遊戯王GX 〜漆黒の竜使い〜
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episode10
不動博士とのデュエルの後、デュエルコートでは研究員とみられる人たちが計測機器やタブレットを手に、忙しなく行き来していた。 デュエル以外出来ることがない私達はそんな様子をぼんやりと眺めていると、一仕事終えた後らしいペガサス氏がにこやかな笑みを浮かべてやってきた。
「お待たせてしまいもうしわけありませーん。 それとレンカガール、先ほどのデュエル素晴らしいかったデース」
「いえ、私も無我夢中だったんで……特に途中からわけわかんないくらいシンクロ召喚が多用されたあたりから記憶があやふやで」
「あー、仕方ないですよ。 外野で見ていた私もドン引きでしたよ……」
「いや、すまない。 あれは私もやり過ぎたと反省しているよ」
「博士?!」
バツの悪そうな表情を浮かべた不動博士が頬を掻きつつ、会話に割り込んでくる。 そして、空いた手には小さめのアタッシュケースが握られていた。
怪訝な眼差しを怪しげなアタッシュケースに向けていると、ペガサス氏が不動博士から受け取ったそれを私に差し出してくる。 私より先に状況を察した楓さんの表情に歓喜の色が浮かび上がった。
「っ! 会長、もしかしてそれは!」
「Yes。 先の素晴らしいデュエルを見せられて、渡さないわけにはいかないでしょう」
「って、まさか?」
「はい、ここに入っているのはシンクロ召喚に関するカードたちです。 我々はあなたをテスターの一人として任命します」
「うぇっ?! は、はいっ!」
戸惑いながらも、差し出されたケースを受け取るとぱちぱちと周囲から拍手が起こる。 見渡せば、研究員の方やガードマンの方でさえも私に向けて拍手をしてくれていたのだ。 認められた、という想いがふとよぎり胸のうちが温かくなるような感覚を感じていると唐突に背中を強めに叩かれ、パッと犯人を睨みつければ、楓さんがニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「ひゃぁ! な、なにするんですか、楓さん!」
「責任重大なレンカさんを励ましてあげようと思っただけですよう。 ま、あなたならペガサス会長のお眼鏡に叶うと信じていましたがね」
楓さんの言う通り私が負う責任は大きいだろう。 下手なプレイングはできなくなる。 だけど、楓さんの励ましのおかげで頑張れそうだ。 だがしかし!
「ありがとうございます。 けど、次からはちゃんと言ってくださいね? ほんと、心臓に悪いので!」
ジーと非難の視線を送ると、吹けもしない口笛を吹きながらサッと目線を反らされた。 この軽い感じは相変わらずのようだ。
◇
ラボをあとにした私は楓さんと二人、様々な開発・研究が行われている開発区からアトラクションのある遊興区画へと続く道を歩いていた。
「で、この後どうするんですか? ていうか、授業……出席日数……」
「あぁ、それならノープロブレムです」
「へっ?」
私の本分はあくまで学生なのだ。 いくらデュエリストという大義名分があろうとそう何度も何度も休んでいたら、留年決定。 というか普通にテストがヤバイ。 容姿のない現実に打ちひしがれていると、軽い調子の声が降ってくる。 顔を上げるとにこやかな笑みとともにグッとサムズアップした楓さんが映った。
「今日は修学旅行兼校外学習とかで、今日含めて二日間は休みなんです。 しかも、場所はこのドミノ町! いやー、運がいいですねー」
キラキラと表情を輝かせる楓さんとは対象的に戦慄の表情を浮かべた。
「……き、聞いてない、です」
「告知は前々からされてたんですが、場所が決まったのはつい先日だったので仕方ないかと。 あとあなた、ずっと上の空だったじゃないですかー」
「う、そういえばそんな気が……。 えっ、じゃあ今日はこのまま!?」
「えぇ、モチのロンで自由行動なんで。 いざ、海馬ランド!」
「わ、ちょっと! 引っ張らないで!?」
ぐいぐいと私の腕を掴み駆け出す楓さんに半ば引きつられつつついて行っていると、急に楓さんが立ち止まったことで止まり切れずにつんのめってしまい、楓さんの背中に激突してしまう。 ぶつけた額を摩りつつ、文句の一つでも言おうと彼女を見上げるといつものハツラツとした表情はどこへやら、鋭い視線で行く手を塞ぐ形で佇む二人の男性を注視していた。
