遊戯王GX-音速の機械戦士-
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―雷光―
『Are you ready?』
「うん!」
「――――」
「イヤッッホォォォオオォオウ!」
――デュエル・アカデミア上空。比喩でもなんでもなく、DDとのデュエルを終わらせた俺とエドは、ヘリコプターでアカデミアの上空へ来ていた。もうアカデミアでの仕事は始まっている時間であり、急ぎヘリポートに行かなくてはならなかったのだが。
エドはヘリコプターから飛び降りることを選択した。俗にスカイダイビングと呼ばれるアレであり、随分と慣れたように仕事場たるデュエルスタジアムへ降下していく。……同じく俺も無理やりダイビングされたが、声など出ようはずもなく。
「デュエル・アカデミアの生徒たち! 待たせてすまない!」
デュエルスタジアムの中心に落下したエドと俺は、アカデミアの生徒の驚愕と歓声の声に包まれていた。地上に足がついていることを何度も確認していると、エドの専属スタッフがパラシュートを回収していく。
「……何やってるんだ、遊矢」
「ああ、十代……こっちが聞きたい」
早くもマイクパフォーマンスを行っているエドを横目に、デュエルディスクを構えた十代が呆れ顔でこちらを見ていた。なんと説明すればいいやら迷いながら、ひとまず周りを見渡してみると、どうやら今まで十代と万丈目がデュエルしていたらしく。万丈目が『エドが来るまで間を持たせる』とは言っていたが、こういうことだったとは――倒れている万丈目を見れば、勝敗は明らかだったが。
「だが僕の弟子、万丈目サンダーは立派な前座をしてくれただろう!」
「誰が弟子だ! 前座だ!」
そんな状況をすぐさま理解したらしいエドが語ると、スタジアムに倒れていた万丈目が起き上がる。そんな抗議をまるで無視しながら、エドはさらにマイクに向かってそう語った。
「ここからが本番だ。万丈目サンダー、遊城十代、黒崎遊矢。そしてこの僕の、バトルロイヤルを始める!」
――台本と違う。最初に思ったことはそういうことで、アカデミアの生徒たちもその言葉を理解するのに数秒の時間を有した。しかし数秒後、観客席からは割れんばかりの歓声が鳴り響き――
「……この歓声だ。観客を魅せるこの歓声こそ、プロの仕事だ」
エドは満足げに――どこか万丈目を見るようにしながら――語り、デュエルスタジアムの四辺に移動する。そんなエドの手管に圧倒されていると、俺と十代の背中をバシンと強く万丈目が叩き、俺たちを無理やりデュエルスタジアムの端へと押し込んでいく。
「エドめ……このオレを輝かせるステージを作ったことは褒めてやる……いくぞ十代、遊矢! このままナメられて終わるものか!」
「……ああ!」
ここでエドの申し出を蹴っては、デュエリストとしての矜持が廃る。俺に万丈目もそう考えると、エドのようにデュエルディスクを構えながら、スタジアムの四辺へと歩いていく。
――俺たちと同じようにしていた十代の表情は、位置の関係でよく見ることが出来ずに、何を考えているのか分からなかったが。
そして四人のデュエルの準備が完了し――
『デュエル!』
エドLP4000
十代LP4000
遊矢LP4000
万丈目LP4000
「まずは僕のターンから」
バトルロイヤルが始まることとなった。まずはエドのターンからとなり、最初のターンはいずれのプレイヤーも攻撃出来ずに、同様にドローすることも出来ない。
「僕は《D-HERO ダイハードガイ》を召喚してターンエンド!」
「次はオレのターンか。《カードガンナー》を召喚!」
エドの最初のターンは下級D-HEROこと、ダイハードガイを攻撃表示で召喚することで終了し、次なるターンは十代の手番。攻撃出来ない最初のターンで召喚されたのは、優秀な機械族モンスターこと《カードガンナー》。
「《カードガンナー》の効果発動。デッキの上から三枚墓地に送る。さらにカードを一枚伏せ、ターンエンド」
「俺のターン」
まだ攻撃されないということもあってか、十代も《カードガンナー》の低攻撃力を晒すリスクを考えながらも、効果を使用しながら攻撃表示でターンを終了する。それとも、あのリバースカードは攻撃を誘っているのか。
「俺はモンスターとカードを一枚ずつセット。ターンエンドだ」
「オレ様のターン!」
最後となるのは万丈目。ひとまず様子見に走ったこちらのターンが終わると、既に行動を決めておいたかのような迅速さで、即座にカードをデュエルディスクにセットする。
「オレはモンスターとリバースカードを一枚ずつセット! ターンを終了!」
「……僕のターン、ドロー!」
