剣士さんとドラクエⅧ 番外編集
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もしもトウカが剣士さんじゃなかったら4
あぁ私は弱い。そういうことをこの旅では何度も突きつけられたよ。オディロ院長の死を何も出来ずに見ているだけで、何故か目をつけられドルマゲスに吹っ飛ばされるだけ吹っ飛ばされて。怪我を治してもらったのに心が痛くて痛くて仕方がない。涙がこぼれそうだけど、私はあいにく泣くことは出来ない人間だ。
だから俯いて、目立たないようにしていることにした。今はなるべく人と話したくない。そんな感じだ。
新たな仲間、ククール。自信に溢れるその言動は眩しくて、きっとすぐにヤンガスみたいに他人行儀になってしまうのだろうけど、せめてゼシカみたいに気安く話して欲しいな、なんて勝手に思いつつも彼が喋るのを見ていた。手にぴったりくるグローブを嵌めたまま拳をひたすら固めて。なんとなく不意打ちが来るかなと思って身構えていたのだけど、それは正解だった。
「改めて、俺は聖堂騎士のククールだ。よろしくな」
「うんよろしく。僕達の紹介、いるかな?」
「……あーーっと。エルトにゼシカ、ヤンガスだろ?で、そっちのレ」
「……ボク?」
やっぱりだ。彼とほとんど話もしなかったし、私の名前をわざわざ彼の前で言うことなんてなかったから私の事は知らなかったんだろう。彼に聞かせるのは申し訳なくて、私は割り込むように口を開いた。
「ボクはトウカだよ。よろしく」
「あぁ」
それにしても目立たないようにしていたのにそれでもわざわざ気を使ってくれるのは優しいな。態度も堅くないし。ちょっと嬉しい。
出来る限りにっこり笑ってみたら、どうだろ、八十点かな。それでもククールは笑い返してくれたし、純粋にそれは嬉しかった。ヤンガスとか目を逸らすもの。エルトはそもそも笑うことすら許さない堅さ。ゼシカはなぜだかこっちにこないし。仲良く、なれたらいいな。
すぐに後ろに引っ込んだからこの濃いメンバーに大人しいのがいるんだな、なんて軽口を叩いたのにみんなが微妙な態度で返事をしたのに気づかなかった。だいぶ後、話せるようになったエルトに怖かったんだと告白されることになる。でも私はブーメランでライティアを狙うエルトの方がよほど怖かったけれど。それはまた、別の話。
・・・・
「あ、魔物」
新しい仲間のククールとぽそぽそ取り留めのないことを話しながらアスカンタに向かって進んでいると、魔物が私たちの前に飛び出してきた。見慣れないオレンジ色のスライム、つまりスライムベスや黄緑のスライムに乗ったスライムナイト。そいつらに囲まれてしまった。
ククールって、私はマシュマロが好きなことしか話してないのにもう軟弱さに気づいてくれたみたいで、魔物に気付くと騎士らしく、守って魔物から遠ざけてくれた。嬉しい、旅の始まりの頃ならこのまま守られていただろうね、それぐらい嬉しかった。
でも私、戦わないといけないから。ありがとうククール。ククールも私と一緒に戦ってくれたら守らなくていいよ。私はこいつらを撲殺しないと気が休まらない。
私は力がない。ちょっとずつ付いてきたかなって思うけど、うろこの盾を装備しながら戦えるほど腕力がないんだ。皮の盾ならいけるかな、でもあっても煩わしいだけだろうし。
つまり私は何で補ってるかって、手数。馬乗りになればダメージは増すし、トゲを突き刺せればさらにいい。
「ーーーーーっ!!!!」
息を殺してククールの懐から飛び出す。拳を構え、飛び出してきたスライムベスを空中でぶん殴る。うまいことその拳はスライムベスを貫通して、ぼたぼたぼたっと形を留めれなくなったらしい液体が地面に垂れた。口元がにいっと、釣りあがるのがわかる。
幸いというか、なんというか、それを見たのはククールじゃなくてヤンガスだった。わかりやすく目を逸らされたけど、頭は構わない。戦えればそれでいい。殺せれば言うことなし。
「……あはっ」
一撃で倒せるのはいいことだ。次の魔物を殺す時間が出来たってことだから。でも悪いこともあるよね、私の闘志が少しも満たされないし、胸の中で燃え上がった炎が消えないんだから。
目を光らせて迫ってくるスライムナイトが三匹。めいめい構えた剣が私の目を潰さないことだけは注意して、……それだけ。
あとはどこを斬られようと関係ない、刃を向けられて体が恐怖に支配され、怖すぎて、歯がガチガチと鳴る。なのに、なのに、私は、……愉快だ!愉快でたまらない!
