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ゲート 代行者かく戦えり

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第一部:ゲート 開けり
  カルデアの日常&第3偵察隊出陣せん!

 
前書き
参考文献

wikipedia
『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』
「第3偵察隊」
「登場人物(主要人物)(自衛隊関係者)」
「用語」


『アメリカ陸軍特殊部隊群』
『民間不正規戦グループ』

『実践 スパイの技術ハンドブック』P241~248
 

 
特地 アルヌスの丘 自衛隊駐屯地にて






 巨大な六芒の星型要塞の形をした自衛隊特地派遣部隊が駐屯するこの場所にて、とある一室に数人の自衛官と外国人が集められていた。
彼らの名前は


伊丹 耀司(いたみ ようじ)

栗林 志乃(くりばやし しの)

富田 章(とみた あきら)

倉田 武雄(くらた たけお)

桑原 惣一郎(くわばら そういちろう)

黒川 茉莉(くろかわ まり)

仁科 哲也(にしな てつや)

笹川 隼人(ささがわ はやと)

勝本 航(かつもと わたる)

戸津 大輔(とづ だいすけ)

東 大樹(あずま だいき)

ジョン・ソープ・マクタビッシュ

ジョン・プライス

ギャズ

ウラジミール・R・マカロフ

ユーリ

以下、17名が呼び出しを受けていた。


彼らを呼び出したのは、目の前の2人である。特地方面派遣部隊指揮官の「狭間 浩一郎(はざま こういちろう)」陸将(中将)と、特地方面派遣部隊幕僚の柳田 明(やなぎだ あきら)二等陸尉(中尉)だ。どちらも自衛官組の中では上位の存在なので伊丹を除けば緊張した面持ちで、
一体何事かという言葉が伝わるような表情や目を浮かべながら、前に立つ2人を見つめている。そして外国人達も空気を読んで一応敬礼状態を取っている。


「あぁ、楽にしてよいぞ」


「とある任務のために君たちをここに呼んだのだ。決して何かミスをしたわけではないので安心してくれ。では、説明する。これよりここに集められた君たちは、自衛隊特地派遣部隊所属第3偵察隊としてこの特地に生息する現地民との交流を図ってもらうことになる。これはこの異世界においてとても重要な任務となるから、心して取り掛かってもらいたい」


そんな彼らに休めの姿勢を取るよう狭間中将は命じ、隣で控えている柳田に彼らを集めた理由について言及させる。彼らが集められた理由は新しく結成される部隊に所属されたことを説明するためだ。
特地に自衛隊が派遣された後、帝国軍・連合諸王国軍との二度に渡る戦闘を経て彼らと日本政府は一つの結論に至った。
それは第二次世界大戦時やベトナム戦争時のアメリカ軍のように、この特地に住む原住民を様々な懐柔策を用いて味方にし、現地における今後の戦略・戦術活動を有利にしようという考えだ。


かつて第二次世界大戦において米軍は、太平洋戦線においてアメリカ軍に好意的&日本軍に反感を抱いた原住民を利用し、島の裏道やジャングルの抜け道などをアメリカ海兵隊部隊の道案内役として先導して、日本軍の拠点把握や陣地に対する奇襲攻撃の成功など数々の貢献を行い、また東南アジアなどで反日ゲリラ部隊と共同して軍事作戦を展開したりと、
数々の不正規戦を行い勝利に役立てていた。


この経験は次の戦争、1964年から1973年まで続いた「ベトナム戦争」への米軍参戦時に活かされた。
この戦争に介入した米国は「民間不正規戦グループ」(CIDG)という部隊を結成した。これは、ベトナム戦争期において、アメリカ合衆国の不正規戦戦略に基づいて編成された民兵部隊。部隊の編成・訓練は、中央情報局(CIA)の支援のもとでアメリカ陸軍特殊部隊群(アメリカ陸軍特殊作戦コマンドの隷下の特殊部隊。
通称グリーンベレー)によって行なわれ、隊員はベトナム中部山岳地帯に住む少数民族モンタニヤール(モンタニヤード)より募集された。


アメリカ陸軍特殊部隊員たちは、訓練の他にもモンタニヤールと共に生活しながら医療活動などを通じて信頼関係を築き、その結果、CIDG計画は成功を収めた。
1963年の終わり頃には、米軍特殊部隊に忠誠を誓う18000名のCIDG攻撃隊員が120個中隊で編制され、
グリーンベレーによる指揮のもと、国境周辺のパトロールや監視を行った。最盛期には、80もの前線基地で40000人のCIDG隊員が北ベトナム軍や南ベトナム解放民族戦線と戦闘を繰り広げた。


この時学んだ経験を活かしてグリーンベレーは、後にソ連のアフガニスタン侵攻作戦時やアフガニスタン紛争時において、ムジャヒディンを結成したり北部同盟への支援を行った。
何故なら彼らは戦闘部隊であると共に、
友好国の軍や親米軍事組織に特殊作戦や対ゲリラ戦の訓練を施す訓練部隊でもあるからだ。 グリーンベレーの最も有名なモットーは「抑圧からの解放」であり、
戦時にはハーツ・アンド・マインズ (人心獲得作戦)や現地人で構成されたゲリラ部隊の編制および訓練、指揮などが主な任務である。


実際に彼らが戦闘に参加する際は、対ゲリラ戦、敵地や敵部隊の偵察・斥候、
正規部隊の先導といった突入任務、空挺部隊の降下地点の選定誘導、爆撃機や攻撃機の爆撃誘導など、最前線で後続を確保するための血路を開くことが主な任務となる。また、敵の後方攪乱や破壊工作なども行う。これらの活躍ぶりからこの部隊を参考にしようと、アメリカの同盟国である日本政府と自衛隊上層部は考えたのだ。





この特地と称した異世界は全くの未知な世界だ。未知の生物や言葉、未知の文化や言語、そして魔法や神という地球では空想に過ぎない存在が実在し、もしかしたら地球では貴重となっている天然資源が同じく埋まっているかもしれない。
そして「帝国」から様々な賠償や利益を引き出すためにも、
とにかく少しでもこの世界に関する情報が必要だ。このように色々と政府上層部と自衛隊上層部は考えており、そのための第一歩として偵察隊を結成することを決めたのだ。


こうして特地の調査のため1部隊12名から成る偵察隊6個、「深部偵察部隊」を臨時に創設した。その中で第3偵察隊のメンバーの中核には、二重橋の英雄と称された伊丹を含めた12名の自衛官と、
銀座事件に巻き込まれたので国際社会の外圧もあって臨時に組み込まれた外国の特殊部隊員5人、計17人で構成されることになった。同時に別の目的もあってこの偵察隊は創設されたのだが、その旨は一先ず置いといて、
一応正式な目的を柳田は彼らに説明した。そしてその言葉に違和感を持つ者は、
別に何もおかしい所が無いので誰一人として居なかった。


各偵察隊は主に特地の地理や土壌(各種資源情報含む)や動植物のサンプル収集、商工業を含めた社会全般の情報を主に集めているが、この3偵(略称、他には「3Rec」とも呼称される)は人当たりの良さと語学力を利用・活用しての人材・文化交流を得意とする部隊らしい。実際全ての特殊部隊の元祖とも言える英国SAS出身の隊員が2人組み込まれており、彼らはハーツ・アンド・マインズなどにも優れているのでその判断は間違ってはいない。


他にも衛生兵である黒川(看護資格所持)がメンバーに組み込まれているのも、
文化交流に重点を置いた部隊であるというのがソープなど海外の軍人たちには理解できた。何故ならSASがマラヤ動乱(日本に占領されてたマラヤことマレーシアを、戦後宗主国であるイギリスは再編成・連邦化しようとして中華系住民の反発を招き、1948年にマラヤ共産党MCP全党員に活動開始命令が下達されテロ活動が起こった一連の出来事。マレーシア独立後の1960年まで続いた)で学んだ、とある経験に基づいているからだ。


