どうやら俺は二次元の世界に迷い込んでしまったらしい?いえ、これは現実ですよ夕練さん!
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はい、これは夢ですね。解ります。
前書き
はぁ……長続きしないのに投稿してしまった。
クッソつまんねぇなって思いながら読んでもらえると幸いです。誤字、脱字多そう...(lll-ω-)チーン
「私と付き合って下さい」
それは夕焼けに照らされる教室での一言。
普段と変わらぬ日常、学校の授業を終え。放課後、教室で友人から借りていた漫画を読んでいたら読みふけてしまい。気付けば時間は4時半ちょっと、そろそろ帰ろうかと鞄に手を伸ばした────その瞬間。
彼女はそこに居た。
教室の中央で一人、背中を向けた一人の女の子。
確か……うちのクラスの娘だったと思うけど余り話した事ないから記憶はあやふやで居たような居なかった様な。
話しかけるべきか、素通りして教室を出るか。俺は苦渋の選択を強いられていた。いや、一言「さよなら」位は言うべきだと思うけど会話した事ない人からいきなり話し掛けられても迷惑だろうし。
二択の選択から一つをチョイス。
……一言、さよならって言おう。
なんでこんな事で悩んでるんだろう? 普通にさよならって言えば済む事じゃん? と思われるかも知れないけど最近の若者はその一言を躊躇するのですよ。大して親しくもないのに挨拶する必要あるの?
有ります、大ありです。
ですが、俺もその若者の一人なのでその一言を躊躇してしまう。
そして俺はさり気なーく言ってさり気なーく去ろうとしたその時だった。
少女は振り向き────そして。
俺は人生で最初で最後の告白をされたのだ。
────落ち着け。
───落ち着け、俺。
大丈夫、大丈夫……俺は至って正常だ。これは夢じゃない、現実、把握OK?
「────あの」
「はっ、はい」
慌てて下を向き、両腕で顔を隠す。
「なんで顔を隠すんですか?」
「え、いや、」
「私は見るに値しませんか?」
「そ、そんな事ない!」
「なら、何故?」
その疑問と視線が痛い!
普通は解るだろ、人生初の告られだよ? 動揺するに決まってるだろ!
今、俺の顔は真っ赤かであろう。自分でも分かる、両手で触れてたら尚更だ。熱でもあるんじゃないかって位、俺の身体は熱かった。
「?」
少女は不思議そうな表情でコチラを見てくる。
俺は少し、視線を上げ。
俺は両腕のガードを少しずつ外していく。
「やっと私を見てくれましたね」
その女の子はやっぱりうちのクラスメイトだった。
名前は知らな……忘れたけど休みがちでよく欠席する人って事で俺の脳内では定着している。確か……今日も休みだったと思うけど?
「あの、その……名前なんだっけ?」
「一ノ瀬 霞です。
クラスメイトの名前を覚えてないんですか?」
「ご、ごめん。
その……一ノ瀬さんってよく休んでるじゃん? それで名前を度忘れしちゃって」
そう、確かそんな名前だった。
名前をきっかけに段々と思い出してきた。
一ノ瀬 霞、うちの高校の特待生で学費を免除されてるいるエリートで、この高校始まって初の五教科満点を記録している天才……あれ?
俺ってそんな有名人の名前を忘れてたの?
いやいや、今はそれより────。
この目の前の現状をどうにかせねば。
────絹の様な長髪。
動く度に揺れる白髪────。
細くて綺麗で触れたら溶けてしまいそうな雪の様だ。
……あぁ、そうだった。
新たに思い出す、一ノ瀬のこと。
一ノ瀬 霞。
この高校で一握りしかいない特待生の一人で偉業を成しえたエリート。
それだけで高ステータスなのに────────一ノ瀬は。
「どうか……しましたか?」
可愛かったんだ。
反則だろ、勉強できて頭脳明晰で可愛いってさ。
いや、勉強できて頭脳明晰って対して意味変わんないような……って違うだろ!
「大丈夫ですか? さっきから様子がおかしいですけど」
「大丈夫だ、問題ない」
問題ないわけないけど、とりあえず問題ない。身体の熱は引かないけど物事を考えられる程度には頭も回り始めた。
「その……一ノ瀬さん?」
「はい、なんでしょう」
「君は、そのぉ……先程、俺に告白を…………なさいましたですか?」
「えぇ、告白しました」
ごめん、やっぱ無理だわ。
改めて言われると頭の中真っ白色シンフォニーを通り過ぎてお花畑になっちまう。いかんいかん、冷静に取り乱すな……これはあれだ。
そう、実は今日はエイプリルフールで「嘘っだぁよ~ん」って展開になってそれから小言で「コイツ、マジで本気にしてたのキモ」って言われる展開だ!
