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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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精神の奥底
  59 不機嫌な空

 
前書き
今回はスバルたち、そして僅かですがアクション有りです!
レポートラッシュと試験ラッシュが終わって一段落です。
今回は彩斗たち当事者のメインキャストとは違って、ピースを少しずつ地道に集めていたスバルたちが謎の中核に突っ込みます。
書いてた自分が言うのもなんですが...長かった...(笑)
でも当事者ではない人が物事の本質に迫るのって意外と大変ですよね。
もしかしたら物語として2日3日で辿り着いていますが、現実に比べると大分短いのかも。 

 
リサは屋上のドアを開いた。
食堂で何度もコーヒーを注文し、ホールスタッフが「またか…」という顔をし始めた段階で、普段飲み慣れない飲み物を飲み過ぎたせいか、胃が痛み始めたので、場所を変えた。
未だに気持ちの整理がつかない。
しかし先程、伊集院炎山から言われたリミットは刻々と迫っている。

「はぁ…」

炎山を信用し、オフィシャルに協力すれば、現状自分が1人でアクションを起こすよりは遥かに高い確率でマヤとヨイリーは開放され、シドウに対する疑いも晴れるだろう。
しかし、失敗したら…ということを考えてしまう。
木場が自分だけでなく、マヤとヨイリーに何をするかが分からない。
そして仮にうまくいったとしても、オフィシャルというある種の敵に加担したということは当然、バれる。
そうなれば、他の隊員たちから疑惑の目を向けられ、自分とマヤの唯一の依代であるサテラポリスを出ざるを得なくなるかもしれない。
下手をすれば、何らかの罪に問われる可能性もある。

「どっちにコケても、アウト…はぁ…胃…痛い」

ベンチに腰掛け、グタリと横になる。
何もかも嫌になりかけていた。
不思議と死ぬわけでもないのに、走馬灯が遠目に見えてくる。

「……空」

昔のことが一通り流れていった後、不意に遠目に見ていた空が頭に入ってきた。
今日は少し雲が多いようだが、相変わらずの夏日だ。
リサはまだ世の中のことを多くは知らない子供だが、地球は丸いということを知った時から、時折考えることがあった。
それは地球上の誰もが同じ空の下で同じ空気を吸って生きているという、当たり前でしょうもないことだった。
しかし同時に同じ空、同じ空気を共有することができても、価値観や文化を分かち合うことが出来ず、今日もどこかで争いが起こるということへの憤りでもあった。

「………」

そもそもこんなことを考えるようになったのは、ある人物と離れ離れになるという出来事がキッカケだった。
遠くに行ってしまっても、決して別の惑星に行くわけでも、この世から去るわけではない。
いつも同じ空の下で繋がっていると思いたかったからだった。
それを思い出した時、気づけば手に私物のAQUOSが握られていた。
WAXAの中では、情報漏えいのリスクから私物の端末の使用は基本的に禁じられているが、その規則も完全に忘れていた。
一応、誰も見ていないのを確認すると、電話帳から「発信」をタップした。
答えが見つかるかどうかは分からないし、久しぶりの会話で感極まって泣いてしまって話にならないかもしれない。
それ以前に今もこの番号を使っているかも定かではない。
不安を抱えたまま、耳に端末をあてた。



















同時刻、星河スバルも同じ空の下の空気を吸っていた。
相変わらず、暑い。
10月31日というもう冬も間近のシーズンでありながら、あまりの暑さに太陽は地球が嫌いなのではないかと思ってしまう。
いや正確には嫌いなのは、地球ではなく地球人の方なのかもしれない。
自分勝手に自然を伐採し、大気を汚染し続ける人類を抱える地球に対し、同じ宇宙を漂う仲間である太陽が人類を戒めようとしているようだ。
どちらにせよ、もし空模様に機嫌があるのだとしたら、間違いなく上機嫌ではなく、不機嫌だろう。
だがそんな不機嫌な空の下でも、スバル一行は文句が自然と出てくることはなく、むしろ安堵の声を上げた。