それは何かというと、医療技術が現地で信頼を得るのに最も最適な手段であることだ。


そもそもハーツ・アンド・マインズ (人心獲得作戦)という言葉は、このマラヤの高等弁務官であったサー・ジェラルド・テンプラー大将がマラヤ動乱時に使った造語であった。
1952年6月、作戦遂行に十分な兵士を保有しているかどうかとある閣僚に尋ねられた彼はこう答えた。

「解決策は、ジャングルに兵士を更に投入する事ではなく、
マラヤ人の心と精神の中(ハート・アンド・マインド)にあるのです」と。

テンプラー大将はマラヤ人を説得するために、ジャングルに砦を建設したり、
先住民を味方に引き入れるなど、様々な手段を用いた。1953年からSASはこの様な砦建設に参加し、
先住民と生活を共にしながら、彼らの言葉や習慣、生活方法などを学んだ。そして判明したことは、
どんなに素朴であろうと、医療技術が現地人の信頼を得るのに欠かせないという事だ。


その際留意すべき点は、どんな手当てをするにも本格的で有効なものでなければならず、かつ現地人に対して決して恩着せがましい態度を見せてはならないという事だ。こうしてSAS隊員たちは、助産術から獣医術まで身に付け始めた。
どんなに単純に見えたとしても、東南アジアのジャングルやアフリカの砂漠では、こうした方法は有効だったのである。


ハーツ・アンド・マインズ (人心獲戦得作戦)の利点の一つは、これ等の活動を通じて友好的・協力的となった現地人から得られる情報だった。もちろん、現地人との生活では激怒させられる場面もあり、SAS隊員は忍耐と柔軟性を身に付ける必要もあった。現在SASを初めあらゆる特殊部隊や海外派遣部隊などでは、色々な戦場では人心獲戦得作戦を展開する事が通常方針となっている。他の手段では得難い「目と耳」による情報を入手することが可能であり、
その見返りは計り知れない。これを本家ほどでは無いが少しでもそれに近い行為を行う事を彼女を含め、第3偵察隊メンバーは自衛隊上層部から求められていた。





「君たち第三偵察隊は、この特地でとにかく様々な情報を入手し、「帝国」との戦闘や今後の自衛隊の活動に役立てるような何かしたの利益をもたらさなければならない。そのために責任は重大だが必ずやれるよ信じている。頼んだぞ」


『「はっ、了解しました!!」』


「我々も同じくその旨を本国から聞いておりますので、一応日本の為にも貢献するつもりです」



狭間中将の説明と激励に、責任感を感じた自衛官たちは勢いよく答える。同時にプライスがそう話して自衛隊と日本政府に貢献する意思を示す。その言葉を聞いて「頼むぞ」と狭間中将は答え、柳田は無言で頷いて当たり前だと言わんばかりの表情を浮かべた。
それを見た倉田や栗林は、嫌味そうな人だと初対面の彼にそのような第一印象を抱き、ソープやマカロフはいけ好かないインテリだと思った。一方でプライスや狭間はまだまだ甘い人間だと生暖かい目で彼を見ており、
彼らの間で彼の態度に対する温度差が生じていた。






 そしてこの微妙になりそうな空気を一変するために、また本来の本題に入るために、狭間中将はいよいよ先ほどまで述べていた建前ではなく、〝本当の部隊”結成の目的について話し始めた。それは佐官クラス以上(少佐~大佐)の自衛官しか知りえない情報で、柳田もこの時までほとんど知らされていなかった。


これに関係するのは伊丹、ローチ、ソープの3人であった。
彼らは銀座事件に巻き込まれた関係者という共通事項があり、それと関係しているとなると読者の皆さんには容易に想像できるだろう。一体どんな思惑や目的を秘めて、この部隊が結成されたのかが。



「伊丹二等陸尉、ゲイリー・ローチ・サンダーソン軍曹、そしてジョン・ソープ・マクタビッシュ大尉、君たち3人がどうして今呼ばれたのかが理解できるか?」


「はい、銀座事件で遭遇したサーヴァントについてですよね。我々の共通点として思い浮かぶのはそれぐらいしかございませんから」


「私もMr.伊丹に同意です。今世界で最もホットな話題である銀座事件に引けを取らないぐらい、彼らは注目を集めていますからね」


『「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!……はぁ……」』


狭間中将が深刻そうな表情を浮かべてそう切り出すと、二人は分かっていたという悟りを開いた表情を浮かべながらそう答え、互いに「同志よ!」と言わんばかりに視線と視線で語り合い、そして乾いた笑いを浮かべて大きな溜息を吐いた。
何故彼らがこのような表情を浮かべたのかというと、先の「銀座事件」で現れたサーヴァントを巡る様々な騒動に巻き込まれているからだ。





 何話か前で述べたが、この世界では以前からサーヴァントの目撃情報が世界各地で報告されており、様々な活動ぶりを披露していた。例えば大災害やテロなどの大事件が発生した時には、被災者を救出したり実行犯を鎮圧したりしており、
時にはそれを未然に防ぐこともあった。


例えば日本では、
数年前に東北で起きた大震災の際に、
発生した大津波や原子力発電所の放射能漏れを防いだことで有名だ。大津波はゴージャスとしか言い表せないとにかくオーラが桁違いな金髪に赤目の男が、

「まったく、人使いの荒い雑種だ。だが、許そう。さぁ受けよ!『エヌマ・エリシュ』(天地乖離す開闢の星)!」」

とドリルのような剣みたいな物体を振り下ろしながらそう叫ぶと、大きな光の一線が迫り来る大津波を貫いてそのまま上空の雲までも四散させたので、東北の海岸を襲いかけていた危機はこうして消え去った。同時に原子力発電所も職員を津波から避難させる必要が無くなり、地震の被害はあったもののそのまま対応に当たることが出来たので、放射能が周囲に漏れたり臨界点を突破するという最悪の事態だけは防げた。


この金髪の男性は以前から世界各地のリゾート地やカジノなどに出入りしており、日本でも繁華街などでよく金払いの良い客として認知されるなど、その筋の人間からすればお得意様で著名であった。
何せアメリカのラスベガスでホテルを数千億円で買収し、
改修工事を行い以前よりもさらにグレートアップした物件に仕上げて信頼のできる経営者にバトンタッチしたり、「王の戯れ」と称して歌舞伎町で一日で約200億円を消費するなど、
そこら辺のセレブが裸足で逃げ出すような所業をしたからだ。


他にも人生が上手く自分の予定通りにいかないことを日本社会のせいにして、
その逆恨みから通行人の大量殺戮を試み、車に乗って歩行者天国に突っ込んだ後に、持ち込んだ刃物で人を刺しまくるなど通り魔を行おうとした引きこもりの青年を、

「まったく、自分の努力不足を社会や他人のせいにするなんて何て馬……未熟な魂なのでしょう・さぁ、歯を食いしばって、悔い! 改めろっての!!」
バキャ!ボキッ!ドゴォ!

