最後の無頼派
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第二章
「あの人じゃないんだ」
「芥川だね」
「そう、芥川みたいに弱くあれ」
太宰はあくまで言う。
「そしてこうして家族を放ったらかして飲む」
「家庭の幸福は、だね」
「諸悪の根源さ」
この考えについてはこう言うのだった。
「まさにね」
「だからだね」
「そう、僕はね」
まさにというのだ。
「ここでまずい酒を飲んで」
「書くんだね」
「書きたいものをね」
「それでいいんだ、これまであるものは」
それこそとだ、坂口も言った。
「全部なくていい、どうせ嘘ばかりなんだ」
「嘘だからだね」
「そんなものは燃やしてしまえばいいんだ」
坂口は石川に言い切った。
「全てね」
「それこそ」
「そう、これだけ焼け野原になったんだ」
今の東京のこともだ、坂口は石川に言った。
「それならだよ」
「もう何もかもを」
「そう、燃やしてしまってだよ」
そうしてというのだ。
「新たにね」
「書いていく」
「そうするべきなんだよ」
「確かにね、僕にしても」
石川はウイスキーを普通に飲みつつ話した、太宰や坂口と違って好きでないものを無理に飲んでいる様子はない。
「新しいものでないとね」
「君も駄目だね」
「そう、やっぱり戦争が終わって」
そしてというのだ。
「一気に新しくなりそうなんだ」
「それならだね」
「そう、一気にだよ」
それこそとだ、石川はまた言った。
「変えていくべきなんだが」
「それがね」
「そう、志賀直哉にしても小林秀雄にしても」
そうした文壇の大家達がというのだ。
「もうね」
「規定観念なんか燃やして」
「そして書いていくべきだよ」
「そうなるね」
「そうだね、本当にあれだよ」
ここでだ、太宰がまた言った。
「志賀直哉、小林秀雄、川端康成」
「そうした人達はね」
その太宰にもだ、石川は応えた。
「もうだね」
「そうだよ、僕達は僕達の作品を書いていくべきだ」
「僕達の考えるね」
そしてだ、ここでだった。
石川は自分達の顔触れを見回してだ、こう言った。
「檀君や田中君も一緒だろうね」
「その考えはね」
「そうだね」
檀一雄、それに田中英光だ。彼等もだ。
「彼等もそうした考えだね」
「僕達は結局あれだよ」
織田も言う、顔が薄暗い、それは照明自体がそうである為にそうなっている店のその中でもわかる位に白い。
「アウトローでね」
「そのアウトローとしてだね」
「自分達のものを書いていくということだよ」
「それが僕達のあり方だね」
「作家としてね、まあ世間ではね」
織田はこうも言った、ウイスキーの飲み方は太宰や坂口よりも辛そうだ。
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