STARDUST∮FLAMEHAZE
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第一部 PHANTOM BLAZE
CHAPTER#21
戦慄の暗殺者Ⅶ ~Emerald Explosion~
【1】
「エメラルド・スプラッシュッッ!!」
封絶の放つ白い光で幻想的に照らされた校内に響く、
清廉なる美男子の声。
その声の主、花京院 典明の「幽波紋」
『法 皇 の 緑』 の両掌から滔々と流れ落ちた
緑色の液体が瞬時に畝って集束、煌めく無数の翡翠結晶へと変貌し、
スタンドの手から発せられる眩い輝きを以て一斉に弾ける。
無より生み出された輝く翡翠の魔連弾は即座に空間を隈無く疾走し、
襲いかかってきた巨大な武装燐子達の全身に隈無く着弾して爆散させ、
瞬く間に貫殺した。
紅世の法儀に支配された因果孤立空間。
学園中央部に設置された時計台の針が静止した世界。
まるで全ての時間が止まってしまったかのような無音の静寂。
その中で、細身の躰にフィットしたバレルコートのような学生服に身を包む
中性的な美男子と異形の怪物達との死闘が絶え間なく繰り広げられていた。
「先刻の大爆発。どうやら戦局に大きな動きが在ったようだ。だがッ!」
ギャギィィィィィィィッッ!!
華麗な体術で横っ飛びに中空を舞った花京院の、
その1秒前までいた場所に機能性を欠いた大仰な造りの武器、
剣や槍や斧などが多数突き立てられリノリウムの床を打砕する。
「この人形達、そしてこの特殊空間を生み出す能力 “封絶” が
「解除」 されてない処を見るとまだ決着はついてないようだな」
側方に一回転し、手をついて着地した花京院の傍らで
スタンド、ハイエロファント・グリーンが流法 『エメラルド・スプラッシュ』 を
すかさず連続発射し、前方の巨大燐子3体を爆砕、存在の闇へと葬り去る。
リノリウムの上に舞い散る白い火花が消えると同時に、訪れる沈黙。
次の刹那、その中性的な美貌が微かに翳った。
「空条、キミは、無事でいるのか……?」
脳裏に浮びあがる、熟練の 『スタンド使い』 で在る自分を圧倒した、
勇壮且つ精悍な姿。
そこへ。
(!?)
突然何故か、一人の少女の姿が重なる。
真紅の瞳、深紅の髪、マントのような黒寂びたコート。
その少女は、その彼の傍らで挑発的な仕草のままこちらに笑みを向けていた。
想像の中とはいえ、完全に勝ち誇った表情で。
(!!)
その事に何故か無性にカチンッときた花京院は一瞬思考が止まるが、
すぐに己を律して落ち着きを取り戻す。
体温上昇による発汗作用で、ライムオイルを基調にした
爽やかなフレグランスが一際強く空間に靡いた。
「あと “マジシャンズ” も、一応」
シャナ、だっけ? と頭の中で付け加え、額に少々青筋を浮かべ、
若干苛立った口調で美男子は呟いた。
そんな彼の気が休まる暇もなくいきなり調理室と美術室、
その両開きのドアが一斉に開き中から再び大小様々な形態の
フィギュアとマネキンとマスコットが大挙して押し寄せた。
「クッ! まだこんなに数が! これじゃあキリがない!」
一階部分の敵はこれで最後だと想いたいが、
先刻からロクにインターバルもなしで流法を撃ち続けているので
スタンドパワーの残量はそろそろ半分を切る。
故に、ペース配分の事もこれからは考えながら戦わなければならない。
そんな押し迫った状況の花京院とは裏腹に、
眼前の武装燐子達は件の如ガラス玉の瞳と耳まで裂けた口とで
血に飢えた獣のように花京院を見据えていた。
この動く人形 “燐子” は、 「存在の力」 という
人間の生命エネルギーに酷似した力で動き、
さらに存在のみを喰らう 「能力」 が在ると
かつて館の書庫でフリアグネから聞いた事がある。
そして今、 この特殊空間の中で仮死状態のように静止している
他の生徒や教師達を無視して、自分のみを 「標的」 として攻撃を仕掛けきているのは、
停止している生徒達よりもその中で動き回っている自分の方が
旨そうに見えるからなのか? 或いは “動く者を優先的に攻撃しろ” と
遠隔操作されているからなのかもしれない。
物質の遠隔操作能力は、自分の最も得意とする処。
故に、自分が出来るコトならフリアグネにも出来る。
自分と同じ 「領域」 にフリアグネもいる。
かつて彼の言ったとおり。
まるで合わせ鏡の如く、自分と酷似した存在。
だから――
「クッ!!」
花京院は唐突に脳裏へ浮かんだ、
花々の香気に包まれる美男子の姿を無理矢理消し飛ばした。
(ボクとしたことがこんなときに……うかつな……ッ!)
