一四七キロフォーク
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第六章
「クライマックス出られてもういいとはならないの」
「優勝してこそよ」
「そう言えるってどれだけ幸せかわかってるの?」
「何か真剣ね」
「横浜なんてね」
明日夢が応援しているこのチームはというと。
「私が生まれてから何度最下位になったと思ってるのよ」
「五回?」
「十回は普通によ」
最下位になったというのだ。
「監督交代してもどんどんよ」
「最下位になってたから」
「そうよ、Aクラス入りでもね」
それだけでもというのだ。
「夢みたいなのよ」
「だからっていうの」
「常勝軍団再建って言えるだけ幸せよ」
それこそという口調での言葉だった。
「そのことよくわかっておくことね」
「ヘヴィーね」
「そうよ、まあそれでも常勝軍団目指すのなら」
明日夢は咲にあらためて言った。
「目指すといいわ、そして何時の日かね」
「日本シリーズで会おうっていうのね」
「こっちは何時になるかわからないけれど」
自分が愛しているチームをよくわかっているからこその言葉だ。
「待っていてね」
「ええ、じゃあね」
「そのうち出て来るから」
「そのうちって」
「来年最下位になってもおかしくないから」
横浜はというのだ。
「だからね」
「そのうちなのね」
「そう、待っててね」
「まあね、じゃあその時は」
「いい勝負しましょうね」
「そこで勝つって言わないの」
「だから横浜がシリーズに出る姿が想像出来ないのよ」
到底、というのだ。明日夢の場合は。
「それでなのよ」
「ううん、辛いわね」
「じゃあいいわね」
「ええ、日本シリーズで会うことになったら」
「宜しくね」
こうしたことを話してだ、明日夢は咲の前から恵美と茜の方に言った。咲はその彼女を観ながら自分達のところに来た未晴達に言った。
「毎年優勝とか贅沢かしら」
「ああ、贅沢だな」
「はっきり言ってな」
「正直巨人と同じよ」
「普通そんなこと思わないから」
春華と静華、凛と七々瀬が次々に答えた。
「そんなチーム滅多にあるよ」
「昔の巨人か西武じゃない」
「そんなチームは例外中の例外だから」
「世の中そう甘くはないわよ」
「そういうものね、考えてみたら」
咲はソフトバンクのこれまでの歴史を振り返って考えてみた。
「南海時代は野村さんいなくなってから暗黒時代で」
「ダイエーの時も最初の十年はだったわね」
「弱かったし、ここ数年までは」
ソフトバンクが親会社になってからのことをだ、未晴に返した。
「クライマックスでいつも負けて」
「そうだったわね」
「そう考えると毎年優勝とか考える方がね」
「間違いだっていうのね」
「そうかも知れないわね、勝敗はスポーツの常」
戦争と同じくだ。
「そのことも受け入れないといけないわね」
「そうかも知れないわね」
未晴は咲に優しい微笑みで言った、そして彼女は咲だけでなく他の面々にもさりげなく野球から最近話題のドラマの話にシフトさせた。ソフトバンクは大谷の一四七キロフォークの前に敗れたが来年があり彼等の戦いはまだ続くことがわかっているからこそ。
一四七キロフォーク 完
2016・10・28
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