「お返事は?」
「へ?」
「ですから、お返事は?」
考える暇を与えてくれないのか。
そんなの急に言われてもなんて答えればいいか……。
はい、いいえ。
たった二つの選択肢。どちらを選ぶ?
俺はこの娘の事を何も知らない。
そもそもなんで俺なんかに告白してきたんだ?
尽きぬ疑問に悩まされる。
な、何か言わないと……閉じた口を開けようとするけど口は開こうとせず、俺は黙りを決め込んでいた。
それでも一ノ瀬は俺の返答を待ち続けている。俺の目を見つめ、彼女は返答を待っているのだ。
それなら男の俺が返す言葉は決まっている。
「────はい」
そしてこの一言で俺達は恋人の契約を交わした。
刹那の一瞬とはまさにこの事であろう。
その瞬間はものの数秒の出来事だったんだろうけど俺はその一瞬を数時間にも感じられたし、ほんの一瞬の事にも思えた。
恥ずかしさなんて消えていた。
あるのは言葉に出来ない感情と、この感覚を知っている心だけ……。
「では、よろしくお願いします」
止まっていた俺の時間は止めていた張本人の言葉で砕けた。
「あ、ぁぁ……こちらこそ」
身体の熱は冷めない。
なのに不思議と喉は乾いていない。
空回りしていた思考も通常通りに動いている。何故、こうなったのかは未だに解らない。余りに突然過ぎて俺のキャパシティを軽く超えちていた。
そりゃ、告白してきたってことは俺の事が……好きって事なんだろけど。
実感が湧かなかった。
俺と一ノ瀬との接点は無いに等しい。同じクラスメイトで何回かすれ違う程度の関係で会話した事すら無かった。
それなのに俺の事を好きになるってのはちょっと……どうだろう?
「一ノ瀬さん」
「話は帰りながらしましょう。
そろそろ下校時刻です、それにここでする様な話でもなさそうですから」
そう言って白色の長髪を揺らしながら一ノ瀬は去っていった。
俺はその後を追い掛け、少し距離を置いて。
あ、あのー……俺達って付き合い始めたんだよね? 俺って貴女に告られたんですよね? なんか不安になってくるんですけど。
いや、その俺だって今年で17だし女の子とも付き合った事くらいある。なんだけどこのケースは未知数だ。
あっちから告ってきたのに何も動きはねぇってどういうことだ?
なんで俺に告白してきた?
俺の事が好きだから? なんで好きになった? 慣れ親しんだ覚えはない。なら、一目惚れ?
俺みたいな奴に?
平均的な容姿に平均的な体格、それ以外に目立った特徴も特技も持ち合わせていない俺みたいな人間に一目惚れって……ないな。
本人に聞くのが一番早いんだろうけど、どうも話しにくい。色んな女の子と遊んだり騒いだり話したりしてきたけどあの娘はイレギュラー、今まで経験してきた知識に該当しない未知の女の子だ。
何を話せばいいのか、どう話せばいいのか検討すら付かない。
「崩練 夕練さん」
「は、はいです!」
いきなりフルネームで呼ばれて反射的に変な声、出しちまった。
てか、初めて名前を呼ばれた。
「何か、私に質問することがあったのではないですか?」
「え……あっ、うん」
「夕練さんのご自宅はどちらですか?」
「この道を真っ直ぐ行けば大通りに出るだろ、そんで途中の商店街前で曲がってすぐに俺ん家だ」
「ふむ、私の家の近くですね」
「へぇ、俺ん家の近くって事は一ノ瀬ってアパート住み?」
「えぇ……よく解りましたね」
「なんでか解んないけど俺ん家の周りってアパートばっかなんだよな」
「アパートばかり……なるほど、あれは貴方のご自宅だったんですね」
「知ってるの?」
「知ってますとも、あれだけ目立った所にあるのですから。
まさか、夕練さんのご自宅とは思いませんでしたが」
確かに俺の家は目立つ所に建っている。ここら一帯はマンション街で見渡す限りアパートで囲まれている。
が、そんなマンション街に場違いな一軒家が一軒。それが俺ん家だ。
なんでこんな所に家を建てたんだ?
と一度、親父に聞いたことがある。
で、なんで返ってきたと思う?
ぐはははっ。目立つだろ、だからわざとここに建てたんだ(笑)
うん、確かに目立つ。
恥ずかしいくらい目立つから今すぐにでも引っ越したい。
「ゆ、有名人はつらいなぁ……」
「噂によれば奇人一家とか」
「ちょ、その噂の情報源どこ!?
