英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)
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第50話
5月4日――――
~朝・特務支援課~
「しかし驚いたな………この目玉焼き、本当にキーアが焼いたのか?」
翌朝支援課のメンバーたちと共に朝食を取っていたロイドは出された料理の中にある目玉焼きを見た後料理当番であるエリィに視線を向けて尋ね
「ふふ、そうよ。あまりに手際がいいんで思わず見惚れちゃったわ。」
「ふむ、いい半熟具合だな。」
「ベーコンもカリカリで言うことナシだぜ。」
「昨日のホワイトシチューを手伝ってくれた時も大した腕前でしたし……やはり、料理の経験はかなりあるのではないかと。」
「うふふ、この腕前を磨き続ければ、将来宮廷料理人にもなれるのじゃないかしら♪」
エリィのキーアの料理の腕前に対する高評価に続くようにセルゲイやランディ、ティオとレンも高評価していた。
「んー、そうなのかなぁ?なんかかってに手が動いただけなんだけどー。」
「うーん、確かに料理は身体で覚えるところがあるけど………(………それにしてもこの歳でここまで上手なのも凄いな………)」
ティオの言葉を聞いて首を傾げているキーアの言葉を聞いたロイドは感心していた。
「ねえねえ、ティオ―。今日はだいじょーぶなのー?」
「あ………」
「見たところ、顔色は悪くはないみたいだけど………」
「あんまり無理はしないで休んだ方がいいんじゃねえか?」
「いえ、大丈夫です。昨日も早めに休ませてもらいましたし。」
「ふむ………」
「まあ、急ぎの仕事もないし少し様子を見た方が―――」
ティオの言葉にセルゲイと共にロイドが頷いたその時、ロイドとレンのエニグマが鳴りはじめた。
「あ………」
「あら。」
「朝っぱらから珍しいな?」
「フランさんからかしら?」
「ロイドさんの方はそれでいいとして……レンさんの方は一体誰なんでしょう?」
朝から来る通信相手に仲間達が珍しがっている中ロイドとレンはそれぞれ通信を開始した。
「――レンよ。あら、ジョーカーお兄さん。朝から連絡なんて珍しいわね?………………―――――え?」
「えっと………はい、特務支援課、ロイド・バニングスで―――」
「あーあー、ンなのはとっくに判ってるつーの!今どこ!何してんのさ!?」
「ああ、ヨナか。おはよう。夜型のヨナがこんな早くに起きてるなんて珍しいな。」
「ハッ、そんなもん、徹夜明けに決まってんだろ。―――ああもう!そんなのはどうでもいいんだよ!でもまあ、その様子じゃゼンゼン知らないみたいだな!?」
「知らないって……何の事だ?」
「ハッ、大サービスでこのヨナ様が教えてやるよ!昨日の真夜中―――いや日付は今日になるのか。”黒月”の事務所とミシェラムにある別荘が何者かに襲撃されたそうだぜ!」
「何だって………!」
「何でも”黒月”は防戦一方みたいでさ~!かなりの被害も出たみたいだぜ!?ま、襲ったのは間違いなくルバーチェの連中だろうけどな!」
「そうだったのか………そう言えばミシェラムの別荘も襲撃されたって言っていたな?一体誰の別荘が襲撃されたんだ?」
「それは俺も気になって調べてみたらマジで驚いたぜ……何せあの”Ms.L”名義の別荘が襲われたんだぜ。」
「な……っ!?」
通信相手―――ヨナからの情報を聞いたロイドは自分と同じように真剣な表情で通信をしているレンに視線を向け
「ええ……ええ……わかったわ。騒ぎを聞きつけた警察も既に到着して調べ始めているでしょうから、ほとぼりが冷めるまでは外出は最低限にまで控えて、外出時は最低3、4人で行動するようにする事。それとわかっているとは思うけど絶対に襲撃された拠点には近づかないようにして。それじゃ、また近い内に連絡するわ。」
