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IS~夢を追い求める者~

作者:かやちゃ
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第2章:異分子の排除
  第36話「事件が終わって」

 
前書き
サブタイ通り、後日談です。
何気に30話で秋十とラウラが言っていたトーナメントでの決着がなくなったので、近いうちに回収しておかなくちゃ...。
 

 








       =桜side=





 事件も終わり、一度部屋に戻った俺は、また違う所に来ていた。

「あったあった。自室謹慎のついでに、やっぱり取り上げられてたか。」

 本来は教員以外立ち入り禁止な場所に、それはあった。
 ...え?どうして入ってるかって?ちょっとした野暮用だ。

「機嫌は....よくはないよな。」

【――――。】

 そこにあるのは、一つの白い鎧。
 ...つまり、一夏の専用機である、白式がそこに置かれている。

「あー、何も言い返せん。悪いな。こんな役目やらせる羽目になって。」

【―――、――――。】

 感じられる不機嫌な“意思”に俺はただ謝る。

「一応、これであいつはしばらく自室謹慎だ。そして、後は臨海学校までで、この役目は終わり。...あと少しの辛抱だ。」

【――。】

「...いや、嫌なのはわかるけどさ...。」

 やっぱり、少し子供っぽい部分あるよな...。

「...まったく、この端末に繋がるようにすれば、少しはマシになるぞ。」

【―――?―――!】

「お、おう...。わかったわかった。」

 缶バッチサイズの端末を取り出し、そういうと凄い勢いで食いついてきた。

「一応、周りには会社(うち)の作ったAIとしていてくれよ?まだ世間にばらすのには早すぎるし、お前の身も色々危険になる。」

【――――。】

「うん。いい子だ。」

 端末と白式を繋げ、しばらく処理を待つ。
 監視カメラには何も映らないようにしておいたが、早く終わらないものか...。

「...なぁ、今の所、“覚醒”しているのはどれぐらいいるんだ?」

【―――?】

 その間、少し暇なので会話をする。

「コア・ネットワークで情報を共有してるんだろ?わからないか?」

【―――.....―――。】

「...そうか...。はっきりわかるのはお前とユーリちゃんの所だけか。」

 意思の表面化しているISはほとんどないんだな。
 俺の想起もまだだし。

「....よし。処理が終わった。じゃ、また後でな。」

【―――。】

 そそくさとその場を後にし、監視カメラの映像を元に戻しておく。
 ...ふぅ、千冬に見つからずに済んだか。

「窮屈すぎたもんなぁ...。いやぁ、持ってきてよかったよかった。」

 先ほどの端末を見ながら、俺はそういう。

「(さて...大きなイベントは後は臨海学校だけ。しばらくのんびりさせてもらうか。)」

 デュノア関連も終わらせたし、普通に日常を謳歌するか。









       =秋十side=





「「....はぁ...。」」

 俺とマドカは二人揃って溜め息を吐く。

「あ、あのー...二人共...?」

「ごめんユーリ、ちょっと落ち込んでるだけ。」

「結局桜さんに振り回されただけだしなぁ...。」

 今は夕食も終わって少しある自由時間。
 俺たちは桜さんに念のため動けるように言われてたんだけど、結局何もする必要がなかった事に少し落ち込んでいる。
 ...いや、動く必要がなかったのはいいことだけど...振り回された感があって...。

「それに、トーナメントも初戦だけ行って後は中止だよ?ひどいと思う。」

「折角色んな相手と戦えるチャンスだったのに...。」

 マドカとも久しぶりに全力で戦えるチャンスだった。
 ...鷹月さんにはちょっと悪いけど。

「ふ、二人とも案外試合が好きなんですね...。」

「そりゃあ、自分の力が再確認できるし。」

「そういうものでしょうか...?」

 高みを目指す者にとってはそういうものだと思うけどな。
 トーナメントをこなす事で、足りない所とか新たな発見もあるだろうし。

「...というか、肝心の桜さんはどこなの?」

「あの人は部屋に作り置きしておいた夕食を食べた後、またどっか行ったよ...。」

 相変わらずあの人の行動力は半端ない。
 さすが束さんの幼馴染だ...。

「桜さんの事ですし、心配の必要はないでしょうけど...。」

「...あー、ユーリからすればどうしているか気になっちゃうよね。」

「....はい...。」

 顔を赤くしながらマドカの言葉に答えるユーリ。
 ...?なんで顔を赤くしてるんだ?

