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火砲・ミサイル解説解説(日本編)その2
「93式近距離地対空誘導弾」(240両)
種別:自走式近距離防空ミサイル・システム
全長:約4.9m
全幅:2.1m
発射重量:11.5kg
主武装:SAM-2 4連装発射機2基 (8発)
最大有効射程:5000m
93式近距離地対空誘導弾は、従来の35mm2連装高射機関砲L-90の後継として陸上自衛隊に配備された、
自走式の近距離低空目標用の簡易型ミサイル・システム。
アメリカ陸軍が運用しているアベンジャーシステムと似たシステム構成だが12.7mm重機関銃M2は装備されておらず、
発射機内にて操作員が直接操作する方式ではない。
ミサイル本体は、91式携帯地対空誘導弾(SAM-2)を流用したため、開発は車載発射機と光波FCSに限られ、光波FCSは民生品も用い、価格低減が図られている。システムの生産は東芝が担当している。陸上自衛隊で同じく使用されている、トヨタ自動車が開発した高機動車の車体をベースに、通信アンテナの前部バンパーへの移動、操縦席幌のFRP(繊維強化プラスチック)化などの改造を施した上で、車体後部の荷台に91式携帯地対空誘導弾(SAM-2)の4連装発射装置2基を搭載している。
発射装置は、発射機(誘導弾8発を装填)・観測装置・誘導装置などから構成されている。誘導弾は4連装のランチャーに収められ、これが観測装置・誘導装置類を挟むように発射装置の左右にある。照準装置は、携行式のSAM-2と同じく、スノコ状のIFFアンテナ・可視光TVカメラ・レーザー受光器・赤外線センサ・レーザー発振機からなる。
これらに加えて、
発射装置には師団対空情報処理システム(DADS)から目標の情報を受信するためのデータリンク用アンテナも搭載されている。これは主に師団の高射特科部隊に配備され、対空レーダ等の情報を集約し、対空射撃、対空戦闘に必要な情報を迅速・正確に処理伝達するための装備。
製作は日本電気。対空レーダ装置 JTPS-P14、低空レーダ装置 JTPS-P18などの対空レーダの情報を集約・処理し、87式自走高射機関砲、
93式近距離地対空誘導弾、81式短距離地対空誘導弾などを運用する対空戦闘部隊に指示を伝達する。
基本操作人員は、
班長・射手・対空警戒員の3名。射撃は、
班長がヘルメットに取り付ける目視照準具で目標を標定し、
射手が助手席にある射撃統制コンソールのジョイスティックで発射装置を指向する。可視光TVカメラまたは赤外線センサで目標を確認したら、レーザーで照準、ジョイスティックの発射ボタンで発射する。射撃コンソールは、車外に設置することも可能で、車外から遠隔操作をすることによって、発射機への攻撃に対して操作員の生存性を向上させることができる。
SAM-3のターレットは遠隔操作式で乗員室内からの操作も可能だが、通常は乗員は操作用のコンソールを持って車を離れ、
安全な場所から操作を行うのが基本的な運用方法とされている。2基の4連装ミサイル発射機の間にはTVカメラや赤外線センサー等を収めるボックスがあり、上部にはIFF(敵味方識別装置)のアンテナが取り付けられている。
目標はこのボックス内に搭載されたカメラまたはセンサーでキャッチされ、レーザーを照射されてロックオンされる。
誘導方式は可視画像+赤外線ホーミング方式で、最大有効射程は約5,000mといわれている。本システムは、近接対空戦闘用という性格上目視による射撃が主になるため、固有のレーダーなどは搭載していない。全国の部隊に配備されている。
「11式短距離地対空誘導弾」(40両)
種別:短距離防空用地対空ミサイルシステム
全長:2.93m
発射重量:111kg
主武装:5連装2基(10発)
最大飛翔速度:マッハ2.5
有効射程:8000m
11式短距離地対空誘導弾は、防衛省技術研究本部が開発した短距離防空用地対空ミサイルシステム。
陸上自衛隊と航空自衛隊で取得が開始されている。航空自衛隊用は仕様が一部異なり「基地防空用地対空誘導弾という名称が付けられている。2014年から退役が始まっている「81式短距離地対空誘導弾」(通称:短SAM)の後継として国産開発された短射程地対空ミサイル・システムである。
1995年に陸上自衛隊に採用された短SAMの改良型である「81式短距離地対空誘導弾(C)」(通称:短SAM改)は妨害に強く、撃破率の高い対空ミサイル・システムであったが、超低空飛行してくる巡航ミサイルへの対処能力が不足しているとして航空自衛隊には採用されなかった。その後短SAM改の制式化から10年経った2005年度に、後継ミサイルの開発が「短SAM(改II)」の名称で開始されることになった。
この短SAM(改II)では機動性の高い戦闘爆撃機の他、巡航ミサイル、超音速で飛翔する空対地ミサイルへの対処能力が求められることとなった。またヘリコプターや輸送機で空輸できることと、低コスト化も要求された。今後は短SAMの後継として、師団/旅団の高射特科大隊/中隊に配備される予定である。なお航空自衛隊も、11式短距離地対空誘導弾と同じ射撃管制装置と誘導弾を用いた対空ミサイル・システムを「基地防空用地対空誘導弾」として採用している。