両目をきつく閉じ頭を左右に振ってから、
花京院は脇にあった開いた窓からスタンド、
ハイエロファント・グリーンの右腕を細い紐状に変化させ、
射程距離の延びたスタンドの触手をザイルのように三階に向けて投擲し、
窓枠にスタンドを括りつけた。
元々他の生き物やスタンドへの潜行、
寄生操作を目的に生み出された 「能力」 なので
巻き絡める力は細い見た目に反して強力。
そのまま触手をクレーンのように巻き戻してスタンドと共に、
「本体」 である花京院の躰はスタンド法則の影響で素早く上階へと昇っていく。
みるみる内に眼下で縮小されていく数十体の燐子に花京院は
血気の籠った声で叫ぶ。
「どうした!? このボクを喰らいたいンだろう!!
だったら早くこの上まで追ってこいッッ!!」
静謐なライトアンバーの瞳で見据えられた燐子達は一度戸惑ったように
互いの顔を見合わせたが、すぐにその位置を元に戻すと無機質なガラス玉の瞳に
白い小炎が宿り、それが次の行動命令発動の合図なのか
上階に逃げた花京院を追って背後の階段に大挙して押し寄せた。
全身にかかる重力の魔を感じながら花京院は、
これから撃つべき戦術を構成する為にその長い経験で培われた
スタンドの思考を練り始める。
(これで、少しは時間が稼げる。
その間になんとかヤツらを一網打尽にする 「手」 を考えなければ。
出来れば “エメラルド・スプラッシュ” 一発で
「全滅」 出来るような 「手」 を)
集中力を研ぎ澄ませるその彼の眼前に、
予期せぬ光景がいきなり飛び込んできた。
(―――――――――ッッ!!??)
スタンドを使った上空移動、視界に入った 「2階」 の惨状、
時間的には一秒に満たなかったが階層に存在するありとあらゆるモノが破壊されていた。
少なくとも花京院にはそう見えた、蛍光灯が割れ、床の表面が剥がれ、壁が抉れ、
全ての教室のプレートが砕けていた。
そして、その周囲にはもれなく数多の白い炎が類焼している。
まるで爆弾テロにでもあったかのような、壊滅的な惨状。
問題なのはその惨状自体ではない、そこに 「誰が」 居たのかだ。
「ッッ!!」
心臓の鼓動が、うるさいくらいに脈を打つ、
背筋に冷たい雫の伝う戦慄が走る。
「彼」は、そのとき、2階、に。
「く、」
震える花京院の口唇から、
「空条オオオオオオオオオオォォォォォォ――――――――――ッッッッ!!!!」
自分でも予期しない程の絶叫が飛び出した。
しかし、当然の事ながら返事は返って来ず、
望みに反して花京院は目的地である3階に到着する。
「空……条……」
半ば放心に近い状態で、その淡く潤った口唇から弱々しい呟きが漏れる。
すぐにもその身を翻して、二階の窓に飛び込みたいという欲求が
耐え難く湧き上がってきた。
が、しかし、その強烈な感情を花京院はなんとか押し留めた。
爪が皮膚を突き破る程拳を握りしめ、
己がいま果たすべき事を再確認し、強い覚悟と共に背を向ける。
口内もきつく食いしばったため口唇の端から細く血が伝っていた。
(任せてくれ……空条……ッ! 「約束」 したよな……?