「ん?呼んだか?」

「っ、ひゃぁあああっ!?」

 そして、突然の後ろからの声に、ユーリが飛び上がるように驚く。

「..って、桜さんか...。」

「なんでユーリ驚かしてるの...?」

「いや、俺もここまで驚くとは...。」

 見れば、ユーリは顔を赤くし、涙目で桜さんを見ている。
 ...いきなりとはいえ、ユーリも驚きすぎだな。

「それで、いきいなり現れましたけど、どうしたんですか?」

「いや、やる事を大体終えたから、皆の所に来ただけだ。」

 つまり何かしにきた訳じゃなく、終わったから来たのか...。

「何をやって...やらかしてきたんですか?」

「なぜ言い直した...。...ちょっとな。会社の試作品って言ったところか。」

 あれ?桜さんにしては普通な事を...。

「それと、デュノアに関して色々根回ししてきたから、明日はちょっと騒ぎになるな。」

「やっぱりやらかしてるじゃないですか...!」

 デュノア...って事はシャルの事か。
 ...なるほど。女性って事をばらすんだな。

「デュノアさん...ですか?」

「ああ。ホント、色々騒ぎになるだろうけど、今まで通りの対応でいてくれると助かる。」

「は、はぁ....?」

 事情を知らないユーリが首を傾げる。

「でも桜さん、事情が事情ですし、他の皆がシャルに対して...。」

「その時は俺たちからも言っておくさ。何せ、被害者なんだからな。」

 その通りだが、それでも上手く行かないのが人間だしなぁ...。

「な、なんの事かわからないのですけど...。」

「...桜さんと秋兄だけしか知らないから、私たちにはわからないよ...。」

 話についていけない二人が、説明を求める眼差しで俺たちを見つめる。

「桜さん。」

「...さすがに説明しとくか。」

 どうせ明日には分かる上に、同じ会社仲間だ。
 なので、簡単にとはいえ、桜さんと共に説明する。





「...あー、うん。とりあえず、それだけで会社を潰す桜さんって...。」

「気まぐれだし。」

「そういう問題!?」

 桜さんのような人物だからこそできた事に、マドカは呆れる。
 実際、会社を潰すそうと思った理由が、“デュノア夫人が気に入らないから”だしな...。

「ラファールって、デュノア社開発の量産機ですよね...?なのに、デュノア社が潰れたらラファールは...。」

「あー、それなら大丈夫。ちゃんと根回しして、廃棄されないようにしてある。」

 ユーリの呟きに桜さんがそういう。...さすがに用心深いな。

「IS自体の性能はいいからな。会社が潰れたからと、廃棄するには勿体ない。」

「学園としてもその方が助かりますしね。」

 改めて量産機を買うとか、学園の予算が吹っ飛ぶレベルだからな...。

「各企業がデータとISを回収し、IS学園にもデュノア社のISが一機追加されるそうだ。」

「“そうだ”って....。」

「束がコントロールした。」

 ...色々情報操作したんだろうなぁ...。桜さんも一枚噛んでそうだ。

「...それよりも、デュノアさんが女性だった事については...。」

「桜さんじゃあるまいし、体格とか見ていれば気づけるよ。」

「....ですよね...。」

 桜さんみたいな女性にしか見えない男性が頻繁にいてたまるかって話だよな。
 ユーリだって気づいてたのに、どうして大抵の人は気づかなかったのだろう...?