……やっていることは俺と全く同じだったが。そしてターンは一巡すると、エドはしばしフィールドを眺めながら、慎重にカードをドローする。エドのフィールドには《D-HERO ダイハードガイ》のみ、十代のフィールドは《カードガンナー》にリバースカード、俺と万丈目はどちらもセットモンスターとリバースカードが一枚ずつ。
「僕は《デステニー・ドロー》を発動! 手札のD-HEROをセメタリーに捨て二枚ドロー。さらに《D-HERO ドゥームガイ》を召喚!」
《デステニー・ドロー》による手札交換と新たなD-HEROを召喚しながら、エドはまず誰に攻撃をするか思索する。
「バトル! ドゥームガイで《カードガンナー》を攻撃! ブラック・オブ・ドゥーム!」
しかしてその思索は一瞬のもので。エドはひとまず標的を十代に定め、ドゥームガイはその腕に仕込まれた短刀で《カードガンナー》を切り裂いた。
「だが《カードガンナー》は破壊された時、カードを一枚ドロー出来る」
十代LP4000→3400
ダメージは負ったものの、ドローと墓地送り効果の発動と、《カードガンナー》は充分な仕事を果たす。さらにダメージに晒されながら、十代の伏せてあったリバースカードが目を覚ます。
「リバースカード、オープン! 《N・シグナル》! デッキからネオスペーシアンを特殊召喚する! 来い、《N・フレア・スカラベ》!」
さらにNの字をかたどったスポットライトから、後続のモンスターまでもが特殊召喚される。ネオスペーシアンの一種たるフレア・スカラベ――その効果は、相手の魔法・罠カードの数だけ攻撃力がアップするというもので、このバトルロイヤルにおいてはかなりの数値となる可能性を秘めている。
「……メインフェイズ2。僕はダイハードガイを守備表示にし、カードを一枚伏せターンを終了する」
「オレのターン、ドロー!」
エドは残ったダイハードガイで俺や万丈目を追撃することはなく、守備表示とリバースカードという布陣でターンを終了する。
「墓地の《E・HERO ネクロダークマン》の効果発動! このカードが墓地にいる時一度だけ、E・HEROをリリースなしで召喚出来る! 来い、《E・HERO エッジマン》!」
《カードガンナー》の効果で墓地に送られていた、リリースを必要としなくなるヒーロー《E・HERO ネクロダークマン》の効果により、早くもネオスの登場か――とも思ったが、手札から召喚されたのは《E・HERO エッジマン》。ホッとしたのも束の間、エッジマンには貫通効果があることを思いだす。
「バトル! エッジマンで遊矢のセットモンスターを攻撃! パワー・エッジ・アタック!」
「やらせない! リバースカード《くず鉄のかかし》!」
エッジマンの標的はこちらのセットモンスター。とはいえただでやられる訳もなく、伏せていた《くず鉄のかかし》が何とかその一撃を防いでみせた。まだ十代のフィールドには、攻撃力が1700ポイントにまで上昇した、《N・フレア・スカラベ》が残っているが……
「……フレア・スカラベでドゥームガイに攻撃! フレイム・バレット!」
「こちらに来たか……」
エドLP4000→3300
セットモンスターを警戒したのか、フレア・スカラベの標的はこちらではなくエドに向く。攻撃表示となっていたドゥームガイが、フレア・スカラベの放った火球に破壊されたものの――エドのフィールドにもまた、Dの字が浮かび上がっていた。
「伏せていた《デステニー・シグナル》のエフェクトを発動! デッキから《D-HERO ダイヤモンドガイ》を、守備表示で特殊召喚する!」
「……ターンエンドだ」
先の十代のターンと奇しくも同じように、エドのフィールドには新たに《D-HERO ダイヤモンドガイ》が特殊召喚される。これでエドのフィールドには、守備表示のダイヤモンドガイにダイハードガイ、十代は攻撃表示のエッジマンにフレア・スカラベ、万丈目はまだ動かずにセットモンスターにリバースカード。
「俺のターン、ドロー! ……モンスターを反転召喚!」
ならばこの局面で狙うべきは、最も攻撃力が高いエッジマンを擁する十代。エッジマンでこのまま十代に流れを取られては、まるでついて行けないだろう。反撃の狼煙として、セットしていたモンスターを反転召喚する。
「《ガントレット・ウォリアー》! さらにチューナーモンスター《音響戦士ピアーノ》を召喚し、チューニング!」
反転召喚した《ガントレット・ウォリアー》に、通常召喚した《音響戦士ピアーノ》。二体のモンスターがフィールドに揃うと、素早くシンクロ召喚の体勢に移る。
「集いし事象から、重力の闘士が推参する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《グラヴィティ・ウォリアー》!」
シンクロ召喚されるは獣の如き鋼の肉体を得た機械戦士。元々アタッカーとして使うモンスターではあるが、このバトルロイヤルでは十代の《N・フレア・スカラベ》同様に、さらなる効果と能力を発揮する。