今度はボクが君を助ける番だと。“君がボクにそうしてくれたように”
何が在っても! 絶対にッ!)
彼は、自分に他の生徒達の安全を託した。
自分を “信頼” して託してくれた。
だから、彼を探しには行かない。
“そんな事をしても彼は喜ばない筈だから”
だから自分も、彼を “信頼” する。
こんな事で、自分を倒した彼がやられる筈はない。
「……ッ!」
離れているのに傍にいるような、奇妙な充足を感じながら
花京院は決然と顔を上げた。
その視線の先。
3階の惨状、 否、 「状態」 だった。
そこは、“なんともなっていなかった”
「どういう、こと、だ?」
珊に足をかけ窓の縁に掴まったまま花京院が見下ろした3階の光景は、
白い光に覆われていることを除けば平穏そのもの、
まるで黄昏時の放課後のように、沈黙と静寂とで包まれていた。
それが2階の惨状と反比例して、余計に不気味さを際立たせる。
「一体、どういう事だ? 2階はアノ惨状だったのに、
何故 “3階はなんともなっていないんだ?”」
“狩人” の余裕?
絶対に有り得ない。
アノ純白の貴公子は、そのやや軽薄な甘い風貌とは対照的に、
度が過ぎるほどの完全主義者。
水も漏らさぬ完璧な戦略と、一片の解れもない緻密な戦術とで
歴戦の強者達を闇に葬ってきた、正に至高の暗殺者。
その彼が最後の砦ともいうべきこの 「場所」 を、
無策で放置するなど有り得る筈がない。
ならば、どうする?
もし自分だったなら、 “自分がフリアグネだとしたら”
(もし、彼にも、 “アレ” が出来るのだとしたら……)
花京院は静かにスタンドの右腕を紐状に変化させ、
窓枠の下にタラリと揺らしその射程距離が通常の3倍近くに
引き延ばされた拳を一度振り子のように大きく揺らし、
素早い手捌きで封絶に煌めくリノリウムの廊下へ撃ち込んだ。
ズガァァァァッッ!!
砕けて飛散する、青い破片。
その刹那。
(!!)
突如、スタンドの着弾箇所に奇怪な紋章が刻まれた
まるで黒魔術の儀式に遣うような純白の方円陣が浮かび上がった。
そしてその円陣内部から、夥しい数の人形の手が犇めき合って蠢き合い、
何もない空間を無造作に掴み合う。
「やはりッ! “結界” かッッ!!」
予測できたとはいえ驚愕の事態。
通常はその防衛本能故、反射的に飛び去る処。
しかし花京院は 『逆』 に、前方に向けて大きく跳躍し
本体と同化させたスタンドの足で着地、
そのまま鋭く床を蹴って疾走った!
次々と廊下の上に先刻と同様の白炎法陣が浮かび、
その内から漏れなく悍ましき人形の腕が飛び出してくる。
やがてその手に 「標的」 が触れない事が解ると、
白い法陣の内部からやはり同様大仰な武器を携えた人形が次々と現れ、
花京院に向かい大集団で襲いかかってきた。
(やはり、言葉通り勝利の方程式は万全というワケか。
ボクが無防備のまま床の上に飛び降りていたら、
おそらくアノ “結界” 内部に在る特殊空間に引きずり込まれていた筈だ。
もし空条かマジシャンズだったのなら、
この圧倒的数量を前に相当自力を削られていただろう。
彼らの能力は 『近距離パワー型』
ソレ故に、対複数の持久戦には不向きな能力だ)
疾走しながらも花京院の集中力は研ぎ澄まされ、
瞬時に状況を分析、把握、そして対応策を紡ぎ出す。
(流石に 『炎の暗殺者』 の名は伊達ではない。
十重二十重で構築された完璧な戦略。 “戦う前から” 勝利が確定している。
特に空条は他の生徒達が人質に取られているも同然の中、
例え殺されても逃げ出す 「選択」 だけはしないからソノ効果は絶大だ)
後方を仰ぎ見ると、廊下で犇めく人形の数は目測で約60体以上。
始末し損ねた一階の数も合わせれば、その全体数は軽く100体を超える筈だ。
しかしそのような窮地にあっても、翡翠の美男子は静謐な美貌を崩さない。
(だが、そのような徹頭徹尾練られた戦略は “完璧を目指す余り”
ボクのような “異分子” の存在の前には往々にしてその脆さを晒け出すモノ。
ソレが解っていた、か? フリアグネ?)