本システムは、いずれも車載式の射撃管制装置と誘導弾発射装置で構成される。
射撃管制装置はアクティブ方式のフェーズドアレイレーダーを装備し、3 1/2tトラックに搭載される。誘導弾発射装置は四連装で、陸上自衛隊では3 1/2tトラック、航空自衛隊では高機動車に搭載される。射撃管制装置及び誘導弾発射装置を搭載した車両には車体固定用のジャッキが装備されている。また、対空戦闘指揮統制システム(ADCCS)とリンクが可能となった。
運用法は短SAMと変わらないが、新しい高射特科用ネットワーク・対空戦闘指揮システム(ADCCS)とリンクし、レーダーはアクティブ・フェイズド・アレイ(能動型位相配列)方式に、短SAMでは2種類あったミサイルはアクティブ・レーダー誘導のみになっている。
発射装置の自動装填装置は無くなり、
架台上に誘導弾を収めた格納容器5本を横2列に並べた常識的な形に変わった。
81式からの改良点は、発射方式がキャニスター発射方式に改められ、整備性・取扱性が改善されていることと、性能向上により超音速あるいは小型の空対地ミサイルや巡航ミサイルにも対処可能になっていることである。
誘導方式は2種類あった81式と違い、アクティブ・レーダー・ホーミング方式のみとなっている。
「03式中距離地対空誘導弾」(36中隊分)
<発射装置車>
種別:中距離防空用地対空ミサイル・システム
全長:12.1m
全幅:3.3m
全高:4.81m(移動時)、6.57m(展開時)
全備重量:23.4t
武装:誘導弾8連装発射機×1(8発)
<誘導弾>
全長:約4.9m
直径:約0.32m
発射重量:約570kg
弾頭重量:約73kg
誘導方式:プログラム+間欠指令+アクティブ・レーダー
最大有効射程:60000m
03式中距離地対空誘導弾は、陸上自衛隊で使用されている純国産の中距離防空用地対空ミサイル・システムである。現在、改良ホークの後継種として配備が進んでいる。通称「中SAM」。主契約者は三菱電機。但し、三菱電機はシステム取りまとめ企業であり、
実際の構成品の製造は殆ど行っていない。主要構成品である誘導弾(飛しょう体)は三菱重工業、レーダーは東芝が製造している。
西側諸国では、長らくホークなどの地対空ミサイルに改良を行い使用してきたが、これ以上の性能向上が難しいとの判断によりホーク対空ミサイル・システムの後継として、アメリカ、ドイツ、イタリアの3カ国が共同で開発を進めていたMEADS(中距離拡大防空システム)計画をスタートさせた。
当初は日本も計画に参加することを求められたが、多国間共同開発が武器輸出三原則に抵触するとして結局参加を断念し、代わりに中SAMを単独開発することになった経緯がある。日本は単独で航空自衛隊の地対空誘導弾ペトリオット(長距離防空用)と陸上自衛隊の81式短距離地対空誘導弾(短距離防空用)の間を埋める存在となる新型地対空誘導弾の研究開発を行った。
対空戦闘指揮装置の搭載車体には73式大型トラックを使用し、幹線無線伝送装置、幹線無線中継装置及び射撃管制装置の搭載車体には高機動車を使用、捜索兼射撃用レーダー装置車、発射装置車、運搬・装填装置車及びレーダー信号処理兼電源車の車体には重装輪回収車と共通の重装輪車が使用されており、高い機動展開性によって有事に即対応できる。
操作に必要な要員も省力化され、20人体制で運用することができるようになった(ホークは50人体制。これに伴い装備する高射中隊は運用上の編成が改められている(改編)。また、非自走部のあったホークと異なり、
システム一式の完全車載・自走化により機動力が向上した。
ミサイル本体は発射筒を兼ねた角型コンテナに収められた状態で、発射装置及び運搬装填装置に各6発ずつ搭載されており、ロシアのS-300や米欧共同開発のMEADSなどと同様の垂直発射方式である。このため、陣地展開に必要な土地面積が従来方式に比べ少なくて済む様になり、展開用地確保が容易になっている。
中SAMの弾体は箱型の格納容器8本をまとめた発射機の中に収められ、展開時には格納容器を垂直に立てて発射される。このように垂直発射方式を採用することで、
地形的な制約を受けることが減少している。ミサイルは指令誘導とプログラムで誘導され、終末段階はミサイル自身が目標を探索するアクティブ・レーダーで誘導される。
レーダーはアクティブフェーズドアレイレーダーであり、
100目標を追尾して16目標を捕捉可能である。レーダーは1基で標的捜索のほか、
目標の追尾および射撃管制も行う。
また、高度なECCM(対電子妨害対処)能力と多目標同時対処能力を持ち、空対地ミサイルや巡航ミサイルによる遠距離攻撃に対処する能力も有するとされている。
レーダーはアクティブ・フェイズド・アレイ(能動型位相配列)方式を採用しており、射界を選ばず複数目標に同時対処する能力を備える。
またディジタル・マップ目標経路予測機能により、超低空から侵入する巡航ミサイルにも対応でき、
射程以外の性能は航空自衛隊が保有しているアメリカ製ペイトリオット対空ミサイル・システムを上回ると言われている。
