グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
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第61話:嘘吐きは泥棒の始まり。税金泥棒も然り。
(グランバニア城・国王応接室)
ウルフSIDE
朝早く……皆が出仕してくるよりも早い時間。
ユニさんとオジロン閣下が、応接室へと呼び出された。
もう少しすればマオさんが怒鳴り込んでくる予定なので、その前に色々説明する為だ。
3人座れる横がけのソファーがガラステーブルを挟んで向かい合うように2つ配置されてる。
応接室の入って左側の奥にリュカさんが座り、その手前に俺が座る。
リュカさんの正面にはユニさんが座り、俺の正面にはオジロン閣下が座って不安そうな表情を浮かべている。
2人とも何があったのか気になるのであろう。
朝も早から上司に『大至急、応接室に来い』と言われ、朝食も食べずに来たと思われる。
流石に飯抜きは申し訳ないと思ったのか、ビアンカさんに頼んでサンドイッチとコーヒーが2人には用意されている……が、呼び出された用件が気になって2人とも手を付けていない。
「陛下……早朝からの呼び出し、如何致しましたのでしょうか?」
「いやぁ~……朝っぱらから悪ぃね。ちょっと昨晩、事件があってね」
オジロン閣下の問いに、何時もの軽い口調で答えるリュカさん。
「昨晩、金庫破りにあった」
「何ですと!?」「そ、そんな!!」
リュカさんの軽すぎる口調に油断してた2人は、突然の大事件報告に動揺を隠せない。
「安心して、何も盗まれてないから。このヘッポコ泥棒は大失敗しただけだから」
「オジロン閣下は解りますよね。金庫が破られたけど、失敗したって意味」
「え、ええ……意味は」
オジロン閣下もダミー金庫のことは知っている。
なんせ金庫解錠の有資格者の一人だから。
言葉を濁してるのは、金庫関係について何も知らされてないユニさんが同席してるからだ。
……こんなに慎重なのに、マオさんには教えちゃったんだよなぁ。エロ爺め!
「ユニ。君は知らないだろうけど、ウチの金庫にはダミー金庫ってのが存在して、今回の泥棒もダミーの方を破って僕等に見つかったんだ。だから安心して良いんだよ」
リュカさんは優しくユニさんを宥めるが、早朝に呼び出され金庫が破られたと聞いて、安心できる訳も無い。
「ユニさん、オジロン閣下……誰が金庫破りをしたと思います?」
「さ、さぁ……私には……」
「うむ。ワシにも見当が……はっ、もしかして!?」
「おやおや。オジロンには心当たり大有りかな?」
「そりゃ大有りでしょうリュカさん。この2人を呼び出して金庫破りがあったと知らせてるんですから、2人に共通する人物ですよ。まぁユニさんには心当たり無いだろうけどね」
「も、申し訳ございませんでした陛下!」
完全に誰が犯人か理解したオジロン閣下は、凄い勢いでテーブルに手を付くと、眩しい後頭部をこちらに向けて謝ってきた。
当然だが、この慌てぶりを見る限りマオさんの正体に気付いてなかったらしい。
「オジロン……良いんだよ謝んなくて。君達の関係は解っていて放置しておいたんだから。このヘッポコ泥棒を罠に嵌める為に」
オジロン閣下とは裏腹に、まだ状況が見えてこないユニさんは困惑顔のままだ。
「ユニさん……オジロン閣下はね、在るメイドと肉体関係を続けていたんだよ」
「それは知ってます。相手はマオですよね? オジロン閣下の態度で公然の秘密になってま……まさか泥棒って!?」
あぁこのオッサンの態度の所為で、2人の関係は知られていたか。
「そうなんだよユニ……マオが金庫破りをした。つーか、マオは金庫破りをする為にグランバニアに働きに来たんだ」
「そ、そんな……私……と、とんでもない人物を上級メイドに推薦してしまいました!! も、申し訳ございません! リュカ様のご迷惑になることをしてしまいました!」
これまた深々と頭を下げて陳謝する来客者。
「ユニ、良いんだって謝らなくって。ほら頭を上げて……ってか泣かないで!」
女の子に頭を下げられるのが心苦しいリュカさんは、慌ててユニさんの体を起こさせた……でも涙流して謝罪してることに動揺している。
「あのね2人とも、ホント勘弁して。僕はマオがこの国に来た時から、泥棒だと判ってて泳がせてたんだよ。逆に謝るのは僕なんだ。判ってて泳がせて、2人を利用させるように利用したんだからさ」
難しい言い回しだが、マオさんが2人を利用するようにリュカさんが仕向け、結果的にリュカさんが全てを利用してって意味だね。
「それにさ、僕は喜んでるんだよ。まんまと罠に嵌めることが出来て。ユニがマオを上級メイドに推薦してきた時は、抱き締めようかと思ったほど嬉しかったね。オジロンのマオに対する落ち着かない態度を見た時も、息子が初めて彼女とヤった時ぐらい嬉しかったね」
言い方が生々しいな。色香に騙されて煩悩に従った唯の爺に対して……
「でも……」「しかし……」
2人とも納得いかない表情でリュカさんに視線を向けている。
そんなタイミングで真打ち登場(笑)
(バン!!)