心中でそう呟く花京院の瞳が怜悧に光る。
(此処は “敢えて”、一点外しておくべきだったな?
そうすればボクを 「疑心暗鬼」 に陥らせ、この場に足止めする事も出来た。
この事は確実に君の不利に働くぞ? “狩人” )
花京院は口唇にアルカイックな微笑を浮かべ、走りながら後方の燐子達を見据える。
その疾走の行き着く先、3階東棟の突き当たり。
そこに設置された窓枠の外に、花京院はすぐさま紐状に延ばした
スタンドの触手を打ち放ち、自分も外部へとその身を投げた。
背後で窓枠と壁とをブチ破って次々と大地に落下しながら
追ってきた燐子達を空中で一瞥すると、
再度紐状になった触手を旧校舎と新校舎とを繋ぐ電線に巻き絡め、
大きく一回転しながら落下エネルギーを相殺する。
そして素早く触手を電線から振り解いて細身の躰を廻転させながら空中を飛翔し、
周囲の空気を巻き込みながら渡り廊下に設置された床板を踏み割って着地、
そのまま踏み切りのエネルギーを殺さずに目当ての『場所』へと
前方回転で受け身を執りながら転がり込む。
後は、 “この場所がこの時間に使われていない事” を祈るのみ。
ゆっくりと上げた視界の先。
柱の無い開けた空間、フローリングの上にワックス剤が塗布された床。
花京院の中性的な口唇に勝利の微笑が浮かぶ。
『賭けには、勝った……ッ!』
心の中で快哉を覚えた瞬間、正面と両脇に設置された 「体育館」 の
出入り口残りの4つが狂暴な破壊音を伴って鉄扉を吹き飛ばす。
その破壊された箇所から、グラウンドが覗く空洞から、
100体以上の武装燐子の大軍が多種雑多な足音を立てながら蠢き、
ゆっくりと体育館内に侵入してきた。
その耳まで裂けた口で、これから始まる清廉な存在を蹂躙する悦楽に
それぞれ下卑た笑みを漏らしながら。
無数の巨大なプレッシャーが塊となって差し迫ってくる。
その悍ましき人形の大軍に向かい、
花京院は微塵も気圧される事もなく壮烈な眼差しを返した。
「お前達? まさか、“このボクを追い詰めた” と想っているのか?
逃げ惑い袋小路に閉じこめられたか弱き兎、と?」
言葉の終わりと同時に、花京院は敏捷な手捌きで左腕を真横に鋭く薙ぎ払った。、
「ソレは違うッッ!! “お前達の方がボクに誘き寄せられたんだ!!”
我が最大流法が “最強の効果を発揮するこの場所” になッッ!! 」
「KYYYYYYYYYYY――――――――――――ッッ!!」
花京院の頭上から、猿のような燐子がいつのまに忍び込んだのか、
網の目のように張り巡られた天井の鉄骨から飛び降り、
奇声をあげながらナイフを首筋に振り下ろしてきた。
グァッッッッギャンンンンンンンッッッッッッ!!!!!!