レーダーは回転することにより、全周捜索を行う。将来的にはE-767早期警戒管制機や、2011年から配備が始まった対空戦闘指揮統制システム等とのデータリンクによる戦闘能力の向上も予定されている。中SAMのシステムは発射装置車、捜索兼射撃用レーダー装置車、幹線無線中継装置および射撃統制装置車、運搬・装填装置車、レーダー信号処理兼電源車の6種の車両で編制され、
構成ユニットが自走式なので高い機動性を持つ。システム一式=1個高射特科群=4個高射中隊で編制され、師団や重要地域の防空に使われている。
「96式多目的誘導弾システム」(64セット)
種別:対戦車・対上陸用舟艇ミサイルシステム
製造:陸上自衛隊研究本部と川崎重工業
ミサイル直径:約160mm
ミサイル全長:約2000mm
ミサイル重量:約60kg
誘導方式:光ファイバTVM(IIR)方式
96式多目的誘導弾システムは、日本の川崎重工業が開発した対戦車・対上陸用舟艇ミサイルシステム(対戦車ミサイル)である。陸上自衛隊で使用されている。
発射地点の見通し線外目標に対して攻撃が可能な多目的誘導弾で、射程は非公開ながら10km以上とされる。
光ファイバーTVM赤外線画像誘導方式を採用し、ミサイル先端部のNEC製赤外線シーカーが捜索探知した目標の画像信号を光ファイバー経由で地上誘導装置に送る。
射手はミサイルから送られてくる画像をテレビ画像として確認し、追尾の指示を行う。発射機を敵の視線に晒す必要が無いため、敵の反撃を防ぎ、部隊の生存性を高めることが可能。
発射機、地上誘導装置、射撃指揮装置、
情報処理装置、装填機、観測機材からなるシステムで、情報処理装置及び装填機を3 1/2tトラックに、その他は高機動車に搭載して運用される。そのため、1個射撃分隊につき6両で構成される。発射機に装填された誘導弾コンテナには8発の誘導弾が格納されており、再装填の際は装填機でコンテナごと取り替える。
ミサイル発射機は8連装で高機動車に搭載されており、発射時にはジャッキで車体を固定し、噴流偏向板を展開し、発射機に仰角をかける。
ミサイルは発射されると4枚2組の翼が展開される。目標手前の上空まで急上昇しながら飛行し、目標に向け鋭角に落下、
比較的装甲の薄い上面に直撃する飛翔経路を取る。
エアクッション艇を含む上陸用舟艇にも対処可能であり、
主力戦車を含む全ての車両を撃破する能力を有している。複合装甲のような特殊装甲にも対処可能とされる。目標に応じ信管遅延秒時の変更が可能であり、対舟艇攻撃時には遅延動作する。ミサイルの誘導には地上誘導装置が不可欠であり、
発射機と地上誘導装置の光ファイバーでの連結が必要であるなどの準備が必要。
光ファイバー有線誘導式ミサイルはアメリカ合衆国やヨーロッパでも開発が行われているが、2009年までに配備に至ったのは96式のみである。当初、この火器は79式対舟艇対戦車誘導弾(重MAT)の後継システムとして開発した経緯があったが、現在では調達数及び予算の関係から後継システムとしてではなく、全く新しいカテゴリーでの配備が続けられている。
これは 1個射撃分隊分(1個射撃小隊は2個分隊編成)を調達するのにシステム機材及び車両の合計で約27億円(平成24年度)の経費がかかるためであり、そのため79式対舟艇対戦車誘導弾と87式対戦車誘導弾の後継は、
中距離多目的誘導弾を採用して部隊配備が進められている。
1システムは以下の5種+装填機(LDU)の6両(1個射撃分隊)で構成される。
・情報処理装置(IPU)73式大型トラックに搭載
・射撃指揮装置(FCU)高機動車に搭載。
目標選定等担当
・地上誘導装置(GGU)高機動車に搭載。
ミサイル誘導担当
・発射機(LAU)高機動車に搭載、乗員2名
・観測機材(OPU)
高機動車に搭載。
前身観測担当
・装填機(LDU)73式大型トラックに搭載、予備弾も含む
「中距離多目的誘導弾」(120セット)
種別:対戦車・対上陸用舟艇ミサイルシステム
製造:陸上自衛隊研究本部と川崎重工業
ミサイル直径:約140mm
ミサイル全長:約1400mm
ミサイル重量:約26kg
誘導方式:光波ホーミング誘導(IIR, SALHの併用)
中距離多目的誘導弾は、防衛省技術研究本部と川崎重工業が開発した新しい舟艇・対戦車ミサイル・システムである。
本来は、制式化から20年近く経過した87式対戦車誘導弾(中MAT)の後継として、
XATM-6の名で2004年(平成16年)度から開発が開始された。
しかし、79式対舟艇対戦車誘導弾(重MAT)の後継であった96式多目的誘導弾システム(MPMS)が1セット20億円(2009年(平成21年)度調達)という高価格と、
高機動車・大型を含めた車両6両で1セット(1個射撃分隊)という複雑な構成から重MAT全てを更新することが不可能になったため、中MAT・重MAT両方の後継としても考慮されて開発されることになった。
誘導方式は、2種類の光波ホーミング誘導(赤外線画像(IIR)及びセミアクティブ・レーザー・ホーミング(SALH))の併用による第3世代方式で、照準は赤外線画像(IIR)またはミリ波レーダーで行なう。1秒間隔の連続射撃で同時多目標への対処能力と撃ち放し能力を有しており、
また、LOAL(発射後ロックオン)が可能といわれる。市街戦や対ゲリラコマンド任務を考慮して、舟艇、装甲・非装甲、人員、構造物などに対して対処が可能とされている。