たまたま現場に居た赤いジャージ上下に身を包んだ紫色の長髪なヤンキー…げふんげふん、素敵な聖女の様な女性が迫り来る猛スピードで走る車を一発の右ストレートで大破させ、
ボロボロの状態で飛び出した青年の腹部に膝蹴りをして地面に倒してそのままのしかかり馬乗りの状態となると、このような事を言いながら何発もこぶしを顔面に叩き込んで警察が駆けつけるまで行い続け、事件を未然に防いだりしていた。


なお、青年は顔面がすっかり変形して別人のような顔となったが、激しいショックのせいかすっかり改心していたので大人しく判決を受け入れて、現在は人が変わったように善人となったので模範囚として服役中である。
彼曰く、

「彼女の愛の鉄拳という説教を受け入れたら、今まで抱えていた悩みやストレスなどが全て消え失せて、同時に今までの自分はとても無駄な時間を費やしていたという後悔が襲ってきた。そして犯そうとした罪の償いを兼ねて、これらかの余生は他人や社会のためになる事をしようと思う」

と述べている。


更に彼女は密かに日本の不良や暴走族の間では「タラスクの姉御」と呼ばれる程有名な存在となっており、密かに彼らのツーリングなどに参加しているのが度々目撃されていた。
今では北海道・東北・北陸・関東の暴走族と不良を牛耳る組織を結成してそこの名誉会長の称号を彼らから授かり、強固なカリスマと鉄拳制裁で体制を引き締めているそうだ。


このおかげで暴走族と不良がらみの犯罪は大幅に減少し、
逆に麻薬密売人やホームレス狩りをタコ殴りにして警察に引き渡したり、構成員たちの社会復帰用に会社を経営するなど真面目な行動をして、日本政府に表彰されるほど優良な組織へとなっている。


他にもイスラム国の様なイスラム教過激派のテロリストを、
「アッラーの名を穢す不届き者」として皆殺しにする自称ハサン教団と名乗る骸骨マスク集団。科学の結晶と称してアメリカを中心に世界中の家電メーカーや製造メーカーなどに己の発明品を持って一緒に訪問して、直ぐに互いの発明品を切っ掛けに喧嘩を始めて警察沙汰となる怪しいライオン頭と電撃を周囲に放電している二人の男性。
そして紛争地帯などで患者に銃を突き付けてまでも治療行為を行い、徹底的な殺菌消毒を強制する危険だが人命救助に熱心な女性など、様々なサーヴァントと思わしき存在が世界各地に現れ、良くも悪くも様々な影響を及ぼしていた。





そして彼らが「銀座事件」において披露した活躍ぶりが、
ネット配信やテレビ画面などで大々的に報道されたので、
世界中で彼らの事を知った関係者や一般市民たちが日本と同じく騒ぎ出し、
様々な反応を示したのだ。まず世界各国の政府上層部は、
彼らをどうにか自国の発展に役立てないかと考え、対処に乗り出している。


特にアメリカや西欧諸国は、サーヴァントの活動によって様々な恩恵を受けてたので、あくまで確保するのではなくパートナーとして雇い入れようとしている。
彼らに敵愾心を持たれないように注意を払っているのだ。
具体的には生前の彼らが生まれた生家や暮らした家・部屋、
そして関係の深い施設などを博物館にしたり、観光の名所にしたりして、彼らに対する世間の認知度向上に努めたのだ。


だが、その一方で半島や大陸の国家は真逆の対応、手段を選ばずにサーヴァントの確保を試みていた。まずは恒例となった妄言だ。竹島や尖閣諸島と同じく、
「銀座の門は我々(中国/韓国)のもの」や「もともと銀座は韓国固有の領土」、
「サーヴァントたちは先の大戦での賠償を兼ねてわが国(中国/韓国)が保有するべきだ!」etc……、
頭がおかしいとしか思えない様な発言をテレビやネットで大々的に報道して、
世界中から「こいつら同じ人間とは思いたくない(笑)」と失笑を買っている。


だが、彼らのその無駄に熱心な活動力を舐めてはいけない。
何と彼らは原作者(奈須きのこ)を拉致しようと工作員を日本に派遣し、重役(武内崇など)ごと祖国に連れ去ろうとしたのだ。しかし、
そのピンチを救ったのは日本政府でもなくサーヴァントでも無かった。何と北の大国ロシアがサーヴァントのマスターに頼まれたと称して、
FSB(ロシア連邦保安庁。旧ソ連のKGBの後継者)の職員に工作員たちを全員確保させ拷問し、両国がやろうした誘拐劇を報道カメラの前で自白させ、世界中のテレビやネットに報道したのだ。


この報道は世界中に大きな衝撃を持って迎え入れられた。
多くの国は中国と韓国に非難声明を出して中には貿易協定や軍事協力の取り消しを行う国も存在し、
大小さまざまな国が両国に対する信用度・好感度を低下させた。そしてアメリカはこのチャンスを利用してロシアに拷問の事については小言を言いながらも、両国に対して圧力を強めると同時に韓国に更なる譲歩(在韓米軍への更なる助成金の増額など)を引き出すことに成功した。


そして両国はロシア政府に対して「自国の仕業ではない」と非難声明を出すと同時に、自分たちの仕事の邪魔をした報復を試みたが、アメリカがそれを察知して仲介してきたのでくしくも断念する事となった。アメリカからしてみれば両国への嫌がらせになるし、中東やウクライナ問題などで関係が悪化したロシアに恩を売るチャンスだからだ。ロシアからしてみれば自分たちの〝協力者”の要請もあって今回の出来事を引き起こしたので、
仮に何かしらの復讐を両国が行ってきた場合には徹底的な報復(戦争)を行うつもりだったので、そんな事態にならずに済んだアメリカの援護射撃には少し感謝することになった。


この動きから分かるように、一番不穏な動きを見せていたのはロシアだ。ロシア政府はこの問題や銀座のゲートに関しては全くの無関心を装いながら、何やらサーヴァントたちと関係があるように匂わせており、日本と同じく諸外国から注目を集めていた。実際にその証拠として、
ロシア国内では数多くのサーヴァントがロシア軍の軍事活動に参加していたり、
政府閣僚との会談をしている場面を撮った写真がマスコミに報道されたり、マスターと思わしき人影がロシア軍高官やロシア大統領と握手している写真がネットに流出したり、シベリアの大地に眠る数々の天然資源の発見や採掘が外国の予想を上回る速度で進んだり、ロシア軍がアメリカ軍を超える勢いで次々と最新鋭の兵器を開発・生産したりしたからだ。





そして肝心の日本政府の対応はどうかというと、何と「何もしなかった」と言った方が正しいだろう。政府は右往左往するだけで韓国と中国両政府に対して何かしらのペナルティや反撃を行う事はせず、ただ非難声明を政府公式発表としてマスコミの前で報道するだけであった。
本位 慎三(もとい しんぞう)総理大臣や嘉納 太郎(かのう たろう)防衛大臣兼務特地問題対策大臣などは日本政府として何か行動をしようとしたが、野党の大規模な反対と両国政府の恫喝&工作によって行えず、非難声明発表ぐらいしかできなかったのだ。


せめてもの慰めは、
米露両政府の援護のおかげで今回の経緯について国民に直接テレビとネットを通じて報道し、一体誰の仕業で非難声明発表という情けないことしか行えなかったのかを証明できたことだろうか。マスコミを介して行わなかったのは、マスコミには親中&新韓の連中が多くおり、上層部には在日と呼ばれる日本人の皮を被った工作員が在籍しているので、下手に報道しようものなら湾曲して大陸と半島に都合の良い内容で報道されるからだ。


この報道の結果、
日本国内では色々な反応が示された。
色々な層の人間が様々な反応や対応を示し、右往左往したのだ。ある意味では、
アメリカや中国のように国民が政府に対し、暴力を伴う実力行使に出ないだけ幾分マシと考えるべきなのだろう。


まず政府に売国奴呼ばわりされた野党勢力は、今回の件に関して大規模な抗議を政府に送り付けると同時に、無視されたマスコミと一緒になって政府と与党に対して激しい批判を繰り広げた。ボキャブラリーが不足しているのかと思えるほど使いまわしされた単語(帝国主義や全体主義など)を連呼して、自分たち野党、
もしくは中韓両国政府に対して謝罪か賠償をすべき、もしくは内閣解散と総選挙を要求したりと、
政府に対し強く要求を突き付けていた。


同時に彼らのシンパ(○○隊や棒学生団体など)がデモ行進を永田町で行い、野党と同じ対応や要求を求めたり、
マスコミ各社はそれを一部を除いて好意的&肯定的な報道をし、自称コメンテーターや専門家がしたり顔で応援メッセージを述べるなど、
彼らは今日もある意味平常運転であった。その一方で、彼らの構成員の中には今回の事で疑問を抱き、離反する者もいたのでますます先鋭化して問題行動を引き起こすなど、より一層組織の質の劣化&悪化が進んだ。


