこたぁねぇ。
蜂とか蚊ってのは、叩き潰そうと無理に追い回すと逆に後ろから刺されるんだぜ」
「うぬ、おおおぉぉぉ!」
 片目を閉じてそう告げる男を後目にイルヤンカは両翼を蠢かすが、
どういうわけか軋むだけで巻き付いた荊は更に食い込む。
 その不可思議なる光景の解答(こたえ)
屈辱に身を震わすイルヤンカの双眸へと突き付けられる。
「オレのスタンドの幻 像(ヴィジョン)は、視ての通り無数の荊。
だが植物ってのはどんなもんでも “種子(タネ)” から生まれる。
ジャングルのバカデケェ樹だろうが道端の雑草だろうがよ。
オレは先刻のあの瞬間、アンタの周囲を飛び回りながら
このスタンドの “種子” をバラ撒いてたのさ。
辺りに瓦礫が飛んでたしあんまり小せぇから気づかなかっただろ?
ちなみにオレのスタンドは 「射程」 が長いから
手元を離れても自由に操作が出来る。
その分パワーを喰うからジジイの時は使えねーケドよ」
 言いながら翳す両手、そこから放出される深紫のスタンドパワーに連動して
幻像の荊は巨竜の両翼を更に引き絞っていく。
「おの、れ……! この “甲鉄竜” を、見縊(みくび)るなぁ……ッ!」
 今まで、その巨大さ故に(ふる)えなかった、揮う必要もなかった
イルヤンカの全 開 力(フルパワー)
 当然他に比するモノは存在せず単純な力だけなら
スベテの徒を凌駕する圧倒的な顕在力。
 無論スタンドもその例外ではなく、相手のパワーを封じる能力を持っていない
隠 者 の 紫(ハーミット・パープル)』 は力の付け根を押さえているにも関わらず
メリメリと亀裂を生じさせる。
 しかしそんなコトは先刻承知、外見は変わったがその内面の老獪さは
全盛時を遙かに凌ぐ汎用性を伴い、ジョセフは得意気な笑みを浮かべる。
「頼むぜ、シーザー」
 呟きと共に弾かれる指先、
巨竜を拘束するスタンドの裡に込められた波紋、
その更なる深奥へ確かに宿る存在が、
嘗てと同じにように重なり合い紫の光と融合しながら爆裂疾走した。
螺 旋 双 紫 竜 波 紋 疾 走(ヴァイオレット・ドラゴン・オーバードライブ)ッッッッッッ!!!!!!』





 ヴァグァンンンンンンンン!!!!!!!!