「グラヴィティ・ウォリアーがシンクロ召喚に成功した時、相手モンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする! パワー・グラヴィテーション!」
相手フィールド――つまり、エドに十代に万丈目、それぞれのフィールドのモンスターを全て合計する。ダイハードガイ、ダイヤモンドガイ、エッジマン、フレア・スカラベ、セットモンスター――計五体のモンスターがいる扱いとなり、《グラヴィティ・ウォリアー》の攻撃力は、普段のデュエルの最高火力たる3600にまで上昇する。
「バトル! グラヴィティ・ウォリアーでエッジマンに攻撃! グランド・クロス!」
「っつ……!」
十代LP3400→2400
大きくライフを削れるフレア・スカラベを攻撃対象にしても良かったが、まだデュエルは序盤も序盤だ。《グラヴィティ・ウォリアー》の爪はエッジマンを切り裂き、十代のライフは1人落ち込んだ。
「よし、ターンエン……」
「おおっと遊矢! そのエンドフェイズ待ってもらおうか!」
攻撃が無事に成功したとともに、《グラヴィティ・ウォリアー》がこちらのフィールドに戻ってきて、安堵の声とともにターンエンド宣言をしようとしたその時。突如として、万丈目からそんな声が放たれた。
「なんだ万丈目、いたのか」
「万丈目、さんだ! ずっといたわ!」
覚えていろよエドめ――と、まだフィールドに何の損害も負っていないことをエドに揶揄されながら、万丈目は伏せていたリバースカードを発動する。こちらのエンドフェイズというタイミングで使われた、最初のターンから伏せられていたそのカードとは。
「伏せていたのは《重力解除》! フィールドのモンスター、全ての表示形式を変更する!」
《重力解除》。万丈目の宣言通りに、フィールドのモンスター全ての表示形式が変更されていく。《グラヴィティ・ウォリアー》と《N・フレア・スカラベ》は守備表示に、エドのダイヤモンドガイにダイハードガイ、そして万丈目のセットモンスターが攻撃表示へと。
「オレがセットしていたのは《アームド・ドラゴンLV3》! そしてオレのターンとなり、アームド・ドラゴンは進化する!」
……まだ正確にはターンを終了していないのだが、もう万丈目のターンに移っていたらしい。しかしてそれはともかく、万丈目がカードをドローした後に、攻撃表示となった《アームド・ドラゴンLV3》は自身の効果で進化する。
「現れろ、《アームド・ドラゴンLV5》!」
フィールドに現れる伝説の一角。さらに《重力解除》の効果で表示形式が変更されたことにより、守備力が低い《グラヴィティ・ウォリアー》を始めとして、他三人の布陣は崩れていた。ああ見えて見事なコンボをやってのけた万丈目に舌を巻いていると、まだまだだとばかりに万丈目は新たなカードを発動する。
「さらに《レベル・コピー》を発動! フィールドのレベルモンスターと同じ攻撃力、効果を持ったモンスタートークンを特殊召喚する! 来い、《コピー・アームド・ドラゴンLV5》!」
そして魔法カードの効果によって特殊召喚される、完全に《アームド・ドラゴンLV5》をコピーしたモンスタートークン。実質的にもう一体のモンスタートークンが現れ、万丈目は誰を標的にしようか見定める。
「エド! ナメた口を聞いたことを後悔させてやる! アームド・ドラゴンLV5で、ダイハードガイを攻撃! ジェノサイド・カッター!」
標的にされたのはエド。《重力解除》によって低い攻撃力を晒された、ダイハードガイにアームド・ドラゴンが放ったカッターが炸裂し、巨大な爆風となってエドに襲いかかった。
「チッ……!」
エドLP3300→1700
かなりのダメージを与えられたことで、エドのライフはかなり落ち込むこととなり。そんな姿を満足げに眺めながら、万丈目はさらにコピー・アームド・ドラゴンに攻撃を命じる。
「お次は十代、貴様だ! コピー・アームド・ドラゴンでフレア・スカラベに攻撃!」
コピーと言えども本物と遜色ない一撃が、十代のフレア・スカラベを一瞬で消し飛ばす。とはいえ、万丈目の《重力解除》によって守備表示となっていた為に、十代にダメージはないが。
「カードを一枚伏せ、ターンを終了。さらにモンスターを戦闘破壊したことにより、《アームド・ドラゴンLV7》へと進化する!」
さらにモンスターを戦闘破壊するという進化条件を満たしたため、アームド・ドラゴンは新たな形態へと進化する。最終形態にほど近い《アームド・ドラゴンLV7》となる――もちろん、《コピー・アームド・ドラゴン》の方もだ。
「効果までコピーした《コピー・アームド・ドラゴン》は、モンスタートークンであろうと進化する!」
