グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
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第53話:命短し恋せよ乙女。淡き色した桜の如く。
(グランバニア城より南東の丘の麓)
ウルフSIDE
あ゛~飲み過ぎた。
頭痛い。気持ち悪い。
でも今日は土曜日だし、何時もの丘に行かねばならない。
昨晩カタクール候に連れられてキャバクラに行った事は、マリーもリューノも知っている。
行きたくも無いのに上司命令として行かされ、その上司と現場で遭遇し口論した事も知れ渡っている。
だからヤケ酒飲んで二日酔いになってるのも皆知っている。
勿論、口論の内容を知ってるのは、あの場に居た者だけだし、連中が口外する事は無いので気にしては居ない。
だが気になるのはリュカさんの指摘内容だ。
そんなはずはないと分かっていても、確かめない訳にもいかない。
好都合なのは、二日酔いを心配してくれたマリーとリューノが、今日一日解放してくれた事だ。
普段なら、午前は絵を描いて、午後は二人の相手をさせられるのがパターンなのだが、丸々一日時間が貰えたので、ピクトルさんとはトコトン話をしようと思う。
言っておくが下心は無いぞ!
丸々一日話をするというのは、昨晩リュカさんが言った様に『そう思うのなら明日にでも確かめてごらん。“君の部屋に行きたい”って言って、顔を赤くして了承してくれたら、彼女の方にはその気ありって事だ。その先如何するかはお前次第だが、主導権は取られるなよ(笑)』ってのを確かめる為だ。
具体的な事を言えばだな……“今日はピクトルさんの部屋に行ってみたい”的な事を言って反応を確かめて、アイツが言う様に顔を真っ赤にして了承したら“君の想いには応えられない”系の事を言って納得してもらう。直ぐに納得するかは判らないから、丸々一日話をするのだと言う事だ。
当然の事だが“今日はピクトルさんの部屋に行ってみたい”的な事を言って反応を伺ったら“困ります、一人暮らしの部屋に若い男を連れ込むなんて出来ません! 私、ウルフさんにそう言う感情ありませんから!”と言われるはずなので、誤解を解き謝罪をする為に丸々一日話をする必要があるのだ。
そうさ……そう言われるはずさ。
あのオッサンも年とって衰えたな……
女心が解らなくなるなんてな。
丘の上に視線を向けると、何時もの場所にピクトルさんが待っている。
俺を見て大きく手を振ってくれている。
はぁ~……俺はなんて馬鹿なんだ。彼女に在らぬ疑いをかけるなんて。
こんな無礼な疑いをかけてしまったんだし、午後は食事にでも誘う事にしよう。
彼女の部屋になんて行かず、城下町のオシャレなレストランで食事を振る舞おう。
そして平謝りすれば良い……大切な友情にヒビを入れてしまった事をね。
ウルフSIDE END
(グランバニア城より南東の丘)
ピクトルSIDE
毎週土曜の午前中は、私のとって掛け替えのない幸せな時間。
絵の達人に間近で接し、その技能を得られる貴重な時間。
そして何より、格好いいウルフさんと語り合える大切な時間。
彼はエリート中のエリートだし、冴えない平民の私とでは釣り合うはずの無い男性。
だから私の気持ちは仕舞い込むしかない……でも、だからこそ彼と絵の事で共有出来るこの時間は失う訳にはいかないの。
今日も何時もの様に準備を終えると、何の迷いも無くグランバニアのスタジアム近辺を描き上げていく。
私の描いているグランバニア城も大分出来上がってきた。
完成した絵を一番に見せるのは勿論ウルフさん♥
そんな事を考えながらウルフさんに見取れていると、
「あの……今日、午後は暇ですか?」
と、突然質問された。
「え? あ……ご、午後ですか!?」
作画作業の手を止めて彼に見取れてた為、しどろもどろになる私。
ま、真面目に絵を描かなきゃ嫌われてしまうわ。
「もし宜しければ、ピクトルさんの部屋に行ってみたいんですけど……ダメですか?」
な、何で!? 何で私の部屋に来たいの??
