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カシュック=オユヌ

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第一章

                 カシュック=オユヌ
 昔々のお話です。
 トルコがまだオスマン朝という王朝に治められていてその治世がとても栄えていた時のことです。シリフケという場所を一人のスルタンが治めていました。
 スルタンはとても大きな宮殿に住んでいていつも美味しいものを食べて奇麗な服を着ていました。それでいていつも領民のことを考えた寛大で公平な政治をしていて貿易や開墾、灌漑にも力を入れていたので皆から慕われていました。
 両親や兄弟姉妹も皆仲がよく素晴らしい使用人達に囲まれてとても幸せに暮らしていました。ですがスルタンには一つ悩みがありました。 
 血色のいい程よい肉付きのお顔で、です。スルタンはよくこうぼやきました。
「奥さんがいないかな」
「ハーレムを持たれてはどうですか?」
 召使の中で一番優れていてスルタンも頼りにしているアリババが言いました。
「そうされては」
「ハーレムかい?」
「はい、一人の奥さんを言わずです」
 それこそというのです。
「多くの奥さんを持たれては」
「僕はそうしたことは趣味じゃないんだ」
 スルタンはこうアリババに答えました。
「コーランでは奥さんは四人まででだね」
「はい、スルタンでしたら」
「ハーレムも持てるね」
「何でしたら用意しますが」
「奥さんは四人いたら四人共公平に愛さないといけないんだよ」
 スルタンはアリババにこのことを言いました。
「政治では公平に出来ても」
「奥さんについては」
「それが出来るかな」
 とても難しいお顔で言うのでした。
「そう思うから」
「だからですか」
「うん、奥さんはね」
「お一人ですか」
「僕は一人の奥さんをずっと愛していきたいんだ」
 こう言うのでした。
「とても素敵な人を」
「素敵な方を」
「そう思っているんだ」
「それは難しいことですね」 
 アリババはスルタンのお話を聞いて言いました。
「とても」
「一人の素晴らしい人を愛することが」
「この世の中には素敵な方は沢山いますが」
「それでもかい?」
「はい、とてもですね」
「うん、とてもだよ」
 ただ素晴らしいだけでなく、というのです。
「そうした人と出会ってね」
「そして一生ですね」
「愛していきたいんだ」
「それはもうアッラーにお願いするしかありません」
 神様にというのです。
「アッラーは人を常に観ておられます」
「僕もだね」
「はい、アッラーに心からお願いすれば」
 それでというのです。
「聞き届けられるかも知れません」
「それじゃあアッラーにお願いするね」
「アッラーはその人それぞれを常に観ておられますが」
 さらに言うアリババでした。
「スルタンはいつも領民の為に心を砕いて自ら動かれて政治をされて悪い者は必ず懲らしめます」
「それは普通じゃないかな」
「いえ、世の中その普通のこともです」
「しない人が多いんだね」
「残念ながら、しかもスルタンは私達にもお優しく」
 誰も叱られたことすらありません、いつも穏やかで優しくしてもらっています。
「ご両親やご兄弟姉妹の仲もいいので」
「それでかな」
「毎日非常にいいことをされていますので」
 だからというのです。 
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