いや、確かに親父は変人だけども!」
「sourceは貴方の友人、竹中君です」
「竹中ァアッ!!」
アイツ、今度、会ったら漫画を返すと同時にアッパーを喰らわせてやる。
「と、冗談は置いといて」
「冗談なの!?」
「いえ、真実です」
どっちだよ……。
肩の力が抜けてきた。
あれ? 俺、結構普通に話せてなる?
今更だけど話せてるよね? さっきまで何を話せばいいのか解らなかったけど(今も正直、解ってないけど)会話は成立している。なんだ、一ノ瀬さんって普通に話せる人じゃん。
「おや、どうしました?」
俺の表情を見て一ノ瀬は言う。
顔に出ていたのだろう。
「いや、一ノ瀬さんって面白い人だなあって思ってさ」
「私が、面白い人?」
「うん、だって面白いもん」
「侵害ですね、私は面白くなんてありませんよ」
ちょっと拗ねた素振りで一ノ瀬は言った。一ノ瀬は否定してるけど俺からすれば一ノ瀬は面白いジョークを言える人だ、学校に居る時には見せない一面も相まってちょっと意外だけど。
これが本来の一ノ瀬なのだろう。
学校を休みがちで余り、関わった事のない女の子とこんなに話せるとは俺は相当のコミ力の持ち主だぜ。
「それでさ、一ノ瀬さん」
「はい、なんでしょう」
そろそろ本題に入ろう。
さっきの……教室の告白について。
「その、君は俺の事が……」
「好きです」
ごめん、やっぱり俺の頭は処理落ちしそうです。
その一言を聞いた瞬間、さっきよりも更に顔が真っ赤になってしまった。
「え、はい、その、へい、YOU、あの、え、ちょ、」
「夕練さん、落ち着いて下さい。
動揺で言語能力に異常が発生していると思われます」
「だ、う、ま、う、お?」
「一応、翻訳すると「だってさ」
「嘘だろ」「まさかな」「嘘に決まってる」「俺」だそうです」
「だ、えの、きょ、な?」
「翻訳を続けます「誰に言ってるの一ノ瀬さん」「え、これは夢なの?」「今日ってエイプリルフールかな?」です」
「…………」
「対象、完全に沈黙」
残念ながらこれは夢ではなさそうです。俺は本当に一ノ瀬に告白されたようだ。
そして────さっきの言葉。
────好きです。
頭から離れない。
頭の中をずっと駆け回っている、電柱に頭をぶつけても。地面のコンクリートに頭を叩き付けても。全力疾走で川に飛び込み、平泳ぎをしながら九九を唱えても。川の中央でコスモを高め廬山昇龍覇を繰り出しても頭の中は真っ白色シンフォニー────いや、頭クラクラマインクラフトだった。
「先程から奇行を繰り返してますけど夕練さんの頭は正常ですか?」
「ぁあ……至って、正常、だよ」
うつ伏せになりながら息切れしながら言葉を返す。
駄目だ、いくら嘆いても叫んで喚こうとも、俺の思考回路は、あの甘美な一言に侵されていた。
ただ、一言。たった一言で、こんなに身体が熱くなるなんて……。
「大丈夫、ですか?」
そして天使は俺に手を差し出す。
なんて、綺麗な手なのだう。
白くて……ただ美しいの一言で終わらせるには勿体ない手だ。
そんな手に触れるのに俺は躊躇してしまう。俺も手をそっと、そっと伸ばすけどあと少しの所で手を止めてしまった。
中学生の頃を思い出す。
思春期真っ盛りの年頃の少年達咲き誇る前の少女達に触れる事を恐れた。
男なら分かる、解るだろ?
