媚薬
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5部分:第五章
第五章
「己を改造人間にする趣味はない。安心しろ」
「じゃあ今のままですね」
「そうだ。私が誇るのはこの頭脳」
まさにだ。それこそがだというのだ。
「戦闘力を求めはしない」
「ならいいんですけれどね」
「そういうことだ。ではこれからだ」
「お薬ですね」
「媚薬を作りそして」
そのうえでだというのだ。彼女は。
「あの教授を私の恋人にするのだ」
「頑張って下さいね。リミット一年ですよ」
「・・・・・・・・・」
「みぎゃああああああああっ!」
またスパナで頭をぐりぐりと攻撃される比佐重だった。津波にとって二十九という言葉はまさにブロックワードだった。言ってはならないことだった。
薬自体はだ。実に簡単にできた。
一時間程度でだ。それは完成した。
「できたぞ」
「いつもながら速いですね」
「調合方法は既に頭の中にあった」
そうだったというのだ。いささかモーツァルトめいた言葉だった。
「後はその通りに調合するだけだからな」
「だからいつも速いんですか」
「そうだ。それでだ」
「はい、そのお薬を松田教授に」
「飲ませる。では行くとしよう」
こう話してだ。津波は比佐重に研究室の留守番を命じそのうえでだ。媚薬、僅かな量をカプセルの中に入れてだ。そのうえでなのだ。
健一郎を探す。その彼はというと。
学校の中の喫茶店にいた。そこでだ。
「コーヒーか」
「ああ、いつもこの時間はここで飲んでいる」
そうだとだ。健一郎は白い席に座りだ。スタイリッシュな声で答えた。
「この学校のコーヒーは美味いな」
「コーヒーが好きなのだな」
「好きだ。俺そのものだからな」
「コーヒーが君そのものか」
「黒い。俺は腹が黒いからな」
そんなことを言ってだ。笑いながら話すのだった。
「だからだ。俺はコーヒーだ」
「では私は腹が白いのか」
津波は健一郎のその話を聞いてだった。
ふとだ。こんなことを言うのだった。
「牛乳が好きだからな」
「牛乳が好きか」
「身体にいい」
尚牛乳で背が伸びるという話はしない。
「だからいつも飲んでるが私の腹は黒いぞ」
「それでも白いものを飲むんだな」
「そうだ。しかし腹は黒い」
「ははは、じゃあ俺達は似た者同士だな」
自分の向かいの席に自然に座った津波に対しての言葉だ。
「そうなるとな」
「そうだな。似た者同士だな」
「ならいいな」
ここでだ。健一郎は。
口の端だけで笑ってだ。それで言うのだった。
「俺は今一人だ」
「一人か」
「一人だ」
こう津波に言うのだ。
「しかし二人でいたいと思っている」
「二人か」
「そうだ。それでどうだ」
健一郎は津波の顔を見て。その目を見て。
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