そして国民は彼らのシンパを除けば大小様々な程度はあれど両国政府に対し怒りを抱き、政府の対応が手ぬるいと感じて左翼シンパや野党とは違った意味で政権に対して失望する者も増えた。なので右翼団体に入る者や右翼政党のシンパになる者が増加し、それと正反対の思想を掲げる連中とデモ活動中に衝突して喧嘩沙汰になる事もあれば、ネットの掲示板で論争を繰り広げたりして色々な問題を引き起こしていた。


更に「銀座事件」について詳しくマスコミが報道していく内に、当然サーヴァントの活躍ぶりを見た現地で巻き込まれた人たちへのインタビューが放送されるようになり、その中で彼らを真近で見た伊丹らの活躍ぶりも報道されて一躍時の人となると、色々と情報を聞き出そうと多くのインタビュアーや政府役員が、
彼らの自宅や所属する基地へと集まるようになったのだ。


政府役人からしてみれば、ゲートやサーヴァントの対策に役立てるために情報が必要で、同時に国家に仕える軍人なので多少手荒な扱いを行っても民間人よりも批判されにくいから、色々と扱いやすいと判断したからだ。
そしてマスコミ側からしてみれば、時の英雄となった彼らに対する世間や読者の興味関心に基づいて話を聞き出すことに成功し、引き出せた情報を記載した記事やその模様を記録した中継によって自社の新聞の売り上げや番組の視聴率向上に貢献するために、
上層部からの命令もあって彼らはわらわら押し寄せたのだ。


この訪問者の群れに伊丹らはかなり対応に苦労し、時にはストーカーのようにパパラッチが付きまとう事もあった。沈静化した1週間前まで朝から晩まで彼らの所属する部隊の駐屯地前には報道陣がたむろし、インタビューを申し込んでくるのだ。役人が3日に1・2回ほどのペースなのに対し、奴らは24時間毎日いて担当官の電話はひっきりなしに鳴りまくり、自衛隊と米軍はその対応に多くの人員を割くなど余計な苦労を強いられた。その苦い経験があるので、
彼らがこの事に触れるとレイプ目を浮かべるような重い気分となるのだ。




何はともあれ、このように騒動に巻き込まれた身としては一体政府が自分たちに何を求めているのかが薄々分かるので、
的確に狭間の問いに正解できたのだ。
間違いなく日米両政府はサーヴァントの交渉や接触に、自分たちをだしにして利用するつもりだと。厄介ごとに巻き込むつもりだと。


「で、具体的に何をすればよいのですか?まさか確保しろとか無茶ぶりをおっしゃるのではないでしょうね?絶対に無理ですから!」


「まさか!君たちにそんな無茶命令をこの国と米国が下すと思っているのか?中国や北朝鮮の様な独裁国家でもあるまいし、ちゃんと君たちに達成できる内容だから安心してくれ」


伊丹が心配そうな表情を浮かべながら任務について尋ねると、狭間はちゃんと無理難題な任務ではないと説明してから話し出した。その言葉を聞いて彼と倉田はほっと一息吐いて、
日本政府とアメリカ政府の正しい判断に安心した。彼らは知っている。サーヴァントは一体につき戦闘機一機分と原作者は発言しているが、
ほとんどのサーヴァントはそれ以上のヤバい能力やスキルなどを保持していて、戦闘機どころか核兵器並みの能力を持っていることを。


例えばギリシャ神話やインド神話、そして古代エジプトやウルク(メソポタミア)など、伝説や神話の世界出身のサーヴァントが核兵器並みにヤバい実力を保有している事で有名だ。これ等にいくら現代の銃火器が優れているかと言って、
対等に立ち向かえるとは一切思っていなかった。銃弾を平気で切り捨てることが出来そうな連中がごろごろいるので、
幾ら撃っても無効化されて逆にあっという間に目の前に近づかれ、自分が殺されるのが目に見えているからだ。


では、マスターの方はどうかというと、
それもまた不可能に近い話であった。
何せ銀座事件において彼は地面に引き倒した帝国軍兵士の頭に思いっきり踏みつけを行うと、まるでスイカ割で割られたスイカのように兵士の頭はぐしゃっと砕け、周囲の地面に脳漿や頭蓋骨のかけらが飛び散ったのを見てしまったからだ。
こんな人街染みた戦闘力を持つマスターを確保するなんて、
幾ら鍛えられた兵士であるとしてもほぼ不可能だと彼らは判断していた。せめてアメコミの主人公並みの身体能力がないと絶対無理だと。


そしてこの判断は二人だけでなく、色々とサーヴァントやゲートについて対策を練っている自衛隊や米軍上層部の共同判断でもあった。彼らはあの事件以来、
密かにサーヴァントについて対策を練っていた中央情報局(略称CIA:外国での諜報活動を行うアメリカ合衆国の情報機関)との協力のもと、
原作や資料集などをネット販売で購入してプレイしたり読み耽ったりして情報を集め、そしてかかわりのある事件などのデータを参照して練った結果、真正面からの戦闘は宝具や霊体化などを考慮するとかなり不利であると判断した。


この意見を政府上層部はしっかりと受け止め、なるべく達成できそうな任務を与えることにしたのだ。その任務とは……


「『特地にいる筈のサーヴァントと、
彼らの部下となっている〝自由の民”という反帝国で団結した亜人が中心の武装勢力と接触し、彼らとの間に交流のパイプを繋げろ。』それが日米両政府からの命令だ。
この任務は君たちの能力なら必ず達成できると上は信じており、同時にこれは言わなくても分かっているとは思うが、
とても重要な任務であることは重々承知してくれ。少しでも現地や彼らに関する情報が必要なのだ」


「えぇ、それは重々承知していますMr.狭間。我々は優れた戦士であると同時に、
こうした交流にも優れた実績があるのでね。あぁ、もちろん拷問のプロという意味ではないですよ。
ちゃんとした交流によって世界中に友達がいるのでね」


「一応言っておくが、帝国の武装した兵士ならまだしも自由の民の構成員や非武装の民間人に対しては、一切の拷問や殺害は認められていない。もしやってしまった場合には、間違いなく軍法会議送りとなるので注意してもらいたい。だが、
件の黒王軍と呼ばれている武装勢力なら別だ。あくまで反撃の範囲内であれば殺しても問題はない」


狭間中将が告げた極秘の任務内容は、
帝国軍兵士の尋問で判明した事実だが、
どうやら門の向こうに広がる特地にサーヴァントが拠点を構えているらしく、
おまけに「自由の民」と呼ばれる亜人を中心とした反帝国の武装勢力の親玉を勤めている様なので、
この構成員や彼らに如何なる手を使っても接触して交流を結ぶことが目標だ。


実際に捕虜たちにマスターと思わしき男とサーヴァントの写真を見せたところ、
現地では自由の民の創設者と上層部として活躍していると供述を得られたので、
まず間違いなく自由の民に接触できれば彼らとも何れは会えるだろうと、日米両国政府や自衛隊・米軍上層部はそう予測している。その内容を聞いて、プライスがイギリスジョーク風に拷問を行う事を匂わせたが、直ぐに柳田が釘を刺した。


この外国の特殊部隊メンバー連中は、
テロリストの追跡の一環で捕らえた犯罪組織の人間に、目標人物の情報を引き出すためには容赦なく電気ショックの拷問を行ったりするので、そのノリを向こうにも持って行ってもらっては困るのだ。
なので予め釘を刺すことで許可無しにやるのを防いだのだ。


ただし、尋問の最中に聞いた黒王軍と呼ばれる謎の武装勢力に関しては別である。話を聞く限りでは、どうしても同盟関係を結べそうには絶対に無いからだ。
何故なら人間を家畜か下等生物にした思っておらず、基本的に皆殺しか拷問らしいからだ。なのでまた明確に「帝国」のように敵対はしていないが、接触しても向こうから先に攻撃してくると思うので、身の安全を確保するという名目で反撃を許可したのだ。