小さかったあの頃を思い返せば、なんであんなに怖がってたんだろ? と思うけど今なら解る。俺は、俺達は怖がってたんじゃない。
ただ、綺麗だから。
綺麗だから触れなかったんだ。
綺麗過ぎて触れられなかった……今なら解るよ、中学生の頃の俺。これは触れられない、触れたら駄目だ。
俺は自力で立とうと手を下げる。
その時────。
俺の手は触れていた。
「立てますか?」
その綺麗過ぎる手で。
一ノ瀬は俺の手を握り、力を込めて俺を引っ張る。なんて非力なのだろう。そして、なんでこんなに────綺麗なのだろう。
夕暮れと重なり、俺の目には一ノ瀬が天使に見えていた。
見惚れてしまっていた。
「うんしょ、うんしょ、」
非力な一ノ瀬の握力と引っ張り、それと掛け声。これでは俺を立ち上がれるのは無理だろう。俺は一ノ瀬の手を離し、立ち上がった。
「怪我はありませんか?」
「大丈夫、なんともないよ」
「見る限り、そうですね。
地面やコンクリートに頭を叩き付ける所を見て末期と思いましたけど」
「俺、病気じゃないからね!?」
「あと、急に川に飛び込んで平泳ぎを始めたり。川の中央で廬山昇龍覇と叫んだのは────」
「それ以上、聞かないで下さい。
お願いします」
深々と頭を下げ、一ノ瀬の口を塞ぐ。
「了解しました」
すると一ノ瀬は鞄から携帯を取り出し。
「夕練さんのメールアドレスを教えて頂けませんか?」
話題が、急に変わった。
そんなあっさり話題を変えるなんて思わなかったけど。まぁ、変に弄られるよりはいいので俺は携帯電話を取り出し。
「いいよ、赤外線でいいよね」
「はい、それとラインもやっているのであれば教えて欲しいです」
「OK、ちょっと待ってね」
ラインを開き、自身のIDを見せ……いや、QRの方が楽か。俺のラインIDが記されたQRを表示させ一ノ瀬に差し出す。
「ありがとうございます」
一ノ瀬は自分の携帯で俺のラインQRを読み込み、表示された俺のラインをタップし、友達登録した。
「練練……さん」
「変なライン名だろ」
「いえ、そうとは思いません。
夕練さんの名前から因んだものですね」
「そうそう、これなら珍し過ぎて名前を忘れられないと思ってね」
「忘れる?」
「いやさ、高校入学当時にクラスの奴ら全員とライン交換したんだけど誰が誰だか分かんなくなった事があるんだよね」
「だから、自分の名前に因んで自分は夕練だとアピールしてるんですね」
「その通り、それからずっとこのライン名なんだ」
まぁ、そのお陰で誰からも名前を忘れられてないんだけど。
俺の名前……俺自身はそんなに思ってないけど他の奴からすれば目立つ名前らしく、よくキラキラネームってからかわれる。好きでこんな名前になったんじゃない! って弄られる度に言ってるけど俺はこの名前を気に入っている。小さい頃は名前で散々、弄られたけど今はいい思い出だ。
が、余りにキラキラネーム過ぎると名付け親も、その子供も恥ずかしいのでキラキラ過ぎる名前は控えよう。
もしかしたら近い将来、アンタの息子は裁判所に訴えるかも知れないので覚悟しろよ、クソ親父。
俺は自分の名前を気に入っている。
だが、名付け親は許さない。
この矛盾の意味を理解できる奴は俺と同じ境遇の人間だ。今度、一緒に裁判所に行こう。
「お、これ一ノ瀬さんのラインだよね」
携帯画面に表示された……なんて読むんだろう?
「一ノ瀬さん、これなんて読むの?」
「霞ヶ関(かすみ)です」
「かすみ? へぇ、これでかすみって読むんだ。てか、本名だね。字は違うけど」
「はい、私の場合、ライン友達は数える程しかいませんので」
「いや、うん、ごめん」
「何故、そこで謝るんです?」
「いや、その、ホントごめん」
今時の高校生の戦闘力【コミ力】はラインの友達数で分かる。別に、少なくてもいいけど多いに越した事はない。俺の場合だと……200人ちょい、リア友とゲームで知り合った奴ら、家族と親戚その他もろもろと。周りの奴らより、ちょびっと多いかな程度だ。
だが、そのちょびっとが適用されない一ノ瀬からすれば「友達、少ないですけど何か?」的な感じだよな。
ちらっと一ノ瀬に目をやる。
携帯の画面をマジマジと見て彼女は。
「────────」
笑っていた。
その微笑みはラインの友達が増えて喜んでるのか、それとも好きな人のラインを登録できて喜んでるか、どちらかと思うけど多分、後者だと思う。
いや、そう信じたい。
「そう言えば一ノ瀬さんの家ってどこ?」
「もうすぐ着きます。ほら、見えてきましたよ」
そう言って一ノ瀬は指を指す。
その先にはここらで一番、値の張る高級マンションが。
「ここです」
「ここって……結構、お高いマンションだよね」
「そんなに高くはありませんよ。月の家賃は20万円程度ですし」
いや、それ十分高いから。
そしてそれを高くないと言った一ノ瀬は相当なお金持ちなのだろう。
他のマンションと比べてひときわ大きくてオシャレな外装。中に入った事はないけど、こんな立派なマンションだ。さぞ、中も凄いんだろうな。
朝、通学する時によく、この高級マンションの前を通るけど。まさか、こんな所に一ノ瀬が住んでたなんて思いもしなかった。
そしてよく考えると。
ここは『彼女』の住む家……ここが俺の彼女の家…………。圧倒的、格差を感じながらも動揺はしない。
だが、改めて考えさせられた。
一体、一ノ瀬は俺のどこが好きなのだろう? そして何故、俺を好きになったんだろ? 尽きぬ疑問に頭を悩ませされる。
「解らん、全然、解らん」
「何がですか?」
「いや、こっちの話」
今、ここで一ノ瀬に真意を問えばこんな悩みなんてすぐに解消されるんだろうけど。俺は怖くて聞け出せなかった。
こんな展開は普通ありえない。
だが、これは現に俺の目の前で起こっている。
否定したくても、目の前で起きていてそれを体験しているんだから何とも言えない。それに一ノ瀬は俺の事を好きです、と言ってくれたんだ。今、起きている事を否定するのは一ノ瀬に失礼だ。
でも、いきなり過ぎて現実味がない。もしかしてこれは夢なんじゃないかな? と今でも思っている。
と、そんな事を考えているうちに一ノ瀬の住む高級マンションの前に着いてしまった。
やっぱ何度、見てもデケェな~。
普段、この道を通る時に目に入るけどそんな意識して見てなかったから。今は余計に大きく見える。
さて、これからどうする?