「……ふぅ…やっと地上の空気が吸えた」
「やっぱり地下の空気ってデンサンシティのような都会でも、やっぱり好きになれないよね」
「息が詰まるわ……」
「なんか地下鉄がやってくる度に不思議な生温かい風が吹いてくるし」
『地球人ってのは、便利なものをいくら作っても文句を垂れるよな』

白金ルナが手に入れてきた手がかりを元にメトロを乗り継いでここまでやってきた。
周囲を見渡せば、先程の湾岸病院のように海も見えない上、大都会の高層ビル街という感じでもなくなっていた。
閑静で西洋風な建物が並ぶ、トラディショナルな街並みが広がっている。

「デンサンシティにもこんなところがあるなんて……ビルやショッピングモールばかりだと思ってた」
「そうでもないわよ。デンサンシティに限った話じゃないけど、海際の都市は港が栄えて、海外との交流が盛んだったりした時代もあったんでしょう。だから異国情緒溢れる部分が残っていたりすることも多いわ」
「さすがはルナちゃん、みんなの委員長さん!」
「…なんかあなたに言われると、褒められてるのか、貶されてるのか分からないのよね……」
「えっ、そんなことないよ!褒めてるよ!」
『なぁ、スバル』
「どうかした?」
『今の話、宇宙で例えるとどういうことだ?』
「宇宙で…?うぅぅ…宇宙が海で、宇宙船が貿易船に例えると、宇宙船が停まる星はいろんな文化や物が入ってきて…影響を受けるっていう感じかな……」
『オレたちは宇宙船なんぞ使わないぞ。まぁ、使う連中もいなくはないが。前々から思ってたが、お前ら地球人が宇宙人に持ってるイメージはいろいろズレてるぞ?』
「例えてみせろって言ったの、ウォーロックの方なのに……まぁ、僕を含め、この星の人たちは宇宙人との交流は一般的じゃないからね。価値観が違うのは仕方ないさ」
『お前の場合はいるじゃねぇか、宇宙人が目の前に』
『だから…私たちみたいな宇宙人がいるっていう状況がこの星の人たちからしたら、異常事態なのよ。宇宙人との交流が当たり前っていう教育をそもそも受けてないもの、スバルくんたちは』
『チッ…お前に言われると諭されてるのか、バカにされてるのか分からねぇよ』

ミソラとルナ、そしてウォーロックとハープのやり取りにスバルは一度、ため息をつくと、スバルはトランサーを取り出し、地図を表示した。
現在はネットを含め、位置情報を参照することはできないため、先程出てきた地下との出入り口を目印に、そこから大まかな位置を推測する。

「そろそろか…」
『ゴメンなさいね、スバルくん。ウォーロックったら、相変わらず乱暴で』
「えっ、あぁ、いいよ。いつものことさ」
『ホントにスバルくんって大人よねぇ。見習って欲しいもんだわ』
「そういえば逆に聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
『えぇ』
「FM星のことなんだ。FM星では、地球でいう電車だったり、車だったりっていうものはあるの?」
『う~ん、無いこともないんだけど、私たち電波体だから。ウェーブロードが地球でいう高速道路のように整備されていて、それを使って移動するっていう感じかしら』
「僕が変身した時と同じ」
『そうねぇ』
「じゃあ、僕らみたいに電車を使ったり、バスを使ったりっていうことは、逆に君たちからしたら、面倒ってこと?」
『ここのおバカさんはそう思ってるでしょうね。でも私は好きよ。情緒があって』
「情緒……」

不便であることをオブラートに包むような感じで言われたことに、不思議な劣等感を覚えてた。
しかしハープの方に悪意は無く、純粋にそれを情緒であると感じているもの事実だろう。
便利であればいいというわけではないということは分かっているが、それを楽しむ余裕が自分にはまだ備わっていない、まだ子供だとスバルはそちらの方に劣等感を感じていた。

