英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)
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第53話
~特務支援課~
「…………………………………」
報告を聞き終えたセルゲイは目を細めて黙り込んでいた。
「あの………課長?」
「す、すみません。わかりにくい報告でしたか?」
「いや……その一連の情報だが………ひょっとしたら全部、繋がっているかもしれんぞ。」
「え………」
「マジかよ………!?」
「そ、それはどういう!?」
「「……………………」」
セルゲイの指摘を聞いたロイド達が驚いている中ティオとレンは黙り込んでいた。
「色々な事が起きすぎて混乱してるのかもしれんが………今日、お前らが見聞きした事を有機的に結び付けてみろや。特にロイド―――こういう時こそ捜査官の本領発揮だろうが。」
「あ、はい。今日、聞き込んだ情報は大まかにまとめて3つ………ツァオとレンを通してジョーカーさん達から聞いた”黒月”とミシェラム襲撃に関する情報……グレイスさんと情報交換したルバーチェの現状に関する情報………そしてマインツの鉱員、ガンツさんに関する情報………」
「それらの3つの情報を結びつける要素があるわけね。」
「ふむ……何となくだが見えて来たな。」
「ああ、整理してみよう。」
そしてロイドは情報を整理してみた。
『関連しそうな要素』
①襲撃者の身体能力
②場当たり的な組織運用
③所持していた蒼色の錠剤
「こ、これは……」
「おいおい………キナ臭すぎるだろ。」
「うふふ、ルバーチェに一体何が起こっているのか一目瞭然ね♪」
纏めた情報にエリィは驚き、ランディは目を細め、レンは意味ありげな笑みを浮かべていた。
「だが、こう関連付けると色々と見えてくることがある。”黒月”とレンの別荘を襲撃したマフィア達が見せたという身体能力………神がかり的なギャンブルの腕を手に入れた鉱員のガンツさん………どちらも別々の現象だけどその人間の”潜在能力”が上がっているというのは同じだ。もし、それを繋ぐものがこの『蒼い錠剤』だとするなら……」
「……マフィア達が違法薬物に手を出し始めた………そして一般市民に流し始めているだけでなく戦闘力の強化にも使っている………つまりそういう事ですか。」
「ああ………まだ憶測のレベルだけどね。」
「で、でも確かにそれだと色々と説明できるわ。あの若頭の統率力がルバーチェ内で低下したのももしかして………」
「クスリをキメて力を手に入れ、態度もデカくなった下っ端連中が増え始めている………そのせいってわけかよ………」
「態度が大きくなっている理由は恐らく薬による副作用でしょうね。」
「―――上出来だ。加えて昨日、イアン先生が言っていた噂話もあるだろう。」
ロイド達がそれぞれの推理をしているとセルゲイが助言した。
「急激に業績を上げたっていう貿易商と証券マンですか………!」
「そ、それでは彼らもその蒼い錠剤を………!?」
「それこそ現時点ではただの憶測になっちまうがな。だが、一つ一つの点が線となり面を構築する……そんな気がしてきたんじゃねえか?」
「ええ………しかし正直、支援課だけでは手に負えない状況かもしれません。特に薬物の件に関しては一課に連絡する必要があるんじゃないでしょうか?」
セルゲイに訊ねられたロイドは頷いた後現在自分達が関わっている事件は自分達の手に負えない可能性が高いと悟り、セルゲイに今後の方針を訊ねた。
「ああ、その点に関しては丁度いいタイミングだったな。」
「え……………」
そしてセルゲイの答えにロイドが呆けたその時、キーアが部屋に入って来た。
「あ、ここにいたんだー。」
「キーア、どうしたんだ?」
「お腹でも空いちゃった?」
「んーん、お客さん。ぶすっとしたオジサンがきたよー?」
「ぶすっとしたオジサン………?」
キーアの言葉にロイドが不思議そうな表情をしたその時
「失礼します。」
ダドリーが部屋に入って来た。
「あ………」
「ダドリー捜査官………!」
「おう、遅かったな。」
自分の登場で驚いているロイド達を気にせず、ダドリーは自分に声をかけてきたセルゲイに近づいた。
「………済みません。捜査会議が長引いてしまって。例の話についてですが早速、始めさせてもらっても構いませんか?」
「おお、構わんぞ。コイツらも一緒で良けりゃあな。」
「セルゲイさん!冗談はやめてください!ブライトはともかく、こんなヒヨッ子どもに聞かせるような話では――――」
セルゲイの意見を聞いたダドリーは驚いた後真剣な表情で反対しかけたが
「だが、今回の件についてはこいつらが集めて来た情報がきっと役に立つだろう。同席させた方が手っ取り早いぞ?」