「GYYYYYYYYYYYYY――――――――――――ッッッ!!!」
その白刃が首筋へ突き立つ前に、
武器自体がバラバラになって砕け散り、
継いでその燐子本体も同様に粉砕される。
花京院は薄白い火花を放ちながら転がる機械部品を見下ろしながら、
手向けるように言葉を紡いだ。
「フッ、愚かな。“今のボクとハイエロファントに” 攻撃をしかけるとは。
それとも、“あまりにも疾過ぎて” 視えなかったのか?」
巨大な包囲網を組んだ武装燐子達の中心部。
花京院とその前方に位置する異星人のようなフォルムのスタンド、
ハイエロファント・グリーン。
その周囲を微か、本当に微かだがエメラルドの結晶原石のような
仄かな燐光がチカ、チカ、と数秒毎に煌めいていた。
その光の「正体」が静かにスタンド本体の口唇から語られる。
「“サークリング・エメラルド・スプラッシュ”
結晶化させた幽波紋光を精神の力で遠隔操作し、
己の周囲円環状に集束、高速廻転させる。
ソレは鉄壁の防御陣、ボクとハイエロファントを攻撃しようとすれば
お前達自身が傷つく道理。正に攻防一体の “結界” だ」
花京院が己の 「能力」 を語り続ける間、
エメラルドの発光間隔が徐々に狭まってきていた。
更にスタンド自体の放つ光の強さも、
その輝度を加速度的に増大させていく。
「そして! コレはッ! これから刳り出す我が最大流法の
“準備段階” にしか過ぎないッ!」
やがてその発光間隔が限りなくゼロに等しくなり、
花京院の周囲360°が激しく輝くエメラルドグリーンのスパークで満たされる。
スタンド操作の概念は、モノを扱う熟練度、
つまり原初的な経験則のソレに酷似している。
故に、本体の精神力と技術力次第で、
どんなスタンドでもソノ潜在能力を自在に引き出す事が可能なのだ。
その法則一点にかけて、生まれついてのスタンド能力者、
云わばスタンドのエキスパートである花京院 典明の右に出る者はいない。
輝く翡翠結晶の放つ光が花京院の全身を充たしていき、
やがてその姿は煌めきによって神聖なエメラルドのシルエットと化す。
その中心部分でスタンド、ハイエロファント・グリーンが周囲を廻る
夥しい数の結晶弾を更に、爆発的威力を以て全方位へ一斉総射する為
構えた両掌で能力発動のスタンドパワーを集束し始める。
そして花京院は、無駄のない動作で拝火教徒のような印を
左手を肩口、右手を脇腹の位置に置き厳粛な流法の構えを執る。
その構えと同時に聖法を司る幽波紋
『法 皇 の 緑』は
爆発的パワーの余剰エネルギーでゆっくりと宙に浮き始める。
「ッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!」
そこに至ってようやく危機感を抱き始めたのか、
或いはたった一つの存在が放つ巨大なプレッシャーに気圧されたのか、
大軍の包囲網が徐々に後退し始める。
しかしそれより速く、花京院の壮烈な声が空間全域に木霊した。
「気づいた時にはもう遅いッッ!! 異界の “狩人” の下僕共ッッ!!
己が欲望の為だけに罪無き人々を無惨に喰い散らかしッ!
その嘆きすらも忘却の彼方に消し飛ばした赦し難き数多の 「罪」 ッッ!!
己が 「死」 を以て今こそ全霊で償えッッ!!」
空間を揺るがすかのような、鉄の反響で体育館全域に轟く断罪の宣告。
「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――――――――ッッッッ!!!!」
花京院の叫びと同時にスタンド、ハイエロファント・グリーンの両掌に集束した
エメラルドのスタンドパワーが、爆発的エネルギーを円周上に放出するため
畝るように凝縮し始める。
そして、宙に浮くスタンドの足下が花京院の視線と重なった時、
空間を軋ませる両腕が左右に高速で押し拡げられた。
「――――――――――――――――――――ッッッッッッッッ!!!!!!!」
閃光を伴い放射状に弾けるスタンドパワーと共に、
射出される結晶爆裂弾の存在を刻み付ける流法名。
それは、哀別の言葉。
生まれて初めて出来た、
異世界の友人に対する最後の 餞《はなむけ》。
聖光寂寞。覇翔の浄裁。
聖法の流法。
『エメラルド・エクスプロージョンッッッッ!!!!』
流法者名-花京院 典明
破壊力-A(廻転結晶により無限に増大)スピード-A(廻転結晶により無限に増大)
射程距離-A(廻転結晶により無限に増大) 持続力-A
精密動作性-A 成長性-A(廻転結晶により無限に増大)
ヴァッッッッッギャアアアアアアアァァァァァァァ
ァァ―――――――――ッッッッッッッ!!!!!!!