「……どうやら、お楽しみはお預けですね」
楓さんの背中に隠れながら、目の前に立ち塞がる二人の男性を伺う。
「お前が、花村 華蓮……竜使いレンカだな」
あっさりと私のことを看破され、ヒヤヒヤとしているとより一層視線を鋭くした楓さんが訊ねる。
「ただのファンや追っかけではなさそうですが……名乗りとともに目的を答えなさい」
「ふむ、それもそうだな。 俺は岩丸」
「そして、俺が炎丸だ。 斎王琢磨様の妹君であらせられる斎王美寿知様の名により、お前にデュエルを挑ませてもらう!」
「っ! 斎王、ですって……!」
光の結社の教祖である斎王 琢磨の妹。 ギュッと心臓を掴まれたような驚きを覚えつつも、一歩前へと出る。
「楓さん……」
「えぇ、私も同意見です。 本来なら即刻お断りですが……たった今戦う理由が出来ました。 あなた達の目的は知りませんが、斎王についてあなた達が知っていること全て吐いてもらいましょうか」
「それこそ望むところ! 美寿知様から頂いた力の切れ味を受けるがいい!」
炎丸と名乗った男が啖呵を切る。 それを合図にデュエルディスクを装着し、構え睨み合う。
「ルールはフィールド・墓地、そしてライフ共有のタッグフォースルールだ!」
『決闘!』
[炎丸・岩丸]LP4000
[レンカ・楓]LP4000
「まずはこの俺、炎丸から行かせてもらおう、ドロー! 手札一枚を捨て、〈炎帝家臣 ベルリネス〉を特殊召喚! 」
「家臣……ってことは」
「さすがに気づくか、そうとも俺らのデッキは属性を統べる王、帝! 〈ベルリネス〉をリリースし、〈炎帝テスタロス〉をアドバンス召喚!」
アスファルトの地面に亀裂が走り、マグマが噴き出し、真紅の巨躯がフィールドへと姿を現わす。
「ちぃ、早速お出ましですかっ!レンカさん、来ますよ!」
本来なら召喚のために生贄が必要となる帝が1ターン目早々に登場し、毒吐いた楓さんが注意を呼びかけてくる。
「アドバンス召喚に成功した〈テスタロス〉とリリースされた〈ベルリネス〉の効果を発動させてもらう。〈ベルリネス〉の効果により相手手札を確認し、その中から一枚を選択し、エンドフェイズまで除外する!」
「ピーピーングですかっ?!」
私の手札が白日の下に曝され、魔法カード〈天使の施し〉が除かれる。 大方、次の〈テスタロス〉の効果ダメージの成功しますあげるのが狙いか。
「〈テスタロス〉の効果! 手札をランダムで一枚捨ててもらう!」
「熱っ……!」
テスタロスの放つ熱線に穿たれた私の手札〈真紅眼の黒竜〉が墓地へと送られる。
「エースモンスターも炎帝の前には無力! レッドアイズのレベルは7! よって、700ポイントのダメージだ!」
「くっ、ちまちまとうざったい!」
[レンカ・楓]LP4000→3300
「カードを二枚伏せ、俺のターン終了と共に除外されたカードは手札に戻る」
「私のターン、ドロー! 先ほどの借り、倍にして返しますよ! 〈天使の施し〉を発動して、三枚ドローして、二枚捨てます! 続けて〈龍の鏡〉を発動! 墓地の〈真紅眼の黒竜〉と〈メテオドラゴン〉を融合! 出でよ、〈流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン〉! そして、デッキから〈真紅眼の黒竜〉を墓地に送り、攻撃力の半分のダメージを与えます!」
[炎丸・岩丸]
LP4000→2800
〈流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン〉
ATK/3500
空から炎を纏った隕石が次々と降り注ぎ、裁きの鉄槌を下す。 倍返しまでとはいかないものの先の借りの分は返しただろうか。
「まだまだ行きますよ! 手札からチューナーモンスター〈レッド・リゾネーター〉を召喚! 〈レッド・リゾネーター〉の効果により、手札から〈真紅眼の飛竜〉を特殊召喚します」
「レンカさん、やるんですね!」
チリーンと音叉を響かせながら現れたのは炎を背負った赤い悪魔。 さぁ、私のシンクロ召喚初お披露目だ!