レンは真剣な表情で通信相手と会話をした後通信を終えていた。
「………ありがとう、ヨナ。情報提供感謝するよ。」
「ハッ、今度何かで返せよな!」
そしてレンに続くようにロイドも通信を止めた。
「ヨナからですか?」
「ああ……どうやらとんでもない事が起きたみたいだ。」
ロイドはみんなにヨナから聞いた情報を伝えた。
「ほ、本当なの………!?」
「おいおい、マジかよ!?」
「真夜中とはいえ市街地と別荘地でそんな事が………」
「ほえ~?」
「……ちなみにレン。さっきお前に来た通信相手は襲撃されたお前が所有している別荘を管理しているお前の関係者辺りか?」
ロイドの情報に仲間達がそれぞれ驚いている中、キーアは何の事かわからず不思議そうな表情で首を傾げ、セルゲイはレンに視線を向けて訊ねた。
「ええ、そんな所よ。ハア……お陰でレンの別荘が一つ使い物にならなくなっちゃったわ。」
「別荘が使い物にならなくなったって……一体何があったんだ!?」
「ふむ………”黒月”は当然としてミシェラムの方にも一課あたりがとっくに動いてるんだろうが………気になるんなら行って来い。―――ただしメシを喰ってからな。」
「はい、そうしてみます!」
その後ロイド達は襲撃された”黒月貿易公司”に向かう事にし、ツァオに話を聞く為に”黒月貿易公司”の建物に到着したロイド達は一般人が近づかないように、入り口を見張っている知り合いの警官に話をして、通してもらい、ツァオがいる部屋に入った。
~黒月貿易公司~
「―――ツァオさん。今日の所はこれで失礼します。できればもう少し、詳しい話を伺う事ができればこちらも協力できるのですが。」
「フフ、これは失礼。何しろ深夜の事でしたからね。襲撃者が何者だったのか、どうして当社が狙われたのか皆目見当が付かないのですよ。」
ロイド達が部屋に入る少し前一課の女刑事と共にツァオの事情聴収を終えたダドリーの別れの挨拶に対してツァオは苦笑しながら答えた。
「………それにしては随分と手際よく防戦されたようですね。1階と2階は酷い状況でしたが、この部屋など綺麗なものだ。重機関銃で武装した相手に一体どのように対処したのやら。」
「はは、恐れ入ります。ただまあ、結局襲撃者には逃げられてしまいましたからね。こちらは何人も病院送り………やれやれ、とんだ災難です。」
周囲を見回して呟いたダドリーの疑問を聞いたツァオは微笑んだ後、疲れた表情で溜息を吐いた。
「お悔やみ申し上げます。それでは――――」
そしてダドリー達が退出しようとしたその時
「―――失礼します。」
ロイド達が部屋に入って来た。
「お前達………!?」
「と、特務支援課……」
「おお、ロイドさん。それに支援課の皆さんですか。」
ロイド達の登場にダドリー達が驚いている中ツァオは目を丸くした。
「失礼します、ツァオさん。お忙しいかと思いますが、少々、話を伺っても構いませんか?」
「ええ、もちろん構いませんとも。―――それではダドリーさん。事情聴衆、お疲れ様でした。」
ロイドに尋ねられたツァオは笑顔で頷いた後不敵な笑みを浮かべてダドリー達を見つめ
「くっ………失礼する!」
自分達には話さず、特務支援課には話す可能性を見せているツァオの様子に腹を立てたダドリーは悔しそうな表情で答えた後道を開けたロイド達の横で一端足を止め
(腹立たしいが………ヤツの相手はお前達に任せる。せいぜい情報を引き出してくるがいい。それとセルゲイさんからブライトが襲撃された別荘の持ち主である”Ms.L”と親しい関係者である事も聞いている。それを考えると今回の襲撃の詳しい情報等もブライトの耳に届いている可能性が高い。奴からも後で情報を引きだしておけ。)
(あ………はい!)