「篠咲さん!篠咲君!」

「あれ?山田先生?」

 色々と苦笑いしていると、山田先生が慌てたようにやってきた。
 ...まさか、また何か...。

「朗報です!朗報ですよ!」

「あ、よかった...。」

「...さすがに身構えすぎじゃないかな...。」

 だって桜さん(諸悪の根源)が隣にいるし、ついつい勘繰ってしまうんだよなぁ...。

「...?なんの事ですか?」

「あ、こっちの話です。...それで、朗報とは?」

 とりあえず山田先生の話を聞く事にする。

「あ、そうでした。男子の大浴場が、今日から解禁になったのです!」

「え、それって...。」

「はい!これからは寮の小さなお風呂で我慢する必要もないんです!」

 それは確かに朗報だ。俺だって、こじんまりしたのより広々としてた方がいいし。

「デュノア君にも伝えたかったのですけど、今日はお休みなんですよね...。」

「...あー、俺の方から伝えておきます。」

 桜さんが誤魔化してそういう。
 ...誤魔化した所で、女性だから意味ないんだけどな...。

「...じゃあ、今から入りに行くか。」

「そうですね。」

 折角なので、俺と桜さんで大浴場に向かう事にする。

「あ、織斑君見ました?織斑君にも伝えようと思ったのですけど...。」

「...織斑なら寮の部屋で謹慎中ですよ。」

「あっ、そ、そうでしたね...。」

 あいつ、散々やらかしたらしいからな...。
 千冬姉を結構怒らせたみたいだ。...自業自得だと思うが。

「一端部屋に行くか。」

「タオルとか必要ですしね。」

 何気に広いお風呂は入学前以来だなぁ...。
 会社には一応あるけど、入学してからはそんな機会ないし...。

「じゃ、また後でな。」

「あ、はい。」

 桜さんが一言告げ、俺たちは大浴場へと向かった。











       =out side=





「これはこっちで、これは今すぐ処理しないと...ああもう!書類が多すぎる!」

「が、頑張ってください束様...!」

 ワールド・レボリューションの一室にて、書類の山があった。

「さー君助けてー!束さんだけじゃあ、捌ききれないよー!!」

「そう言いつつ、凄い速度で処理してるじゃないですか...!」

 それを束とクロエが必死になって処理していく。

「まぁ、自分でやった事だから仕方ないんだけどねー...。」

「一応、功績になりますからね...。あ、束様、これ。」

「ん、りょーかい。」

 積み重なっている書類は全てデュノア社関連の後始末だ。
 デュノア社の黒い部分を露見させる際、どうしても会社の干渉があった事は隠せなかったので、こうして事後処理の書類が大量に来ている。

     コンコンコンコン

「社長、よろしいですか?ドクターから一つ申請が...。」

 ノックの後、扉越しに女性の声が聞こえる。
 しかし、それに対応している暇は束達にはなく...。

「自重してって伝えて!ごめんうーちゃん!」

「分かりました。...失礼します。」

 門前払いかのようにキャンセルする束。
 そして、却下された“うーちゃん”ことジェイルの娘であるウーノは大人しく引き下がる。
 さすがにウーノも状況は分かっているので食い下がりはしなかった。

「あ、そうだ。うーちゃん!そっちから何人か寄越して!手伝ってくれたら改めて聞くってスカさんに伝えて!」

「分かりました。」

 凄まじいスピードで書類の山を片付けつつ、束はウーノにそういう。
 スコールやオータムもいるが、彼女達も彼女達で仕事があるようだ。

「束様。そろそろ...。」

「あっ、そうだったね。...うー、これを放置するのはアレだけど...。」

 時間を確認したクロエが束にそういう。
 どうやら、何かあるようだ。

「行ってください。幸い、まだこれらに関しての時間はあります。」

「うーん...彼らを安心させる方が先...か。うん、任せたよくーちゃん!」

 そう言って束は一度書類をクロエに任せ、急いである場所に向かった。





「.......。」

 応接間のある一室。そこにシャルロット・デュノアはいた。

「(ここで待っててって言われたけど...誰も来ないと不安だなぁ...。)」

 自分の立場が結構危うい状況なのもあり、シャル不安で仕方がなかった。
 そこへ、いきなり扉が開く。

「ごめん!待たせちゃった!?」

「っ!?...あ、えっと、大丈夫で....っ!?」

 シャルはいきなり入ってきた事と、その人物が束な事に連続で驚く。

「し、篠ノ之博士!?あれ、ここに来るのは社長だって...。」

「私がその社長だよ。普段のあれは偽名と変装って事。」

「あ.....。」

 “そういう事か”と、色々な事で驚き続けていたシャルは納得する。

「...だから桜さんはあの時...。」

「ちなみに会社じゃなくても私一人で潰せたよー?」

「.........。」

 やはり天災は規格外だと、シャルは思わざるを得なかった。

「それでまぁ、君にはうちの会社に入ってもらうんだけどね...そこでいくつか説明があるの。」

「いつの間に入る事になってるのか気になるんですけど...。」

「そこはほら、ちょちょいっと。君の父親の助力もあったしね。」

 それでも普通は本人が気づかないままなのはおかしいと、シャルは思った。

「...って、お父さんが...?」

「さー君から聞いてるでしょ?君の父親から助けてほしいと頼まれたって。」

「....うん...。」

 あまり娘として接せずに、しかし不器用ながらも娘を助けようとした父親。
 その事を思い出し、シャルは胸が締め付けられるような想いになった。
 確かに自分は助かる。しかし当の父親はそのままデュノア社に残っているのだ。