え、何? 如何いう事!? ウルフさんが私の部屋に来たいって如何いう事!??
「ダ、ダメっすよね! そりゃダメに決「全然大丈夫です!」
断る事なんて出来ないわ!
ウルフさんが私の……一人暮らしの女の部屋に来たいって事は、それはつまりアレよね!?
若い男と女が一つの部屋で……ってやつよね!
アレがアレしてアレになっちゃうのよね!?
こんなチャンスを断る事は出来ない。
ウルフさんとの仲を進展させる絶好のチャンスなのだから!
それに断って嫌われたくないわ。
ウルフさん的には私の部屋へ行って絵の事をゆっくり語り合いたいだけかもしれないし……
そうよね。
いきなり部屋に来てアレなんて事は無いだろうから、取り敢えず有り合わせで昼食を振る舞いましょう。
だから今日アレしなくても、大きな進展があったとして受け入れるべきよ!
来週からは、午前中は丘の上で作画作業して、午後は私の部屋で……って、流れになるかも。
どうしよう……私、アレは初めてなのよ。
でもウルフさんは慣れてそう……格好いいしモテそうだもんね。
大丈夫……ウルフさんに如何な過去があろうと、私は今のウルフさんが好きなのだから!
ピクトルSIDE END
(グランバニア城下・高等学校学生寮)
ウルフSIDE
「少し待ってて下さいね。お腹空いてるでしょうけど、今出来上がりますから」
「お、お構いなく……」
ピクトルさんの部屋の居間で、語尾を弱々しく返答するヘタレ男が存在する。俺の事だけど何か?
何故こうなった?
彼女は俺の事を“シロウトに毛が生えた程度の画家”としか見てないはず。
自身の作画作業に付き合わさせる事で、腕前向上の手助けをしてるだけのはず!
なのに何で彼女は俺を部屋に招き入れ、剰え料理をしているのだろうか?
昼食時だから? 時間的にはね。うん、時間的には昼飯の時間だし、普段だったら空腹を訴えてるだろう。
でも今は空腹か如何か分からない。
もしかして……リュカさんの言ってた通りなのか?
ピクトルさんは俺に気があるのか?
そ、そんな訳ない! だって口説いてないし。俺、一度も口説いてないし!!
そうか! 彼女はノーザスレーンから出てきた田舎娘。
田舎では親しくなった男を、家に招き入れて食事を振る舞うなんて日常の事。
都会と違って警戒心が薄いんだよ。そうだよ、そうなんだよ!
「さぁお待たせしました。有り合わせの物で作ったので、お口に合えば幸いですぅ♥」
「美味そうッスね。いただきます」
タマネギと煮魚を和えたパスタからは、空腹を思い出させる匂いが立ち込める。
フォークでパスタを絡め取り、口に入れて味わってみる。
「美味い! 何これ、凄ー美味いっすよ!」
「あ、ありがとうございますぅ♥」
俺の感想に顔を赤くして喜ぶピクトルさん。
可愛い……しかも料理上手。
こんなに可愛いのだし彼氏は絶対に居ると思うんだけど……
室内を見渡しても男の影は見当たらない。
ある物はキャンバスや絵の具などの絵画に関する物ばかり……
奥の部屋にあるベッドも綺麗に整頓されてるが、一人以上の男が使用した形跡は見受けられない。
……だ、だからなんだ!?
ピクトルさんに彼氏が居ようと関係ないだろ!
彼女のベッドを見て、変な妄想をするんじゃ無い!