 人間状態で受けた苦痛を遙かに凌ぐ苦悶、
弾け飛ぶ荊と共にスタンドパワーと混ざり合った波紋が空間に大きく散華した。
「ガッッッ!? グオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ
―――――――――――――――――――!!!!!!!!??????」
 突如背を劈いた、極小なる者が放った極大の衝撃に、
イルヤンカは断末と紛う咆哮を発した。
 巨体を意に介さず、悠然と天を駆ける両翼が見るも無惨にバラバラとなり、
内部の骨を剥き出しにしながら空間に撒き散らされる。
 それらは即座に滞留した光に包まれ、塵も遺さず蒸散する。
 単純な破壊力だけでは絶対に起こり得ない現象、
触れてはならないモノに触れたが如く、
振り返ってはならない場所でそうしたが如く、
何人(なんぴと)も逃れ得ない 『神の法則』
「ウゴォッッ!! グウゥ!! 
ガアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァ
――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!」
 そしてその攻撃は、翼をもがれただけでは収まらない、
付け根から伝わった紫の波紋が背部全体に伝播し、
赦されざる者の肉を強度等無視して溶解させていく。
 コレは当然、太陽の下で生きられない “吸血鬼” の属性であり
ソレと対極に位置する “波紋” の威力(チカラ)
 強さと弱さは表裏一体、
イルヤンカはDIOの血に拠って生前を遙かに凌ぐ力を身につけたが、
しかし “ソレ故に” 生前に無い 「弱点」 を造るコトになってしまった。
 幾らジョセフの波紋が強力だとはいえ、
本来イルヤンカの両翼を一撃で破壊せしめる事が出来たかどうかは疑問。
 しかし “吸血鬼” であるが故に、
そしてジョセフが 『波紋使い』 だったが故に、
両者の優位と劣位は反転し種族の壁を瓦解せしめる結果となった。
 コレがシャナやヴィルヘルミナ、
恐らくは承太郎であったとしても不死の巨竜を
慟哭させる事は不可能であっただろう。
 しかし、ナニカに導かれるが如く邂逅した二人の男。
 畏るべきはそのスベテを包括して歪みなく流れる 『運命』
好 機(チャンス)ッ!)
 纏わり絡みつくマグマのように、
波紋が呪われし肉を(さいな) み巨竜が仰け反った刹那、
すでにジョセフは必殺の “武器” を手に大きく跳躍していた。
 ソレは、頑丈な樫の木を基にその周囲を高密度の鋼で覆った、
超重厚なる “スレッジ・ハンマー”
 持つ者が持てば近代兵器すらも一撃で吹き飛ばし、
尚かつ波紋を込めて使えば最強生物だろうと死に至らしめる。
 嘗ての死闘、 「骸 骨(がいこつ)踵 石(かかといし)」 と呼ばれる古代環状列石(サークル・ストーン)
古の決闘場で 『地上最強の男』 と命と魂を削る 『戦 車 戦(せんしゃせん)』 の最中に手に入れた
文字通りの鉄槌。  
 そのようなものを一体どこに隠し持っていたのか? 
答えはジョセフの腰元で靡く 「黒いスカーフ」 に由縁。
 ソレは身の丈に比する大太刀を苦もなく持ち運ぶ、
シャナの纏う黒衣 “夜笠(よがさ)” と同じモノ。
 いつの日だったか、セントラルパークの帰り道、
出店で買ったクレープを一緒に齧りながら色々持ち運べて便利じゃのぉ、
と軽口混じりに言った折、だったらあげると言われ
その場で一部を切り取ってくれた。
 その後、別に何に使うというわけでもなかったが、
孫からもらった大切なプレゼントのように肌身離さず持ち歩いていた。
 それが、DIOとの宿命という極限の状況下の中、
想わぬ処で役に立った(現在着ている装束も、このスカーフから取りだされたものである)
(ありがとよ、シャナ。また、一緒にメロンパン食おうなッ!)
 油を塗られて煌めく総身、その表面で迸る鮮赤の波紋、
太古より、数多の誇り高き戦士達を屠りその血を啜った弩級の鉄塊が、
紅世の巨竜の頭部に情け容赦なく撃ち堕とされた。




「ドラララララララララララララララララアアアアアアアアアアアアアァァァァァ
ァァァァァァァァァ―――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!」

 


 未来への咆哮。
 この世の何処かに、確実に受け継がれている精神と共に。
 波紋の鉄塊その乱撃が巨竜の貌を体積比を無視して無茶苦茶に弾き飛ばし、
最後はその首諸共根刮ぎ捻じ切るような衝撃を伴って吹き飛ばした。





 ヴァッッッッッッッッギュアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――
――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!




 ブ厚い鋼板が、融解しながら飛散するような感覚。
 波紋が確実に流れ隅々まで行き渡った残響。
 使う者の技量が高ければ高いほど、その密度は色濃くなる。
 天地を鳴動する伝説同士の戦い、しかし、
その終焉(オワリ)は得てして呆気ない(こういう)モノ。
 半世紀振りに握った武器に、アノ男の姿が過ぎったのか
それを持つ手がブルブルと震えた。
「なんとか、勝ったか……
吸血鬼化してたから波紋の威力が最大に成ったとはいえ、
本当に恐ッろしい相手だった。
威圧感も絶望感も、ワムウやエシディシに劣らねぇ。
まともにブツかったら、正直勝ち目なんかなかったぜ……」
 余裕盤石に見えたジョセフだったが、
実際はイルヤンカの畏るべき顕力に肝を冷やしていた。
 勢の虚、気の虚、そして意識の虚を突き、
一気呵成に攻めなければおそらくやられていただろう。
 イルヤンカが完全に本気になっていなかった事、
得意の巧弁でこちらのペースに巻き込めた事、
多分に 『運』 に助けられた面も有るが、
それでも酷使した肉体と精神の消耗は激しかった。
「……」
 自身の重量(おもさ)によって、大地に()り込む形となった巨竜の亡骸、
せめてその最後は見届けてやろうとジョセフが足を踏み出した時。




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!