まだ、話したい事はあるけど一ノ瀬の家の前まで来ちゃったし。ここは帰るかな……。うむ、それがいい。
今日は帰って明日……待て、明日は土曜日やんけ。それなら家に帰ってからラインで聞いてみよう。
「じゃぁ、俺は帰るよ」
「はい、ですが」
「うん?」
口籠もる一ノ瀬。
無表情で何を考えてるのは分かりにくいけど、やっぱり一ノ瀬は可愛かった。
笑ったら更に可愛いんだろうな。
「その……」
「どったの?」
「その、ですね……」
緊張している……?
無表情と言っても素振りや、目線を見れば少しは何を考えてるのかは分かる。だが、具体的に何を考えてるかまでは解らない。
へぇー、一ノ瀬でも緊張するんだ。
新たに一ノ瀬の生態日記を付けねば。いや、今日初めて会話した奴が何言うてんねん。
「いえ、すみません。何でもありません」
そう言って一ノ瀬は頭を下げる。
「いや、頭なんて下げなくていいから」
「でも、呼び止めたのに。
何も言わずに……夕練さんの時間を消費させてしまいました」
「いいのいいの、そんな事。
言いたくないなら言わなくていいし。言えないなら言えるようになるまで待つからさ」
てか、そんな事で謝るなよ。
と、本人に言ってやりたかった……けど今日の一ノ瀬との会話で一ノ瀬は根っからの真面目キャラって解ったし、あれこれ言うと誤解を生みかねないので敢えて言わなかった。
「ですが、言葉にしようものなら3時間位は掛かるかも知れません」
前言撤回、実は結構、巫山戯てるのかな一ノ瀬さん?
いや、真面目過ぎて悩んでるのか?
「困りました……これ程、言葉にするのに悩むなんて」
「そんなに言いにくい事なの?」
「いえ、言おうと思えばすぐに言えます」
「そりゃあ、難問だね。
言おうと思えばすぐに言えて、言葉にしようものなら難しい……ね。まるでクイズだな」
「面白い例えですね。
でも、その通りなのかも知れません。回答は私の中でずっとぐるぐるしています」
「回答、ね。って事は言おうとしてる事は自分で解ってるってこと?」
「はい、ですが……。
それをどう言葉にするのか、それをどう言えばいいのか……私には解りません」
ぶつぶつと自問自答を繰り返す一ノ瀬。
彼女の悩みは多分、俺からすればちっぽけなものだろう。他の人でもそれは当てはまる。だが、一ノ瀬はその答えを知りえない。俺は一ノ瀬が何を考えてるのか、どう思ってるか、何を悩んでるかなんて俺には解らない。
でも、その答えを俺は知っている。
これこそクイズだろう。
「一ノ瀬さんは夕練さんに話し掛けます。ですが、一ノ瀬さんは夕練さんにどうやって伝えればいいのか解りません。心の中では伝えたい事を文章化できても、一ノ瀬さんはそれを『言葉』にする事は出来ませんでした。
思い悩む一ノ瀬さん。
ですが、そんな中。夕練さんは一ノ瀬さんが何を言いたいのか解ってしまいました。さて、夕練さんは何故、一ノ瀬さんが言いたかった事が分かったでしょう」
「────?」
キョトンっとした表情でこちらを見てくる一ノ瀬の表情も、やっぱり可愛かった。
さぞかし、怒った時の顔も可愛んだろうな。
「さて、これは宿題です。
期限は一ノ瀬さんの回答が出るまで。それでは俺は失礼するよ」
この回答に、明確な答えはない。
それが答えと思ったなら、それが一ノ瀬の答えなのだろう。一ノ瀬は真面目だから、明確な的確な結論が出るまで回答はしないだろう。でも、それでいい。
「じゃあね、また明日」
俺は、その結論を聞いてみたい。
模範解答ではない、一ノ瀬の言葉で。
「なぁ、親父」
「なんだぁ、バカ息子」
「俺に惚れる女の子なんて居ると思う?」
「なぁにっ言ってんだ。
そんなの居るに決まってるだろ」
「……その根拠はどこから?」
「やっぱ、お前はバカ息子だな。
そんなの俺と母さんの子供だからにきまってんじゃあねぇか」
それ、答えになってない。
家に帰って玄関の扉を開けると、そこにはバカ親父が靴の靴紐を解いていた。どうやら先程、帰ってきたらしく親父は「よぉ、おかえりー。そしてただいま」って笑顔で言ってきた。
相変わらず、笑顔の似合う中年だよ、アンタは。
「あら、夕練も帰っえきてたの。
お帰りなさい」
エプロン姿の母さんの登場だ。
「うぉぉあぁぁいっ、母さん!
