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百人一首

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9部分:第九首


第九首

                  第九首  小野小町
 宮中にいるとつい外の世界を忘れてしまう。
 ふと気付くと春でしかもそれが終わろうとしていた。
 ついこの間まで雪で化粧されていた庭は今は桜が咲き誇っているかと思っていたらそれが散っていっていた。花も色褪せてしまっていて。
 その散ってしまい色褪せてしまった桜の花びらを見て思うのだった。これは自分だと。
 どれだけ美しいものであろうともいつかは色褪せてしまい散ってしまう。それが人間なのだと。そして自分もまた。何時までもこのままでは、美しいままではいられないのだ。そのことに気付き思うのだった。思えば思う程憂いは募っていく。
 その憂いを堪えることができずに。いたたまれなくなって。言葉が歌となって出て来た。その歌に今の彼女の想いを込めていた。

花の色は 移りにけりな 悪戯に 我が身世にふる 眺めせしまに

 歌を詠うその間にも花が散りそれが庭を色褪せてしまった桜色で覆っていく。地面も池も木々も何もかも。それは彼女の今の心をそのまま表わしたものになってしまっていた。儚い桜雨はそのまま彼女のところにまで来て。儚い香りを彼女にかぐわせる。けれど今はその香りをかぐだけでいたたまれなくなり。その場を去るのだった。晩春のある昼下がりの話。桜は儚く散っていく。その桜を見てこの歌が詠まれたのだった。


第九首   完


                  2008・12・7
 
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