『でもウェーブロードさえあれば、どこにでも行けるわけじゃないわ。地球でいうところのトンネルができる前の道、電波体が行き来できない場所もある。FM星の空は星中、どこでも繋がってるわけじゃない。だからウォーロックは地球の空、これは気に入ってるみたいよ。全ての世界が1つの空で繋がってる。障害もなく、自由に飛び回れるってね』
「そっか…じゃあ、家とか…そもそも建物ってあるの?」
『それはあるわ。移動法や体の構造、文化以外は比較的FM星と地球の大きな障害は無いと思うわ。言葉にしても、地球で使われる文法に近いものがあるから、私たちもニホン語に関してはすぐに習得できたわ』
「なるほどね…」

そんな時、ミソラはスバルに声を掛けた。

「スバルくん、アレじゃない?」
「…うん、アレだね」

横断歩道を隔てて、それはこちらを見つめていた。
塀に囲まれた洋館のような建物だ。
距離にして約50メートルといったところだろうか。
図書館だが、工事中で営業はしていない。
しかし“工事をしている”ようにも見えない。

「工事中の表札…聞いてたとおりだけど…スバルくん、行くの?」
「…うん」
「ルナちゃんはここで待ってて。私とスバルくんで、中を確認してくるから」
「ちょっ!?あなたたち2人だけで行くの?」
「ウォーロックとハープも付いてる。15分で戻るから。もし戻らなかったら、悪いけど天地さんに連絡してくれる?」
「私も行く!」
「えっ、でもスバルくんの読みが正しいなら、危ないかも……」
「私は信用してない!スバルくんの読みもただの考え過ぎの妄想だと思ってるし、あなたのことも、ハープとウォーロックっていう宇宙人も完全に信用したわけじゃないわ!」
『えっ、オレたち!?』
「響さん、それにハープ。あなたたち、変身して自分のマネージャーに襲い掛かったらしいじゃないの!」
「ゲッ…それは……」
「それにウォーロック!そもそもあなたがスバルくんをこんな危険なことに巻き込んだんでしょうが!」
『何だと!?』
『反論できないわねぇ。どっちも事実だし』

偶然、通りかかった老夫婦からはその光景は不思議に写った。
1人の少年を少女2人が取り合っているように見えるのだが、話の流れとして3人しかいないはずなのに、更にもう2人いるようなおかしな感覚を覚えていた。

「ん?でも、待って。私と、ウォーロックと、ハープを信用してないなら、スバルくんのことは信用してるんだ」
「べっ、別にそういうわけじゃないけど……」
「僕、信用されてなかったんだ……」
「そういうことでもないけど…」
「ルナちゃん、もしかしてスバルくんのことが心配なの?」
「……もう!知らない!!」
「分かったよ。委員長も連れて行く。これでいいよね、みんな」

スバルが折れた。
素直に言ってしまえば、確証など無いし、自分の妄想だと言われれば、反論もできない。
むしろそちらの可能性の方が高い。
それに思い過ごしであるならば、それに越したことはないのだ。
ご機嫌斜めのルナをなだめながら、門をくぐる。

「凄いねぇ。何だか神秘的っていうか……」
「コダマタウンにも似たような光景はよく見てる気はするのに、やっぱり大都会にもこういう場所があるんだって思うと不思議」
「水と植物っていうのが、癒されるよね」
『それに関しては、宇宙人のオレでも納得だ』

図書館の玄関部までのほんの数十メートルの小道を歩きながら、周囲を見渡す。
木々が生い茂り、小川と噴水が来る者に癒やしを与えてくれる。
森林浴やマイナスイオンのように、実際に効果があるのかどうかはよく分からないが、不思議と心が安らぐのだ。

