| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真田十勇士

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

巻ノ六十二 小田原開城その十一

「御主は腹を切ることはない」
「ですが父上」
「この度の戦を決めたのわしじゃ、それにじゃ」 
 氏政は我が子にさらに言った。
「わしが北条家の主、だからな」
「それで、ですか」
「わしが腹を切る」
 こう言うのだった。
「それで終わらせる」
「そうされるのですか」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「だからな、御主には腹は切らせぬ」
「ですが」
「よい」
 我が子にそこから先は言わせなかった。
「わしが主じゃ、わかったな」
「左様ですか」
「わしが腹を切ると伝えよ」
 秀吉にというのだ。
「それで終わらせよ」
「ですが」
「どうしてもか」
「はい、それがしがです」
 氏直も引かずに言うのだった。
「やはり」
「頑固じゃのう」
「父上にはご迷惑は」
「わしは御主の言葉を聞くべきじゃった」
 こうも言った。
「さすればな」
「父上、それはもう」
「言わぬべきか」
「はい」
 氏政に対して言った。
「ですから」
「では二人で申し出よう」
「関白様に」
「そうしよう、しかしわしはな」
 氏直を見て言うのだった。
「御主は何としても助ける」
「それは何故ですか」
「何故もない、御主はわしの子じゃ」
 だからだというのだ。
「子を死なせて自分が助かるつもりはない」
「だからですか」
「わしが腹を切って済むのならな」
「それでよいと」
「そう考えておる、では明日な」
「はい、それがしが関白様に申し出ます」
「御主だけか」
 また氏直を見て言った。
「そうするか」
「何としても」
 父を庇ってだった、だが。
 氏政も氏政でだ、こうすると言うのだった。
「わしはわしで使者を出そう」
「そうされるのですか」
「この家、御主も守る為にな」
 氏政もここで決意した、そしてだった。
 北条家は遂に降ることを決めた、数ヶ月に及んだ籠城戦では誰も死なかかった。だが北条家はここに全てを失うこととなった。


巻ノ六十二   完


                       2016・6・20 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