従来の重MATや中MATが車上から一旦降ろして射撃する必要があり、また、MPMSは発射機や照準機が別々の車両に搭載されていたことから、
中距離多目的誘導弾は高機動車に発射機と追尾装置、更に自己評価装置を一体化したシステムを搭載し、自己完結性の高いシステムとなっている。また、発射機と照準装置の分離や、これらを降ろして地上に設置することも可能になっている(だが87ATMのように1人では運用不可)。
前翼を持たず後部に矩形翼を持つ、アメリカのヘルファイア・ミサイルを小型化したような形状をしている。サイドスラスター方式の推進装置や共通の赤外線画像シーカーなど、01式軽対戦車誘導弾(軽MAT)の開発で得た技術が生かされているとされる。射撃分隊(分隊長、操縦士、誘導手)×2ないし3で1個対戦車小隊を構成し、4個対戦車小隊で1個対戦車中隊を構成する。
「ハイドラ70ロケット弾」
ハイドラ70ロケット弾は、アメリカ軍の航空機搭載型小翼折り畳み式ロケット弾シリーズである。
1948年に開発された「Mk4 FFAR マイティ・マウス」(アメリカ製の軍用機で使用された無誘導ロケット弾)の後継として1972年より使用されている。ハイドラ70=2.75inロケット弾ファミリーは、直径2.75インチ(70mm)の航空機発射ロケット弾で、構造はMk66ロケット・モーターに各種弾頭を組み合わせたものである。
Mk66は全長1.06m、
弾体直径70mm、重量6.2kg、展開時尾翼幅0.168mで、先端に弾頭を取り付けるネジ部、中央部分にダブルベース固体推進薬と点火装置を内蔵する。弾体には溝が切られており、これにより弾体を発射直前に毎分600回転させ、発射直後、低速時の弾道を安定させる。
外側には弧状断面を持つ3枚の取り巻き型翼が収納され、発射後展開して空力により弾体を毎分2100回転させ、弾道を安定させる。 また、各種弾頭、信管は事前に組み合わされて戦地に送られる。どのモデルも最小射程は300m、最大射程は弾頭の重量によって異なるが、8000mほど。
ハイドラ70ロケット弾ファミリーには、
多様な弾頭と信管があり、これによって目標を問わず使用することができる。
そして発射ポッドは7初と19発内蔵タイプが用意されている。
以下はその中でも代表的なものだ。
(M151)対人・対資材用の高爆発威力弾頭(HE)で、殺傷範囲は50mを誇る。信管にはM423ヘリコプター・ポイント破砕信管、M427高性能航空機ポイント破砕信管、M433超迅速/遅延貫通信管、M429空中起爆近接信管、M440着発信管のいずれかが取り付け可能である。
(M247)対装甲目標用の、HEAT(対戦車成形炸薬)/HEDP(高爆発力双目的)弾頭。信管はM438着発信管。
(M255/M255E1)ヘリコプターから発射し、どんな目標にも対応できるフレシェット弾頭で、M255が2500発/28グレイン(1.8g)、E1型が1180発/60グレイン(3.8g)のフレシェット(ダーツ状の、爆発時に飛散する小さな金属片)を内包する。
60グレインフレシェット弾頭の場合、目標の150m手前でフレシェットが放出され、
140m飛翔し約6.5°の範囲で拡散し、フレシェット1発が約35mの範囲をカバーするように設計されている。また、これら2種類の弾頭を同時に使用すると1500mをM2で飛翔する空対空ロケット兵器として極めて有効なものとなる。信管はM439セレクタブル時限信管で、
この信管は起爆までに要する時間を発射前にパイロットが設定することができ、
起爆時間は発射前に目標との距離から算出され、入力後発射される。
そしてハイドラ70は無誘導のロケット弾であり、一度に多数発射して一部が目標に当たれば良いという使い方をされてきた。しかし、このような使用方法では、
目標が遠距離なほど命中率は低下し、
不必要な破壊・殺傷を引き起こす場合がある。また、兵装搭載量の少ないヘリコプターの携行弾を無駄に使用することになり、トータルでの運用コストの増加につながった。
これに対し、アメリカ軍は通常のロケット弾よりも命中精度が高く、ヘルファイアなどの対地ミサイルよりも安価かつ威力を抑えた対地兵器の必要性を湾岸戦争において痛感し、
ハイドラ70の弾体を流用した誘導ロケットが開発された。
代表的なものにAPKWSやLOGIRがあり、他にもDAGRやGATRなどがある。次はこれ等の説明に入る。
(APKWS)APKWSは、
先進精密攻撃兵器の略であり、ハイドラ70の弾頭とモーターの間にセミアクティブ・レーザーによる誘導装置を取り付けたもので、4枚の動翼で制御される。この4枚の動翼は折りたたみ式であり、また、
それぞれが小型のレーザー・シーカーを備えており、発射後、展開されることによってシーカーの視野をより広く確保することができる。
最低射程は1500m程度で、最大射程は5000mほど。APKWSにはM151, M261, M264, M267, M255A1, M229, M257, M278, WTU-1/Bの各種弾頭が使用可能とされている。
(LOGIR)LOGIRは、
低価格画像誘導ロケット弾の略であり、
ハイドラ70の弾頭先端に赤外線シーカーと弾頭とモーターの間に4枚の折りたたみ式の動翼を取り付けたもので、APKWSと違い、母機から画像データを入力すれば発射後は撃ちっ放し(ファイア・アンド・フォーゲット)が可能となる。