会いたかったぜ!」
「貴方、今日もお仕事、お疲れ様」
「なんのなんの!
君の笑顔を見たら疲れなんて吹っ飛んじまったぜ」
見飽きたこの風景も一日に一度は見ないと調子、狂う。ほんとバカ親父は愛妻家だな。
いいことだと思ってるけど。それを外でやってはくれるなよ?
「うぅん~いい香りだぁ」
「今日の夜ご飯はカレーですよ」
「なんと!? 俺の大好物ではないですか!」
いや、アンタ。母さんの作った料理全部、大好物って言ってるだろ。
いや、まぁ、確かに母さんの作る料理は美味しいからそんなに否定はしないけどさ。
「すぐに支度するから、少し待っててね」
「ふはははっ。楽しみにしてるよマイハニー」
相変わらずの対応に母さんも「はいはい」と軽く流し、台所に戻って行った。
そんな仲睦まじい夫婦のやり取りを眺めながら俺は自分の部屋に向かう。
二階に繋がる階段を上がって一番奥の部屋まで歩く。今日は思いがけない事ばっかりで疲れた。借りた漫画も途中だし、急に告白されるし……もう、てんやわんやだよ。
そして、それでも平常心を絶やさない俺はどうなのだろう?
確かに、俺は告白されて緊張し、動揺もしたけど。普通の人間ならもっとパニックになっていたはずだ。
身体的、疲労は残ってるけど。それでも、ここまで冷静に対応してきたつもりだ。今日は早めに寝よう。
そう決意し、俺は自室の扉を開ける。
俺の部屋は最近の若者の部屋にすれば綺麗な方で、好きなゲーム、アーティストのポスターを数枚、壁に貼り付けてあるけど許容範囲だと思う。
好きなアニメのポスターも貼りたいけどアニメ好きは別れるからな……。
アニメを生理的に受付ない友人もいるからアニメ関連の物は押し入れに収納し、アニメ好きの友人が遊びに来る時は俺のコレクションとして表に出し、公表している。世の中、全ての人がアニメ好きになればいいのに。
そうすればこの部屋も、俺の趣味全開のthe俺ワールドに改築するのにさ。
ベッドに座り込み、バックから借りている漫画を数冊取り出す。
先日から借りてる漫画なんだけど、これが無茶苦茶面白い。
原作はラノベらしいけど、全部読み終えたらその原作のラノベも買おうと思った程だ。明日、バイト給料も入るし全巻まとめ買いしちゃおうかな。
「漫画と言えば……そういや、俺って一ノ瀬さんと────」
付き合ってるん……だよな。
二次元の様な衝撃的告白、断れる訳もなくOKしてしまったけど。
「明日からどんな顔して合えばいんだよ……」
会話すら今日、初めてだったのにステップ踏むの早すぎるよ、一ノ瀬さん。
普通、こうゆうのは段階を踏んでからだね……いや、あの人に言っても無駄だろうけど。
OKしちゃった俺も俺だけど、明日からどうやって接すればいいのか?
今日みたいに話せばいいのかな?
う、うーむ……今までの女の子とはベクトルの違う、一ノ瀬とはどうやって仲良くなれるのか? 俺の頭はそんな事でいっぱいになってしまった。
漫画の内容が、頭に入らない。
さっきまで面白可笑しく、漫画を読んでたのに……。
「落ち着け、落ち着け、俺」
告白されてテンション上がってるのか?
いや、そうだろうけど落ち着け。
一ノ瀬の彼氏に成ったかも知れないけど落ち着け。
電撃告白で恋人成立したけど俺は一ノ瀬の事を何も知らない。一ノ瀬は俺の事を知っているかも知れないけど俺は一ノ瀬の事なんて1mmも解らない。
そして……俺は一ノ瀬の事が、好きなのかさえ。今の俺には解らなかった。
悩んで当然、と考えるけど悩んで考えて結果の出る事ほど現在の案件は甘くない。
付き合い始めたら好きになるさ。
って言ってた奴の言葉を思い出す。
確かに、そうかも知れない。
そうなのかも知れない……だが、それで好きになれなかったらどうすせばいいのだろう?