超高速廻転運動により、爆発的な威力と成って一斉総射された
莫大な数量のエメラルド光弾。
空間に満ち溢れる幽波紋光の洪水。
その中心部、荒れ狂う翡翠結晶弾の爆心源。
壮麗なる紅世の王 “狩人” フリアグネが評する処の “流麗なる法皇の翡翠”
花京院 典明が操る 『法 皇 の 緑』
その絶殺流法。
次々と、それこそ無限を想わせる破壊力と廻転力とで
武装燐子の大軍に音速で撃ち出されるエメラルドの結晶爆裂散廻弾。
精神の力によって次々と生み出される結晶の大きさはほぼ均等に揃っているが、
表面の研磨が微細に違っているので爆裂廻転射出の際
弾道に微妙な変化が起こり、ソレが結果として周囲の敵全てに微塵の隙なく
弾丸の嵐が降り注ぐ戦形と成る。
『GAAAAAAGYYYYYYYYYYYYYY――――――――ッッッッッ!!!!!』
その領域で響き渡る、総数100体を超える燐子達の
阿鼻叫喚の地獄絵図。
そのたった一つが当たっただけで、
体積比十倍以上の右半身が何の苦もなく削ぎ飛ばされる。
そのたった一部が掠っただけで、
頑丈なスチールの腕が内部の骨格ごと千切れ飛ぶ。
血の代わりに噴き散る白い炎の飛沫と流法の放つ輝きで充たされたその “結界” は、
壮麗なる外環とは裏腹に内環は聖光の冥府。
そして、いつまでもいつまでも止むことなく、
『複 式 廻 転 機 関 砲』 のように間断なく射出される
凄まじい数の廻転翡翠魔煉弾。
その直線軌道と、更に頭上で張り巡らされた鉄骨と両サイドに設置された
スチール製の格子に弾き返って 『跳弾』 と化した結晶に、
加えて後続射出されたソレにも弾かれて跳弾が跳弾を呼び、
反射弾幕の乱流に巻き込まれた燐子の大軍は
その身体の本当にありとあらゆる部分をありとあらゆる角度から蜂の巣にされ、
次々に爆散、撃砕、散滅する。
そんな煌めくエメラルドの暴風圏内でも、夥しい翡翠の結晶弾は
流法行使者である花京院とハイエロファント・グリーンにだけは
掠りもせず全てその脇を除けて通る。
遙かな太古、幾千の矢の豪雨にその身を晒しても、
傷一つすら負わなかったという軍神アレキサンダーのように。
そこまで、“弾き返る結晶跳弾の角度まで計算して” 花京院は流法を放ったのだ。
防御と攻撃力上昇を兼ねての流法から最大流法へと、
瞬時に移項する正にその名の如く流れるように完璧な
『高 等 幽 波 紋 連 携 技』
全ては、スタンドの遠隔操作能力にかけて他の追随を赦さない
花京院 典明の才能によるモノ。
然る後、全ての燐子が聖光の冥府に呑みこまれ
残酷無惨な亡骸が大量の火花を伴って体育館全域に散乱し、
更に夥しい量の結晶爆裂弾連続射出の結果として
巨大な弾痕の空洞が開け廃墟と化した建物の中心部。
その細身の躰を斜めに傾け、せめてもの情けか
燐子達の断末魔から視線を背けた美男子の姿が
後屈立ちの構えでエメラルドのシルエットから
華麗に浮かびあがる。
巨大な弾痕から流れてきた風が、淡い茶色の頭髪を揺らした。
その残骸の中心で、“彼” が使役する結界の中で、
花京院は静かに 「決意」 を告げる。
(フリアグネ……ボクは……君とは一緒に行けない……
彼と共に……DIOを斃さなければならないから……
もう……そう決めたから……)
滔々と沁み出る胸裏に、かつて一時、
戯れに想い浮かんだ映 像が過った。
DIOの館、瀟洒なヴァルコニー、風に揺れるシルクのカーテン。
麗らかな太陽の光と、海から吹き抜ける風が絡み合った清涼な大気。
その中で、“彼ら” と共に語らう自分の姿が。
その時の自分は、果たして笑っていたのだろうか?
