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真田十勇士

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巻ノ六十四 大名その四

「拙者に欲がなくともな」
「おそらくですが」
 霧隠が言ってきた。
「当家は沼田の領地を約してもらいます」
「それでじゃな」
 幸村も霧隠に応えて言う。
「兄上がその沼田に入られ」
「若殿は家督を継がれますと」
 筧も言う。
「その後は殿が」
「そうなるな」
「では今は、ですな」
 根津もここで気付いた。
「万石は先への備えですな」
「沼田は三万石程ですから」
 海野はこのことから述べた、沼田の石高から。
「殿は一万と数千石程に」
「それだけの大名になるか」
「一万数千石、大名としては小さいですが」
 それでもとだ、今度は伊佐が言った。
「大名ですから」
「大きいな」
「いや、二千石からですぞ」
 由利はこのことから言った、幸村の元の石高からだ。
「そこからになりますと」
「これは凄いですぞ」
 穴山はもう驚かんばかりになっている。
「少なくとも五倍以上の加増ですから」
「いや、もう殿も立派な大身」
 望月はこのことにもう感銘していた。
「家臣である我等も冥利に尽きます」
「それではですぞ」
 清海は主に勇んだ感じで主に言った。
「殿、受けるしかありませぬぞ」
「まさに殿のお名前が天下に知られます」
 猿飛は清海以上に遺産だ調子だった。
「大名になられることだけでも」
「殿、我等十人の考えは一つです」
「大名になられるべきです」
「是非共です」
「そうなって下され」
「そうか、そう言うか」
 幸村は十勇士の言葉を聞いてだった。
 湯の中で瞑目してからだ、こう言ったのだった。
「ではな」
「はい、受けられますか」
「そうされますか」
「大名になられますか」
「そしてやがては」
「沼田の三万か」
 やや遠い目になり言った。
「まさに夢の様じゃな」
「これまでの当家を思いますと」
「最早ですな」
「殿にその欲がなくとも」
「それでもですな」
「武田家が栄えて大きくなっていれば」
 かつての主家のことも思い出した。
「拙者も武勲を挙げていればな」
「武田家の中で、ですな」
「万石取りになられたやも知れませぬか」
「大名に」
「そうも思われていましたか」
「あくまで武田家の中でな」
 そう思っていたというのだ。
「妄想に近いがな、しかしその武田家が滅び」
「真田家だけとなり」
「当家だけで生きていかねばならなくなり」
「生き残ることだけで一杯で」
「領地を広げることもですな」
「沼田では出来ましたが」
「思いも寄らず拙者が万石取りになることも」
 このこともというのだ。
「想像もしなかった、しかしな」
「それでもですな」
「お受けになられますか」
「やはり」
「御主達もそう言うのなら」
 それも十人全員がだ、それならばというのだ。 
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