(DAGR)DAGRは、
直接攻撃誘導ロケット弾の略であり、
ハイドラ70のモーターを流用し前半部をセミアクティブ・レーザーによる誘導装置付きM423 信管付きM151弾頭に取り換えたものであり、最大の特徴はヘルファイアIIとの互換性を重視している点で、
ヘルファイアII同様LOBL(発射前ロックオン)だけでなくLOAL(発射後ロックオン)が可能であり、既存のM260/M261発射ポッドの他にヘルファイア用の「M299」4連ランチャーのレールの1つに取り付ける4発入りキャニスターがあり、ヘルファイアIIとDAGRの混載運用を可能としている。
「ヒューズ TOW」
種類:対戦車ミサイル
全長(弾体のみ):121.9cm
弾体重量・弾頭重量:22.6kg・12.4kg
口径(弾体直径):14.9cm
ヒューズ TOWは1970年、ヒューズ・エアクラフトがアメリカ陸軍向けに開発した対戦車ミサイル。
TOW(トウ)とは発射や誘導方式を表した略称であり、対戦車ミサイルとしては第2世代に属する。 名称は英語で(発射筒で発射され、光学的に追跡され、有線で誘導される)の頭文字に由来する。1970以来、世界で最も多く利用されている対戦車ミサイルである。現用のTOWは、第3世代主力戦車の装甲を貫通できるとされている。陸上自衛隊では、1982年からAH-1S(コブラ)専用に導入されている。
第二世代の対戦車ミサイルとは、照準器の中心に目標を捕らえ続けることで、
目標の位置情報がワイヤーでミサイルへ送られ、ミサイルはその情報に沿って飛行して命中する有線パッシブ誘導方式の事を意味する。照準手は目標だけを追えばよくなり、特別な操作能力が無くとも誘導が可能になったが、やはり目標に命中するまでは誘導(操縦)し続ける必要がある。
ミサイルは、チューブ型コンテナに納められており、発射機にチューブごと装着して発射する。この発射機は約7年間整備無しに使用できるとされている。誘導方式は半自動指令照準線一致誘導方式(SACLOS)であり、
ミサイルの出す光と照準中心とのズレを修正する事で誘導する。そのため、発射から着弾まで射手が照準中心に目標を捕らえ続ける必要がある。発射後もミサイルと発射機は二本のワイヤーで接続されており、誘導情報はそのワイヤーにより電気的にミサイルへ伝達される。
アメリカ陸軍のほか、陸上自衛隊や西側諸国の多くで使われており、歩兵による運用のほか、車載型ミサイルや攻撃ヘリコプターに搭載されて運用される。長年の使用に伴い弾頭や誘導方式に改良が加えられ、さまざまなバリエーションがある。しかし、着弾まで誘導し続ける必要があることから、
誘導中に敵に発見・反撃される危険があり、現在は撃ち放し式TOWの導入が課題となっている。
今やTOWは対戦車ミサイルの代表的存在となっている。その間も改良が続けられ、
先端に伸縮式の『角』を設けて射程と貫通力を増したITOW、
弾頭を大型化したTOW2を経て、トップアタック(装甲の薄い戦車の上面を攻撃する)能力を追加したTOW2B(BGM-71F)が現在の主力である。
また対戦車型だけでなく、塹壕などを攻撃するバンカーバスター型(BGM-71H)も存在する。一応歩兵での運用も可能だが、
総重量100kgを優に超すため、軽車両(ハンヴィーやブラットレー歩兵戦闘車など)やヘリに搭載しての運用が一般的だ。
歩兵携行型のTOW発射機は、旋回部、誘導発射部、発射チューブ、三脚架、照準器の5つのパーツに分解して運ぶことが出来る。これにミサイルのランチャー・コンテナを加えて5名の兵員で運用が可能(輸送には車両が必要)。発射装置の分解・組み立ても短時間で出来る。TOW2の最大射程は4000mで、
威力は800mmのRHA(均質圧延鋼装甲)を貫通可能。
「ヘルファイア」
種類:対戦車ミサイル
全長:1.63m
直径:17.8cm
翼幅:36.2cm
発射重量:45.7kg
射程:0.5~8km
速度:マッハ1.7
推進方式:固体推進ロケットモーター
誘導方式:セミアクティブレーザー誘導・赤外線画像誘導
AGM-114ヘルファイアは、アメリカ合衆国の空対地ミサイルである。主に対戦車ミサイルとして使用されるが、対艦用も存在する。ヘルファイアの名称は、英語の「ヘリコプター発射の撃ちっぱなし(ミサイル)」を略したものだが、「地獄の業火」という意味もある。
2002年の初期以降、
MQ-1プレデター無人偵察機からも発射されている。アフガニスタンに潜伏していたウサーマ・ビン・ラーディンに対して発射されたほか(暗殺未遂)、ターリバーン幹部の乗った車両に対しても発射されている。日本でも陸上自衛隊のAH-64(アパッチ)に採用される他、海上自衛隊では不審船対策にオーバーキルとならない兵器として、SH-60K(シーホーク)に搭載の予定としている。
主に対戦車戦闘において使用される。
約8kgの成形炸薬弾頭をもつ。基本となる誘導方法はセミアクティブレーザー誘導で、TOWのように誘導にワイヤーを用いないために飛翔速度が速く、着弾所要時間が短いため、敵に回避、反撃する機会を与えることなく攻撃できる。レーザー発信部とミサイル発射母機を別々に設置することもでき、改良型のB型およびC型では赤外線画像誘導も可能だ。