「…人影?」
「え?」

締め切られた玄関のガラスをこっそりと除いたスバルが不審な人影を目撃した。
3人は隠れるように玄関のドアに身を隠す。
その時、ウォーロックとハープも同時に異変に気づいた。

『おい、スバル!ビジライザーだ!』
「どうしたの?」
『いいから。ビジライザーをかけてごらんなさい』
「…え?」

スバルはビジライザーをかけた。
すると周囲の世界は一変する。
あらゆる電波が視認できるようになり、電波体が喋る言葉までもトランサーを介せずに聞こえるようになる。
そんな代物を携帯しているスバルからすれば見慣れた光景であるはずだった。
しかし今歩いてきた道を見返すと、その光景はスバルを無慈悲に裏切った。

「!?….これは…」

自分たちがくぐってきた門、そして塀の部分に紫色の壁のようなものが立ち塞がっている。
何かのシールドのように見える。
スバルは嫌な予感に駆られ、ポケットからAQUOSを取り出した。
案の定、圏外になっている。

「シールドだ!」
『あぁ!間違いない』
「でも…ウォーロックが入る前に気づかないなんて…」
『外からじゃ分からないように二重三重に厚化粧してあったってことだ』
「ホントだ…圏外」

ルナもミソラも自分の端末を取り出すが、結果はスバルと同じだ。

『クッソ!入る前に何の電波も飛んでないのを疑うべきだったぜ!』
「でもシールドに向かって何かの電波が……」
『多分、このシールドを発生させてる装置が許可している電波だけがシールドを通れるんでしょう。あれは多分、携帯か何かの通信機』
「待って…電波が飛んでる?じゃあ、誰かいるってことじゃ…」
『数的には…ざっと20から25ってところかしら』
「…委員長、やっぱり戻った方が…」
『遅えよ。多分、(やっこ)さん、もう気づいてやがる』
「でも工事の業者さんかも」
「わざわざシールドを張るような工事って何よ?」
「…とりあえず入ってみよう。もし工事業者だったら、本を返しに来たって言えば笑い話で済む」
「もし違ったら?」
「…考えたくない」

スバルは一度、深呼吸をしてから音を極力立てないように、玄関のドアを開いて中に入った。
入ってすぐ右手には受付のカウンターがあり、「本日休館」の札が立てられていた。

「っ……」

スバルは心臓を握りつぶされそうなものを感じていた。
何かがいる、それはもう間違いない。
だが、何かがいる程度のプレッシャーではない。
近くにいるだけで、視界にすら入らずとも鬼気迫るものを発し、自分をここまで圧倒する何かがいるのだ。
ミソラとルナは既に顔色が真っ青だ。
今にも泣き出しそうな面構え、既にミソラはバラエティ番組には到底出せないような顔だ。
ルナもお嬢様が育ちが災いしてか、吐き気すら催している。
スバルだけが、この尋常でない恐怖に襲われてながらも、辛うじて冷静さを保っている。
その瞬間、ルナが悲鳴を上げた。

「キャァ!!!」
「委員長!?」

スバルはルナの方を見ると、ルナの腕を掴む何者かの存在が視界に入った。
スーツ姿に大柄な男、もうどうしようもない恐怖が背筋に襲い掛かったルナとミソラは身動きを封じられた。
しかしそんな中、スバルは反射的にその大男に挑み掛かる。

「このォォ!!」

ルナを掴む腕に飛び掛かり、ルナを開放する。
しかし安心するまもなく、男の標的はスバルへと変わっていた。
男はその巨体から放つ力で腕を抑えるスバルを投げ飛ばす。

「ゔっ!!」
「スバルくん!?」
「うおぉぉ!!!」

スバルは痛みを堪え、すぐに立ち上がり男に襲い掛かった。
男は向かってくるスバルを再び弾き返すべく、拳を前に突き出す。
しかしスバルは寸前で体勢を前かがみみして、交わすと胴回りに飛び掛かった。
男に比べ小柄で力も弱いスバルだったが、助走の勢いと太ももを掴みバランスを崩し、全体重を掛けて押し込んだ。