「光栄に思いなさい! 私はレベル4〈真紅眼の飛竜〉にレベル2のチューナー〈レッド・リゾネーター〉をチューニング! 」
「な、なんだコレは! 聞いてないぞ!」
☆4 + ☆2 =☆6
四つの星となった飛竜が二つのリングを通過し、同調を開始する。 炎丸と岩丸が唖然とした表情で見つめる中、リングの回転率は上昇し続け、光が撒き散らされる。
そして遂に回転数が最高点に達するとともに極光が光輪の中央を貫き、新たなドラゴンが生誕の産声を上げた。
「赤き魂、ここに1つとなる。王者の雄叫びに震撼せよ!シンクロ召喚!現れろ、〈レッド・ワイバーン〉!!」
〈レッド・ワイバーン〉
☆6 ATK/2400
流星竜に並ぶようにフィールドに降り立った赤い飛竜は鋭い眼光で炎帝を見据える。 気圧されるも二人は秘策があるのかすぐに余裕を取り戻す。
「そうか、これが噂の新たな召喚って奴か……だが、俺らには美寿知様から頂いた力がある! リバースカードオープン!永続トラップ〈連撃の帝王〉! その効果により、相手ターンでもアドバンス召喚が行える! 俺は〈炎帝〉リリース! 」
トラップカードの発動と共に炎帝テスタロスがその巨躯を覆い尽くすほどの業火に飲み込まれる。
「爆炎の力を宿し、生まれ変れ! 出でよ、〈爆炎帝テスタロス〉!」
〈爆炎帝テスタロス〉
ATK/2800
天を焦がすかのように立ち上る業火をかき分けるように現れたのは赤い剛腕。 そして、肩、胴体と徐々に姿を現したのは炎帝の頃の面影を残しつつも強大な力を手にした帝の姿。 爆炎帝が炎を散らしながら降臨した。
「アドバンス召喚に成功した〈爆炎帝〉の効果発動だ! 相手手札を確認し、一枚捨てる。 それがモンスターならレベル×200のダメージを与える。 さらに炎属性モンスターを生贄にしたことで追加で1000ポイントのダメージをお前に与える! さぁ、威力の増した爆炎をとくと喰らえ!」
勢いに乗った炎丸が威勢良く叫ぶ。 爆炎帝の手指が私へと伸ばされる。
「そう好き勝手されると……イラっとします。 墓地からトラップカード〈ブレイクスルー・スキル〉発動。 〈爆炎帝〉のエフェクトを無効にします!」
「ちっ、さっきの手札交換の時か。 抜け目ねぇな……」
チッ、と苛立たしげに舌打ちをする炎丸。 忘れてもらっては困るが今は私のターンだ。
「バトルです! 〈流星竜〉で〈爆炎帝〉を攻撃!」
「〈攻撃の無敵化〉! 〈爆炎帝〉をこのターンいかなる破壊から守る!」
「けど、切れ味は受けてもらいます!」
「ぐ、おっ……」
[炎丸・岩丸]
LP2800→2100
メテオ・ブラック・ドラゴンの強力な攻撃の余波が爆炎帝を突き抜け、炎丸たちへと及ぶ。 苦悶の声を漏らす彼らのライフは残すところ半分だ。
「カードを二枚伏せ、これでターンエンドです」
[レンカ・楓]
LP3300
手札0枚
魔法・罠伏せ二枚
場
〈流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン〉
〈レッド・ワイバーン〉
「俺のターン、ドロー! まずはこいつだ、手札の〈地帝家臣 ランドローブ〉の効果により、〈流星竜〉を裏守備表示に変更し、こいつを特殊召喚する!」
「あっ……!」
地面が裂け、流星竜を呑み込むとマントを翻し、ずんぐりとした戦士がフィールドに現れる。 生贄を用意した、という事は次に来るのは帝だろう。おおよその予想を立てつつ、岩丸の挙動を伺う。
「永続魔法〈帝王の開岩〉を発動ッ! そして、〈ランドローブ〉をリリースし、〈地帝グランマーグ〉をアドバンス召喚! そして、〈グランマーグ〉の効果により、裏守備の〈流星竜〉を破壊する!」