「なんですって………そういえば”黒月”と”Ms.L”と繋がっているブライトの聞き込みもお前達に任せていた所だったか。そのついでに………い、いやしかし………」
セルゲイの話を聞いたダドリーは驚いた後、ロイド達に視線を向けて迷った表情で考え込んでいた。
「えっと、課長。都合が悪いようでしたら俺達は退室しましょうか?」
「いや、その必要はない。その男も、伊達に一課のエースを張ってるわけじゃねえ。この状況で何が必要かはきちんと見抜けるだろうさ。現にA級正遊撃士であるレンの同席は認めていただろう?」
「くっ………わかりましたよ。―――いいかお前達。これから話すのは警察内部の機密事項だ………みだりに他言することは絶対に許さんからな!?特にブライト!幾ら短期間だけ出向している身とはいえ、今の貴様の所属はクロスベル警察!遊撃士協会に話したりしたら、始末書を始めとしたペナルティーが課される事を覚悟しておけ!」
そしてロイド達に指摘したセルゲイの話を聞いたダドリーは苦々しい表情をした後、ロイド達を睨んで忠告した。
「わ、わかりました。」
「そこまで疑われるなんて心外ねぇ。今まで警察として真面目に働いているし、プライベートでもあんまり遊撃士協会に行かないように気を付けているのに。」
「なになに、ひみつのお話ー?キーアも聞きたい!」
ダドリーに睨まれたロイドは戸惑いながら頷き、レンは呆れた表情で答え、キーアは無邪気な笑顔を浮かべ、キーアの言葉を聞いたその場にいる全員を脱力した。
「え、えっと………」
「お菓子を用意するからツァイトと一緒に食べててね?」
その後キーアを部屋から出したロイド達はダドリーから話を聞いた。
「捜査一課に圧力………!?」
話を聞いたロイドは真剣な表情で声をあげた。
「いや、そこまで露骨なものではないが………”黒月”の襲撃事件を受けてマフィア同士の抗争への対処に全力を傾けろとの指示が下った。………少し前から追っていた謎の薬物の捜査を打ち切ってな。」
「な………!?」
「一課の方でも薬物に関する捜査を………?」
そしてダドリーの説明を聞いたロイドはさらに驚き、ティオは尋ねた。
「フン、数日前からだがな。私としてはお前達が知っていた事の方が驚きだが。」
「で、一課の方はどこでその薬物のネタを掴んだんだ?」
「………昔から使っていた情報屋のタレコミです。それなりに信頼できる筋なので情報収集をしていた所ですが………今の所集まっているのは都市伝説のような噂だけですね。『願いが叶う薬』だの『幸せを運ぶ青い薬』だの………ただ、どうにもキナ臭いので噂になっている市民のリストを揃えている最中だったんですが………」
「「「「「…………………………」」」」」
「な、なんだお前達……その『やっぱり』という顔は。」
「フン………ビンゴだったようだな。ロイド、見せてやれ。」
「………はい。」
「???」
セルゲイの指示に頷いたロイドの様子にダドリーが首を傾げたその時
「これを―――」
ロイドが蒼い錠剤をダドリーに見せた。
「な………!も、もしかしてこれは………!?」
錠剤を見た瞬間錠剤が何であるかを悟ったダドリーは声を上げて驚いた。
「………今日、ある筋から俺達が入手した証拠物件です。その人の名誉を守るという条件で預からせてもらったんですが………」
驚いているダドリーにロイド達はこれまでの経緯を一通り説明した。
「クッ………やはり存在していたのか………しかもルバーチェが流した可能性があるだと………!?」
説明を聞いたダドリーは唇をかみしめた後、表情を歪めた。
「その薬物捜査を打ち切れという指示………どこから降りてきたか見当はつくのか?」
「……上層部の誰かかと。一課の課長も納得できないまま、我々に指令を下していました。」
「フン、最悪だな。」
「ちょ、ちょっと待ってください。まさか警察の上層部がマフィアの要請を受けて………!?」
ダドリーとセルゲイの会話を聞いて驚いたエリィは怒りの表情で尋ね
「「…………………」」
尋ねられた2人は反論もせず、黙り込んでいた。
「そ、そんな………」
「おいおい、マジかよ………」
「………確かに最悪ですね。」
「もはや修正する事が不可能なくらい腐敗しているわね。」
2人の様子を見てエリィの推測が真実である事を悟ったロイドは信じられない表情をし、ランディは目を細め、ティオとレンは疲れた表情で呟いた。
「―――ダドリー。俺の所に相談に来たってことは上層部に不信を抱いたからだろう。それで、どうするつもりだ?」
「…………………………………正直、薬物捜査に関してはこちらでは動きようがありません。下手に動けば、今度は上層部も露骨に横槍を入れるでしょう。だが、それでは警察組織として余りに不甲斐なさすぎる………!」
「ダドリー捜査官………」