 突如、陥没した大地、巨竜の墓標から、
イタリア、ヴォルガノ島の 「火山」 を想わせる夥しい噴煙が
凄まじい圧迫感を伴って爆発的に放出した。
 途端に、今は存在しない筈の左手の部位が痛み、
その部分を補う義手がキリキリと軋む。
 在り得ない存在、波紋が効かない吸血鬼、
脳裡に否応なく甦る “アノ男” の姿を感じながら、
ジョセフは戦いが終結どころかまだ始まってもいなかったコトを思い知らされた。
「ぬうう……よもや、人間相手に “コレ” を使う事になろうとはな……
統世王殿の助言、そして実際に貴様の(ワザ)を視ていなければ危うかったぞ……」
 正に、冥府の底から這い擦り出してきたかのような昏い声。
 紛う事なき、先刻の巨竜のものであるが
その姿は気流に “流れない” 高密度の煙によって覆い尽くされている。
 実体の無い、常に滞留し属性を換え続ける鈍色の甲冑、
その正体は歴代 “最硬(さいこう)” と(うた)われた質量の在る魔朧煙(まろうえん)
 喩えるなら、硬度を保ったまま泥化(どろか)する石畳、
金 剛 石(ダイヤモンド)よりも砕けない軟化(なんか)した時計、
相反する要素を併せ持った、絶対をも超えた絶大防御の不滅陣。
“甲鉄竜” イルヤンカ最大の奥義 『幕 瘴 壁(ばくしょうへき)
 その特異さ故に他の遣い手が存在しないため
“ゾディアック” にもその概要が記されず、
尚かつソレに比類する業も未だ生み出されてはいない。
 先刻、ジョセフの放った乱重撃の際、
イルヤンカはその(くち)から、鱗から、貌から、
躰中の(あな)という(あな)から、その煙を滲ませていた。
 故に波紋と衝撃はその 「表面」 を伝うだけに留まり、
肝心のイルヤンカ本体へのダメージはゼロに等しき状態という結果になった。
 敢えて反撃に出ず衝撃にも逆らわず背後へと飛ばされたのは
この不滅の防御陣を完全なモノへとせしめるため。
 若輩と違いその場の感情には流されず、
かといって勝利への布石は貪欲なまでに練りに練る、
タイプこそ違うが、こと戦闘の老獪さに於いて
イルヤンカはジョセフのそれに匹敵していた。
「GUUUUUU……GOOOOOOO……」
 猛り狂って暴れ回っていた時など、
現在の畏怖に較ぶれば(じゃ)れつく仔猫のように可愛いもの。
 冷静に、冷静に、更に冷静に、
裡で渦巻く激情を諫め相手を討つことのみに専心している様子は、
頭上に巨大な剣が髪一本で吊されている戦慄をジョセフの背に走らせた。
 姿も(おぼろ) な、暗幕の瘴壁その中心部から、
真の姿を顕した竜王の声が響く。
「見事なり、人間……見事なり、波紋の遣い手……
一時(いっとき)とはいえ、この “甲鉄竜” を追い詰めるとは……
両翼をもがれ、再生が覚束(おぼつか)ん……
『幕瘴壁』 により最後の進撃は無効化したにも関わらず、
鋼の鱗は剥離するのみ……」
 噴煙よりも色濃い魔の(とばり) の向こう側で、
微かではあるが 「波紋傷」 の音がする。
「言っただろ、DIOの血を受けちまった以上、もう元には戻れねぇって。
『柱の男』 と違って “吸血鬼” には波紋に対する 「抵抗力」 がねぇんだ。
その傷を癒すには人間の血、いいや、 “人間じゃねぇアンタじゃ”
多分 『同類』 の血じゃなきゃ傷は癒せねぇ!
少しは解ったか! 自分が一体何をしでかしちまったのかをよ!」
 窮地に追い込まれつつも、ジョセフはイルヤンカに叫んだ。
 イルヤンカを同じ 『男』 として認めているからこその言葉だった。
 ここまで強い者でありながら、ここまで誇り高い存在でありながら、
他者を踏み(にじ)る事の卑劣さがどうして解らない?
 力が有れば偉いわけじゃない、優れた能力が在れば偉いわけじゃない、
喩え 『神』 であったとしても、
たった一つしかない大切な生命を蔑む権利は誰にもない筈だ!
「こちらも言った筈だ……
何を犠牲にしようと、我等が 『壮挙』 の邪魔はさせんと……
人間……貴様が 『正しい』 と云うのならば、
この私に 「勝利」 してみせよ……
力なき理想など、所詮は絵空事に過ぎん……」
 ジョセフの言葉の裡に秘めた想いを、
充分に汲み取りながらそれでもイルヤンカはいった。
『正義』 【悪】 そんな(ことわり) はどうでもいい。
 ただ自分の成すべきコトに、スベテを捧げるだけ。
 アノ方の願い、アノ方の想い、それが少しでも充たされるのなら、
自分は永劫の責め苦すら(いと)わない。
 何が悪い?
 異形の魔獣だろうが人喰いの化け物だろうが、
“愛する者と共にいたい” と願って何が悪い!?
『その為なら』 何だってするのは、貴様等人間も同じだろうッ! 




   ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!





 意識の表層が剥がれ、剥き出しになって燃え上がった
互いの精神が真正面からブツかり合った。
 相手に対する怒り、附随して沸き上がる闘志、信念、
憎いからではない、嫌悪からでもない、
ましてや相手が 「愚か」 だ等と想うわけもない。
 その逆、何よりも相手の事が理解(わか)るから、
立場が違えば自分も同じようにしたから、
光だろうが闇だろうが、
生まれた 『真実』 は絶対に砕けないから。
 互いの真実に感応しつつもソレが絶対折り合わない事を確信しながら、
巨竜と英雄は対峙する。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォ――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!」
 燃え(たぎ)る精神の咆哮を発し、先に攻めたのはジョセフ。
 巧みな手捌きでスカーフをなぞり、再び前に突き出されたその両手には、
古よりの 『波紋使い』 には似つかわしくない武器、否、兵器!
『コルトM4カービン』 汎用機関銃。
 口径5.56㎜、ライフリング6条右転、
装弾数20×30のリュングマン式回転ボルト閉鎖作動による
有効射程距離は600メートル。
 その実用性の高さから、デルタフォース、グリーンベレー、Navy SEALs等の
特殊部隊にも実装されている最新兵器。
 銃口初速905/秒。
一分間に千発以上の5.56×45㎜NATO弾を射出するアサルトカービンが、
夥しいマズル・フラッシュを散らして魔朧に包まれた古の巨竜へと襲い掛かった。
「クゥゥゥゥゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォ――――――――――――――――――――――――ッッッッッッッッ!!!!!!!!!」
両手構えの機関銃(ダブル・マシンガン)
カスタムパーツにより重量4㎏を超えるフルオートの重火器を
滅茶滅茶に交差しながらジョセフは一斉射撃を繰り返す。
 途中、弾倉の交換もスムーズに、
一秒の間も置かずドス黒く霞む煙の向こう側を蜂の巣にする。 
 当然、抜け目無いこの男のするコト。
銃把(グリップ)から薬室に波紋を送り込み、
摩擦軽減と兼用で塗られたグリースを経由して 『波紋特殊弾』 を生成、
吸血鬼にはまさしく悪魔の兵器として殲滅を行う。
 冥暗の彼方に、鮮赤の光を放つ弾丸が5千発以上消えていった、
着弾音、反撥音、更には射出の残響すらソレに呑み込まれた。
「……気が、済んだか?」
 鈍色に霞む 『瘴壁』 の向こう、巨竜の輪 郭(シルエット)が瞳だけを
赤く滲ませて言った。
 だらりと両腕を下げ荒い呼気を吐き出すジョセフの手から
二つのマシンガンが路面に落ちる。
 弾は全て撃ち尽くした。
 ただ乱発するだけではなく 『瘴壁』 の脆そうな部分を狙い一点集中、
相手の動きも予測して弾速に緩急も織り交ぜた。
“にもかかわらず” 一発も、着弾は疎か破片が掠った気配すらない。
 まさに当代 “最硬” 嘗て紅世最大の宝具 『天道宮』 の突進すら止めた不滅の防御壁。
 破れるのは、彼と同じく “鐘” の 『両翼』 を担っていた男の最強技
虹天剣(こうてんけん)』 のみと云われていたが “今” となってはその根拠も危うい。
 何故なら、DIOの血によって死の淵から甦り、