「うっ!!!」

思わずルナとミソラは目を逸らした。
スバルと男は激しい音とともに「図書室」と書かれたプレートの木製の扉に突っ込んでいった。
扉は蝶番ごと破壊され、本と笑顔の子供たちが描かれた美しいステンドガラスは無残にも砕け散る。

「…ハァ…どうして子供っていうのは、ダメって言われることを好奇心でやってしまうのか…」

「!?」

扉をぶち破って床に倒れ込んだ際に男は打ちどころが悪かったのか、気を失っている。
しかし安心するどころか、更に恐ろしいもの世界が3人に襲い掛かった。
そこは広く開放的な図書室だった。
電子書籍が普及した現代でも変わることのない細かくソートされた本棚と紙の匂いの広がる知的で落ち着いた雰囲気の漂う空間。
だが今は同時に殺気が漂っていた。
黒いスーツに黒に近いくらい濃い紫のネクタイをした男たちが一斉にこちらを向く。

「…スバルくん」
「何なの…」

蛇に睨まれた蛙としか言い様のない状態に置かれた3人は永遠にも思える10秒を過ごす。
そして互いに状況を把握した瞬間、黒いスーツの集団の中で1人、上のテラスから見下ろしている男は眼鏡のヒンジを触ると、膠着状態を打破した。

「お前は…スターダスト……いや、違ったか」

安食だ。
落ち着いた雰囲気を纏いながらも、突き刺さるような恐怖を放ちながら、3人を圧倒する。
しかし何も喋らない10秒の間の方が3人にとっては恐ろしく、安食が口を開いたことが不思議と3人には安心を与えていた。

「誰なんですか?あなたたちは!?」
「…ほう…驚いた。電波体を連れているのか」
『!?私たちが見えてる…あの眼鏡、ビジライザー?』

眼鏡のヒンジがスイッチになっていた。
すなわち安食にはウォーロックとハープの姿が筒抜けになっているということだ。
スバルの当たって欲しくなかった予想は確信へと変わっていく。

「それに我々が何かも分からないのに、ここまで辿り着くとは…誰かヘマでもしたのかな?」
『おい、スバル。気をつけろ…コイツ、ヤバイぞ…』
「うん…」

自分たちはウォーロックが感じ取り、ミソラ、そしてその友達のスズカを救った『もう一人のロックマン』の存在を知っているような素振りを見せた男たちの足跡を辿ってここまで辿り着いた。
その男たちは今、ニホンを筆頭に世界中を混乱に導いたデンサンシティと才葉シティ、エンドシティなどのインターネット障害を引き起こした事件と関わっているような言動を見せていた。
これだけの条件でも、ある仮説を立てるのは容易だ。
インターネットダウン、更には学校襲撃といった犯罪を行っている集団が存在し、その集団と裏で人知れず戦っていたのが『もう一人のロックマン』であるということ。
そしてスバルがその存在を認知するキッカケとなったウォーロックが感じ取った気配、占領された学校からスズカたちを助け出したものが、この集団と『もう一人のロックマン』との戦いの一部にすぎないということだ。
冷や汗を垂らすスバルを尻目に、安食はスバルたちがここに来るキッカケとなったカフェで会話していた男を呆れた顔で見ている。

「……あれは…銃?」

ここまでの仮説、そしてこの数秒のやり取りだけでも、彼らが褒められた集団ではないことは疑いようがない。
そしてスバルの目にはそれを根拠ともなるものが飛び込んできた。
本来なら本を読むために使うはずのテーブルの上に並べられたベレッタM92、もう仮説が当たっていようとハズレていようと彼らが犯罪集団であることは決まりだ。