小声でロイドに指示をした後同行している女刑事と共に部屋を退出し、そしてロイド達はツァオの正面に近づいた。
「フフ、お久しぶりですね。ロイドさん、それに皆さん。記念祭の最終日は、なかなかのご活躍ぶりだったそうですね?」
「”銀”からの情報ですか………―――俺達”特務支援課”は通常の捜査体制から外れています。それを踏まえて、率直な本音で話をさせてもらってもいいですか?」
ツァオの言葉を聞いたロイドは真剣な表情で呟いた後、ツァオを見つめて提案した。
「ほう………?」
「ロ、ロイド………?」
「うふふ、随分とストレートに言っちゃったわね♪」
ロイドの提案にツァオは不敵な笑みを浮かべ、エリィは戸惑い、レンは意味ありげな笑みを浮かべた。
「この人相手に、肚の読み合いは時間の無駄だろうからね。他にも色々聞きたい事もあるし、今回は単刀直入に行かせてもらおう。」
「おいおい………ぶっちゃけたな。」
「ロイドさん、たまに大胆ですね。」
「クスクス、エステルの大胆さとも並ぶくらいね。」
「フフ………ハハハハハッ!―――さすがはロイドさん。私が見込んだだけはありますね。いいでしょう。私も無意味なやり取りはあまり好きではありません。答えられる範囲であれば一通り答えさせて頂きますよ?」
ロイドの説明にランディは呆れ、ティオは感心し、レンは小悪魔な笑みを浮かべている中ロイドの大胆不敵な行動に感心したツァオは大声で笑った後、不敵な笑みを浮かべてロイドを見つめて情報を提供する事を約束した。
「―――感謝します。お聞きしたいのは以下の3点についてです。一つ目は昨晩の襲撃者ですが……ルバーチェで間違いありませんか?全く関係ない連中が襲ってきた可能性は?」
「フフ………まずその可能性を疑いますか。―――ラウ。答えてあげてください。」
「は。」
ロイドの質問を聞いたツァオは口元に笑みを浮かべて呟いた後、自分の傍に控えるラウを促した。
「………襲撃者達は覆面で正体を隠していましたが間違いなくルバーチェの配下でしょう。武装が同じでしたし、何よりもクセが似ていました。そういうものは簡単に偽装できるものではありません。」
「なるほど………」
「しかし、そうなると少々解せなくなってくるな。アンタら”黒月”の構成員は相当な武術家揃いと聞いている。そっちの兄さんもかなりの腕みたいだしな?」
「………恐れ入ります。」
ランディに視線を向けられたラウは静かな表情で会釈した。
「一方ルバーチェの方は戦闘のプロではあるんだろうが一人一人はアンタら程じゃねえ。なのにどうしてここまで遅れを取っちまったのか………あの”キリングベア”のオッサンでも襲ってきたかよ?」
「いや、かの営業本部長殿は参加していなかったようですね。彼の右腕を務める元猟兵たちも参加はしていなかったようです。ルバーチェの中でも平均的な戦闘能力の者たちだけでしょう。」
「だったらどうして………」
ランディの質問に答えたツァオの話を聞いたロイドは真剣な表情でツァオたちを見つめ
「―――戦闘技術は並み程度でしたが力とスピードが段違いでした。重機関銃を片手で軽々と振り回して力任せに突入してきたのです。おかげでこちらの守りを崩され2階まで制圧されてしまいました。」
「そいつは……………」
「「………………………」」
見つめられて答えたラウの話を聞いたランディは目を細め、ティオは黙って見つめ、レンは真剣な表情で黙り込んでいた。
「力とスピードだけでなく、タフさも大したものでしたね。おかげで少々、危険な技を使う事になってしまいました。」
「き、危険な技………」
「……どうやら貴方自身もかなりの使い手のようですね。」
「フフ、”銀”殿と比べれば素人同然ではありますがね。」
そしてロイドの推測にツァオは不敵な笑みを浮かべて答えた。
「2つ目の質問ですが………率直にお聞きします。―――今回の事件を受けてどう対処されるおつもりですか?」
「フフ………何を聞かれるかと思えば。我々がどういう存在であるかを考えれば訊ねるまでもないのでは?」
「…………………………」
自分の質問を聞いて不敵な笑みを浮かべて自分を見つめるツァオはロイドは黙って見つめ
「報復――――というわけですか。」
エリィは真剣な表情で呟いた。
「フフ、人聞きの悪いことを言わないでください。我々はあくまで営利会社………危機管理の話をしているだけです。自社の利益を損ねる状況があれば妥当な方法でそれを改善する………何かおかしいことがありますか?」
「ハン………」
「うふふ、ある意味予想通りの答えね。」
「……本当に物は言いようですね。」
「………その”妥当な方法”の中に”本社”の援助を要請されるご予定は?」
不敵な笑みを浮かべて語るツァオの話を聞いたランディは鼻をならし、レンは意味ありげな笑みを浮かべ、ティオはジト目で呟き、ロイドは考え込んだ後真剣な表情で尋ねた。
「あ………」
