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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第63話:モブらはみんな生きている 四

 
前書き
♪モブらはみんな生きている 生きているけど目立たない♬
♪モブらはみんな生きている 生きているけど知られない♬
♪手のひらを太陽に掲げてるポーズは 主役級が良く似合うのさー♬
♪男だ~って 女だ~って 町の人だって~♬
♪みんな みんな 目立ちたいんだ 知られたいんだー♬ 

 
(グランバニア城)
テレサSIDE

昨晩、上級メイドのマオさんの送別会を行った。
彼女は私と同じ時期にメイドになり、その類い希なる才能と信頼を評価され、メイド最上位ランクの上級メイドへと進化した女性だ。

だが彼女は、故郷の両親が病気で倒れてしまい、看病の為に帰らなければならないのだ。
ご実家はラインハットの片田舎にあり、とても貧乏との事。だからこそあれほどまでに一生懸命に働き、優秀なメイドとして信頼を得ていたんだと納得できる。

何故ならば、私とはメイドになった動機からして違うのだ。
私がメイドになった理由は……ウルフ様のお側に居たかったからー!!
動機が不純すぎて、余り大きな声では言えません。

思い返すは3年前……
義務教育課程を修了し、今後の進路に頭を悩ませてた頃……就職先を見つける為に色んな商店を尋ね歩いていて、何時の間にやら夕暮れも過ぎ去っていた時です。

お酒に酔った中年のおじさん等が私に絡んできたんです。
そんな美人でもない私に群がるなんて、相当酔ってたんだと思います……まぁ『就職先が見つからないし、風俗でも良いかなぁ……』なんて安易な事を考えて、怪しい繁華街に迷い込んでいたんですけどね。

場所柄的にソッチの女と思われた為、『なぁ幾ら払えば、この場でヤラしてくれるぅ?』と複数の男に羽交い締めに遇ってた時、突如ヒーローは現れたのです。
『コラ、ハゲちゃびん共! 女の子のナンパの仕方を知らんのか?』

確かによく見ると、皆さん薄めの方が多かったのですが、2人を蹴り飛ばし猛獣(エロオヤジ)の中から私を助け出すと、左手に巨大な火の玉を発生させて彼等を恫喝しました。
それを見た微酔い薄毛エロオヤジ達は、すだれなヘアースタイルを振り乱し逃げた行ったのです。

そして神々しいまでの笑顔で私を見詰めると、『やあ、俺ウルフ。ここら辺に紫のターバンを巻いたイケメン来なかった? 探してるんだよね……あのオッサンを』と語り掛けてきたのです。
実際問題それらしき人は見てないので何も答えられなかったが、それ以上に彼の格好良さに言葉が出なかった。

その後、イケメンヒーローのウルフ様に手を引かれ、人通りの多い大通りまで連れてってもらうと『あまり人気の無い場所には行かない方が良いよ』と忠告され別れました。
翌日に友人知人に聞きまくり、ウルフ様の情報を仕入れると、そのままの勢いで城へ駆け込みメイドになったのです。

ウルフ様は色々と噂の絶えないお人です。
能力は紛れもなくあるのだけれど、あの若さで国王陛下から絶大なる信頼を得ている。
その為か、姫様方との関係を含んだ噂が多く飛び交っている。

数週間前に発生した“シージャック事件”の時も、犯人側を騙す為にリュリュ様との許嫁関係を広めたが、未だに信じている者が多数存在している。
にも拘わらず、先日目撃された美女とのケーキデートの所為で、上司のように幅広く女性関係を展開してると噂されている。

これらの噂が消えないのは仕方ない事だと思う。
だってウルフ様……格好いいんですモノ!
私と初めて会った時は、数分しか一緒に居られなかったのに、メイドになって再会した時『あれ? 君……何時ぞやにハゲちゃびん共等からナンパされてた()だよね。メイドになったんだ』と忘れないでいてくれたの。

「こら、手が止まってるぞ。昨晩の酒が残ってるのか?」
私が窓を拭く手を止め、ボーッと空を眺めながらウルフ様の事を考えてると、同期メイドのグレースが話しかけてきた。

「ち、違うよぉ~」
「じゃ、またウルフ様の事を考えてたな」
図星である。彼女とは仲が良く、私がウルフ様目当てでメイドになった事も知っている。

「まぁ~……そんなとこ……」
「やれやれ……メイド長に見つかったら、また怒られるわよ。上級メイドが急に居なくなって、お偉方は大変みたいなんだから……ましてやマオの退職には、ウルフ様が絡んでるって噂もあるんだから」

「何、それ!? 如何いう事??」
何でウルフ様がマオさんの退職に関係してるのよ!?
故郷の両親が病に倒れたのが退職の理由じゃないの?