「……僕のターン、ドロー! ……セメタリーの《D-HERO ダッシュガイ》のエフェクト発動!」
これで万丈目のフィールドは《アームド・ドラゴンLV7》が二体に、リバースカードが一枚。エドはダイヤモンドガイ、十代は何もなく、俺は守備表示の《グラヴィティ・ウォリアー》に《くず鉄のかかし》。そんな状況において、先のターンの《デステニー・ドロー》により墓地に送られていたのだろう、《D-HERO ダッシュガイ》の効果が発動する。
「ダッシュガイがセメタリーにいる時一度だけ、ドローしたモンスターを特殊召喚出来る! ドローしたモンスターは、《D-HERO ディアボリックガイ》!」
ドローしたモンスターを特殊召喚する、という他に類を見ない効果によって、新たに《D-HERO ディアボリックガイ》が特殊召喚される。さらにエドの猛攻はこれだけに留まらず、フィールドに半透明のダークヒーローが浮かび上がっていた。
「さらに前のターンに破壊された《D-HERO ドゥームガイ》のエフェクト発動! このカードが破壊された次のスタンバイフェイズ時、セメタリーのD-HEROを特殊召喚する! カモン、ダッシュガイ!」
さらに先のターンに十代の《N・フレア・スカラベ》によって破壊されていた、《D-HERO ドゥームガイ》の効果により、今し方効果を発動した《D-HERO ダッシュガイ》を特殊召喚する。まだメインフェイズにもなっていないというのに、エドは二体のD-HEROを特殊召喚してみせ、まだ通常召喚という余力を残していた。
「さらにフィールド魔法《幽獄の時計塔》を発動し、《D-HERO ドレッドサーヴァント》を召喚!」
目まぐるしくエドのフィールドが展開されていき、さらにアカデミアのデュエルスタジアムが、ビッグベンが一際目立つ英国の都市となっていく。さらにその時計塔の直上には、一体のD-HEROがポーズを取っており、時計塔の針を3時間進めながらエドのフィールドに降り立った。
「ドレッドサーヴァントが召喚された時、時計塔の針が一つ進む。さらにダイヤモンドガイのエフェクトにより、デッキトップ……《戦士の生還》をセメタリーに送る」
二体のD-HEROのそれぞれの効果――ドレッドサーヴァントは《幽獄の時計塔》にカウンターを一つ乗せ、ダイヤモンドガイはデッキトップの魔法カードを墓地に送り、次のターンでの発動を確定させる。そしてエドのフィールドにいた、三体のモンスターが血で出来た池に沈んでいく。
「僕は三体のモンスターをリリースし、《D-HERO Bloo-D》を特殊召喚!」
ドレッドサーヴァント、ダイヤモンドガイ、ディアボリックガイ。三体のD-HEROをリリースすることで、エドの切り札たる最強のD――《D-HERO Bloo-D》が特殊召喚される。《幽獄の時計塔》をバックに特殊召喚されたソレは、ギョロリとした視線を万丈目に向ける。
「Bloo-Dのエフェクト発動! 一ターンに一度、相手モンスターを吸収する! 万丈目、お前の《アームド・ドラゴンLV7》をだ!」
「ええい……!」
Bloo-Dの翼から伸びた血の糸がアームド・ドラゴンLV7を捉え、自らの力として吸収していく。《アームド・ドラゴンLV7》の半分の攻撃力を備えつつ、さらに万丈目のフィールドをがら空きにすると、そのまま万丈目に狙いを定めていた。
「バトル! Bloo-Dでアームド・ドラゴンLV7に攻撃! ブラッディー・フィアーズ!」
「ぐあっ!」
万丈目LP4000→3500
そしてもう一体のアームド・ドラゴンLV7も、Bloo-Dに放たれた血の針に貫かれてしまう。モンスターがいなくなった万丈目のフィールドとは対照的に、エドにはまだダッシュガイがフィールドに残っているが、万丈目のフィールドにもまだリバースカードは一枚残っている。
「ダッシュガイで十代にダイレクトアタック! ライトニング・ストライク!」
「墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外し、攻撃を無効とする!」
一瞬だけ思索したようだったものの、結局は万丈目にのみこだわることはなく、エドは次なるターンプレイヤーである十代を攻撃する。ただし《カードガンナー》によって墓地に送られていたのだろう、《ネクロ・ガードナー》によって防がれてしまう。
「カードを一枚伏せ、ターンエンド」
「オレのターン、ドロー!」
そしてターンは、フィールドががら空きな十代に移る。優勢なのはやはりフィールドを整え、さらにエースたる《D-HERO Bloo-D》を召喚したエドと、セットされたままの《くず鉄のかかし》のおかげで、攻撃されることはなかったこちらか。
「相手ターンのスタンバイフェイズにより、《幽獄の時計塔》の針はさらに進む」
