Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-
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A's編
第百五話 幼き魔術師達の覚悟
プレシアやフェイトがいない家で、士郎とその従者であるリインフォース。
そして、アリサとその両親、すずかと忍とその母親、ノエル、ファリンの十名が向いあう中、士郎の話は行われていた。
魔術について
魔術師について
士郎自身の事である真祖と死徒について
こうして説明することは二度目だが大きな違いがあるとするなら、説明する相手が全員大人という点と魔術の危険性と魔術師の異常性、自身の在り方を隠す事無く話しているところであろう。
更にいうならバニングス家にしろ、月村家にしろ財力を持つ家として人間の裏の部分、闇を知っている。
故に士郎のような子供から出るには相応しくない言葉であっても理性で表情を隠すぐらいで出来る。
もっとも忍やファリンはまだまだ経験不足故か隠しきれていない。
だが
「そして、アリサとすずかの二人にはこの魔術を行使する素質があります」
自身の身内の事については、さすがに大人達も隠しきれず驚愕の表情が浮かんでいた。
それでも感情を露にする事はしない。
ゆっくりと呼吸し、口を開いたのは
「……この素質、私達にはあるのかしら?」
すずかと忍の母親であった。
士郎は静かに首を横に振った。
「正直、その可能性もゼロではありませんでした。
ですから失礼ながら調べさせてもらいましたが、素質を持っている方はいらっしゃいません」
「いつ調べたか聞いてもいいかしら?」
「ここは私の結界内ですので、魔術素質の有無を簡易的に調べることは出来ます。
我が家にいらしてから今までの間に勝手ながら調べさせていただきました」
いつの間にという驚きの表情を僅かに浮かべる。
「私からも良いかな?」
いち早く冷静になったのはアリサの父親。
「君がアリサやすずかちゃんと親しくなったのは魔術素養のある二人を取り込むためかい?」
その視線は今までに比べて遥かに厳しい。
士郎のことを警戒し、意図を探る視線。
アリサとすずかに素質に気がつき、自然に近づき、その力を己の為に利用する気だったのでは? という疑問であった。
「いえ、そのようなことは考えていません。
そもそも月村の方は私が魔術師であることを以前より知っていました」
士郎の言葉を確認するアリサの父親の視線に月村家の面々は静かに頷いてみせる。
「この海鳴は優れた霊地、魔術師が住み結界を張ったりする上で都合のいい土地でした。
そして、実際に住むにあたって霊脈、水脈のように土地に流れる魔力が最も豊かなのが月村邸でした。
その際にお互い何者かはっきりさせる為に私の正体を明かしていますが、その時点では、すずかの素質を調べることもしていませんし、素質があるということを考えてもいませんでした」
月村家の秘密には触れぬまま、士郎は海鳴にやってきて月村家との出会いの話をする。
実際には月村家から士郎にアプローチがあったのだが、そこは月村家に都合の良い様に話をずらしている。
「ではアリサとすずかちゃんの素質を知ったのはいつなんだい?」
士郎がアリサとすずかを利用しようとして近づいた訳ではない事に安心したのか、アリサの父親の表情は先ほどよりだいぶ穏やかになっている。
「クリスマス・イブの夜。
二人が魔導というモノに巻き込まれた日です」
「そんな最近のことなのか?」
予想以上に最近のことでアリサの父親をはじめ、皆が目を丸くしている。
士郎が裏の世界に関わることを是としない性格である事、魔術というのが存在しない、又は元の世界ほど規模が多くないと踏んだ時点で魔術師やその素質を持った者が近くにいる可能性を排除した事が故である。
「なのはは二人より更に半年程前に魔導に巻き込まれていました。
切っ掛けとなったのはユーノ、魔導師からの念話を聞いたことが始まりです。
その際、ユーノはなのはにではなく、周囲に救援の念話を行っています。
ですが、その声に気がついたのはなのはだけで、二人は気が付いていない」
「つまり、すずかとアリサちゃんには魔導師としての素質はない。
でも今回巻き込まれてしまった」
士郎の説明に察した忍の言葉に静かに頷いてみせる士郎。
「その通りです。
魔導師でもない二人が結界に巻き込まれた。
そこで考えたのは二つ。
一つは魔導、魔術を使う者と近くにいたために無意識のうちに魔導や魔術に対する耐性が付いたという事。
もう一つは魔導ではない別の素質を持っているという事。