「おいコラ金髪野郎! 貴様だろう、私の部屋に侵入したのは!?」
マオさんが何時ものメイド服で、この部屋に乗り込んできた……お怒りを身体全身に纏いながら。
「何かねいきなり? そんな事より、昨晩の約束は如何した? ラーの鏡を持ってきたんだろうな(笑)」
「お前が盗んだんだろう金髪! 私の部屋の隠し金庫に、お前が描いたラーの鏡の絵が入ってたぞ!」
「まぁ酷い。俺の絵が在ったってだけで、泥棒扱いされちゃうなんて、ウルポン哀しい」
「黙れクサレ金髪……」
肩をワナワナ振るわせ、怒りを俺に向けるマオさん。
「お前が盗ったんじゃないのウルフぅ? ほら顔に書いてあるよ」
リュカさんは楽しそうに俺を疑うと、懐からラーの鏡を取り出し俺の顔を映した。
「どれどれ……う~ん……書いてないじゃん! イケメンしか映ってないじゃん!」
俺は俺で、その鏡を見ながらコントを続けて行く。
「き、貴様等2人の仕業か!? 如何やった!? 如何やって私の部屋へ侵入し、隠し金庫の場所を探し当て、特殊金庫の鍵を開けた!?」
「プロの泥棒だろ。そんくらい自分で調べろよ……」
「ふざけるな……あの金庫は私のブラに付いてる金具を鍵にしてるから、お前等じゃ盗むことが出来ないハズなんだ!」
へー……ブラの金具が鍵なんだぁ。そりゃ俺等にはムリだわ。
「おいおいお嬢ちゃん。君のブラを入手できる人物が、此処に一人居るだろう。お嬢ちゃんの身体に現をぬかすマイペットだと思ったら大間違いだぞ。我が家を舐めてもらっちゃ困るなぁ(笑)」
これはキクぅ~! 完全なハッタリなんだけど、制御下に置いて居たと思ったオジロン閣下も、実は自分を嵌める駒だったなんて最悪だよね。
「そ、そんな馬鹿な……だ、だって……あんなに……」
「あ……いや……」
「オジロン。君が罪悪感に苛まれる必要は無いよ。ユニと同じく僕の指示通り行動しただけなんだから……まぁ身体を重ね合って情が移ったかもしれないけどね」
「ちょ、ちょっと待て……『ユニと同じく』って……このアホ女も、私のことを知ってたのか!?」
「ア、アホ女!?」
「そうだよ。お前はこのアホ女以下なんだよ! その事を弁えて喋れ」
マオさんに『アホ女』と言われ、顔を顰めていたユニさんだけど、リュカさんが頭を撫で彼女の事を貶してくれたから、凄く嬉しそうにしている。
でもアホ女を否定はしてないんだけどなぁ……
それにしてもリュカさんは凄い。
ユニさんもオジロン閣下も完全にマオさんに騙されてた側なのに、二人の態度と状況を利用して、あたかも皆して芝居してた態を構築しちゃった。
これでマオさんは完璧にグランバニアには敵わないと錯覚するだろう。
壮大な敗北感を滲ませ立ち尽くすマオさんに、リュカさんは爽やかな笑顔のまま無言で指差しソファーに座らせる……ユニさんとオジロン閣下の間にだ。
もう逆らう気力が無いマオさんは、黙って従う。
黙って従ってるがマオさんは居辛そうだ。
そりゃ当然だろう……ユニさんもオジロン閣下も完全に騙されていて怒ってるのだが、リュカさんの策略で“実は知ってたんです”ってな感じになってるので、文句の一つも言えず唯々黙って睨むしか出来ない。
2人の間に座ったマオさんは、その無言が重圧になり敗北感を増大させる。
後でもう一度リュカさんに伝えよう、俺の気持ちを……
アンタ本当に性格悪いよ……と。
ウルフSIDE END
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