K型以降はヘルファイアIIとも呼ばれ、レーザー測距/誘導関係の機能が改良されている。さらに改良されたL型のロングボウ・ヘルファイア・モジュラー・ミサイルは、ロングボウ・ヘルファイアとも通称され、ミリ波レーダーによるアクティブレーダー誘導に対応している。
初期バージョンのヘルファイアは、標的へのレーザー照射など継続的な誘導を必要とするため、名前の通りのファイア・アンド・フォーゲット(撃ったあとは忘れる・撃ちっぱなし)性能は持っていなかった。AGM-114Lロングボウ・ヘルファイアは発射後の誘導を必要とせず、ランチャー(発射器)と標的間に射線が形成されていなくても撃つことができ、撃ちっ放し性能を獲得している。
「88式地対艦誘導弾」
種類:地対艦ミサイル
製造:三菱重工業
ミサイル直径:約0.35m
ミサイル全長:約5m
ミサイル重量:約660kg
有効射程:約150~200km
推進方式:固体燃料ロケットモーター(ブースター)+ターボジェットエンジン(巡航用)
誘導方式:中途航程INS(慣性航法装置)・終末航程ARH(アクティブ・レーダー・ホーミング)
飛翔速度:1200km/h
88式地対艦誘導弾は、日本の陸上自衛隊が装備している地対艦ミサイル(対艦誘導弾)システム。
周囲を海に囲まれた日本は、艦船に対する防衛兵器として1970年代から対艦ミサイルの開発に取り組んでおり、航空自衛隊においては、80式空対艦誘導弾(ASM-1)が1980年(昭和55年)から配備されていた。これを基に陸上自衛隊が運用する地対艦ミサイルとして1979年から技術研究本部での部内研究が開始された。沿岸に接近した上陸・侵攻艦船の撃破を目的としている。
ミサイルは、前方よりセンサー部、誘導部、弾頭部、燃料タンク部、エンジン部からなる。ミサイル本体は80式(ASM-1)から発展したもので、ミサイル本体中ほどに4枚の翼を持つ形状が共通している。
本体尾部に4枚の操舵翼を有する。射程延伸のためエンジンが固体燃料ロケットからTJM2ターボジェットエンジンに変更され、発射時の初期加速用に4枚の安定翼を持つ固体燃料ロケットブースター部が尾部に追加されている。
ブースターは初期加速終了後、分離される。ASM-1と比較し、
地上発射が可能となっただけではなく、
ジェットエンジン化による射程の延伸や誘導アルゴリズムやECCM性能も改良されている。本地対艦ミサイルシステムは、
指揮統制装置、捜索・標定レーダー装置(JTPS-P15)、射撃管制装置(JTSQ-W5)、中継装置(JMRC-R5)、ミサイル発射機搭載車、予備ミサイル・装填装置搭載車で構成される。システムは車載化されており、十分な機動性を有する。
運用可能なシステム構成の組合せは以下となる。
指揮統制装置×1基
中継装置×1-12基(ただし接続可能な捜索・標定レーダー装置は、中継装置1基につき最大2基まで)
捜索・標定レーダー装置×1-12基
射撃管制装置×1-4基(ただし接続可能な発射機は、射撃管制装置1基につき1基-4基まで)
ミサイル発射機搭載車×1-16両
予備ミサイル・装填装置搭載車×1-16両
各システム構成機材は、それぞれ求められる任務の規模に応じて柔軟に組み合わされ運用される。
現時点で13個地対艦ミサイル連隊が編成され、各連隊の隷下には6個射撃中隊が編制されている。連隊の本部管理中隊に捜索・標定レーダー装置と中継装置と指揮統制装置、各中隊本部に射撃管制装置が1基ずつ、各中隊にはミサイル発射機搭載車と予備ミサイル・装填装置搭載車がそれぞれ6両ずつ配備されている。
システムは整地道路での機動性を高めるためにすべて車載化されており、車体は装甲を持たないトラックを利用している。発射機は6連装のチューブ状のキャニスターを兼ねた発射装置からなる。ミサイルの翼は、すべて折りたたまれた状態でキャニスターに収容されており、発射直後に展開される。
発射機は74式特大型トラックに搭載されている。予備ミサイルはキャニスターに収められ計6本のキャニスターがクレーン付き74式の荷台に搭載され、発射機への積み替えは予備弾搭載車両のクレーンを用いて行われる。
また、水平線外射撃が可能な150kmを超える射程と、対艦ミサイルとしては本システムだけが持つ地形回避飛行能力を活かして、指揮装置や発射機を内陸部に設置してミサイルを発射することができ、
遠距離から発射することでシステムの被発見率と生残性を高めることができるようになっている。このため上富良野駐屯地などの内陸部にも地対艦ミサイル連隊が編成されている。
ミサイル発射時には捜索・標定レーダー装置JTPS-P15が海岸線に進出し、捜索・探知・識別した目標の位置情報と識別情報がレーダー中継装置を経由して指揮統制装置に送られる。
指揮統制装置により経路プログラミングの諸元(中間誘導地点とそこまでに至る経路など)を計算後、処理結果と発射指令は射撃管制装置を経由して発射機・ミサイル本体に送られ、斜め上方へ仰角をかけた発射機の発射チューブからミサイルが発射される。
ミサイルは中間誘導が慣性航法装置(INS)、終末誘導がミサイル自身によるアクティブ・レーダー・ホーミング(ARH)で飛行し、陸上と海上で低空飛行を行うことで被発見率を下げており、電波妨害を受けた場合には、