前者はそんな例を聞いたことがなかったので、可能性が高いのは後者と考えました」
「そして、士郎君の考えは当たっていたと」
「はい。出来れば外れて欲しかったのですが」
アリサの父親に対する士郎の返事に、心から魔術という裏の世界に二人を巻き込みたくないという願いが込められていた。
そのまま、士郎は二人がどのような力を持っているのか、そして、既に魔術の鍛錬を行っていることを明かしていった。
「本当でしたら私達に魔術の素質のことを伝えてから使わせるのか相談して欲しいと思いますが、何か考えがあってのことですか?」
当然といえば当然か、二人の了解だけで既に魔術の鍛錬を行い始めていることに不満を感じていた二人の家族達。
その中で、最初の声を挙げたのは、すずかの母親であった。
「一つは素質ある者は近いモノを呼び寄せやすいという一種の特性とでも言いましょうか、何らかの形で巻き込まれる形が高いという懸念があります。
その際に自身の選択肢、取れる行動を理解してもらうためです。
自分の身は自分で守れとまではいきませんが、自分が何を出来、これがナニか冷静に思考出来れば、逃げて、生き延びる可能性が上がります。
もう一つは管理局が二人の素質に気が付いた場合です。
魔導と違う魔術という技術ですので勧誘があるかと思いますが、残念ながら管理局に魔術のノウハウがありません。
仮に勧誘に承諾したとしても管理局では魔術のノウハウを得るための道具にしかならない可能性もゼロではありません。
リンディさん達ならその辺りは信用できますが、組織の規模が規模です」
「後ろめたい事をやっていたり、考えている者がいないとは言えないか」
どんな組織にも闇の部分や灰色のところはある。
そして、それが規模に比例し大きくなるのも事実である。
ミッドであれ、地球であれ、それは変わらない。
「はい、その通りです。
ですが、私は既に嘱託という形ですが管理局に所属し、レアスキル持ちの魔導師として認定され、管理局は魔術を知るためにパイプを欲しがっています。
二人が私に師事しているとなれば、私を無視して話を進めることを管理局として容認しにくくなります。
そして、万が一、二人に害をなそうとした場合、師である私が手を出し強行手段に出ても無理を突き通しやすくなります」
ようするに、管理局や他の者が闇の書事件が一段落し、アリサとすずかに興味を引くより先に士郎の身内として取り込んでおくことを一番の目的としていた。
無論、アリサとすずかに何かあったから強硬手段に出ることが容認されるわけではないし、やり過ぎれば管理局と敵対する可能性もある。
だが既に士郎の立場は管理局の中でも派閥に属していないがパワーバランスに影響を与える鍵になる可能性がある。
未知の技術である魔術をこの世界でもっとも理解している一人であり、タカ派とハト派共にその戦闘力の高さから警戒と共に敵対を肯定せず、現在は嘱託ではあるが正規の局員として取り込みたい人材である。
特にジュエルシード事件、闇の書事件では嘱託になる以前の大きな功績であり管理局全体として士郎をよい意味で知る者は少なくない。
もし士郎が管理局を一方的に裏切り戦った場合、タカ派が一気に優位になるだろう。
だがそれはあくまで士郎が一方的に裏切った場合であり、管理局が攻撃の先手や身内への被害を出し士郎を擁護する意見が高まればハト派が優位になるだろう。
それ以外にも手を出した所属する派閥によっても状況は変わる。
そんな士郎の弟子となれば管理局としても下手に手を打つことは出来ない。
選択を間違えれば他の派閥から叩かれる原因になる。
士郎の立場を完全に理解している者はリインフォースぐらいだが、士郎が二人を守るために早急に身内として取り込んだということは理解出来ていた。
「すずかちゃんとアリサの魔術、士郎君の行動の意図も理解した。
二人のことを思ってくれたことに心より感謝する。
だが、私たちを呼んだのはこの説明だけというわけではないんだろう?」
「はい、本当のお話はここからといっても良いかもしれません。
アリサとすずかの」
「待って、士郎君」
今まで静かに士郎と自身の家族との会話を聞いていたアリサとすずかであったが、すずかから待ったがかかり、二人でアイコンタクトを交わす。
「ここからは私達から話をさせて下さい」
「私とすずかの進む道の事だから」
士郎は静かに頷いて見せる。
「私とすずかはこのまま魔術師への道を歩もうと思ってます。
今はなのは達みたいに管理局に入ったりはしません。
だけど」
「この力を正しく覚えて使いこなして、義務教育を過ぎた時に、士郎君の弟子としてしっかりと横に立ちたいと思っています」