大地が揺れ、地面が裂ける。 砂色の巨躯の登場とともに、裂け目が流星竜を完全に呑み込み、フィールドからその存在を消し去ってしまう。
「さらに、アドバンス召喚に成功したことにより、〈開岩〉の効果発動!〈剛地帝 グランマーグ〉を手札に加え、さらにリリースされた〈ランドローブ〉の効果により墓地の〈ベルリネス〉を手札に加える! 」
フィールドのカードを除去してくるばかりか、次のアドバンス召喚用の布石まで揃えてくる。 これだから、コンボが噛み合うほど恐ろしいものはない。 だが、私もやられてばかりではいられない。 地面に亀裂が走ったかと思った直後、ひび割れた大地から真っ赤な炎が噴き出し、漆黒のドラゴンが雄叫びをあげて、大空へと飛翔する。
「〈流星竜〉のエフェクトにより、墓地から通常モンスターの〈真紅眼の黒竜〉を特殊召喚します! 」
「ちぃ、ただではやられてはくれないか。 ならば、魔法カード〈二重召喚〉発動! これでもう一度召喚が行える! 〈剛地帝 グランマーグ〉は〈爆炎帝〉と同様にアドバンス召喚したモンスター一体のリリースでアドバンス召喚が行える。 〈地帝〉をリリースし、降臨せよ! 大地の覇者〈剛地帝 グランマーグ〉!!」
〈剛地帝 グランマーグ〉
ATK/2800
砂色の巨躯がレンカたちの前に壁のように立ち塞がる。 フィールドには最上級の帝二体と凄まじいプレッシャーが襲うが、そこは歴戦のプロデュエリスト。 並のデュエリストならば、戦意喪失するであろう局面でも、後退くどころか気丈にも睨み返している。
「〈剛地帝〉へとパワーアップしたグランマーグはフィールドのセットカード二枚破壊できる! ガイアクラッシャー!」
岩丸が叫び、剛地帝へと指示を出す。 巨岩のような拳が地面へと叩きつけられると、地面が鋭く隆起しレンカの伏せカードを刺し貫く。 守りのために伏せておいたカードも粉砕され、私達のフィールドには二体のドラゴンだけとなってしまう。
「そして、地属性モンスターをリリースしたことでワンドロー。 さて、バトルだ! グランマーグで〈レッド・ワイバーン〉を攻撃!」
「〈レッド・ワイバーン〉のエフェクト発動! 攻撃力の最も高いモンスター一体を破壊する! グランマーグを破壊!」
「だが、俺らのフィールドにはまだ〈爆炎帝〉が残っている! 〈爆炎帝〉で〈レッド・ワイバーン〉を攻撃する。 フレイム・インパクトぉお!」
「くっ……」
[レンカ・楓]LP3300→2900
レッド・ワイバーンの放つ熱線が直撃し、グランマーグを火だるまにするのも炎の中から赤い装甲を纏った腕が伸び、レッド・ワイバーンを鷲掴み、握り潰されてしまう。
「メイン2で魔法カード〈地割れ〉発動! レッドアイズも破壊させてもらう!」
「っ! なんてことをっ!?」
残っていた私のレッドアイズもテスタロスの手によって、グランマーグの作った裂け目に叩き落とされ、圧殺されてしまう。 悲痛な叫びをあげるなか岩丸はカードを伏せ、ターンを終えてしまう。
「レッドアイズとて俺らの帝には敵うまい。 カードを一枚伏せてエンドだ」
[炎丸・岩丸]
LP2100
手札二枚
魔法・罠伏せ一枚
〈帝王の開岩〉
〈連撃の帝王〉
場
〈爆炎帝テスタロス〉
岩丸の攻撃を凌ぎきり、ようやく一巡目最後のプレイヤーである楓さんにターンが回る。 なかなか自分の番が回って来ないことに不満だったのか、岩丸がエンド宣言をするなり、にっこりと表情を輝かせるとデッキから勢いよくカードをドローした……
「ラストターンッ!!」
「なにっ?!」
「えっ、ちょっと!」