ミサイルを妨害電波発信源に突入させることも可能である。
88式地対艦誘導弾を基礎に、海上自衛隊向け艦対艦ミサイルの90式艦対艦誘導弾、哨戒機搭載用空対艦ミサイルの91式空対艦誘導弾が開発されている。
「87式自走高射機関砲」(120両)
種別:自走式対空砲
全長:8m
全幅:3.2m
重量:40t
乗員数:3名
主武装:90口径35mm対空機関砲KDA×2(800発)
最高速度:50km/h(不整地)
エンジン:三菱10ZF22WT
空冷2ストロークV型10気筒ターボチャージド・ディーゼル
航続距離:400km
87式自走高射機関砲は、陸上自衛隊が装備する自走式対空砲である。アメリカ軍から陸上自衛隊に有償供与されていたM15A1対空自走砲とM42ダスター対空自走砲の後継として開発された国産の自走式対空火器で、防衛省では広報向け愛称を「スカイシューター」としているが、
部隊では「ガンタンク」や、敵航空機を蝿に見立てて、それを撃墜するという意味で「ハエ叩き」とも呼ばれる。
アメリカはソ連を中心とする共産主義陣営に対抗するため1950年代に「MAP」(軍事支援プログラム)を策定し、このプログラムに基づいて余剰となったアメリカ軍の各種装備品を西側友好国に積極的に供与することで軍事力の支援を図った。MAPに基づいて陸上自衛隊にはM15A1対空自走砲が98両、M16対空自走砲が168両、
M19A1対空自走砲が約40両供与された。
世界的に有名な火器メーカーであるスイスのエリコン・コントラヴェス社は、
1950年代末に「GDF-001」と呼ばれる牽引式の35mm連装高射機関砲システムを開発し、これは約30カ国の軍隊で採用されるベストセラーとなった。GDF-001は威力と発射速度に優れる90口径35mm高射機関砲KDAを「ズーパーフレーダーマウス」(ドイツ語で蝙蝠を表す)と呼ばれるレーダーFCS(射撃統制システム)とリンクさせており、当時としては非常に高度な対空迎撃能力を備えたシステムであった。
陸上自衛隊は1967年に師団高射特科向けの対空火器システムとしてGDF-001の改良型を「35mm二連装高射機関砲 L-90」の名称で採用することを決め、1969~70年度に4セットがノックダウン生産された後1971年度からライセンス生産が開始された。L-90のライセンス生産は1981年度まで続けられ、旧式化したM16対空自走砲に代えて高射特科部隊に配備された。
L-90は4輪のゴムタイアを備える砲架に搭載された二連装の35mm高射機関砲KDA、
ズーパーフレーダーマウスFCS搭載車、
光学照準システム搭載車、およびこれらに電源を供給する電源車3両で構成される大掛かりなシステムで、35mm高射機関砲の射撃時には砲架の左右に装備されているアウトリガーを展開し、タイアを折り畳んで砲架を接地させるようになっていた。
ズーパーフレーダーマウスFCSはパルス・ドップラー方式の捜索レーダーと追尾レーダーを装備しており、捜索範囲と追尾範囲はいずれも15kmとなっていた。L-90は当時としては高度な対空火器システムであったがトラックによる牽引式であるため機動性に難があり、システムの展開にも時間が掛かる上操作要員も多く必要だった。
このためL-90システム全体を1つの車両にまとめて搭載し、
機甲部隊に随伴できる機動力を持たせることが求められるようになった。防衛庁技術研究本部(TRDI)は西ドイツ陸軍(当時)のゲパルト自走対空砲を参考に、
1976年度からL-90を車載化した自走高射機関砲の所内研究に着手し、続いて1978年度から自走高射機関砲の研究試作が開始された。
この車両は陸上自衛隊の第1世代MBTである61式戦車の車体をベースとし、L-90と同じ90口径35mm高射機関砲KDAを2門と、
国内開発された捜索・追尾レーダーを含むFCSを全周旋回式砲塔に搭載していた。
完成した試作車を用いて各種試験が行われたが、捜索・追尾レーダーや射撃統制コンピューターを搭載した砲塔の重量が61式戦車の車体に対して過大で充分な機動力を発揮できないことが明らかになったため、続く開発試作ではベース車体を新型の74式戦車に変更することになった。
87式自走高射機関砲(87AW)の車体は圧延防弾鋼板の溶接構造で74式戦車の車体をベースにしてはいるが、細部が大幅に変更されているため実際はコンポーネントを流用しただけの別物といって良い。
74式戦車と異なり87AWの車体側面装甲板は垂直となっており、各種点検用パネルが設けられている。また車体後面上部には中央にラック、
その左右に収納箱が設けられており、このあたりも74式戦車とは異なっている。
サスペンションや転輪、履帯は74式戦車のものを流用しているため、87AWは74式戦車と同様に油気圧式サスペンションによる前後、左右方向の姿勢制御を行うことが可能となっている。砲塔に搭載された射撃統制コンピューターや捜索・追尾レーダー、砲塔駆動用発電機に使用する大電力を賄うため、
車体前部右側にはAPU(補助動力装置)を追加装備している。
