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Blue Rose

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第十八話 新幹線の中でその五

「したら駄目なんだ」
「自殺を禁止している宗教もありますね」
「キリスト教とかね」
「そうですよね」
「自殺はそれをしたら悲しむ人がいるから」
 自分自身のことも含めてだ、男は優花に話した。
「絶対にしたら駄目なんだ」
「死ぬにしても悲しませてはいけないですか」
「絶対に駄目だよ」
 それこそというのだ。
「人を悲しませる死に方は駄目さ」
「だから、ですね」
「まずは生きるんだ」
「何があってもですか」
「最後の最後までね」
「普通に死ぬまでですか」
「天寿の時までね」
 神仏が定めたそれぞれの人が死ぬその時までというのだ、男は自身の友人のことを思いだしながら優花に話した。
「どんな病気になっても」
「それでもですか」
「そう、生きるんだよ」
「絶対にですね」
「君もね、わしだってね」
「おじさんもですか」
「一回大きな病気になったよ」
 男は今度は自分のことをだ、優花に話した。
「癌にね、肺癌だったよ」
「癌ですか」
「その時に死ぬかって思ったけれど」
 それが、というのだ。
「何とか助かったよ」
「そうですか」
「それで今もこうして生きているよ」
「癌になっても」
「初期だったけれど死ぬかもって思ったよ」
「やっぱり癌になったらですね」
「どうしてもそう思うものさ」
 広島訛りの強い言葉でだ、優花に話した。
「死ぬんじゃないかってね」
「それでもですか」
「そう、諦めたら駄目なんだよ」
「それで生きることですね」
「そうだよ、大事なことは」
「生きることですか」
「例えどうなっても」
 自分の身体がというのだ。
「生きるべきなんだよ、そして生きていれば」
「事態が変わるんですね」
「そうなるからね」
「まずは生きることなんですね」
「それが大事なんだ」
「そうですか」
「だから君もね」
 優花を見てだ、男は語った。優花も男の顔を見て二人で話している。
「療養でもね」
「生きることですね」
「頑張るんだよ」
「わかりました」
「死ぬ様な病気でも」
 例えだ、そうであってもというのだ。
「まずは生きることだよ」
「そのことが本当に大事なんですね」
「何につけても」
「生きないと駄目ですね」
「死んだら終わりだからね」
 それでというのだ。
「君も生きるんだよ」
「わかりました、じゃあ」
「長崎で頑張ってくるんだ」
「そうしてきます」
「わしも長崎に行ったことがあるけれど」
「いい場所ですよね」
「うん、景色は奇麗でね」
 今度はだ、男は長崎を思い出す目になって言った。 
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