“吸血鬼” と成ったイルヤンカの『幕瘴壁』 は、
生前を遙かに凌ぐモノへと変貌していたからだ。
 そうでなければ、波紋を込めた最新兵器の、
総数10000発以上の高速回転徹甲弾を無傷でヤり過ごすコトは絶対に不可能。
 あくまで “(ワザ)” として大別するなら、
アラストールの焔儀にも匹敵する威力だったのだから。
(へ、ヘヘ……シュトロハイム、よぉ……
おまえなら、こんな時でもいつもように、「祖国」 を誇って強がるか? 
でも、流石に……)
“我がナチスの科学力は世界一ィィィィィィィィィィィ!!” 
 スターリングラードで、名誉の戦死を遂げた、
アイツの叫声が聞こえたような気がした。
 自分と再会せず、墓標すら遺さず逝った戦友(ヤツ)
 また逢えるかもしれねぇ、不安や恐怖とは別の意味で
ジョセフはその想いを噛み締めた。
『UUUUU……GOOOOOOO……』
 眼前で、頭上で、視界に留まらない部分で、大きく蠢く巨竜の噴煙。
 ソレが一挙に前方へとたなびき、尖るような流線型へと集束していく。
“最硬” の防具は、それ(すなわ) ち “最硬” の武器。
 中世の騎士にも、頑強な鋼鉄盾で相手の首を圧し折り
顔面を潰滅させる闘法が存在した。
 イルヤンカのコレは、その守備攻撃の最足るモノ。
 不滅の障壁を身に纏い、疾風怒濤の勢いで相手に襲い掛かる極大技。
 甲竜冥吼。覇濤の朧鎧。 
葬 鐘(そうしょう)” の流 式(ムーヴ)
幕 瘴 壁(ばくしょうへき)闇 嶽 叢 雲(あんがくむらくも)
流式者名- “甲鉄竜” イルヤンカ
破壊力-AAA+++ スピード-A++ 射程距離-最大半径500メートル
持続力-D 精密動作性-C 成長性-E  




『GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO
AAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHH
HHHHHHHHHHHHH―――――――――――――――――――
――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』




 文字通り、天が震え地が裂けるほどの咆哮が、巨竜の全身から発せられた。
 足下を岩盤まで突き抜く蹴り込みと共に、
瘴壁自体がジェット噴射のように超高熱の奔流を吐き出し、
ソレに伴って巨竜の本体が鈍色の朧鎧を纏ったまま突進してくる。
 その威容は正に、冥府の魔天を覆い尽くす暗闇の雲。
 瘴壁自体の硬度、速度に伴う摩擦熱、
ソレよりナニよりその極大なる総質量!
 そのスベテが突進のエネルギーに加わり、
破壊力の瞬間最高値は 「測定不能」 にまで達する超焔儀。
 単純で在るが故に深遠。
 全体の放つエネルギーの総量が余りにも、
余りにも凄まじ過ぎるが故に、
撃砕技というより最早 『波動の砲撃』 に近い。
 無論、ソレを防ぐ事の出来る者、現世と紅世のどこにも(あた)わず。
“最硬” の鎧が相手に有る以上、破れる道理など何れにも存在せず。
 形在るもの、(ことごと)塵滅(じんめつ)せざる負えぬ(なり)
 莫風の瘴撃が、都市の街並みを呑み込んでいった。
 音はした筈だった、地も(くつがえ) った、空すら誇張なく歪み切った、
にも関わらずソレらは巨竜の存在、その重圧に拠って塗り潰された。
 まるで、スベテがスローモーションになったかのように、
否、事実そのように、ゆっくりとただ、スベテは破壊(コワ)れていった。 