「……オレは《簡易融合》を発動! 1000ポイントのライフを払い、融合モンスターを特殊召喚する。来い、《E・HERO セイラーマン》!」
十代LP2400→1400
さらにカウンターを乗せる《幽獄の時計塔》を横目にしながら、十代エクストラデッキから融合素材を必要とせず、直接《E・HERO セイラーマン》を融合召喚する。とはいえ《簡易融合》の効果で特殊召喚したということは攻撃は出来ず、セイラーマンはこの局面を打破する効果を持ち合わせていない。
「さらに《ヒーロー・マスク》を発動! デッキからE・HEROを墓地に送ることで、フィールドのモンスターはそのE・HEROの名前となる!」
その疑問に応える形で発動されたのは、フィールドのモンスターの名前を、デッキから墓地に送った《E・HERO》に変更する、という効果を持った魔法カード。攻撃力や効果などは変わらないが、名前というのも重要なファクターであり、セイラーマンにあるヒーロー――《E・HERO ネオス》が乗り移った。
「そして《ラス・オブ・ネオス》を発動! フィールドのネオスをデッキに戻し、フィールドのカードを全て破壊する!」
「リバースカード、オープン! 《エターナル・ドレッド》!」
――名前を変更したということは、ネオスとして扱うということであり。ネオスの力を得たセイラーマンが、その一撃にフィールドの全てを破壊しようとした瞬間、エドのリバースカードが発動する。そのリバースカードは《幽獄の時計塔》の針を二つ進めて、セイラーマンの一撃によって破壊された。
「破壊された《幽獄の時計塔》のエフェクト発動。デッキから《D-HERO ドレッドガイ》を特殊召喚する!」
「オレも伏せてあった《おジャマジック》が破壊されたことにより、デッキからおジャマ三兄弟を手札に加えさせてもらう」
確かにセイラーマンはフィールドを破壊し尽くしたが、エドに万丈目は破壊された際に発動するカードでカバーする。何もなくなったフィールドに、瓦礫の底から鉄仮面の巨人――ドレッドガイが特殊召喚され、解き放たれた咆哮がフィールドを木霊する。
「さらにドレッドガイがこのエフェクトで特殊召喚された時、セメタリーから二体のD-HEROを特殊召喚する! ドレッド・ウォール!」
その咆哮はフィールドを揺らし、エドの墓地から二体のD-HERO――ダッシュガイにダイヤモンドガイを呼び覚まし、さらにドレッドガイの咆哮がバリアのように変化していく。ドレッドガイは特殊召喚されたターン、全てのダメージとD-HEROの破壊をシャットアウトする。
がら空きになったはずのフィールドだったが、エドのフィールドのみは盤石のままとなり。さらに十代もそれで終わるわけもなく、新たなカードを発動する。
「さらに《O-オーバーソウル》を発動! 墓地から蘇れ、ネオス!」
《ヒーロー・マスク》によって墓地に送られていた、十代の主力ヒーローことネオスが特殊召喚され、がら空きになった俺と万丈目のフィールドを見つめた。《ラス・オブ・ネオス》でデッキに戻したモンスターは、あくまでセイラーマンということで出来る芸当に、俺たち二人は冷や汗を流して。
「バトル! ネオスで遊矢にダイレクトアタックだ、ラス・オブ・ネオス!」
「っあ!」
遊矢LP4000→1500
十代が標的に選んだのは、《くず鉄のかかし》によって守られていたため、未だに初期ライフだったこちら。ネオスの重力を伴ったチョップの一撃に、一気にこちらのライフは消し飛んだ。
「カードを二枚伏せ、オレはターンを終了する」
「くっ……俺のターン、ドロー!」
ネオスの一撃からどうにか復帰すると、一度リセットされたはずのフィールドを眺める。《幽獄の時計塔》の効果でフィールドを維持したエドに、ネオスとリバースカードを二枚伏せた十代。まずはこの二人をどうにかしなくては。
「相手フィールドにのみモンスターが存在する時、《レベル・ウォリアー》はレベルを4として特殊召喚出来る!」
まずは特撮ヒーローの如き格好をした機械戦士が、自身の効果でレベルを4として特殊召喚され、さらにチューナーモンスターを召喚していく。
「そしてチューナーモンスター《音響戦士ドラムス》を召喚し、通常召喚に成功したことで、《ワンショット・ブースター》を特殊召喚する!」
そしてこちらもエースモンスターを特殊召喚するべく、三体のモンスターをあっという間に並べてみせると、そのレベルの合計が正しいことを確認する。
「さらに墓地の《音響戦士ピアーノ》は、フィールドに音響戦士がいる時除外出来る。……三体のモンスターでチューニング!」
次なる手への布石を打ちながら――三体のモンスターはシンクロ召喚の体勢を取り、エースモンスターを呼び出す土壌を作る。合計レベルは7、エクストラデッキから機械竜の咆哮が響き渡る。
「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」