ーーー ラストターン宣言を伴って
「まずは〈天使の施し〉を発動しますね。 三枚ドローして手札を二枚捨て、墓地に送られた〈ダンディライオ」の効果で二体のレベル1の〈わたげ〉を生成する。そして、フィールド魔法〈ブラック・ガーデン〉発動!」
楓さんの代名詞とも言える〈黒庭〉。またの名を処刑場とも言うフィールド魔法が発動され、コンテナや倉庫に囲まれた風景が一転し、周囲を黒い蔦に覆われる。
「そして、〈わたげ〉のうち一体をリリースすることで永続魔法〈超栄養太陽〉を発動! 〈ローンファイア・ブロッサム〉を特殊召喚です」
レベル2以下の植物族をコストにすることでリリースしたモンスターのレベル+3までのレベルを持つ植物族を出せる万能魔法。 日光を遮り、薄暗い黒庭の中で真っ赤に燃える太陽の恩恵を受けたわたげがすくすくと成長し、真っ赤な花をつけた〈ローンファイア・ブロッサム〉が凛として咲き誇る。
「〈ブラック・ガーデン〉の効果により、〈ロンファ〉の攻撃力は半減し、あなた達の場に〈ローズ・トークン〉を特殊召喚します」
〈ローンファイア・ブロッサム〉
ATK/500→250
〈ローズ・トークン〉
ATK/800
もっともすぐさま黒庭の呪いとも言える特殊効果により、生命力を吸われたロンファはしんなりと萎えてしまい、反対側ーー相手のフィールドには真っ赤な大輪をつけた薔薇が芽吹く。
「〈ロンファ〉の効果で〈ロンファ〉をリリースして、〈シード・オブ・フレイム〉を特殊召喚しますが、〈黒庭〉の効果で攻撃力は半減し、〈ローズ・トークン〉を召喚します」
〈シード・オブ・フレイム〉
ATK/1600→800
ロンファが突如として燃え上がり、炎の中から新たな植物が誕生する。 だが、黒庭からは逃れられず、生命力を吸われ、もう一体不気味な雰囲気を漂わせる薔薇が咲く。
「ここで〈黒庭〉の第二の効果発動! フィールド上の植物族を全て破壊し、その攻撃力の和と同じ攻撃力を持つモンスターを墓地から召喚する」
攻撃力0の〈わたげ〉と半減し攻撃力800となった〈フレイム〉、そして攻撃力800の〈ローズ・トークン〉が二体。その合計は2400。
黒庭の崩落が始まると共に、食虫植物のような禍々しいモンスターがフィールドに誕生する。
「ーー出でよ、〈ギガ・プラント〉!!」
〈ギガ・プラント〉
ATK/2400
「そ、し、て! 効果で破壊された〈シード・オブ・フレイム」の効果発動です。〈シード・トークン〉をあなた達の場に召喚し、墓地より〈ロンファ〉を蘇生します」
〈シード・トークン〉
DEF/0
さすがは枯れてもただでは済まさない植物族。〈シード・オブ・フレイム〉は 破壊されてもなお、種子と共に仲間を復活させる。
「〈ロンファ〉をリリースしてデッキから二体目の〈ロンファ〉を召喚! そして〈ロンファ〉をリリースして、二体目の〈シード・オブ・フレイム〉を特殊召喚! そして〈炎王円環〉を発動! 〈シード・オブ・フレイム〉を破壊し、〈ロンファ〉を蘇生! 〈シード・オブ・フレイム〉の効果により〈シード・トークン〉を送りつけ、〈ロンファ〉を蘇生! 」
何度も何度も何度も……何度だって蘇ってくる植物族達。 ここまでの流れで私たちのフィールドには、〈ギガ・プラント〉と二体の〈ロンファ〉が召喚されている。 そして未だ召喚権を使っていないとか、どんな悪夢だ。 さらに酷いことにこの悪夢、まだ先がある。
「召喚権を放棄することで魔法カード〈アームズ・ホール〉を発動! デッキから〈スーペルヴィス〉を手札に加え、デッキトップを墓地に」
斬るように右手を一閃。 墓地に送られたのはモンスターカード〈薔薇恋人〉。