「その黒王軍って、
どんな連中なのですか?先ほどの言葉を聞く限り、碌でもない連中だというのが嫌でも理解できますけど……」


「あぁ、その通りだ栗林二等陸曹。奴らはそうだな・・・・・・何て言うか、
イスラム国の連中や独ソ戦時のソ連兵、
もしくは日中戦争時の便衣兵と同じ連中と言えばわかるか?
捕虜や死体に爆弾を仕掛けて救出しに来た帝国兵を吹き飛ばしたり、捕虜に拷問を繰り返してそのまま殺したり、立て籠もる帝国兵に向けて捕虜の首を切り落として挑発したり、
農民などを皆殺しにして田畑を焼き尽くして食料事情を悪化させたりと、とにかく人間をとことん痛めつけて恐怖に陥れることしか考えていない連中みたいだ」


「うへぇ、分かりました。確かにそんな連中には交渉とか通用し無さそうですね。反撃なら殺しても仕方ないですね」


なにか不穏な空気を察して栗林が柳田に黒王軍について質問すると、彼は黒王軍についてざっと簡単な説明で如何にヤバい連中なのか述べ、
彼女はそれを聞いて連中が常識の通用しない野蛮な連中であるのが理解でき、
嫌悪感を隠せなかった。その後色々な質疑応答をした後に解散し、こうして第3偵察隊として彼らは今後動く事となった。


彼らはこの時まだ知らなかった。自衛隊も米軍も、日本やアメリカ、それにイギリスやロシアも。


この部隊が特地で様々な功績を残して現代の英雄となり、
やがて世界を救うアベンジャーズの様な部隊となる事を。






{一方そのころ 
特地:カルデアのメンバーが自由の民が設けた本拠地『マサダ』に滞在中}





 人里離れた山岳地帯や丘陵地帯、そして森林地帯など険しい自然地形に囲まれてその要塞は存在した。山の中腹と地下を人工的にくり抜いて建設されており、
まるでアメリカのNORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)が所在するシャイアン・マウンテン空軍基地(コロラド州シャイアン・マウンテン山中に設けられたアメリカ空軍の基地)のようだ。


この要塞は周りを分厚い岩石に囲まれており、破壊するには一体どれほどの爆薬が必要なのだろうか?少なくとも具体的に、水素爆弾が1発上空で炸裂しても何とか耐えきれそうだと言えば、その堅固さが分かるだろう。
この要塞は名前を「マサダ」と名付けられている。命名はサーヴァント達のマスター「桐生連夜」で、かつて第一次ユダヤ戦争末期に、ローマ軍の包囲に対し籠城したユダヤ人集団が2年にわたり抵抗し、集団自決で幕をおろした岩山の上の要塞から由来している。ちなみにマサダとは、ヘブライ語で「要塞」を意味する。


当初は最後陥落した由縁から縁起が悪いとか不吉であると色々な意見が寄せられたが、それを防ぐためにこの要塞には様々な仕掛けや備蓄がセットされている。
例えば、要塞の周囲の地面には要塞内部の指令室に遠隔管理・操作されているセンサー仕掛けの地雷原で覆いつくされていたり、
地下に太陽光発電システムによる発電所や農場を設けていたり、隠し砲台が山のあちこちに隠蔽されていたりするので長期の籠城戦に耐えることが可能だ。具体的には、約1千万人を収容した状態で100年は維持できる程だ。


そんな要塞の地上5階に相当する部分に設けられた数多く存在する休憩室にて、
2人の少女と成人女性の人影が存在した。
少女は何やら机に何冊も同じものを置きながら本を読みふけっており、ときおり顔を上げると何かを手元に置いてあるノートにボールペンで書き込んでいる。
その姿はまるで自室や図書室などで、
自主勉強に励む女学生のようだ。


その一方で、この休憩室に小さく設けられたキッチンにて女性が何か料理中のようで、鼻歌を歌いながらフランパンをひっくり返したり、
戸棚を開けて小皿を用意したりしているのが見える。そしてしばらくすると「出来た」と料理を完成させ、フライパンの上に乗っかっているそれを小皿の上に盛り付け、同時にメープルシロップや蜂蜜なども用意して少女の下へと運んだ。



「はぁい、お待たせー。お姉さん手作りのホットケーキだよ~。さぁ、召し上がれ」


「あっ、ありがとうございます!ブーディカさんの手作りは毎回楽しみにしています~」


ホットケーキを用意したことを彼女が持ってきながら伝えると、少女は一旦読書を辞めて本やノートを机の片隅に追いやり小皿を置けるスペースを設け、置かれたホットケーキをいただきますをしてからすぐに食べ始めた。それを見て運んできた女性は笑顔を浮かべながら自分も同じく机の椅子に座り、いただきますをして食べ始める。


笑顔でホットケーキを食べている少女の姿は、この要塞に勤める自由の民構成員と比べるとかなり特徴的だ。薄花桜色の長い髪の毛をポニーテールにして、両足の部分にスリットの入った長いゆったりとした薄めのドレスを着用し、右足には水色の、左足には群青色のニーハイソックスを着用し、足には茶色いサンダルを履いている。古代ギリシャの神殿に仕える女官の姿を、イメージすれば分かりやすいだろう。


そして対面して座っている女性は、一言で言うとかなりエロい恰好をしている。
歩く18禁までとはいかないが、水着並みに色気のある姿だ。
腰まで伸びた朱色の長い髪の毛に、青いニーハイストッキングと赤いミニスカート。コルセットの様な大きな胸元がこぼれ落ちそうになっている白い衣服を着用し、思わず男性ならその谷間に顔をうずめたいと思うだろう。何より特徴的なのは、お姉さんや人妻など、男性の好きな性癖を多く兼ね備えている雰囲気だ。




少女の名前は『メディア(リリィ)』


そして色気むんむんの女性は『ブーディカ』


そう、彼女らはカルデアに所属するサーヴァント達であり、それぞれクラスはキャスター(魔術師)とライダー(騎兵)である。今日は2人とも休日なので自由気ままに過ごしていたのだが、この特地の魔術について勉強していたメディア(リリィ)のお腹がぐ~と鳴ったので、「お腹すいた? よーし、何か作ろっか!」と子供好きなブーディカは腕によりをかけて何か彼女の為に間食を作ろうと決心し、現在こうしてパンケーキによるティータイムを楽しんでいるのだ。リプトンの紅茶とレモンティーに、
色々とデコレーションが可能な手作りパンケーキ、十分なボリュームだ。


二人はそれぞれ自分の手元に置いてるホットケーキに色々なデコレーションを施して、好きな紅茶を選んで素敵な時間を満喫する。メディアはホイップクリームと蜂蜜、ブーディカは単純にバターのみというデコレーションだ。まだまだ子供染みた側面がある彼女と大人の彼女の味覚の違いが生んだ作品は、どれも元が良い代物ばっかりなので多少の味の違いはあれど美味しいことは間違いない。


そうやって二人がおやつの時間を満喫していると、

「疲れた~。いや~有能すぎて自分が怖いわ~。わしってマジ優秀なサーヴァントじゃね?しっかし、小腹も空いたの~」

という、どこか間抜けな少女の声が聞こえてきた。その声を聴いてブーディカは食べるのを一旦やめて、新しいパンケーキの調理に取り掛かる。そして部屋に入ってきた彼女はまず室内に漂うホットケーキの匂いに気付くと花をひくひくさせ、次に己の両目で机の上に置いてある2つの小皿の上に盛られた匂いの元を視界に納めると、「おぉ、
何と旨そうなパンケーキじゃ!わしの分も用意してあるかの?」と騒ぎ出したので、メディアは苦笑しながら「ちゃんと信長さんの分もブーディカさんが今準備していますから、少し待っていてください」と言ったので、
彼女は「おぉ!流石カルデアの誇るオカンが一人じゃ!」と喜びを露わにし、大人しく椅子に座り足をぶらぶらとしながら待つことにした。