「だったら薬物捜査に関してはウチに任せてもらうしかないな。―――ロイド、エリィ。それにランディにティオ、レン。これより特務支援課は非公式に捜査一課と協力体制に入る。身動きの取れない一課に代わってこのまま薬物捜査に当たれ。」
「はい………!」
「了解しました………!」
「うふふ、言われなくてもここにいるみんな、そのつもりよ。」
セルゲイの指示にロイドとエリィ、レンはそれぞれ頷いた。
「ふむ、その見返りだが………一課からはマフィア関連の情報を無制限で回してもらう事にする。」
「セ、セルゲイさん!?いくらなんでも極秘情報を無制限というのはさすがに………」
そしてセルゲイの要求を聞いたダドリーは慌てた様子で反論したが
「別にこちらは構わんぞ?そちらが手詰まりになろうが勝手に動くだけだからな。」
「くっ………わかりました。その条件で構いません。」
「クク、決まりだな。」
セルゲイの説明を聞いて唸った後、疲れた表情でセルゲイの要求を呑んだ。
「いや~、あの一課に代わってわざわざ俺らが動いてやるわけか。」
「なかなか優越感をくすぐられる状況ですね。」
「クスクス、”格下”扱いしていたレン達がエリートである自分達の代わりを務めているなんて知ったら、一課の刑事さん達もそうだけど他の課の人達もどう思うでしょうね♪」
その様子を見守っていたランディとティオは日ごろの鬱憤を晴らすかのような態度になり、レンは二人に悪乗りするかのように小悪魔な笑みを浮かべてダドリーを見つめた、
「……………………………」
一方3人の言葉を聞いたダドリーは2人を睨み
「おおコワ………」
「………くわばらくわばらです。」
「うふふ、ああいうタイプは怒らせたら後が怖いからほどほどにしておかないとね。」
睨まれた3人はふざけた様子で答えた。
「フン、まあ仕方あるまい。こうなった以上、お前達に薬物捜査を任せるのは納得したが………今後の捜査方針はどうするつもりだ?」
「そうですね………―――何はともあれ、薬の現物が手元にありますし。どういった成分かを突き止める必要があるでしょう。」
「ふむ………だが、どうやって突き止める?現時点での情報から推測するに全く新しいタイプの薬物だ。本部の鑑識では手に余るし、上からも目を付けられやすいぞ。」
「なるほど……そうなると医科大学を頼った方がいいかもしれません。」
「……なるほど。あの先生に頼りますか。」
「医科大学………聖ウルスラ医科大学か?」
ロイドとティオの話を聞いたダドリーは意外そうな表情で尋ねた。
「ええ、薬学を研究している知り合いの先生がいるんです。相当優秀だと聞いているので薬の成分を突き止められる可能性は高いのではないかと。」
「フン、なるほどな………」
「成分調査に関してはそれしか手は無さそうだな。ダドリー、そちらは一課でまとめた捜査報告書を今日中にこちらに回してくれ。それを元に、こいつらに今後の捜査方針を決めさせたい。」
「わかりました。すぐにお届けに上がります。―――では、私はこれで。今後ともよろしくお願いします。」
「ああ、こちらこそな。それと、その言葉はこいつらに言ってやれ。」
「うっ………」
セルゲイの指摘を受けたダドリーは唸って考え込んだ後、ロイド達の方に振り向き
「―――いいか、お前達。くれぐれも迂闊なことをして事態を悪化させたりするなよ?それと薬物捜査はともかくマフィアどもの抗争への対処は我々一課の担当だ!首を突っ込んだりせずに大人しく任せておくがいい!」
「あ……」
ロイド達に忠告をした後部屋を出て行った。
「やれやれ。素直じゃねえ兄さんだな。」
「……あれは一種の照れ隠しなのではないかと。」
「クスクス、俗に言う”ツンデレ”って性格ね♪」
ダドリーが去った後ランディとティオ、レンはそれぞれ本人がいない事を良い事に好き勝手にダドリーの事を話していた。
「ふふ、そうかもしれないわね。それに思っていたより、正義感がある人みたいだわ。」
「ああ………それは信用できる気がする。」
「基本的に一課の連中は真面目で正義感があるヤツが多い。まあ杓子定規で、融通が利かないヤツが多いんだがな。―――さてと、お前ら。さっそく病院に向かうのか?」
「ええ、そのつもりです。それと時間があれば他の支援要請も片付けておこうかと。」
「そうね………午前中は市外に出る暇も無かったし。」
「まあ、今日は朝から色々な事が連続で起こってしまったものねぇ。」
「ま、忙しくなりそうだからボチボチ片付けた方が良さそうだな。」
「クク、元気な事で結構だ。一課と協力する事になったとはいえ、お前達が気負う必要はない。いつも通り、お前達のやり方でその薬物の謎に迫ってみせろ。」
「はい!」
その後ロイド達は支援要請を片付けた後ウルスラ病院に向かった―――――
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