きっと、笑っていたのだと想う。
全ては、泡沫の夢、消え去る寸前の、存在の飛沫。
今はもう、あまりにも遠くなってしまった、幻想の追憶なのだから。
花京院は琥珀色の瞳を静かに閉じ、
哀悼を捧げるように呟いた。
(でも……君の気持ちは……嬉しかった……
それだけは……嘘じゃない……)
空洞から封絶の放つ白い光が満ち、
渇いた風があらゆる方向から吹き抜けて
花京院の髪を揺らし、躰を撫で、制服の裾を靡かせる。
その、運命の交叉路の中心で、輝く純白いの旋風の中で。
「Au revoir……
壮麗なる紅世の白炎……
“狩人” ……フリアグネ……」
花京院は、静かに別れの言葉を告げた。
その彼の心中で、耽美的な微笑を浮かべる幻想世界の住人は、
純白の長衣を纏ったまま嫋やかに微笑んでいた。
手にしたマリアンヌと共に。
いつまでも。
いつまでも……
←To Be Continued……
後書き
はいどうもこんにちは。
ジョジョ5部に於ける「暗殺チーム」のように、
敵には敵の「友情」や「信頼関係」や「絆」があるというのは
ジョジョの大きな魅力に成っているというのには異論の余地が無い処ですが
この回はソコを意識して描いてみました。
コレは難しい作業ですが逆に上手く描写出来れば
非常に「味」の在るシーンを描くコトが出来るので
やりがいのある作業と言えるかもしれません。
何しろ「主人公側」と違い「正義」という「縛り」がなくなるので、
建て前やキレイゴトのような嘘っぽさがなくなり
より人間らしい「味」が生まれてくるからだと想います。
魅力在る敵キャラを描けない作品に「名作」は存在しませんが、
その為には作者自身がそのキャラクターに惚れ込んで
死んでしまったら想わず涙を流すくらい入れ込まなければなりません。
まぁどこぞの作品を例に出す必要も無いのですが
ソラトとティリエルが死んでも全然悲しくないのは
描いてる本人が一番「どーでもいい」という気持ちで描いてるからです。
「取り敢えずこんなシーン入れとけばバカな読者は感動するんだろ?
感動しろよ、ほれ」程度の気持ちで描いてるのですから
読者をバカにしている以前に「創作」というモノを完全にナメています。
「感動」というモノは「作者の感情」に読者が「感応」して初めて起こるモノで、
「計算」で出来るようなモノではないからです。
映画で言うと『シンドラーのリスト』という作品は、
公開後 (シンドラーの) 元奥さんから「ウチの旦那はあんな善人じゃなかった」
とクレームがあったそうですが、監督であるスピルバーグは
本当にオスカー・シンドラーという人物に惚れ込んで、
周りが何と言おうと彼が行った功績に感動したから
それを作品の中で爆発させあのような「不朽の名作」が生まれたワケです。
(アレを超えるラスト・シーンは
今後も出てこないンじゃないかとワタシは想います)
兎に角作者が好きじゃないキャラクターは
読者も好きになりようがありません。
だから本当にいい加減に造ってはいけない、
自分の「特殊な嗜好」を充たしたいだけなら
机の奥にしまっとけというコトなのです。
幸運にもワタシに幼児性愛の趣味は無いので
原作のアノ○○悪くて○○きそうになる着替えや添い寝のシーンが
全面カットしてあるのはその為です。
それでは。ノシ
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