腕が切り裂かれるのも構わずスライムナイトの本体を渾身の力でぶちゅりと踏み砕き、首根っこを掴んだ小さな体を地面に叩きつけ、踏みつける。後ろからほかのスライムナイトに斬られてもどうでもいい。反抗されようがその体に何回でも、何回でも、何度も何度も殴っていればいつか動かなくなるんだから。
スライムナイトもスライムベスも、血が赤くないから見た目が派手にならなくていいよね。派手なのは目立つから嫌いなんだ。魔物の血塗れで街に入っただけなのに悲鳴をあげられるのって嫌だもの。殺人鬼と間違えられてもね……違うよ。
私、怖がりで臆病者で軟弱だから人間に恨みがあったって殺れないし。ちょっと殴ったら魔物が死んじゃっただけなのに大袈裟な!だいたい刃物も使ってないのにさ。
声を上げて笑うのはなるべくしない。目立っちゃうのは嫌なんだ。でもね、でもね。私、我慢したって百点満点の笑顔はやめられない。引っ込めたくても戻らないもの。殴り殺すってやっぱり正解だ。だってちっとも怖くないんだよ。
「……猟奇的」
「ククール。あれはまだまだ可愛いお姿だよ。あれは愛犬と戯れてるってところ、だから」
「ハッ、だからお前達遠巻きなのか?」
「……すぐに分かるよ。悪いお人じゃないから、話すのはあまり問題ないけど、外に出たら、近寄らない方がいい」
「ごめんだな。あの柔肌に怪我してるっていうのに」
「……柔肌……?」
死んだスライムナイトだったものを蹴り捨てていただけなのに後ろから話しかけられてびっくりしてしまった。肩がビクッてなったのに笑われて、あぁ、誰かと思えばククールだ。
「怪我してるだろ、ちょっと出せ」
「……え?」
最初の頃のエルトみたいに、傷に向かってホイミを唱えてくれた。そのくせ最初のエルトと違ってすぐに背を向けないんだ。なんで?
「あのな。怪我しに行くのは違うぜ」
そして肩を掴まれる。真面目な目に、父上みたいに私をまっすぐ見て、私に、私に、目を逸らさず話しかけた。私はといえば、ヒィと言いそうになったのを必死に飲み込んでいた。
「怪我っていうのは見てる方も痛いだろ。負ったやつはもっと痛……」
「ありがとう!」
怖かったけど、ククールは優しい人だって分かった。私とお話もしてくれる、必要ない敬語だってしてこない、でもごめんなさい、私人間と目と目を見つめ合うと恥ずかしいし怖いしで……、これが魔物だったら今頃五発ぐらい殴れてるところだけど。
「怪我、しないようにするね」
だから本当にごめんなさい、もう少し離れてお話させてくれませんか。そういう気持ちを込めて数歩下がって見上げれば、何故かククールは哀愁を漂わせてそこにいた。
「……あ、私対人恐怖症で……」
「対人、ね……」
「魔物とかは撲殺できるけど……」
「あぁ……」
「もう少し、離れてお話しよう?」
なんて言ってたら飛び出してきたはぐれ幻術師に私の思考は奪われた。胸のトキメキは拳に込めて。一発じゃ到底倒せないから、馬乗りになって何度も何度も。普通の魔物より柔らかい手応え、癖になりそう。吹き出す体液が顔にかかったのは拭うけど、体中ベタベタになってもまぁ仕方ない。服はちゃんと洗うけどそれはだいぶあとかなぁ。
だから言ったのに、と言う言葉が聞こえた気がしたけど、戦闘が終われば私はさっきと同じようにククールの隣で取り留めのない話の続きをしたんだけど。何故か、ククールは目を逸らさなかった。
その時は。
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