「...ボクを助けてくれたのは確かに嬉しいです。...けど、お父さんが...。」

「自信を犠牲にして君を助けようとしたのだから、むしろ後悔している方が失礼になると思うよ?」

「そう...ですけど...。」

 それでも気分が晴れないシャル。
 結果的に自分だけ助かってしまったのだから、そう思っても仕方がない。

「...しょうがないなぁ...。」

 それを見て、束は指を鳴らす。
 部屋の前に誰かいたのか、それを聞いて何か動きを見せる。

「....?」

「どんでん返しみたいだけど、こっちの方がいいでしょ?」

 どういうことか意図が汲めないシャルを他所に、部屋の前から話し声が聞こえる。

「いつまでヘタレてるんだよ!折角会えるんだから早くしろ!」

「し、しかし...。」

「あーもう!自分を犠牲にする覚悟が踏み躙られた事は同情するけど、お前が会えば丸く収まるんだ。とっとと会ってこい!」

 そんな声と共に、扉が開け放たれ、誰かが蹴られるように部屋に入ってくる。

「....おーちゃん、元とはいえ、その人って社長...。」

「....え...?」

 結構乱暴しているなと、束はその人物を部屋に押し込んだオータムに対して思った。
 そして、シャルはその入ってきた人物に驚きを隠せなかった。

「お父...さん....?」

「...シャルロット....。」

 互いの事を呟くように言う。
 感動の再会のように見えるが、片方は蹴り入れられたため、倒れこんだような体勢になっているのでややシュールだ。

「ほら、ハインリヒさん。いつまでも寝そべってないで座って座って。」

「...君の社員に蹴られた結果なんだが...。」

「もっと堂々としてればよかったんだよ。」

 とりあえず束はシャルの父親...ハインリヒを立たせてシャルの隣に座らせる。

「さてと、さすがに戸惑っているだろうから、説明するね?」

「あ、はい...。」

 対面に束が座り、ようやく話が始まる。

「まぁ、知っていると思うけど、デュノア社は私たちが潰した。...これは分かるよね?」

「...はい。」

 束の言葉にシャルは頷く。
 ハインリヒは事情を知っているので、口を挟まないようだ。

「...で、君が一番疑問に思っているのは、犠牲になった父親がなぜここにいるのか?...だよね?」

「っ....不謹慎ですけど...はい。」

 申し訳なさそうにしながら束の言葉を肯定するシャル。

「まぁ、単純に答えるとしたら、私たちが助けたから...だね。」

「....なんとなく、想像はついてましたけど...。」

 あっさりと告げられた真実に、驚く事もなくすんなり受け入れるシャル。
 既にデタラメっぷりは何度も味わっているので、感覚がマヒしてきたようだ。

「これでも結構苦労したんだよー?潰れる寸前の会社の社長を引き抜くなんてさ。いくら立場が危うい状態とはいえ、それでも社長。容易に引き抜くどころか、その行為すらできないはずなんだよ?」

「...それでも、貴女方はやってのけた。」

「ちょっとした裏技だけどね。」

 なお、その裏技とは、真実を偽装する事である。
 “ハインリヒ・デュノア”という人物は、世間上では刑務所行きに偽装されているのだ。

「諸事情があってもう“デュノア”とは名乗れないけど...いいね?」

「元々助からないはずだったんだ。それぐらい、私はいい。」

「お父さんがいいのなら、ボクも...。」

 未練はないと二人は言い、それに束は満足そうに頷く。

「じゃあ、これからは“ローラン”だね。」

「っ、それって...!」

「リリアーヌの...!」

 新たに決められた姓に、シャルとハインリヒは驚く。

「そうだよ。君の母親の名前。....その方が、二人もいいでしょ?」

「お母さんの...。」

 今は亡き母の姓を名乗れる事に、シャルはどこか感慨深いものを感じた。

「しかし...リリアーヌの事まで...。」

「デュノア社を色々調べれた時点でそこまで驚く事じゃないでしょ?」

「そ、そうだが...。」

 ハインリヒの方は、身内関連の事が色々知られていて、何とも言えなさそうだった。

「じゃ、そういう事で、これから二人にはこの会社に入ってもらうね?...って言っても事後承諾なんだけどさ。」

「既に入れられてる!?」

「どうせ行く当てがないんだからそっちの方がいいでしょ?」

 事もなさげに言う束に、二人は段々疲れてきていた。

「君にはうちでテストパイロットでもしてもらおうかな?一応、被害者としていたから代表候補生の称号は剥奪されてないし。」

「そういえば...。」

「それで、ハインリヒさんには事務的な部分を手伝ってもらうよ。ちょっとそっち方面の人手が今足りなくてね。それに、社長をやってたし管理は得意でしょ?」

「まぁ...それなりには。」

 “それじゃあ”と、束は手を叩き、話を切り上げる。

「早速動いてもらうよ。とりあえず、シャルちゃんには改めて転入してもらう事になるから、それ関連で色々あるから頑張ってね!で、ハインリヒさんは早速手伝ってもらうよ!」