そうさ……当初の予定通り、俺はピクトルさんに“君とその気は無い”と告げ、更には“俺、姫様2人と付き合ってるんだよ”と言っておかないと。
部屋に招き入れ料理を振る舞った事が、親しい友人に対しての行為だとしても、俺の立場をハッキリさせておかなければ、今後に支障が出るかもしれない。まぁ俺の杞憂だろうけどね。
でも、何も食事中にする話じゃないよね。
凄く美味しいし、台無しにしたくないし、食べ終わってからでも良いよね。
「ごちそうさまでした。あ~美味かったぁ」
「お粗末様でした。ウフッ、喜んで戴けて良かったです」
嬉しそうに食べ終えた食器を台所へ運ぶピクトルさん……
俺はそんな彼女の後ろ姿を見ながら、意を決して口を開く。
「あの……ピクトルさん。聞いて欲しい事があるんだ」
俺の言葉に瞳を輝かせながら振り返る彼女は可愛すぎる。
「あのね……貴女が俺の『部屋に行きたい』って要望に、どんな気持ちで応えてくれたのかは分からないけど……俺、貴女と恋人同士にはなれないよ」
言った。言ってしまった! もし彼女に、俺との恋愛感情が微塵も無ければ、これ程自意識過剰でイタイ発言はないだろう。
「……………そ、そうですよね。ウルフさんは格好いいしエリートだし、こんな田舎娘には興味もありませんよね(泣)」
ヤバい、泣かれた!
台所で立ち竦む彼女の両目からは、大粒の涙がボロボロ溢れ落ちる。
何だこれ!? 飯を集っといて、ご馳走してくれた彼女を傷付けるって……
俺は慌てて立ち上がり彼女の側に近付く。
そして立ち呆けてるピクトルさんの両肩をしっかり掴み、瞳を見据えて話しかける。
「誤解しないでピクトルさん。貴女は可愛いし、料理も美味いし、最高の女性だよ。俺も君を彼女に出来るのなら、どんなに嬉しいか。でも俺には既に付き合ってる女性が居るんだ」
彼女の部屋で、彼女を泣かすって……俺は何をやってるんだ?
「そ、そうですよね……私みたいな田舎娘よりもステキな女性と付き合ってるんですよね」
そう言うと彼女の目からは、有り得ないほどの涙が滝の様に溢れ出る。
イヤイヤイヤ、何で自分を卑下するんですか!? 違うんですよぉ!
「そうじゃないんですよ。貴女は素晴らしい女性ですけど、俺の付き合ってる女性ってのは姫でして……しかも2人も居るんです。どっちも父親は同じ」
「え、2人と付き合ってるんですか!? 二股ですか……姫様と?」
「まぁ二股なんでしょうけど、互いに知ってますし、この状態で納得してるんです。先に付き合ってた方が嫉妬深いんで、納得させるのには苦労しましてけど……」
あれ……そう言えば、何で俺はマリーと何時までも付き合ってるんだ? あんな面倒な女なのに……
別にグランバニア王家に入りたい訳じゃないし、この気にピクトルさんに乗り換えるって手もあるよなぁ……
いやダメだ。マリーは兎も角、リューノは素直で可愛いから手放したくない。
何という男の身勝手な理由だろうか。
身勝手な理由で言うと、マリーの身体は手放すのが惜しい。
それに性格はアレだけども、可愛い所もあるし……何よりも彼女に惚れて俺はこの世界にまで来たのだから、分かれる訳にはいかないか。
あれこれ考えてるとピクトルさんが俺の胸に顔を埋めてきた。
え、何? 如何いう事これ?
何で俺はピクトルさんを抱き締める形になってるの?
「私もその中に入れて下さい。本命じゃなくて良いです……二股してるのなら、もう一股くらい構わなくないですか?」
「いや、拙いよ……付き合ってる姫の一人が、異常なほどに嫉妬深いから知られたら大惨事になるよ」
俺は彼女を引き離すと顔を覗き込んで訴える。
「じゃぁ秘密のお付き合いでも良いです! 私、もう我慢出来ません。ウルフさんの事が好きなんです!!」
そこまで言うと、彼女は俺の首に両腕を回してキスをしてきた。
ど、どうしよう……如何すれば良いのだろう?
師匠……助けて下さい!
如何すれば良いのでしょうか?
“取り敢えず喰べちゃえば良いじゃん!”という声が頭に響いた気がする。
ですよねぇ~……師匠の言葉はそれしか無いですよねぇ~!
師匠選びを間違えたー!!!!
ウルフSIDE END
後書き
ほぼほぼリューノの時と同じ事やってます。
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