「今墓地に送られた〈薔薇恋人〉の効果発動! 手札から植物族モンスター、〈桜姫タレイア〉を特殊召喚!」
〈桜姫タレイア〉
ATK/2800
春でもないのに桜の花が宙を舞う。 〈薔薇恋人〉の歌声に誘われるようにしてフィールドに降り立ったのは植物姫の一人〈桜姫タレイア〉。
「春の次は夏ですね〜。 〈ロンファ〉をリリースし、デッキから〈姫葵 マリーナ〉を召喚!」
〈姫葵マリーナ〉
ATK/2800
春の桜に続くのは、夏の向日葵。 日光の下で凜然と咲き誇る植物姫の一人、マリーナがタレイアの横に並ぶ。
「次は秋! 〈ロンファ〉をリリースして、〈紅姫チルビメ〉を特殊召喚!」
〈紅姫チルビメ〉
ATK/1800
春、夏と続き現れたのは秋。 真っ赤な大輪の座に腰掛けたチルビメが二人の姫と並ぶ。
「ラスト! 〈スーペルヴィス〉を〈ギガ・プラント〉に装備し、〈ギガ・プラント〉の効果を発動! 手札から最後の植物姫〈椿姫ティタニアル〉を特殊召喚!」
〈椿姫ティタニアル〉
ATK/2800
最後。 冬の花でもある椿が凛として咲く。 春夏秋冬、全ての植物姫が勢揃いした様子は圧巻の一言に尽きる。 ほとんど見ることの出来ないであろう光景を前にし、感動しているなか楓さんは最後の行程に入る。
「バトルです! 〈タレイア〉は自分フィールドの植物族一体につき攻撃力を100だけアップさせます。攻撃力の上がった〈タレイア〉で〈テスタロス〉を攻撃! 」
〈桜姫タレイア〉
ATK/2800→3300
タレイアは手に持った扇を横に一閃する。 突風が起こり、散った桜の花弁が鋭利な刃のように鋭く尖り、相手フィールドで拳を構えるテスタロスめがけ次々と殺到する。 桜の嵐に呑まれる寸前、相手のフィールドでひっそりと伏せられていたカードが表側になる。
「この瞬間を待っていた!攻撃宣言時、リバースカードオープン!俺はライフ1000ポイントをコストにトラップカード〈陰陽鏡〉を発動する!!
「やはり、攻撃反応系ですか……!」
感動から一転、緊張が駆け抜ける。
私たちと相手を隔てるようにして、妖しい光を湛えた鏡が空中に現れる。 勝ち誇った笑みを浮かべた岩丸が不気味な鏡の効果を語る。
「〈陰陽鏡〉の効果はフィールド上、全てのモンスターカードを破壊し、俺以外のプレイヤーに破壊した数×500ポイントのダメージを与える! これで、終わりだ!」
閃光。 目も眩むような光の奔流が鏡から放たれ、フィールドを駆け巡る。 爆発が起こり、衝撃が体を揺らす。 砂煙がフィールドを覆い隠すなか、岩丸と炎丸と名乗った男達の勝利を確信した様子の声がただただ響く。
「フィールドには、8体のモンスター! よって4000ポイントのダメージだ。しかもこのカードはカウンター罠。 例え、墓地誘発や手札誘発があったとしても発動することは出来ない!」
「ナイスだぜ、岩丸!」
砂塵の向こう側で二人の和気藹々とした声が響いてくるなか、隣から微かな笑い声が聴こえて来た。 酷く冷淡で、冷酷な声音を伴って。
「……もう勝った、とお思いでしょうか」
「「なに?!」」
「あなた達はもう勝ったと思ったのでしょう。 絶対に勝つ、ではなくもう勝った。 事実を確かめもせずにそう確信した……」
「っ……!」
ごくりと息を呑む音がはっきりと聞こえてくる。 直後、強い風が砂煙を払い退けるとフィールドにはテスタロスを除いた7体のモンスター達が未だ健在だった。 まさかと思い、腕に装着された決闘盤のライフを見れば、残りライフからモンスター一体分、500ポイントだけ引かれている。
何が起こったのかわからないといった表情の彼らを一瞥し、ハァと息を吐く楓さん。