「昨晩の送別会に、王家を代表してウルフ様がお見えになったでしょ」
「来たわ……私は、あの時点でウルフ様にしか目が行かなくなったんだもの」
そう、送別会の主役を無視して、ウルフ様の近くで飲むチャンスを覗っていたのだ……ただ、お帰りになるのが早すぎて、隣で飲む事は出来なかったけど。

「マオがね……ウルフ様が来た瞬間に顔を顰めたのよ。常に顔色一つ変えない上級メイドが、ウルフ様の登場で顔を歪めたの!」
「……それが何よ?」

「解らない? マオとウルフ様は付き合ってて、マオの方から求婚したんだと思うの。でもウルフ様は王家入りの為に姫様の誰かとお付き合いしてて、断ったんだと思うわ。王家に入る事を野心として持ってる男に、求婚してきた平民の女は邪魔よね。付き合ってる事を姫様に知られたら大問題だもの。……で、地位を利用してマオを辞めさせたんだと噂されてるの」

「そんな……ウルフ様がそんな酷いことする訳ないわ!」
「如何かしらねぇ……ちょっと前に噂になったケーキデート美女との事で、随分と姫様に言い訳してたって言われてるわよ。変な噂が立つのを極端に嫌がってる節があるけどねぇ……」

「でも、それだけの理由で優秀なメイドをクビに出来るの?」
「さぁ……私には判らないわ。でも彼には、それだけ権力(ちから)があると思うわよ」
そうかもしれないけど……マオさんの辞職は別の理由よ! きっと……多分……

「まぁそんな事より、上級メイドの職に空きが出来たけど、アンタ挑戦するの?」
「当然でしょ! 前回だって名乗りを上げたけど、ユニさんに落とされたんだもの……今回こそは合格してみせるわ! そしてマオさんみたいに、ウルフ様の愛人になるの!」

「そんな志で合格するの? また不適格者として落とされるんじゃないの」
「人格的に不適格なのは、陛下への憧れを抱いてる女でしょ。私は陛下には邪な感情ないモン。十分すぎるほどの適合者だと思うわよ」

「アンタねぇ……前任者が何でクビになったか考えなさいよ」
「解ってるわよ。ウルフ様との愛人関係で満足してれば良かった訳でしょ! 私は大満足。結婚? いいえ……愛人で結構です。王家入りを果たして、私を囲ってくださいまし!」

「お前等、大声で何て話をしてるんだ!?」
「あらウェイン。見回り兵士の貴方が、こんな所で何してるの? サボリ?」
何処からともなく現れた恋人のウェインに、軽口で対応するグレース。

「見回り兵士なんだから、真面目に仕事してれば色々な場所に現れるさ。大声で無駄話してる君に、サボってると指摘されるのは心外だな」
確かに……私達は一切仕事をしてないわ。

「私はこの()の将来の事で、一緒に悩んであげてるから良いのよ」
「理屈がイマイチ解らんが、こんな所でサボってる限り、上級メイドに合格する事はないと思うぞ」
考えないようにしてたのに……

「陛下への邪な感情の有無は、上級メイドへの資格の一つでしかない。仕事をサボるのではなく、自ら見つけに行ける()こそが、上級メイドになれる資質の持ち主だと思うよ」
「随分と解ったような事を言うじゃない」

「実はさ……陛下・ウルフ殿・ブレンダさん・ユニさん等4人が上級メイドの事で会話してるのを聞いちゃったんだ……って先輩から話を聞いた」
「何だオイ、ややこしいな……まぁいい、私らにも聞かせてみんしゃい」

「陛下が『別に上級メイドとかって要らなくね?』と言い出したらしい」
「リュカ様らしいわね。自分の事は自分で出来ると言って、あまりメイドに頼らない方ですからね」
王様っぽくないのがリュカ様なんですよね。

「だがそうなると、王家の周りで働くメイドが居なくなり、掃除とかを陛下等が行う事になるんだ。そうなると綺麗好きな陛下は、政務を無視して掃除に勤しむ可能性があり、ウルフ殿などが青筋立てて激怒する事になる」

「確か……上級メイドなる役職が確立したのも、陛下に政務以外の事をさせない為ですもんね」
「そうなんだよグレース。王家の周りで仕事するとなると、重要機密を耳にする事もあり、口が堅い事が絶対条件となる。そして陛下が政務以外の事柄に気が行かないように率先して炊事・洗濯・掃除などを熟し、尚且つ陛下に口説かれても靡かない女性であることが、上級メイドに求められている資質なんだ」

「大丈夫です、私は口が堅いです! 資質完璧」
「あのねぇ……(テレサ)の口が堅いとしても……陛下に口説かれても靡かないとしても……通常メイドの仕事すらサボってるようじゃ、間違いなく受かる事はないぞ」

「上級メイドになればサボりません!」
「何時もの仕事ぶりを考慮に入れて、上級メイドの選考をしてるから、そんな事を言ってもムリだね」
はぁ~……この人、言いたい事を言うわぁ……

「兎も角……超優秀な人しか上級メイドにはなれないのだから、サボってばかり居ちゃダメだよ!」
絶望感が顔に出てたのか、ウェインさんは私にフォローっぽい事を言って慰めてくれた……みたいな感じで逃げてった。

「あのヤロー、言いたい事だけ言って逃げやがったな。テレサ安心して……今晩とっちめてやるから(笑)」
そんな事を言ってるが、夜になればイチャ付くだけなんだろうな……
いいなぁ……私もウルフ様とイチャ付きたい!

テレサSIDE END



 
 

 
後書き
ウルフにまたもや浮気の予感……って思った人、よくサブタイトルを見てね。
「モブらはみんな生きている」だよ。
多分、もう登場しないよ。
 
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