満を持してシンクロ召喚されるは、エースモンスターにしてラッキーカード。《パワー・ツール・ドラゴン》がその鋼鉄の装甲を通じて、竜のいななきをフィールドに震わせる。
「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」
「……真ん中だ」
万丈目の前に現れた三枚の裏側表示のカードから、真ん中のカードが俺の手札に加えられる。選択されたカードを確認しながら、俺は新たな魔法カードを発動する。
「そして《ヘルモスの爪》を発動! このカードと戦士族モンスターを融合し、新たな装備カードを召喚する!」
「何!?」
新たにデッキに加わった魔法カード、《ヘルモスの爪》に初見のエドが驚愕の声を漏らす。魔法カードから現れた伝説の竜の爪と、手札の機械戦士が融合していき、新たな装備カードとして生まれ変わる。
「融合召喚! 《ヘルモス・ロケット・キャノン》!」
融合召喚された新たな装備カード。その名に違わず、《パワー・ツール・ドラゴン》の右腕に、ロケットを発射するキャノン砲が装備される。
「さらに《団結の力》に《ブレイク・ドロー》を装備し、バトル!」
そして《パワー・ツール・ドラゴン》の効果によって手札に加えられたカードも含む、攻撃力を800ポイントアップさせる《団結の力》に、装備モンスターが相手モンスターを破壊した際に、カードを一枚ドロー出来る装備魔法《ブレイク・ドロー》を装備する。さらに今し方装備された《ヘルモス・ロケット・キャノン》は、二回攻撃に貫通ダメージを持つ。
「ダッシュガイに攻撃! ヘルモス・ロケット・キャノン!」
《パワー・ツール・ドラゴン》の効果も併せて、強固な耐性を維持したモンスターとなった。二回攻撃の標的は、フィールドががら空きの万丈目か悩んだものの、万丈目を一撃で倒すことは出来ない。ならば、無限に攻撃力を高めるドレッドガイをフィールドに残してはおけない――と、まずはダッシュガイに向けてロケットが放たれた。
「リバースカード、オープン! 《サイクロン》で《団結の力》を破壊する!」
「十代!?」
しかして予想外な出来事が起こる。リバースカードがないエドに攻め込んだかと思えば、十代が二枚のリバースカードのうち一枚を発動し、装備魔法《団結の力》を破壊する。《パワー・ツール・ドラゴン》には自身の効果で耐性はあるが、《団結の力》自体には存在しておらず、呆気なく《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃力は減少する。
「僕は手札から《D-HERO ダガーガイ》を捨てることで、フィールドのD-HEROの攻撃力を800ポイントアップさせる!」
攻撃力上昇を《団結の力》に依存していた《パワー・ツール・ドラゴン》は、元々の攻撃力に戻ってしまうものの、それでもダッシュガイよりは攻撃力は上。しかしてバトルフェイズに発動された、《D-HERO ダガーガイ》の効果により、皮肉にも800ポイントの攻撃力をアップさせる。
「返り討ちにしろ、ダッシュガイ! ライトニング・ストライク!」
「くっ……《パワー・ツール・ドラゴン》は、装備魔法を身代わりにすることで破壊を免れる! イクイップ・アーマード!」
遊矢LP1500→900
ダガーガイの効果を得たダッシュガイに迎撃されたものの、《パワー・ツール・ドラゴン》は何とか自身の耐性で生き残る。その代償として《ブレイク・ドロー》は破壊され、残るは《ヘルモス・ロケット・キャノン》のみとなってしまったが。
「やってくれたな十代……!」
「三枚も装備魔法があるそいつは面倒だからな」
「……だが、ダイヤモンドガイでも破壊させてもらう! パワー・ツールで攻撃!」
そいつ、と《パワー・ツール・ドラゴン》を指して十代は小さく笑う。助けられた形となるエドは何も言わなかったが、まだ《ヘルモス・ロケット・キャノン》による二回攻撃は残っている。《D-HERO ダガーガイ》の攻撃力を800ポイントアップさせる効果は、もちろんダイヤモンドガイにも及んではいるものの、ギリギリ100ポイント《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃力の方が高い。
「チッ……」
エドLP1700→1600
「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド」
ダイヤモンドガイの破壊には成功したものの、十代の横槍による妨害でライフポイントは900になるまで追い込まれる。カードを一枚伏せてターンを終了し、次なる万丈目のターンへと移行する。
「オレのターン、ドロー!」