「見られてしまったからには残念だけど、グッバイ」

安食のその一言を引き金に黒服たちは紫色のカードを取り出した。

「あのカード…」

スバルが未明にUXプラザで拾ったものと同じ形状をしている。
各々がトランサーに挿入すると、スバルたちが一番恐れていた言葉を呟いた。

『電波変換……』

「!?…ジャミンガー…」

目の前をオーロラのような波が通り過ぎたと思うと、そこには既に黒服の男たちはいなかった。
そこに立っていたのは、不気味なマスクと戦闘用の電波スーツを纏った文字通り『怪人』だった。
ジャミンガーだ。
一瞬、背筋に悪寒が走って身動きを封じられたスバルだったが、正体が自分の知っているものであったということが恐怖を打ち払い、誰よりも最初に動き出した。

「委員長は隠れて!ミソラちゃん!いくよ!!」
「うっ…うん!」

スバルはルナを素早く図書室の外へ誘導すると、ミソラとともにジャミンガーたちの前に立つ。

『ヘッ!久しぶりに暴れるとするか!!』

月を見た狼のように、ウォーロックは爪を研ぎながら、好戦的な本性をより剥き出しにしてみせた。
これがスバルにとってのスイッチだった。
すると首筋から目にかけてのラインに回路図のような模様が浮かび上がり、スバルの肉体も電波変換に向けて待機状態に入った。
左腕にトランサーを装着し、ウォーロックの意思に呼応して現れたポップアップをタップする。
そして拳を固く握って構え、ジャミンガーたちを睨みつけると、変身コードを叫んだ。

『電波変換!星河スバル!オン・エア!!!』

左手を高く突き出し、青緑色に輝く稲妻を帯びた竜巻を巻き起こすと、敵と同じく戦うための姿へと変わる。
ウォーロックの精神とシンクロすることで、地球人であるスバルの肉体を一時的に電波空間に適応させる。
その上でウォーロックの身体はスバルの潜在的な資質と自身の力を最大限に引き出すのに適したスーツとなり、スバルの肉体を包み込む。

「バカな!…ロックマンだと!?」
「1人だけじゃなかったのか!?」

濃紺のアンダースーツにライトブルーを基調にしたアーマーを身に纏い、赤いバイザー越しでも分かる芯の通った眼差しとウォーロックの頭部がそのまま装着された左手がジャミンガーたちに対して逆に恐怖を与える。
その姿こそ、星河スバルのもう一つの姿にして、半年前のFM星人の侵略から地球を救った英雄、シューティングスターロックマン=流星のロックマンだった。

『私たちもいくよ!電波変換!!響ミソラ!オン・エア!!!』

それと同時にミソラもトランサーを左腕に装着して、ギターを構えて弾き鳴らす。
その光景はスバルのものと違って、かなりファンシーだった。
まるで楽譜から飛び出したような音符たちが飛び回り、ミソラを包み込む。
赤みの混じった髪から一瞬で澄み渡った金色の髪に、そして普段愛用しているギターもハープと融合して変化する。

「ロックマンとハープ・ノート……なるほど」

安食は予期していなかった侵入者の正体がシューティングスター・ロックマンとハープ・ノートであったことを一瞬驚いたようだったが、すぐにその理由を把握した。
スターダストの気配を感じ取ったからだ。
そしてハープ・ノートはロックマンと個人的な交友があるとは予想出来ていたから、それについてきた。
安食は自分たちの計画を潰そうとするスターダストやディーラー、そしてサテラポリスの尖兵でないことを何処か安心した。
だが自分たちの存在を知られたからにはやることは一つだけだった。

「やれ」

いつものように部下に命令し、自分は必要な機材を運び出すべく奥の部屋へと向かう。

「いくぞ!!」

ロックマンとハープ・ノートは彼らが何者なのか分からないことと、実に数ヶ月のブランクがある状況に多少の不安を覚えつつも、自分の体が覚えている感覚を頼りに戦闘に突入した。




 
 

 
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