信長と呼ばれた少女は、これまた特徴的な格好をしている。
まず目につくのは背中に羽織っている大きな真紅の赤マントと全身黒づくめの格好だ。腰まで伸びる黒曜石のような輝きを持つ黒髪に、ルビーのような赤い目、
そして手には自由の民が正式採用しているブッシュマスターACRアサルトライフルを持っている。他にも今は被っていないが、黒い武装親衛隊をイメージする帽子を被っている。


彼女の名前は『織田信長』


彼女もまたメディアたちと同じくサーヴァントであり、実は男性ではなく女性であったとされる日本史を代表する偉人であり、革命児だ。
詳しい事はコハエースで検索してもらいたい。ちなみに軍服っぽい衣装はサーヴァントとして召喚されたおり、趣味で個人的に用意させたものだ。ナチス武装親衛隊の制服に大きく影響されており、ユダヤ人激怒不可避なのでマスターから他の私服の着用も義務付けられている。


彼女は先ほどまで、
要塞に設けられた射撃場で思う存分射撃練習を行っていて、
流石に疲れたのと小腹が空いたのでおやつを食べにこの近くにある休憩室に赴いたのだ。ちなみに何故射撃場で好きに銃火器をぶっ放していたのかというと、
彼女の趣味の一環である射撃の為である。彼女は現代の銃火器や火砲など、科学の生んだ産物が大のお気に入りなのだ。


外国好きで更に最新のテクノロジーなどが大好きな彼女にとって、アサルトライフルは彼女の知る銃(火縄銃)という概念から大きく進化しており、その性能は自身の戦術眼など全て覆す代物なので、
以前から様々な銃火器を撃って科学の進歩を直に味わい恐れおののきながらも感動していたのだが、
たまたまこの手元にある銃は一度も撃ったことが無いので今日初めて試射し、
その使い心地や反動を確かめて楽しんでいたのだ。彼女は現代の銃火器を素晴らしいものと感じており、もう一度あの桶狭間の戦いでこれ等の武装をした織田軍を指揮できたらと、
少し後悔の念を秘めながら日々そう思うほどこれらにいたく感心している。





そしてニヤニヤとこのACRの使い心地の良さなどを思い返して思わず笑みがこぼれている彼女に、メディアは思わずその銃について質問を問いかけた。彼女にとって銃とは魔術とは違う科学の産物で、
自分の様なか弱い人間でも大の大人を殺せる恐ろしい武器であった。なのでそのような代物をまるでペットを抱いている様な優しい顔をして、手に持っている彼女の気持ちを知りたいと思ったのだ。


「あの、信長さんはそんなに銃がお好きなんですか?」


「うん、何じゃ藪から棒に。まぁ、見て分かると思うが好きじゃぞ銃は。これさえあればどんな非力な者でも大の大人を撃ち殺せるのじゃからな。実に革新的かつ平等を強いる優れた武器じゃ。こいつにはどんな勇者であろうとも関係ない。
この鋼鉄の弾丸の前には、全て等しくひれ伏すからの」


「確かにそうですね。マスターがいつも使っているのを見ると、便利な兵器であるのが一目瞭然ですから……」


何か秘めた感情を目に浮かべながら聞いてくる未来の魔女に、彼女は最初訝しげな表情を浮かべたが直ぐに笑顔で銃に抱く感情を話す。彼女にとって銃は人類を強制的に平等にする兵器で、英雄と一般人の境を無くすものと思っている。何故なら銃を撃てる老若男女による銃弾の前には、当たれば英雄でも特異性を持っていない限り一般人と同じく死ぬからだ。
新兵だろうが熟練兵だろうが、大男だろうが英雄だろうが、
撃たれれば死ぬ。
銃火器は近代の戦場から卓越した武力を持つ英雄を消す原因を担った。


そしてそんな彼女の言葉に対して、
メディアも同意を示す。自分を含めたサーヴァントを率いる頼もしいマスターは、敵の排除に良く銃火器を使用する。
サイレンサーという発射音を減少する装置を銃身に付けて、
離れた敵を素早く大量に銃殺するのだ。


自分も何回かハンドガンを撃たせてもらったことがあるが、
あれはまさに一種の遊び感覚で人を殺せる魔の兵器だ。多少音が出る事と手に反動が襲うのを我慢すれば、50~100m先の人間の頭蓋骨や心臓に風穴を開けることが可能だ。確かに便利で合理的だと納得はしているのだが、
誰も傷つくことのない優しい世界の実現を望んでいる身としては、そうやって簡単に他者を殺せる兵器を素晴らしいと思う事は少し嫌だ。


実際この武器でマスターから何度か助けてもらったことがある者がそんな事を思うのは実におこがましいと思うが、それでも彼女は思うのだ。銃火器を使わずに、いいや、戦う事は全て私たちサーヴァントに任せてほしいと。自分たちのマスターはとてもサーヴァントに好意的かつ平等に接し、こちらの意見に耳を傾けながらも自分の意思選択で道を切り進み、
荒事には進んで対処して己の手が汚れることも厭わないという素晴らしい人間だ。えぇ、どこぞの金髪のワカメ野郎に爪の垢を飲ませたい程に高潔な魂だ。


カルデアには他にも〝ぐだ男”や〝ぐだ女”というあだ名で有名な双子や、〝はくのん”というあだ名で有名な双子など、現在総勢10人の男女がマスターとして在籍しており、日夜ありとあらゆる場所・時代・世界で活動している。その大半は自分でさえも呆れるほどに、お人よしで善人な性格の持ち主ばっかりで、某オタクな黒髭曰く、
「魂が全員〝黄金の精神”の持ち主ばっかりで草生えるでござるww」と感動する程だ。


だが、彼にはそのような良い印象を与える言葉は当てはまらない。彼に当てはまる言葉はただ一つ。

「漆黒の意思」という言葉だ


彼はアメコミで例えるなら「ダークヒーロー」的な人物で、
目的達成のためには容赦なく拷問や誘拐などを行うし、皮肉屋で現実主義者、
正論と思ったならば他者を思いやる精神や空気を読むなど捨て去り、暴言を容赦せずに吐きまくって相手を論破したり、
口で伝わらないと思ったならば即座に実力行使に出るほど過激だ。そして、敵と判断すれば例え相手が女子供、もしくは老人であろうとも、
一切全く感情を動かさずに殺せる人間でもある。


しかし、何だかんだいっても彼はまた他のマスターの様に、
他人の為に命を懸けて行動することが出来る善人であることは変わりない。基本的に仏頂面か無表情であるが、時折見せる笑顔や優しい目を浮かべている時はとても美しく、思わず見惚れるほどだ。
そして他のマスターさん達とは固い絆で結ばれていることから、彼らと一緒にいる際にはよくそんな表情を浮かべることが多々ある。
そして甘いものが大好きで、アタランテの様に子供好きな一面を持っていたりと、
悪人であれば決して持つことがない側面も多く持っている。


だからこそ、そんな彼には是非とも綺麗でいてもらいたい。
彼が進んで飛び込む戦場の泥や血は似合わないと思う。楽しげに凶暴な笑顔を浮かべながら敵を射殺し、斬殺して皆殺しにする彼の姿は、
見ていると美しくもあるが同時に悲しくもある。自分たちはもう既に終わっている存在だ。しかし、
彼にはまだ変われるチャンスがある。
未来の私のような存在になってほしくない。他のマスターさん達のような人になって欲しいと常に思う。彼が愛用する銃火器や刀剣はこの世から全て消え失せれば良いのにと思う。彼の手や魂をどんどん汚させるこれらは地獄の業火に焼かれるべきだ………


そんな事をメディアが内心思っているのを横目に、信長はACRの魅力についてぺらぺらと語りだす。
やれ反動が実に抑えられて最高だの、
やれ色々と改造がし易そうだの、やれ感触がほどほどに良いだの、頼んでもいないのにどんどん話をしてメディアを呆れさせている。とまぁ、そうこうしているうちに信長の分のホットケーキも完成し、ブーディカが持ってきたのを彼女は喜んで受け取った。