十代の《ラス・オブ・ネオス》のフィールド全破壊に際しても、《おジャマジック》によっておジャマ三兄弟を手札に舞い込んでいた万丈目。ドレッドガイとダッシュガイを擁するエド、ネオスとリバースカードの十代、パワー・ツールにリバースカードのこちらと違って、フィールドこそ破壊され尽くされがら空きなものの、手札の数は最も盤石だった。
「オレは《手札抹殺》を発動! 全員、手札を全て捨ててその数だけドローする!」
そして降って湧いたような手札交換のチャンスは、やはり《おジャマジック》で手札が潤沢な万丈目が純然に活用する。手札のおジャマ三兄弟を墓地に送りながら、手札を交換した万丈目の次なる手は。
「《トワイライトゾーン》を発動し、墓地からおジャマ三兄弟を蘇生! さらに《融合》を発動する!」
墓地のレベル2以下の通常モンスターを蘇生する《トワイライトゾーン》により、今し方墓地に送られたおジャマ三兄弟が特殊召喚され、即座に万丈目は《融合》の魔法カードを発動する。デッキから手札に、手札から墓地に、墓地からフィールドに、高速移動したおジャマ三兄弟は少し酔っているような動作を見せていたが、それに構わず時空の穴は三兄弟を吸い込んでいく。
『おジャマ究極合体~!』
「融合召喚! 《おジャマ・キング》!」
三体のおジャマの合体した融合モンスター。万丈目の切り札とも言えるそのモンスターは、何か考えがあるのか攻撃表示での登場となり、何故かその手には巨大な判子が握られていた。
「《おジャマ・キング》の効果! エド、貴様のフィールドを三つ使用不能にする!」
《おジャマ・キング》がその手に持った判子をエドのフィールドに押すと、『済』と判を押されたモンスターカードゾーンは使用不能となる。先のターンでダイヤモンドガイを破壊した身からすれば、万丈目のその行動についガッツポーズを取った。
「これでドレッドガイは攻撃力を上げられず、Bloo-Dは召喚出来まい! さらに《おジャマ・キング》に装備魔法《シールド・アタック》を装備!」
エドのフィールドは既に二体のモンスターが存在するため、残り三枠のモンスターカードゾーンが埋められた今、ドレッドガイをこれ以上強化することは出来ない。さらにはBloo-Dやドグマガイと言った、三体のモンスターをリリースすることが召喚条件の、エドの切り札クラスのモンスター達も封じたのと同義。
「バトルだ、《おジャマ・キング》でネオスに攻撃! おジャマ・キング・フライングボディアタック!」
「ネオス!」
十代LP2400→1900
そして《おジャマ・キング》に装備されたカード《シールド・アタック》は、装備モンスターの攻撃力と守備力を変化させる効果を持つ。突如として空中に飛び上がった、攻撃力3000と化した《おジャマ・キング》がネオスを押し潰していく。
「フッ……カードを二枚伏せてターンエンド!」
「僕のターン、ドロー!」
――このバトルロイヤルデュエルも三巡目となり、後半戦に突入したと言ってもいいだろう。誰もが手札が心もとなくなっており、もはや誰から脱落しようが違和感はない。そんな中、万丈目の《おジャマ・キング》によって、モンスターカードゾーンを埋められたエドにターンは移り。
「僕は《アドバンスドロー》を発動! フィールドのレベル8モンスター、ドレッドガイをリリースして二枚ドロー!」
「…………!」
レベル8モンスターをコストに二枚ドローする魔法カード、《アドバンスドロー》の効果によって、エドのフィールドに一つだけ空きが湧く。アドバンテージで損となるダッシュガイの効果を万丈目は狙っていたようだが、その目論見は《アドバンスドロー》によってご破算となった。
「さらに《D-HERO デビルガイ》を召喚!」
紫色のコートを羽織ったダークヒーロー。流石はエドと言うべきか――この局面を打破できる効果を持った、D-HEROをフィールドに呼び寄せてみせる。
「デビルガイのエフェクト発動! 相手モンスターを一体除外する! デスティニー・ロード!」
「くっ……速攻魔法《融合解除》! 《おジャマ・キング》を三兄弟に分離させる!」
相手モンスターを一体除外する、というシンプルに強力な効果を前にして、万丈目は《融合解除》にて対抗する。守備表示のおジャマ三兄弟は現れ、デビルガイの効果は対象を見失って無効になったものの、《おジャマ・キング》がフィールドを去ったことでエドのフィールドは解放される。
「セメタリーの《D-HERO ディアボリックガイ》のエフェクト発動! デッキから同名モンスターを特殊召喚する! カモン、アナザーワン!」
そして墓地のディアボリックガイの効果を活かした特殊召喚によって、エドのフィールドには三体のD-HEROが並ぶ。手札に切り札クラスのD-HEROはいるのか――いや、いなくても今から加えられるのだが。
