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スペインの真実

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第一章

                スペインの真実
 エドワード=フィッシャーはジュニアハイスクールで教師をしている、教鞭を取りつついつもこう言っていた。
「貧富の差も階級もない」
「そうした社会こそがだね」
「理想の社会じゃないか」
 こう同僚達に言っていた。
「私はそう思うのだが」
「確かにね」
 同僚の一人であるジェームス=オズバーンは彼のその灰色の澄んだ瞳を見て言った。白い髪を丁寧に整え眉は薄い、細面で彫のある知的な顔立ちだ。長身ですらりとした体格だ。
「そうなればね」
「素晴らしいね」
「ユートピアだよ」
 オズバーンはこうフィッシャーに言った、その金髪碧眼の顔で。背は彼と比べて幾分か低くがっしりとした体格だ。
「まさにね」
「うん、じゃあね」
「ユートピアだよ」
 また言ったオズバーンだった。
「この世にない様な」
「この世にないだね」
「そう、ユートピアは何か」
 かなり冷めた声で言うオズバーンだった。
「それはこの世にあるのか」
「実現するんだよ」
「君の信じる思想でか」
「そう、貧富も階級もない」
 それこそというのだ。
「そして誰もが平等に暮らせる。何もかもが正しく進む」
「共産主義だね」
「そうなればだよ」
 熱い声でだ、フィッシャーは言うのだった。
「こうした恐慌もないんだよ」
「確かに今はね」
 オズバーンもこのことは認めた。
「大変だね」
「戦争は終わって繁栄する筈がだよ」
「アメリカがバカをやってね」
「この通りだ、こうしたことばかり起こるがだよ」
「資本主義だね」
「この世の中だ、そして戦争も何故起こるのか」
 先の世界大戦のことも言うのだった。
「資本家達が資源を奪い合ってだよ」
「植民地だね、要するに」
「それを奪い合う、人民を搾取しただけで飽き足らず」
「限りない欲望を発揮してね」
「そうなるからだよ、戦争が起こるんだ」
「だから共産主義になればだね」
「戦争もなくなるし恐慌もだよ」
 共産主義になればというのだ。
「憂いが全部なくなるんだ」
「この世のね」
「教育もだ」
 今度は教育者としての話だった。
「階級がないから」
「誰でもだね」
「そう、平等に教育を受けられて」
 それでというのだ。
「誰もがね」
「教育も平等に受けられて」
「読み書きも出来る」
「全世界のだね」
「そうした世界になるんだ、人種も問題も」
 フィッシャーは人権を念頭に置き人種差別にも反対している、それでこのことについてもいつも言っているのだ。
「何もかもが」
「完全にだね」
「解決されるんだ、全世界のあらゆる問題が」
「階級も貧富も人種も越えた」
「何もかもが最高の世界がだよ」
「戦争も恐慌もなくだね」
「実現するんだよ」 
 全世界が共産主義になればというのだ。 
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