「〈桜姫タレイア〉がフィールド上に存在する限り、植物族は効果によって破壊されない。 また〈薔薇恋人〉の効果により特殊召喚された〈タレイア〉はこのターン、罠カードの効果を受けない。 爪が甘いんですよ、あなた達は」
「これだから、二流は」と吐き捨てるように言った言葉が彼らの怒りの琴線に触れたのか、眼に明確な怒りの感情が露わになる。
「ならば、〈連撃の帝王〉の効果で手札の〈剛地帝グランマーグ〉をーー」
「何を生贄にするつもりですかねぇ。 言っときますが、〈シード・トークン〉はアドバンス召喚のリリースには使えませんよ」
「んな、馬鹿なっ?!」
憤怒から一転、絶望の淵へと叩き込まれた岩丸と炎丸はがくりと膝を折り、地面へと座り込んでしまう。 彼らのフィールドに残されたのは機能しない二枚のカードと戦闘値皆無の二体のトークン。 この様子では手札に防ぐカードもないのだろう。 楓さんが頭上に掲げた右手を振り下ろし、最後の命令を下す。
「フィナーレです。 せめて最後くらいは美しく散りなさい。 全モンスターで一斉攻撃!」
「「うわぁぁぁぁぁぁ!!?」」
[炎丸・岩丸]LP2100→0
色とりどりの花弁を乗せた風がトークンを砕きつつ、一切の容赦なく二人をライフ共々吹き飛ばす。 デュエル終了を告げるブザーが虚しく響いた。
◇
「さて、斎王について知ってることをキリキリキリキリ吐いてもらいますよ〜!」
ゴキゴキと拳を鳴らしつつ楓さんが倒れ伏す二人に詰め寄る。 よほど最後のが堪えたのか楓さんを見るなり、顔を青ざめさせた二人が顔の前で手を左右に振りながら、慌てて答える。
「ま、待ってくれ! 俺達は美寿知様に命じられた通りにお前達にデュエルを挑んだだけだ! 斎王のことなんて知らない!」
「犯人は皆そう言うんですよ! しらばっくれるのもいい加減にーーーっ!」
〈ローズ・テンタクルス〉のカードを構える楓さん。 が、岩丸達のデッキから〈陰陽鏡〉なカードがひとりでに抜け出し、空中に浮遊する。 次の瞬間、二枚のカードが巨大な鏡と化し、鏡面が光り出すと二人が吸い込まれるようにして鏡の内側に取り込まれてしまった。
「え、嘘……人が鏡の中に?!」
「な、なんてことを……」
絶句する私達をよそに二人を取り込んだ鏡が消滅し、代わりに空中に別の鏡が現れ、黒い長髪に、巫女装束の女性の姿が映りこむ。
『妾が差し向けた刺客をいとも容易く倒すとは、仮にもプロデュエリストと言ったところか。 先の決闘、なかなか楽しめたぞ』
「まさか、貴女が……!」
『いかにも。 妾は、斎王美寿知。 我が兄、斎王琢磨の妹であり、先の二人に力を与えた者だ』
斎王美寿知は鏡の中で微笑むとさらに続ける。
『兄の事について知りたければ教えてやろう。 明日、今一度海馬ランドに来るといい。 そこでお主が運命を変える力を持つ者かどうか直々に見定めてやろうぞ』
「楽しみにしておるぞ」斎王美寿知はそう言い残すと鏡と共に消えてしまう。
「なんで、こんなことを……」
言いあわらせない感情が胸の中で渦巻き、空を睨みつけたまま呆然と立ち尽くしているとトンと肩に手が置かれた。
「いくら考えてみたところで狂人の考えなんてわかりっこありませんよ。 それに明日、斎王美寿知に会えば全て分かること。 なので今は余計なことに労力を割かず、体を休め明日に備えましょう」
「…………はい」
楓さんに優しい声音で諭され、小さく頷いた。 手を引かれるまま、ホテルへと帰って行った。
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