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真田十勇士

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巻ノ五十六 関東攻めその十一

「それまでですな」
「そうじゃ、暫しの間待っておれ」
「はい、それでは」
「暫く休んでいます」 
 足軽達も応えてだ、そしてだった。
 彼等は暫く休んだ、その間に。
 信之は彼の妻小松のところに来てだ、すぐにこう言った。
「行って参る」
「はい」
 小松は己の前に座って言った夫に微笑んで応えた。
「ご武運を」
「ではな」
「生きて帰って来る」
「お待ちしています」
 妻の返事は穏やかなものだった、その返事で言うのだった。
「この城で」
「そうしてくれるか」
「お帰りになりましたら茶を煎れますので」
「茶か」
「酒は過ぎると毒になりますので」
「やれやれ、この場でもそう言うか」
 信之はそこは退かない妻に苦笑いになった。
 だがその夫にだ、妻はまた言った。
「はい、それが私の務めなので」
「わしの身体のことを気遣うことがか」
「旦那様の、そして家を観るのが」
「義父上に言われたか」
「はい、そして徳川様にも」
 家康にもというのだ。
「言われましたので」
「そうか、ではな」
「お茶を煎れます」
「わかった、では茶を楽しみにしておる」
「そうして頂ければ何よりです」
「わかった、ではまずはじゃな」
「今も茶を煎れますが」
 こう夫に言うが。
 信之は笑ってだ、妻にこう返した。
「それはよい」
「お帰りになった時の楽しみですか」
「茶は待った時の方が美味い」
「だからですか」
「帰った時に飲む」
「生きてこの城に帰られた時のですね」
「その時は菓子も頼む」
 それもというのだ。
「そちらもな」
「承知しました、では」
「行って来る」
 こう妻に告げてだった、信之は妻に暫しの別れを告げてだった。そのうえで軍勢の場所に戻りこう告げた。
「出陣じゃ」
「はい、では」
 幸村が応える、留守の間軍勢が観ていた彼が。
「行きましょうぞ」
「城を出るぞ」
 信之が告げてだ、そしてだった。
 彼と幸村の軍勢は沼田城を出て北陸勢と落ち合う場所に向かった。その進軍中は特に何もなかったが。
 信之は幸村にだ、軍を進ませる中でこんなことを言った。
「忍城は知っておるな」
「北条方の城のですな」
「うむ、成田殿が守っておられるが」
「成田殿は北条家の名将でしたな」
「そうじゃ、しかもな」
 信之は幸村にさらに話した。
「成田殿には娘御がおられる」
「ご子息はおられる」
「うむ、姫君がおられてな」
「その方がですか」
「おなごであるがかなりの傑物という」
「そしてその姫君にですな」
「忍城を攻める時は気をつけねばな」
 まさにというのだ。 
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