87AWの砲塔は日本製鋼所が開発したもので、重量の軽減を図って防弾アルミ板の溶接構造となっている。砲塔の形状はゲーパルトと同様に前後に長い箱型をしており、砲塔の左右側面に1門ずつ35mm高射機関砲を装備する方式を採用している点も同様である。砲塔内には左側に砲班長(車長)、右側に砲手が搭乗する。
砲塔上面には横長の楕円形の後ろ開き式のハッチが1個設けられており、ハッチの前方には左側に車長用の展望式視察サイト、右側に砲手用の潜望式視察サイトおよび照準サイトが装備されている。主武装は、エリコン社製の90口径35mm高射機関砲KDAを連装で装備している。これは牽引式の35mm連装高射機関砲L-90と同じものであり、いずれも日本製鋼所がライセンス生産を担当している。
砲身は空冷式で、
表面積を増やして冷却効率を高めるために外周部に6本の溝が刻まれている。87AWに装備されている35mm高射機関砲KDAの発射速度は2門で1200発/分、砲の俯仰角は-5~+85度で砲塔は全周旋回が可能である。砲の俯仰と砲塔の旋回は動力装置または手動により行なわれ、動力装置を用いた場合砲の俯仰速度は760ミル/秒、砲塔の旋回速度は1000ミル/秒となっている。
使用弾薬は対空用がHEI(焼夷榴弾、重量535g)、SAPHEI(半徹甲焼夷榴弾、重量550g)、対地用がAPDS(装弾筒付徹甲弾、重量380g)である。APDSは射距離1200mで40mm厚のRHA(均質圧延装甲板、
傾斜角60度)を貫徹することが可能である。射撃は通常、20~40発のバースト射撃が行われる。
対空用の最大有効射程は約4,000mで弾薬には近接信管が内蔵されておらず、直撃により目標を撃破する。35mm高射機関砲KDAの砲身先端には砲口制退機と共に初速測定装置が装着されており、空薬莢は機関砲の下部から排出される。弾薬は砲塔バスケット内の巨大なドラム型弾倉に対空用のものが左右各360発ずつ、砲基部の装甲ボックスに対地用のものが左右各40発ずつ収納されており、車内から自由に弾種を選択して撃ち分けることができる。
また87AWはアクティブ防御システムを備えており、砲塔上面右側に設けられているポール状のレーザー検知機が対戦車ミサイルや誘導砲弾の誘導用レーザーを感知すると、発煙弾発射機から自動的に発煙弾を発射して車体を隠蔽するようになっている。
ゲーパルトの場合は追尾レーダー・アンテナを砲塔前面に装備しており、本来はドイツ陸軍のゲパルト自走対空砲と同様の索敵レーダー、
追尾レーダー配置を理想としていたが、
ゲパルトのレーダーの配置が特許を取っていたため、それに触れない位置に設置されている。追尾レーダー・アンテナの左側にはバックアップ用の光学追尾装置が装備されており、
上から順にレーザー測遠機、赤外線暗視装置、TVカメラが並んでいる。
87AWの光学追尾装置はゲーパルトより高度なものが搭載されており、これは電波妨害環境下で威力を発揮すると思われる。なお87AWは戦闘時以外は、レーダー・アンテナが邪魔にならないように格納しておくことが可能である。格納時には捜索レーダー・アンテナのアームを砲塔の後方に倒し、追尾レーダー・アンテナも後ろを向けて90度後方に倒すようになっており、起立時には4.40mある全高が格納時には3.25mまで抑えられる。
87AWやゲーパルトのように追尾レーダーと捜索レーダーを別々に装備するメリットは、追尾レーダーにより1目標と交戦している間も捜索レーダーによって別の目標の捜索が可能となる点である。仮想敵であった旧ソ連軍が主力装備としていたZSU-23-4シルカ対空自走砲は目標の捜索と追尾を1つのレーダーで行なっていたため、1目標と交戦している間は事実上盲目となってしまい次の目標との交戦が遅れてしまう欠点があったが、この点では5~6目標との連続交戦能力を持つ87AWの方が大きく上回っている。
87AWのFCSの中心となるのはディジタル式の射撃統制コンピューターで、ゲーパルトが装備しているアナログ式の射撃統制コンピューターよりも進んだものが搭載されている。射撃統制コンピューターは砲塔内の前半部に収められており、メインテナンス性を考慮して砲塔前面の装甲板はボルト止めの着脱式カバーとなっている。
FCSはパルス・ドップラー方式の捜索、
追尾レーダーを使用し、コンピューター処理を行う点はゲーパルトと同じである。低空域における空中目標の捜索、捕捉・追尾、高射機関砲の発射までがリアルタイムで算出されて、車体・砲の動揺修正も全て自動的に行われる仕組みになっている。
35mm機関砲の性能自体は優れているものの、射程は戦闘ヘリコプターや航空機に搭載されるミサイルや誘導爆弾のものより短いため、アウトレンジ戦法により破壊される可能性が大きく、現代の戦場では実用性が低いとも指摘されているが、
特性の異なる地対空ミサイル(SAM)と相互に補い合うこと(ガン・ミサイルコンプレックス)で防空能力を発揮する装備品と位置づけられている。
射撃管制装置や各種レーダーも搭載した高性能な自走高射砲だが、14億円超という高額な調達費から、年に数両しか導入ができず、2002年度契約で調達を終了、
計120両で生産を終了した。この自走対空砲は特地にも派遣され、主に竜騎兵の迎撃に使用される。
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