「是非もないネ!
いっただきまーす」


彼女がどや顔を決めていつもの決め台詞を吐きながら、一口大に切ったホットケーキにフォークを刺して口元へ運んだ瞬間だった。


ヒョイ

パクリ


「う~ん、相変わらずブーディカの作るホットケーキは美味しいなぁ。これで人妻でもあるってなんて僕に対するご褒美なんだろう。ねえ、
ちょっと休みたいくならないかい?」


「お断りよ。ちゃんと君たちの分も用意してあげるから謝りなさい。全く君って奴は何度怒られても全然反省していないようだね。いつもそうやってお姉さんみたいな大人の女性をからかうんだから……」


「はぁ……、いい加減に自重しないとまたマスターか息子さんに怒られますよ?
つい1週間前にも2人揃って怒られたばっかりではないですか」


「いやいや、美人の女性。それも人妻に声を掛けないなんて古代ユダヤでは女性に対する最大の失礼、それこそセクハラ並みに酷いことなんだよ。嘘じゃないって」


横から何時の間にか入り込んでいたエメラルド色の髪の毛をした男性に、彼女の口元へ運ばれていたホットケーキは横取りされてしまい、
同時に男は一緒に来た男と横取りをしたことに謝罪を求めるブーディカの3人でコント染みたやり取りを交わしながら、
自然に彼女を口説きに掛かるが予定調和の如く直ぐに拒否され、とほほと苦笑を浮かべながら開いている座席に座る。
なお、その間信長はショックの余り固まったままだ。


彼の名前は『ダビデ』


カルデア所属のサーヴァントで、クラスはアーチャーだ。
ちなみにメディア(リリィ)はキャスターで、ブーディカはライダーだ。見た目はノースリーブに黒いマフラーと手足に黒い靴下や手袋を着用した好青年で、
元々羊飼いだったからか、狼を追っ払う杖と石投げ紐を持っている。


キリスト教の開祖であるイエス・キリストの先祖にあたる人物であり、イスラエル史上最大の繁栄をもたらした理想の王であるが、彼自身は神の子でも何でもなく紛れもない純粋な一般人である。羊飼いから王になるという豊臣秀吉並みの大出世をした古代イスラエル2代目の王。
かの悪魔を従えたことで有名なグランドキャスター(魔術王)ソロモンの父だ。


性格は見て分かったと思うが、逸話を読めば理解できると思うが大の人妻好きで、自分が損をしないよう上手く立ち回れるように行動したり、何か危険な場所があれば他人を煽てて先に活かせようとしたり、儲け話があれば他人を一口噛ませて道連れにしようと企んだりと、見た目に反して人間の屑であり殴りたくなるような人物だ。他にも経済的・効率的なものが好きで、嫌いなのはその逆である。
しかし、理想の王様であったからか寛容な精神の持ち主であったり、仲間をさり気なくフォローするのが得意であったと、なかなか憎めない人物でもある。




そして彼の後に続いてやって来た青年も、かなり特徴的な姿をしている。まず目につくのが白髪なポニーテールで、次は赤い陣羽織を羽織った黒い和服姿だ。
首から十字架を下げており、褐色の肌がポイントだ。


彼の名前は『天草四郎』


カルデアに所属するサーヴァントの一人で、その中でも珍しいルーラーのクラスである。ルーラーは聖杯戦争における裁定者であり、
聖杯自身に召喚されるマスター不在のサーヴァント。召還される条件は「非常に特殊な形式で結果が未知数な聖杯戦争」と「聖杯戦争によって世界に歪みが出る場合」、基本的に公正中立、どの陣営にも加担しない。ルーラーの選定条件はいくつも存在するらしく、『現世に何の望みもない事』等ハードルが高い条件が多く聖人と認定されている英霊が多い。


これ等の条件に当てはまる英霊は、今のところ彼を除けばジャンヌ・ダルクぐらいだ。彼は江戸時代に起きた一揆「島原の乱」の首謀者とされるキリシタンの少年で、小西氏の旧臣やキリシタンの間で救世主として擁立、
神格化された人物であると考えられており、様々な奇跡(盲目の少女に触れると視力を取り戻した、
海面を歩いたなど)を起こしたという逸話で有名である。


性格はルーラーらしく聖人の性格で、
穏やかで公正を好むとまさに好青年である。だが、意外と熱い情熱を持つ理想家で、世界を平和にするためにはどんな手段も選ばないという過激派でもある。
マスターに関しては、彼も自分と同じく世界平和実現のために率先して戦う人間なので気が合い、
マスターと一緒に地獄でも最後までお供する覚悟がある。


2人は今まで何をしていたのかというと、
日課のナンパをダビデが行っているのを見た天草がそれを止めようとして近づいたが、それは彼の罠で無理やり連行される羽目になり、そのまま天草のおごりで合コンを開催されてしまい、途中で逃げだせばよいものを律儀に最後まで付き合っていたいのだ。


彼曰く、つい彼の挑発に乗ってしまったとのことだ。こうして亜人の女性たちと親密を深めたダビデはおごってくれた礼を兼ねて休憩室でコーヒーを飲もうと彼を誘い、断る理由も天草には無かったので承諾し、入口に来たところでホットケーキを食べようとしている場面を見つけて今に至るのだ。




とりあえず折角食べようとしたホットケーキを横取りされて激おこぷんぷん丸となっている信長をブーディカと天草の2人が宥め、4人はおやつの時間を楽しむ。
ダビデのデコレーションは蜂蜜を満面に塗れまくったもので、天草は一面にバターを塗った後にメープルシロップをふんだんに掛けている。
自由に食べ始めている内に、一行は気になっている今後のカルデアの動きについて話し出した。


現在、カルデアが味方しているこの「自由の民」の敵である「帝国」は、自分たちの働きともう一つの勢力によって大いに弱体化している。
もはや全盛期の半分以下の国力となっており各地で反乱祭りが開催され、帝国軍や国力はどんどん減少していくばかり。
その一方で、反乱軍はこちらに寝返るので反比例的にこちらはどんどん勢力が増加されていく。しかし、もう一つの勢力である「黒王軍」とも対立関係となっているので、戦況は依然として有利とはいえない状況である。


その黒王軍は今や帝国を超える勢いを誇っており、その勢力も最大規模である。
そして明らかに〝自分たちと同じ勢力の支援”を受けているらしく、戦車や戦闘機など現代の東側諸国の兵器を繰り出してきている。どうやらこの特地で生産すら行っているようだ。おまけに潜入したアサシンたちの報告によると、核兵器や生物兵器までも保有しているらしく、
下手すると核戦争や民族浄化が発生する恐れがあるのだ。


おまけに連中にはサーヴァントは現在確認できていないが、ファブニールなど悪名高い怪物が部隊に参加しており、更にマスターの様な常人とは違う力を持つ人間がちらほら存在しているのが確認されている。アサルトライフルや対戦車兵器、機甲師団や縦深戦術など、近代兵器を揃えて近代戦術に則ったやり方で攻めてくるので、明らかに何か彼の様な存在が裏に潜んでいるのが嫌でも理解できる。


実際マスターに黒王軍のリーダーである黒王の正体について尋ねると、「知り合いに数多くの候補が当てはまる。だが、数を絞り込むにはもう少し情報が必要」と述べており、前述の通り彼の様な存在が敵として君臨しているのが認識できる。今現在、限られた情報の中で分かっているのは、

・敵はローブで全身を覆っているので性別や顔が全く不明

・ダビデのように杖を持っており、そこからマルタやジャンヌが信仰する〝例のあの人”と同じ奇蹟を行う

・しかし、彼女たち曰く「あのお方/あの人がこんな悪行を行うはずがない」と

この3つである。




「やっぱりあれかの。マスター曰く糞ったれな過激派の〝盾の会”の連中なのかネ?」


「さぁ……、確かにかの一派に所属する人間なら在りうると言っていましたが、
他にも候補がいるので確信は持てないとマスターは言っていましたよ」


「全く面倒なことになったよ。〝無理やり二つの世界を繋げて両方に侵攻し、
どちらも占領して自分たちの理想とする世界に塗り替える”なんて馬鹿げた真似をよくやるものだ。
そんな不利益で不合理な事を本気でやらかしているんだから、処理に当たるマスターと僕たちは本当にご愁傷様としか言いようがないよ」