「え、えっ!?」

「ま、待て...!」

 手を引っ張り、走り出す束に為すがままになる二人。
 やはり、天災にはついていけないようだ...。













       =桜side=





 次の日、昨日の事件はなんだったのかというぐらい、いつもの光景が広がっていた。
 ...なお、織斑は自宅謹慎でいないのだが。

「デュノア君、やっぱり今日も来てないねー。」

「やっぱり昨日のニュースでやってたのと関係あるんじゃないかな...?」

 尤も、何もかもがいつも通りという訳でなく、少し違う所もあった。
 例えば今女子が話していた話題だ。
 昨日の内にデュノア社が潰れた事はニュースになり、その事で昨日は休んでいた彼女が気になるのであろう。...今は既に“デュノア”ではないがな。

「さくさくは何か知ってるの~?」

「...一応、聞いておくが...なぜ俺に尋ねる?」

 先程の女子の話を聞いていた本音が俺に聞いてくる。

「え~?だってさくさくって色々知ってるでしょ?」

「確かに普通よりは知っているとは思っているが...。」

「さくさくだってわかってて聞き返してるでしょ~?」

 ...そういうって事は、やっぱり本音は知っているんだな...。
 やはり更識家に仕える家系なだけあるな。

「...まぁ、今日のSHRでわかるさ。」

「ふ~ん...。」

 とりあえずそう言っておく。説明するのも面倒だしな。

「.....トーナメント...決着....うぅ...。」

「...あー...ラウラ...?」

 ...と、そこでそんな弱々しい声が聞こえてくる。
 声の主はもちろんラウラだ。ついでに秋十君がどうにかしようと奮闘している。

「こんな事なら、あの時の模擬戦で全力を出せばよかった...。」

「べ、別に全力の試合の機会があれだけとは限らないんだからさ...そ、そこまで落ち込むなよ...。」

「うぅ...。」

 ...戦いができなかったらできなかったで、随分と拗ねているな...。

「...と、そろそろ鳴るな。」

 俺がそういうと同時に、チャイムが鳴ってSHRが始まる。
 そして、山田先生が教室へと入ってくる。...疲れた様子で。

「...せ、先生?どうしたんですか...?」

「あー...いえ、お仕事がですね....。」

 心配になった前列の女子が話しかけ、山田先生ははぐらかしながらも答える。

「...えっと、今日は転校生を紹介します...まぁ、知っている方も多いでしょうけど...。」

「(誰か休ませてあげなよ...。)」

 俺も原因の一端を担っているとはいえ、さすがにそう思わざるを得なかった。
 ...そして、入ってくる一人の女子生徒。

「え...?あれって....。」

「どういう事...?」

 その人物に、ほとんどの女子が騒めく。

「シャルロット・ローランです。紆余曲折あって姓が変わりましたが、変わらずに接してくれると助かります。」

「えっと...デュノア君はデュノアさんで、事情があってローランさんになりました...。」

 反応がない...というより固まっているクラスメイト。
 ...あ、これやばいな。秋十君と本音とかあまり驚いていない女子に耳栓を渡しておく。

「「「「ええええええええええええ!!??」」」」

「(っ...耳栓越しでもなかなかの声量だなぁ...。)」

 とんでもない叫び声が響き渡り、耳栓をしていながらも俺は驚く。

「なんであんなに込み入った事情なのに戸籍とか色々な手続きは済んでいるんですかぁ...!うぅ、また部屋割りとかを考えませんと...。」

 それよりも山田先生がギブアップ寸前なんだけど...千冬手伝ってあげろよ...。

「それで昨日休みだったんだね~。」

「うちの会社で色々やってたからな。」

 何名かが一時的な災難に見舞われているが、これにて一件落着...と。











 
 

 
後書き
父親と母親の名前と苗字は適当にフランスの名前一覧から引っ張ってきました。

しばらくは日常回かなぁ...?
せっかく登場させたゲストキャラとの絡みを書きたい。後、ラウラとの決着も。 
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