Blue Rose
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第二十三話 完全にその八
「僕にしましても」
「そうね、間違えるつもりはなくても間違える」
「無意識で」
「そうしながら無意識の中に染み込ませていくものだから」
「だからですか」
「間違えたらいいのよ」
「女の子になる為にですね」
優花も言う。
「無意識から」
「そう、身体がそうなってきて既に無意識にも影響を与えてきていると思うけれど」
「心と一緒に、ですね」
「それを訓練からもね」
「変えていくんですね、無意識を」
「そうよ、頑張って訓練してね」
「わかりました」
こくりと頷いてだ、看護士に答えた。
「そうします」
「頑張ってそうしてね」
看護士は優花に優しい笑顔で告げた、優花は訓練の間何度も間違えたがそれで怒られる様なことは一度もなかった。そして。
次第に間違える回数が減り質も些細なものになってきた、その彼女にだ。
副所長は優しい顔でだ、こんなことを言った。
「もう誰がどう見てもね」
「女の子ですか」
「そう見えてきたわ。まだ訓練が必要だけれど」
それでもというのだ。
「本当にアイドル事務所からスカウトが来るかもね」
「そんな、私は」
「嘘じゃないわ、その外見と声なら」
それこそというのだ。
「そうなって不思議じゃないわ」
「そうですか」
「それだけ可愛いわ。それだと街に出てもね」
「男の人にもですね」
「声をかけられるわね。ただ」
「すぐについていったら駄目ですね」
このことはだ、優花は自分から言った。
「危ないから」
「悪い男がいるから」
「だからですよね」
「ええ、そうした人には気をつけてね」
「わかりました」
「貴女は可愛いから」
誰がどう見てもというのだ。
「悪い男にも目をつけられるから」
「それで、ですね」
「気をつけてね。それでね」
「はい、長崎の街に出ても気をつけます」
「悪い男っていっても色々だから」
「ヤクザ屋さんとかゴロツキみたいな人とか詐欺師とか」
「あとピンカートン中尉みたいな人ね」
副所長はここで蝶々夫人の登場人物の名前を出した、蝶々さんの夫であるアメリカ海軍の若い士官だ。
「軽薄でいい加減な人にも気をつけてね」
「ダメンズ、ですか」
優花はかつて流行した言葉を出した。
「つまりは」
「そうね、そうなるわね」
副所長はその古い言葉に微笑んで頷いた。
「そうした人にも気をつけてね」
「蝶々さんみたいなことになるからですか」
「しっかりとした人と付き合ってね」
女として、というのだ。
「そうしてね」
「わかりました、そのことも」
「あと交際相手とお友達は違うから」
「はい、それはわかります」
優花は副所長の今の言葉には確かな声で頷くことが出来た。
「神戸の友達を思いますと」
「ずっとお友達だった子ね」
「友達には思えても」
それも一番の親友だ、しかしだった。
「ですが好きでもです」
「愛情ではないわね」
「男の子と女の子のそれは」
「感じないわね」
「はい、男の人を好きになっていっている気はします」
女になってからだ。
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