アリサとすずかの進む道。
魔術師として士郎の弟子として付いて行くという宣言。
あまりに予想していない言葉に二人の家族は目を丸くし、顔を見合わせ、二人を見つめる。
静かに、そして覚悟を確かめるように見つめ、交わされる視線。
その中で二人の瞳は揺らぐ事無く、静かにだが確かな力を秘めて輝いていた。
「二人とも戦って命の危険に晒されるかもしれない。
そして、自分自身が誰かの命を散らすことになるかもしれない。
それを理解して、その覚悟もあるんだね?」
「はい。
誰かの命を奪ってしまうことも、自分の命を奪われることも怖いですし、きっと誰にも見せることが出来ない姿なんだと思います」
「でも、そんな姿になっても私たちは突き進みたい。
この想いを貫きたい」
恐らく命のやり取りなどその場に立たねば本質は理解できないであろう。
それを理解し、イメージでは足りないとしても、すずかとアリサの二人は覚悟を持って立って見せると覚悟を決めていた。
アリサの父親は自身の妻とすずかの母親に視線を向ける。
先に口を開いたのはアリサの母親であった。
「正直、二人の目を見てから……いえ、アリサの目が変わったときからいつかそんな話が出るんじゃないかと思っていたけど、親としてはすごく、本当にすごく心配よ」
アリサは母親の心配そうな顔に謝るという選択肢があったが、両親が心配させてしまうことを理解した上で選択した。
だからこそ、それを正面から受け入れながらも謝りはしなかった。
「でも同時にそれだけ強い覚悟と想いを持って道を決めたのは嬉しく思うわ」
親に自身の覚悟を認められ、安堵と共にアリサの瞳に涙が浮かぶ。
伝えるべきことは伝えたと頷いてみせるアリサの母親
「すずか、正直生半可な覚悟では行かせるつもりはありません。
一度、境界を超えたら最後、どれだけ渇望しても戻ることは出来ず、そして月村に戻ることすら出来なくなるかもしれない。
それでも覚悟は揺らぎませんか?」
「はい。
私はこの道を進んでいきます」
月村に戻ることが出来なくなる。
そんなことを言われても、すずかの答えは一切の迷いもなく、ただ真っ直ぐであった。
その応えに満足するように頷き、アリサの両親と僅かに視線を交わし、満足したようにもう一度頷いた。
「衛宮士郎さん。
未熟者ですが、娘を、すずかをよろしくお願い致します」
「アリサのことをどうかよろしくお願い致します」
「至らぬところ多々あるとは思いますが、どうか、娘をよろしくお願い致します」
「妹を、すずかをお願いします」
「「すずかお嬢様をお願い致します」」
すずかの母親、アリサの母親、父親、忍、ノエルとファリンが深々と頭を下げ
「未だ未熟者ではありますが、この身にかけてお約束致します。
二人が真っ直ぐ進んでいけるように」
「我が主、士郎の従者として、お二人を微力ながら支えさえていただきます」
士郎とリインフォースが同じように頭を下げ
「改めて、これからよろしくお願いします」
「未熟な弟子ですけど、よろしくお願いします」
最後にアリサとすずかが頭を下げる。
こうしてアリサとすずかの二人は正式に家族公認の下、士郎の魔術の弟子となった。
最後に二人の魔術師のことは管理局から何らかの問い合わせがあるか、士郎が義務教育が終わった後も管理局に協力する場合のみ、明かす事にすることに話がまとまり、今夜の会合はフェイトとプレシアが戻ってくる前に静かに終わりを迎えた。
管理局が士郎に弟子が二人も出来ていたことを知り、また一波乱あるのは少し先の別の話
後書き
どもども、セリカです。
今回も何とか一ヶ月で更新できました。
なかなかペースは上がりませんけどね・・・
さて、今回はアリサとすずかの両親の説明+アリサとすずかの弟子入り承認になります。
正直、小学生がここまで覚悟決めれるのかと聞かれると、さあ?としか言えなくなります。
少なくとも私が小学生の時にはこんなこと考えたこともありません。
あとすずかの母親、アリサの両親はサウンドステージにも名前だけの登場でしゃべり方などは完全にオリジナルです。変なところがあったらごめんなさい。
これでA'S編はおしまい・・・かな?
次回からたぶんPSP編になるかと思います。
なんでこんなあいまいかというと思いつきでネタを書くことがあるからです。
無印の最後にも幕間思い付きで書いてしまいましたし
相変わらずリアルはバタバタ気味で、ペース上がりませんが、最低限、このペースは守っていきたいと思います。
それではまた一ヵ月後にお会いしましょう。
ではでは
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