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ワーグナーの魔力

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第三章

「凄かったです」
「全部聴いたね」
「あの、何ていいますか」
「言葉にならないね」
「僕では」
 到底という口調での言葉だった。
「言い表せないです」
「本に色々書いてあったね」
「はい」
 借りて熟読してだ、既に彼に返してあるその本をだ。
「トーマス=マンやニーチェもですね」
「ワーグナーに影響を受けているんだ」
「そうでしたね」
「ニーチェは後に袂を分かったけれどね」
 そしてワーグナーを批判する様になったがだ。
「彼等もまたね」
「ワーグナーを愛していた、lワグネリアンだったんですね」
「フルトヴェングラーもマーラーもね」
「ユダヤ系でもですね」
「うん、マーラーはユダヤ系だったよ」
 この音楽家もというのだ。
「そうだったよ」
「それでもワーグナーの音楽を認めていてですね」
「愛していたんだよ」
「ワルターやクレンペラーもですね」
「そうだったんだ」
 このユダヤ系の音楽家達もというのだ。
「そしてルートヴィヒ二世も」
「バイエルン王だった」
「あの人は心からワーグナーを愛していたんだ」
 彼の音楽、そして芸術をだ。
「だからあの城も築いたんだ」
「ノイシュヴァンシュタイン城ですね」
「あの城には行ったことがあるかな」
「いえ」
 残念な顔でだ、プロホヴィッツは首を横に振って答えた。
「まだです」
「西にあるからね」
「はい、ここは東ですから」
 ドレスデンは旧東ドイツ領にある、同じドイツといっても旧西ドイツ領にあるバイエルンとは距離があるのだ。
「どうしても」
「簡単には行けないね、けれどね」
「機会があればですね」
「是非行くべきだよ」
「バイロイトにもですね」
「そう、それにね」
 シュツルムはプロホヴィッツにさらに話した。
「今度は近くだけれど」
「ライプチヒですね」
「あそこに行くのもいいよ」
「ワーグナーの出身地ですね」
「そうだよ」
「あそこに行くのもいいんですね」
「近いからね」
 ドレスデンから見てライプチヒはというのだ。
「同じ東にあるから」
「今度行ってきます」
「うん、あとね」
 ここでだ、シュツルムは微妙な顔になって言った。
「ワーグナーを愛した人の中には彼もいるからね」
「あっ、それは」
「わかるね」
「ヒトラーですね」
「うん、彼はね」
 どうしてもだ、ドイツではヒトラーは否定される。あの戦争以降このことは揺らぎようがないものとなっている。
「ちょっとね」
「どうしてもですね」
「ワーグナーが好きだったけれど」
「ヒトラーのことを話すと」
「ややこしくなるんだ」
「何かとですね」
「けれど確かにね」
 あくまで事実を語ることを決めてだ、シュツルムは言った。
「彼もまただよ」
「ワグネリアンだったんですね」
「それもかなりの理解者だったんだ」
「そのことは否定出来ないんですね」
「そうだよ」
 その通りという返事だった。 
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