「”黒月”本体からの増援か……」
ロイドの質問を聞いたエリィはある事に気付き、ランディは目を細めてツァオを見つめ
「ハハ、本当に率直な人だ。―――私にも面子があるのでね。今の所、その予定はありません。もっとも状況次第では”本社”が無理矢理介入してくる可能性もあるでしょうが………」
ロイドに感心しているツァオは笑った後答え、そして意味ありげな表情で話を続け
「……………………………」
ツァオの説明を聞いたロイドは真剣な表情で黙って見つめていた。
「フフ、まあしばらくの間は直接介入は抑えられるでしょう。―――いずれにせよ、先方の状況が掴めない事にはこちらも対処しようがありません。ちょうど今、そのあたりを探ってもらっている最中ですよ。我等の頼もしい協力者に、ね。」
「”銀”さんに………」
「ま、こういう状況には打ってつけのヤツだろうな。」
「何せ伝説の暗殺者だから、諜報活動は暗殺者にとって十八番だものね。」
そしてツァオの説明を聞いたティオは驚き、疲れた表情で呟いたランディの意見にレンも同意した。
「最後の質問ですが………今回の件とは直接関係ない話なんですが、せっかくなのでお聞きします。―――あなた方は本当に、キーアをご存知ないんですか?」
「あ………」
「へえ?」
「ロイド、それは………」
「ふむ、キーア………ですか?それは人名ですか?それとも何かの暗号か何か?」
ロイドの質問にティオが驚き、レンが興味ありげな表情をし、エリィが真剣な表情でロイドを見つめている中、ツァオは不思議そうな表情をした後、笑顔で尋ねたが
「……………………………」
「失礼――――どうやら本気のようですね。一応、例の競売会であなた方が保護した少女の名前である事は存じています。我等の協力者が、あなた方にちょっとした助言をした事もね。」
真剣な表情のロイドに睨まれ、軽く謝罪した後答えた。
「『競売会の最後に出品される革張りの大きなトランク………その中にはルバーチェの立場を危うくする”爆弾”が仕込まれている。』―――その情報は我々の元に複雑なルートで届けられました。情報提供者は不明………結局掴む事はできませんでしたが逆にそれが信憑性を高めました。そこで念のため、我等の協力者に確かめに行くよう頼んだのです。まさか”爆弾”の正体がそのようなものであるとは夢にも思っていませんでしたがね。」
「ったく、どいつもこいつも知らぬ存ぜぬの一点張りかよ。」
「仮にその話が本当だとして………情報提供者について、何か心当たりはないんですか?」
ツァオの話を聞いたランディは目を細め、エリィは真剣な表情で尋ねた。
「さて、順当に考えるならばルバーチェ側の関係者による裏切りが考えられそうですが………こちらに情報を届けた手並みといい、抜け目のない相手ではありそうですね。―――いずれにせよ、キーアさんについて我々が知っている事実はそれだけです。どうか信じて頂けませんか?」
「………わかりました。正直に答えて下さって感謝します。」
そしてツァオの説明を聞き、ツァオに尋ねられたロイドは疲れた表情で溜息を吐いて頷いた。
「さて………ご質問はそれだけですか?」
「ええ、色々と答えていただけて感謝します。概要については、警察本部にも伝えても構いませんか?」
「フフ、ご隋意に………―――ねえ、ロイドさん。」
「はい………?」
ツァオに話しかけられたロイドは不思議そうな表情をし
「正直、今回の襲撃は少々想定外の出来事でした。何でも聞けばかの大富豪―――”Ms.L”が保有している別荘にも同時に襲撃を仕掛けたとか。彼らの戦力とコネクション、そして思考パターンは読み切ったつもりだったからです。そして、現状で彼らが思い切った事をするはずがない………その予想が見事、覆されました。」
「…………………………」
ツァオの話を聞いて真剣な表情でツァオを黙って見つめていた。
「フフ、ですから私は今、非常にワクワクしているんですよ。ここ数年、私の見込みどおりに事が運ばなかったことなど久しくありませんでしたから。これでようやく、思う存分、力と知恵を振るうことが出来る………そんな悦びすら感じている所です。」
「!?」
「おいおい………」
「………貴方は………」
「とんでもないです………」
「随分と趣味の悪い悦び方ねぇ。」
不敵な笑みを浮かべて語ったツァオをロイドとランディ、エリィは怒りの表情で睨み、ティオとレンは溜息を吐いた。
「フフ、警察ごときに私の楽しみを邪魔されるつもりはありませんが………あなた方にだけは特別に”機会”を与えましょう。我々が本格的に動き始める前に何らかの解決方法を提示できるか……興味深く拝見させて頂きますよ?」
その後ロイド達は”黒月貿易公司”の建物を出て、ある程度の距離を取った場所で立ち止まって話し合いを始めた――――
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