タンタロス
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第三章
「子殺しは罪であり」
「神々に知られてはか」
「厄介かと」
「そしてだな」
「はい、何故王がペロプス様を殺めたか」
このことも知られればというのだ。
「厄介ですが」
「確かにな。わしが家臣や民、息子や孫や甥の妻を奪い姉妹や姪、娘や孫と無理に寝たこともな」
そうした乱倫もというのだ。
「知られれば厄介だ」
「はい、非常に」
「ゼウス神はその玉座から全てを見られる」
タンタロスも知っていることだ、このことは。
「今はお気付きでないしわしも気付かれぬ様にしておるが」
「夜はゼウス様はお休みになられます」
「雷が鳴っていない時はな」
ゼウスは天空の神であり雷を操る、夜に雷が鳴っていると彼が起きている証なのだ。
「だからわしは夜にそうしていたが」
「それが気付かれれば」
「危ういな」
神々の寵愛を失うというのだ。
「だからだな」
「はい、このことは内密にしなければ」
「幸い今は夜だ」
場は暗い、実は彼は先程孫娘の一人の貞節を奪ってきたばかりだ。そこでペロプスに諫められてかっとなり殺したのだ。
「では今のうちにこ奴の屍を始末しよう」
「どの様にして」
「屍を隠すに最適の方法がある」
タンタロスは冷然としてだ、佞臣に答えた。
「肉にすればいいのだ」
「肉に、ですか」
「そうすればですか」
「そうだ、肉にすればいいのだ」
こう言うのだった。
「こ奴は神に等しいわしに意見をした、そのことも許せぬ」
「だからですか」
「肉にされてですか」
「誰かに食わせる」
「そうされますか」
「そうだな、幸い明日宴がある」
このことについても言うのだった。
「ならばその宴の肉として出そう」
「そ、そうされますか」
「そしてですか」
「殺したことを隠す」
「そうされますか」
「よいな、そうせよ」
殺した我が子の屍を切り刻みそうして肉にしてというのだ。
「宴の馳走とせよ」
「わかりました、では」
「その様に」
佞臣達は皆蒼白の顔で応えた、だが。
彼等はペロプスの屍を切り刻み肉として次の日の宴の馳走の食材としてからすぐにだった、宮廷を逃げ出して言い合うのだった。タンタロスの下から逃げながら。
「明日の宴は神々をお招きするのだ」
「その神々に我が子の肉を出すなぞ」
「もう王は正気ではない」
「我が子を殺すだけでも恐ろしい罪」
「しかもそれが孫娘を犯したことを咎められてのことだ」
「そのご子息の肉を神々に食べさせるなぞ」
「大変なことになる」
まさにというのだ。
「神々は聡明だ」
「わからない筈がない」
「王もこれで終わりだ」
「今までは従えたがもう無理だ」
「難を被らないうちに逃げるぞ」
彼等はこう言い合い夜のうちに去った、そして。
その宴の時となった、料理人達はその肉を見て怪訝な顔になった。
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