信長、メディア、
そしてダビデの三人は、黒王の正体と彼らの目的についてあーだこーだと話し、
何か良い情報を得る手掛かりとならないか話し合う。この特地こと異世界に侵攻して原作を大きく改変させた黒王軍の目的は未だ不明だが、
少なくとも知的生物に対して非友好的なのは嫌でもわかる。


「黒王軍はこの世界に何を求めて侵攻してきたのかさっぱりだよ。私たちが現在加担している亜人や人類を殲滅し、一体何になるんだろう?」


「多分予測ですが、
この世界をかつてのローマ帝国崩壊後のヨーロッパのように、俗にいう暗黒時代にするつもりではないでしょうか?徹底的な殺戮と奴隷化によって、この世界に生きる知的生命体の文化を全て破壊し、
これ以上文明が進歩しないようにしているのでは?」


ブーディカは黒王軍がやった所業を思い返し、一体そこまでして何を求めているのか、何をしたいのか疑問に思いそう呟くと、天草が神妙そうな顔を浮かべて自身の推測を述べて、
奴らの狙いが暗黒時代をもたらすことではないかと持論を展開した。それを聞いて他は黙り込み、
その持論が正しかった場合にどんなことになるか考え込む。


暗黒時代とは、歴史上のある一定期間、
戦乱、疫病、政情不安定などの原因により、社会が乱れ文化の発展が著しく停滞したような時代を意味する。具体的には、古代ギリシア文明または中世ヨーロッパでのある時代を指して呼ぶことが多い。また、文明全体に及ぶ大きな事象でなくても、特定の芸術・技術・文化などが為政者や宗教組織から弾圧を受け衰退したり、革新者の不在などの理由で停滞した時期を指してそう呼ぶこともある。


黒王軍はこの時代をもたらすために、
積極的に亜人や人間の文化遺産や書物などを破壊・焼却し、
知識人階層を皆殺しにしているのだと思えば、これ等の所業を行う理由には十分だ。何故なら奴らは焚書を行い、学者や魔術師を捕らえては斬首したり生き埋めにしたりしているからだ。そのうち何とか奇跡的に助けることに成功した彼らはここで保護しており、見返りとして自由の民に加わっている。


その各地で行われるこうした文化を破壊する活動は、まるで第二次世界大戦中にドイツがポーランドで行った破壊活動、
中国の毛沢東が引き起こした文化大革命、カンボジアでポル・ポトが行ったジェノサイドなどを連想させるものだ。ゆえにカルデアはなるべくこの世界の文化を守るためも動いており、シェイクスピアやモーツアルトなど文化人のサーヴァントの後押しをもあって、学都ロンデルなど数多くの文化遺産や学者などが居る街に展開している。




「そうだ、天草の話を聞いて思い出したけど、確か近いうちにこの世界の神々がマスターと面会するんだよね。今度会うのは光と秩序を司るズフムートっていう神様だって聞いたけど、一体何を話し合う予定なんだろう?
今まで互いに面倒ごとを避けるために、一種の不可侵状態だったのにね」


「そりゃ、あれじゃろ。互いに手を取り合って黒王軍をぶっ飛ばしましょうと約束するんじゃろ。
腐っても神を名乗る存在が味方になるなんて是非もないネ。
味方は多いに越したことは無い。裏切らなければいつで大歓迎ネ!あのキンカン頭のように裏切らなければ」


そんな中、ふとブーディカが思い出したことについて触れて口に出す。その内容はというと、この世界に介入して以来、
ほとんど接触せずに互いに介入しない方針でいたこの世界の神々からとある亜神の使者が送り込まれ、「黒王軍に関して話し合いたい」という面談を希望する話が持ち込まれたのだ。どうやら正神たちの間でも今回の黒王軍の侵攻は深刻な問題と化しているようで、それに対抗する手段として今まで余り接触せずに不可侵条約を結んだような関係を一度改変し、
対黒王軍で一致団結しようという考えが向こうで主流の様だ。


本来ならこの世界の神々(正神と亜神)が黒王軍に天罰を下せば済む話なのだが、それを行った様子は一度もない。どうやら理由は知らないが、彼らは本来の力を黒王軍排除に行使できないようだ。
この話は先日訪れた亜神によって知らされ、聞いたマスターは「もしかしてあのお方が黒王軍に肩入れしてんのか?そしたら笑えない話となるな」とボヤいていたのが印象的だ。
とにかく神々の援護を臨めない今は、頼りになるのは彼らの部下である亜神だけである。


その件の亜神、外見はゴスロリに似た黒い神官服を身にまとう少女なのだが、
彼女曰く、今回の件でこの世界に生きる人間や亜人の信仰心が大きく揺さぶられており、どんどん信者も殺されていく一方なので何とか手を打たないといけないと神々は考え、何とカルデアと自由の民の力を利用して黒王の打倒を考えているそうだ。もちろん、
無料とは言わない。
必ず何かしらの大きな見返りをきちんと用意するとの事だ。
上目線なのはムカつくが、彼らからこの話を持ち掛けてきたことに意味がある。





「どうやら向こうもかなり追い込まれているようだね。多少ふっかけるのに絶好のチャンスだ。その使者を務めた亜神は何て名前だっけ?
確かなかなかの美少女だったと思うけど。まだまだ人妻の素晴らしさに比べたらイマイチだね。マスターは少し警戒していたけど、相手はかなり興味深そうに見つめていたので覚えているよ」


ダビデは何か良くな事を考えている時に浮かべる満面の笑顔を浮かべて、この特地の神々から色々と譲歩させることが出来ると言及し、彼が何やら禄でもないことを考えているとそれを見た他の誰もが想像できた。だが、
彼の言う通り奴らに強く出るチャンスであるという意見には同意していた。カルデア所属のサーヴァントにとって、神々という存在は非常に厄介なものだからだ。特に多神教に関わりのある神話勢の彼らにとって神々とは、望んでいないのにトラブルを持ちこむ厄介者であった。



「別にこのまま大人しく神々が衰退していく様を見つめていくのも面白そうですね。どうせ酷い方々でしょうから本当にピンチになるまで助けなくても結構だと思います。ギリシャの神々では私の先生(ヘカテー)を除けば、五本の指で数えるほどしかまともなのは居ませんから」


だからだろうか、
このようにメディアは微笑を称えながら思いっきり毒を吐いて、周りをドン引きさせていた。まぁ、
彼女の言い分も無理はない。何せ彼女の生涯を振り返れば「ギリシャの神々死ね!」と一言言いたくなるし、基本的にメンヘラ&屑ばっかりなのがギリシャの神々の特徴だ。北欧神話も同じ共通点を持っているが、ギリシャ程では無い。




「まぁまぁ、落ち着いてください。それで、今度その神と一緒に来る件の亜神の名前は何でしたっけ?私は一度も会ったことが無いので是非会ってみたいのですが……」


天草が苦笑を浮かべながら彼女を宥めると同時に、例の件の少女の姿をした亜神の名前を確かめるべくブーディカに尋ねる。この中で彼女を直に見たのはブーディカしかおらず、
それ以外は話を聞くだけで姿を一度も見たことが無いのだ。
だから一度は会ってみたいと思っていたのでこのような事を言ったのだ。そして彼の発言にブーディカは次のように答えた。後にカルデアと自衛隊に協力して多大な功績を残し、それのおかげで正神へと昇進する未来の英雄の一人である名前を。






「名前はロゥリィ・マーキュリーという神様で、見た目はとっても可愛らしい少女なんだよ。マスターに頼んで面会時に同伴させてもらえばいいんじゃないかな?」
 
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