偶像
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5部分:第五章
第五章
「どうなのだ。信じるのだ」
「信じます。ですが」
「それでも」
だが、だった。モーゼとアロン以外はだ。神の声にだ。
こう返した。そしてこう言うのだった。
「お姿は現されないのですか?」
「それは」
「神のお姿は一体」
「何処に」
「私に姿はない」
これがだ。神の返事だった。
「私は姿を持たぬ神なのだ」
「お姿がない」
「そうなのですか」
「そうだ。しかしだだ」
さらにだった。神は彼等に言ってきた。
「私はそなた達に授けることができる」
「授ける?」
「授けるとは」
「私が存在しているという証をだ」
それをだというのだ。
「そなた達に定めることでな」
「定める。では法でしょうか」
アロンが空を見上げて神に問うた。
「それなのでしょうか」
「そうだ。法こそは神の最大の力」
神はアロンにも答えた。
「それをそなた達に授けよう」
「そうして頂けるのですか」
「見るのだ」
神は言った。
「私がそなた達に授けるこの定めを」
この声と共にだ。頂上の岩、彼等の前にある一際大きな岩にだ。
文字が光により次々と刻まれていった。その文字は。
主は唯一の神である子である
偶像を作るな
神の名をみだらに言うな
安息日を守れ
親を敬え
人を殺すな
犯すな
奪うな
嘘を言うな
隣人の家を貪るな
この十の文を書き刻んだものだった。その文達を見てだ。
アロンは確かな顔でだ。こう呟いた。
「十戒ですね」
「そうなる。これが私がそなた達に授ける法だ」
「神が今定められた法ですか」
「私はこの法からそなた達を守る」
今までもそうだったがこれからもだ。そうするというのだ。
「わかったな。それではだ」
「はい、これがですね」
「私が存在しそなた達を守る証である」
それでもあるとだ。神はモーゼにも話した。
「わかったな。それではだ」
「はい、それでは」
「この十戒有り難く受け取ります」
「偶像は不要だ」
神はモーゼとアロン、彼の民達を導く二人にこうも告げた。
「これこそが私なのだからな」
「神が与えられた法が」
「それこそが」
「そうだ。神は法だ」
それ即ちだというのだ。
「このことを今そなた達に告げよう」
「ではそのうえで」
「我々は」
「ヘブライに戻りその生活を再開するのだ」
エジプトに捉われるまでの。その前までの元の生活にだというのだ。
「そして私を信じるのだ。いいな」
「わかりました。それでは」
「我々は」
こうしてだった。モーゼとアロンが応えてだった。
神の定めたその十戒を受け取った。そのうえでだ。
ヘブライの者達はシナイ山を降りた。その山の麓でだ。
十戒が刻まれた石の板を持ったモーゼがだ。彼の後ろに続く同胞達に顔を向けて言った。
「では今から戻ろう」
「そうだな。神は確かにおられる」
「我等と常に共におられるのだ」
このことを確信できた彼等は山に登る前とは違っていた。目が生きていた。
その彼等がだ。モーゼに応える。
「ではな。今からな」
「シオンの地に戻ろう」
「そしてその地で神を信じよう」
アロンもだ。同胞達に言ってきた。
「我等の未来はあの地にこそあるのだから」
こう告げてだ。そのうえでだ。
彼等はモーゼとアロンに導かれそのうえでシオンの地に戻った。彼等はそこに至るまでもシオンの地に戻っても神を疑うことはなかった。
その十戒が彼等の傍にあるからだ。その神の定めた法、彼自身を見てだった。
彼等は神を信じた。最早そこには純粋な信仰だけがあった。彼等の神への。
偶像 完
2012・4・29
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