 
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………





 闇の叢雲が、他の現象を意に介さず解けていく。
 ソレを操る者の意志なしで、決して消え去る事は在りはしない。
 破滅の惨状、その言葉すら陳腐になるほど、
巨竜の放った流式(ワザ)は凄まじかった、凄まじ過ぎた。
 砂城のように砕けた高層ビルなど単なる余波、
その破壊の中心帯は地を抉り大陸の形すら変えてしまった。
 生前を、遙かに凌ぐ威力(チカラ)
 イルヤンカ本人は気づいていないが、
その総力は彼が全霊を尽くして忠誠を誓う主、
紅世の王、その真名 “冥 奥(めいおう)(かん)
双名(そうめい)(ひつぎ)織 手(おりて)” アシズすらも超えてしまっていた。
神 砂 嵐(かみずなあらし)』 “天 破 壌 砕(てんぱじょうさい)
天地を鳴動させる秘技は他にも在れど、
コト 「破壊」 そのものにかけて、イルヤンカの業はソノ何れをも凌ぐ。
 故に、眼前の光景は至極必然足るものだった。
 本来、当たり前と言えば当たり前、
人間が竜に勝てる道理など存在しないのだ、
ファンタジーやメルヘンではないのだから。
 バヂィッ!
 行き場を失った電流が、零れたコード、
剥き出しの導線の先でショートしている。
 バヂッ! バヂィ! バヂッ!
 抉れた大地の血だまりで、砕け散った義手の破片が虚しく漏電を繰り返す。
 その持ち主は火花で燻る血の香気を感じる事もできず、
微動だにすることもない。
「……ぐ……が…………ぅ…………」
 引き裂かれた衣服、散り散りになったバンダナ、流血で塞がれた左眼、
それよりなにより、右大腿部が膝の付け根から欠損し露出した断面から
砕けた骨が()(ざら)しになっている。 
 同様に右脇腹も四分の一が抉れて不具(ふぐ)となり、内部の臓器が零れる寸前。
 以上のダメージから類推して、当然全身の血管や筋肉はズタズタだろう。
 正に致命傷と断ずるに、否、生きているのが不思議な位の
若きジョセフ・ジョースター、その無惨なる姿。
「……」
 己が全霊を尽くして討ち果たした仇敵を、
イルヤンカは哀愁にも似た気持ちで見据えていた。


←TOBE CONTINUED… 



 
 

 
後書き

はいどうもこんにちは。
雪が降ってトレーニングが出来ないので
半ばフテくされている作者です・・・・('A`)


まぁ読んだ方は解ると想いますが、
ワタシはイルヤンカを『悪』として描写しているつもりはありません。
某ガ○ダ○(名作過ぎるか・・・・('A`))の最終決戦のように、
互いの意志と信念をブツけ合う戦いだと想っています。
(その結果どう想うか? ソレは読者の判断に委ねられ、
或いは答えがその「(善悪の) 彼岸」にイってしまう)
ジョジョの中盤戦や5部以降のラスボス戦で御馴染みのパターンですネ。

っつーかまぁ、ワタシ「彼 (イルヤンカ) 」好きなんですよ。
多分「紅世の徒」じゃいまの所一番好きかもしれません。
(だから「イルルン」とかブッ飛ばされそうな愛称つけてるワケでw)
直近で読んだモノの中だと『闘 獣 士(ベスティアリウス)』の
ワイバーンのデュランダルを見たとき、彼を想いだして
○きそうになりました(最後のナレーションがヤバイね・・・・('A`))
だから某有名RPGの2時間の苦労が一瞬で終わる「アノ方」に
技が似てるのです(○○砲しか撃ってこない人)
ソレでは。ノシ 
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