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真田十勇士

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巻ノ四十七 瀬戸内その十二

「時たまじゃ」
「ここにもか」
「出るのか」
「実際にか」
「そうなのか」
「そうじゃ、しかしな」
 それでもというのだった。
「ここには滅多に出ぬ」
「そうか、出ぬか」
「見たいと思っていたが」
「そうはならぬか」
「ははは、運がよければな」
 その時はとだ、船頭は残念がる十勇士達に話した。
「観られるぞ」
「そうか、ではな」
「わし等の運に頼ろう」
「そして見れたら神仏に感謝じゃ」
「そうしようぞ」
「鯨はよい」
 船頭は鯨について笑ってこうも言った。
「あれを一匹捕まえると村は一年遊んでいける」
「何と一匹でか」
「そうなるのか」
「そうじゃ、でかいうえにな」
 それにというのだ。
「骨も髭も何でも使える、油もよいからな」
「それでか」
「村が潤ってか」
「一年遊んで暮らせる」
「そこまでになるのか」
「そうじゃ、本当にあんなよい海のものはない」
 こうも言うのだった。
「どうも普通の魚とは違うがな」
「普通の魚と違うというと」
 船頭の今の言葉にだ、穴山は首を傾げさせて言った。
「どういうことじゃ」
「わからぬのう」
 由利も言うのだった、どうにもという顔で。
「鯨は魚ではないのか」
「魚であろう」
 望月も同じ考えだった。
「水の中にいて泳いでおるぞ」
「そうじゃ、鰭があってな」
 根津もその形から述べる。
「形も魚じゃ」
「あれで魚でないのならな」
 清海は船の横を素早く泳ぐ海豚達を観ている、そのうえでの言葉だ。
「あの海豚もか?」
「それは違うであろう」
 猿飛もこう言う。
「海豚も鯨も魚じゃ」
「さて、鯨には魚の文字が入っています」
 伊佐は漢字から言った。
「では魚でしょう」
「そうじゃな、あれは魚に入る文字」
 霧隠も言う。
「ではな」
「いや、どうも違う様じゃ」
 ここで筧がいぶかしむ仲間達に言った。
「魚にはエラがあるが鯨や海豚にはない」
「そう、それじゃ」
 船頭も筧に言う。
「鯨はどうも普通の魚と違うのじゃ」
「そうであるのか」
「鯨はまた別の生きものか」
「魚と違うのか」
「海におっても」
「海豚もな」 
 今十勇士達が観ているこの生きものもというのだ。
「どうも違うな」
「魚に見えるがのう」
「そうではないのか」
「別の生きものなのか」
「どうもな」
 こう言うのだった。
「これがな」
「ううむ、わからぬ」
「魚にしか見えぬが」
「それが違うのか」
「とてもそうは思えぬが」
「その辺りはわしも詳しくないが伴天連の者でそう言う者もおった」
 南蛮から来ている彼等の中にはというのだ。
「しかし海におって食えるのは確か」
「そのことはじゃな」
「同じじゃな」
「変わらぬな」
「そうじゃ、こう考えれば楽じゃ」
 笑って十勇士達に言うのだった。
「若し鯨を観たら運がよいともな」
「成程のう」
「わかった、では鯨を観ることを楽しみにしつつな」
「博多まで行こうぞ」
「あの港までな」
 十勇士達は船頭の言葉に頷き今は船で瀬戸内の海を進んでいた、船は昼も夜も進み一路博多を目指していた。


巻ノ四十七   完


                        2016・2・28 
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