ネガティブ思考かと思われるかもだけど、俺はそれ位、悩んでいるんだ。
「んぁっ……」
読む気、失せた。
机の上に置いていた栞を取って今、読み中の漫画のページに挟む。明日までに返さないとだけど今は時間を置かないと読める気がしない。
「夕練ー、ご飯出来たわよー」
母さんの声だ。
悩んでも仕方ない、飯でも食って頭を休ませよう。違う事を考えれば少しは気も楽になるだろうし。
「あいよー」
制服を脱ぎ、普段着に着替える。
制服をハンガーに掛け、シャツを洗濯機に放り込む。
晩飯、食い終わったら一ノ瀬にラインしてみよう。ふと、俺はそう思った。
「────やっぱ……」
こんなのは間違ってる。
携帯の画面に映し出されている文章を読み直し、俺は現実と非現実の間をさ迷っていた。
────明日、何処かに遊びに行きませんか?
それは遊びのお誘いだった。
いや、この場合だとデートのおさそいか。どちらにせよ、これは困った。
何が、困るって……それは色々だよ。
明日は土曜日。
学校は休み、バイトも休み。ある意味、恵まれてる。だが、突然のデートの誘いに俺は困惑していた。
今日の告白もそうだけど……一ノ瀬って見かけによらず、押すタイプなのね。
「これは……うん、」
断る理由はない、俺は一ノ瀬の────彼氏だし。
よって明日の予定を急遽、変更。
家でゴロゴロからリア充デートに。
……。
…………。
………………。
……………………。
…………………………。
……………………。
………………。
…………。
……。
────え? デート?
チリチリチリチリッ。
最近、買った目覚まし時計の音。
耳元で騒音を撒き散らし、俺の睡眠を妨げる。目覚まし時計のアラームを止めようと右手を伸ばす……が、届かない。あれ、いつもならこの辺に置いてるのに。
やかましい騒音が鳴り響く。
止めない限り、鳴り続ける最新式の目覚まし時計さんは普通の目覚まし時計の10倍以上のアラーム音で一度、鳴ったらそれこそどんな奴でも起きるって結構、話題になってたんだけど……俺の睡眠はそれより勝るらしい。
段々と、眠くなってきた。
今日は休みだし……二度寝して問題ないだろ。昨日は一ノ瀬の件で疲れたし────────。
待てよ……一ノ瀬?
「寝てる場合じゃねぇェェェェ!!」
瞬時に俺の脳内は覚醒した。
目覚まし時計のアラームを止め、時間を確認する。
「9時……ふぅ」
約束の時間まであと一時間ある。
焦ったぁ……そういや約束の一時間前には起きれるようにタイマーしてたんだっけ。ありがとよ、目覚まし時計君。今日は君のお陰で助かったぜ。
普段はウザイアラーム音も、今日は祝福のベルなんだぜ。
ベッドから降り、机の上に置いていた携帯を確認する。
特に、メールやラインはきてないな。
とりあえず、朝飯食ってシャワーして顔洗って歯磨きして……んんで────あぁ、眠いんじゃぁ^~。
起きれたのはいいけど眠い……。
昨日は早めに寝たはずなんだけどな。
って、まずはベッドから降りないとね。よっこらせっと、携帯をズボンのポケットに入れ、部屋を出る。
階段を降りて、洗面所の鏡の前で自分の顔をバチンッと叩き。
「よっし、目ぇ覚めた」
全て突然から始まった恋物語。
突然の告白、そしてデート。
俺の思考は追い付かない、追い付いていけない。
でも、こんな破天荒な二日間は初めてだ。
わくわくするし、これから始まる一ノ瀬との関係も、どうなるか解らない。でも、俺は楽しみで仕方いんだ。
────一ノ瀬に逢うのが。
待ち合わせ場所に一ノ瀬が指定してきたのは駅前の噴水だった。
土曜日の朝方は普段より静かで待ち合わせするならベストな選択と言えよう。家からもさほど離れてないし、チャリ置き場は無料で使えるなどなかなか気の利いた所だ。
周辺は飲食店、スーパー等も揃っており。デートスポットとして有名だ。
学校帰り、よく暇つぶしに通るんだけど。まさか、土日にここに来ることになろうとは予想外だった。
以前、付き合っていた彼女とはここに来たことはない。前の彼女はちょっと変わった趣味の持ち主でそういう事に縁も縁もない……少し、残念な女の子だった。
別れた理由も、音楽性の違いのようなもので。ものの弾みで別れました(笑)なんて笑われるのもしばしば。
性格以外は完璧なんだけどな。
あの性格さえ、無ければ今でも付き合ってたと思う。別れた事に未練はない。でも、当時の俺は落ち込んでたっけ。
