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真田十勇士

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巻ノ六十三 天下統一その三

「だからな」
「側室の方をですか」
「より欲しい、子はよりじゃ」
 秀吉は切実な顔になり家康に話した。
「何人でもな」
「そしてですな」
「跡も継がせたい」
「ですか」
「欲しいものは皆手に入れてきた」
 これまでの生、天下人になるまででというのだ。
「しかし最も欲しいものだけがじゃ」
「手に入らなかったというのですか」
「子だけはな、捨丸は得たが」
 しかしというのだった。
「もっと欲しい、一人だけでなく」
「だからこそですな」
「甲斐姫がまことに美しいならな」
 それならばというのだ。
「側室に迎えたい」
「そしてそのうえで」
「甲斐姫にわしの子を産んでもらいたいものじゃ」
「左様ですか」
「全く、世の中とは因果なものじゃ」
 天下人として権勢を極め欲しいものは手に入らないものはないと言われる様になってもというのだ。
「最も欲しいものはずっと手に入らずな」
「より欲しいと思われましても」
「手に入らぬからな」
 だからだというのだ。
「因果じゃ」
「その因果については」
「どうしようもないのう」
 こうも言ったのだった。
「難儀なことじゃ」
「この世は全てが思い通りにならぬもの」
 家康は俯きそうになる秀吉を励ます様にして言った。
「ですから」
「そうしたこともか」
「はい、踏まえてです」
「生きていくべきか」
「諸行無常ともいいます」
 平家物語の言葉もだ、家康は出した。
「それも踏まえてです」
「左様か、流石は徳川殿じゃ」
 秀吉は家康の言葉をここまで聞いて微笑んで言った。
「よいことを言われる、この世はそうしたものじゃな」
「はい、無常でもあります」
「そうしたものでもあるな」
「そしてそうしたものであると覚え」
「そのうえでじゃな」
「これからも歩まれることかと」
 人の生、それをというのだ。
「そうあるべきかと」
「ではそうしていくか、しかしな」
「甲斐姫殿はですな」
「うむ、興味がある」
 また顔が変わった、再び好色な顔になった。
「会おうぞ」
「さすれば」
「戦が終わればな」
 まさにその時、間もなくというのだ。
「忍城での戦を止めて」
「そしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「甲斐姫を呼びな」
「お会いになられますか」
「そうしよう、佐吉と桂松を退けるとはな」
 まさにというのだ。
「天下の猛者じゃ」
「お二人こそはですな」
「うむ、実はじゃ」
 この二人こそはというのだ。
「わしの家臣で最も武に秀でた者達なのじゃ」
「左様ですな」
「あの二人を退けた」
 まさにこのことはというのだ。
「武の誉れじゃ」
「だからこそ会われますか」
「そうする、そもそもこのまま戦が続けば無駄に人が死ぬだけじゃ」
 氏直の方から降ると言ってきた今は、というのだ。 
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