だが、今は違う。
ある意味では前の彼女よりハチャメチャかも知れない彼女がいる。
────ドクン、ドクン。
今から緊張してどうすんだ。
本番はこれからだ、深呼吸して落ち着け。
服装OK、髪型OK、財布OK。
ワイシャツとGパン、ワイシャツの裾を折ってオシャレ感を醸し出しつつ、その上にベスト。自分でもなかなか良さげな格好だと自負している。
髪型もお洒落と思われる程度にワックスで決めており。財布には諭吉さん二枚とフルアーマー装備ですよ。日本の風習、意味の解らない固定概「いや、分からなくもないけどさ」デートで金を出すのは男。
これは基本そうだろう。
女の子は色んな所で色々とするのに経費が掛かる。だが、男はそういう事がないので女の子に比べて経費が掛からない。うん、これは理不尽……だとは思ってるけど仕方ないとも思っている。
うん、男女平等ってなんだろね。
待ち合わせの時間まであと30分になった。
ホント、テンプレだけど約束の時間の30分前に来てしまった。駅前の噴水付近に10時、集合って言ってたけど。まだ……来てみないみたいだ。
流石に早く来すぎたかな。
駅周辺は土曜日なのにスーツ姿で眠そうなサラリーマン達とこれから山登りにでも行くのだろうおじいちゃんとおばあちゃん。若者の姿は余り見られなかった。
まぁ、普通の学生なら今頃まだ寝てるんだろうけど。
俺だって今日の予定が無ければ寝てる時間帯だ。こんなに早く起きて、遊びに行くなんて久しぶりだよ。
金曜日の夜は遅寝、遅起きの怠惰な一日と決めてるんだけどなぁ。
学生のうちにしか出来ない事は目一杯するべきだ、と大人達は言う。俺もその通りだと思う、大人とは意見が合わない事が大半だけどほんの少しは子供の気持ちを知っている、覚えているのだろう。
などと考え事をしていると時刻は約束の10時になっていた。
そろそろ来ると思うんだけど、一ノ瀬の姿は見えない。ラインを見ても返事はきてないし、案外寝坊しちゃったんじゃないかな。
どんな優等生でも寝坊くらいするだろ。
気長に待とう、壁にもたれかかろうとしたその時だった。
「────お待たせしました」
少女はやって来た。
少し長めのスカートを靡かせ、早歩きで。
「遅れてしまって申し訳ありません……寝坊してしまいました」
ペコリと頭を下げる一ノ瀬。
「大丈夫、そんなに遅れてないよ。時間も、ほら10時ぴったり」
「ちょうど10時1分になりました」
おい、俺のスマホ時計空気読めよ。
「夕練さんはいつからここに居たんですか?」
「ん、あぁ、30分前には居たと思う」
「すみません」
再度、頭を下げる一ノ瀬さん。
「いやいや、こういうのはね。男が先に来てから女の子を待つのがセオリーなんだよ。だから一ノ瀬さんは少し遅れた程度でもノープロブレム 。むしろ男の子の俺にとってはご褒美みたいなもんでっせ」
「遅れて、来るのが……ご褒美?」
「おうよ。だから一ノ瀬さんが謝る必要なんてないんだぜ」
「解りました……では、今度からはわざと遅れるようにします」
「い、言っておくけど少し。
ほんの少しだからね」
「はい、解りました」
なんて従順な娘なんだろう。
今時、こんな素直な娘なんて居るのかしら? あ、目の前に居ました。
それにしても一ノ瀬の服……綺麗だな。綺麗さと可愛さ両方を持ち合わせた衣服だ。俺好みの少し長めのスカートにカーディガン、その下はピンク色ワイシャツと普通の女の子そうな、お洒落な女の子のしそうなお服装だった。
「似合ってるな、その服」
女の子は細かい所にお金を掛ける生き物だ。それが些細な変化でも、それが変化なら褒める。それに今の一ノ瀬の服装は一ノ瀬に合っている。これを見て褒めない男はいないだろう。
「ありがとう、ございます」
若干、頬を染め、下を向く一ノ瀬。
照れてるのか。そんな仕草もまた可愛らしい。
「さて、これからだけど。一ノ瀬さんは何処に行きたい?」
昨日の時点からカップルに人気のあるデートスポットは調べておいた。俺がスキンシップしてもいいけど一ノ瀬が行きたい所を聞いてからの方がいいだろう。もしかしたら一ノ瀬も俺と同じ、デートスポットを調べてるかも知れないしな。
そうして俺と一ノ瀬とのデートは始まった。
これから起こる悲劇を、知らぬまま……。
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