「ダイヤモンドガイによって未来に送られていた、《戦士の生還》のエフェクトを発動! Bloo-Dを手札に加え、三体のモンスターをリリースして特殊召喚する!」
ダイヤモンドガイによって未来――墓地に送られていた《戦士の生還》。既にダイヤモンドガイは破壊されているが、《戦士の生還》の発動と効果は確定していた。それによって墓地に送られていたBloo-Dは手札に加えられ、そのまま三体のモンスターをリリースすることで、エドのフィールドに再び舞い戻った。
「そこだ! 伏せてあった《ヒーロー・ブラスト》を発動!」
だがBloo-Dの特殊召喚に反応するように、十代が伏せていたリバースカードを発動すると、半透明のネオスが十代のフィールドに現れる。
「墓地のE・HEROの通常モンスターを手札に加え、その攻撃力以下のモンスターを破壊する! Bloo-Dを破壊!」
破壊され墓地に送られていたネオスを回収しながら、半透明のネオスがBloo-Dを破壊せんと襲いかかる。ネオスの攻撃力以下、すなわち2500以下のモンスターと、大抵のモンスターを破壊出来る数値。その上Bloo-Dはまだ召喚されたばかりで、その攻撃力を上昇させていない。
「やらせるか! セメタリーの《スキル・プリズナー》のエフェクト発動! このターン、Bloo-Dは他のエフェクトを受けない!」
「っ!」
万丈目の《手札抹殺》により墓地に送っていたのだろう、墓地から除外することで擬似的な効果耐性を付与する罠カード《スキル・プリズナー》により、Bloo-Dは半透明のネオスの攻撃から守られる。十代にこれ以上の策はないらしく、ネオスを手札に加えながら歯噛みする。
「さて……Bloo-Dのエフェクト発動! パワー・ツール・ドラゴンを吸収する!」
「パワー・ツール・ドラゴン!」
悲鳴をあげようが結果は変わらない。Bloo-Dの翼から生えた血の触手が、パワー・ツール・ドラゴンを捕縛し吸収していく。こうして俺と十代のフィールドはがら空きに、エドはBloo-Dを十全に活かしているものの。
「デビルガイがエフェクトを発動したターン、僕は攻撃出来ない。カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」
「オレのターン、ドロー!」
《融合解除》によって不発には終わったものの、発動したことに変わりはなく。デビルガイのデメリットによりエドは攻撃出来ずに、十代のターンへと移行する。
「オレは《コンバート・コンタクト》を発動! フィールドにモンスターがいない時、デッキと手札からネオスペーシアンを墓地に送り、二枚ドロー!」
Bloo-Dとリバースカードを擁するエドに、おジャマ三兄弟とリバースカードが防備を固める万丈目と違い、俺と十代のフィールドはがら空きだった。正確には俺のフィールドにリバースカードは一枚あるが、十代はその状況を逆手に取った魔法カードを発動する。
「そして《コクーン・パーティー》を発動! 墓地のネオスペーシアンの数だけ、デッキからコクーンモンスターを特殊召喚する!」
そして新たな魔法カードの発動により、十代のフィールドに四体のモンスターが並ぶ。ネオスペーシアンたちの幼生体ことコクーンモンスターたちで、今の段階では何の効果を持ってはいないが。
「フィールド魔法《ネオスペース》! このフィールド魔法がある時、コクーンモンスターをリリースすることで、デッキからネオスペーシアンを特殊召喚出来る!」
フィールドが彼らの生まれ故郷たる宇宙、《ネオスペース》ともなれば話は別だ。しかもリリースして発動する効果のためにBloo-Dの効果封殺も意味をなさず、コクーンモンスターのうち二体はみるみるうちに成長していき、デッキから《N・ブラック・パンサー》と《N・グロー・モス》が特殊召喚される。デッキか手札からの召喚のため、他のネオスペーシアンは墓地に送られているのだろう、その二体のみだった。
「さらに残り二体のコクーンモンスターをリリースし、《E・HERO ネオス》をアドバンス召喚!」
だが残る二体はネオスへと姿を変えていき、《ヒーロー・ブラスト》を経由して再びネオスがフィールドに舞い戻った。
「バトル! ネオスで《おジャマ・ブラック》に攻撃! ラス・オブ・ネオス!」
そして十代の総攻撃へと移り、まずはネオスの攻撃によっておジャマ三兄弟の一角が破壊される。オーバーキルではあったが守備表示のため、もちろん万丈目にダメージはない。
「さらにブラック・パンサーで遊矢にダイレクトアタック! ダーク・クロー!」
「手札から《速攻のかかし》を捨てることで、バトルフェイズを終了する!」
こちらの残るライフは900ポイントであり、ブラック・パンサーの攻撃力は1000ポイント。絶体絶命の一撃だったが、手札から《速攻のかかし》を身代わりにすることで、何とかその一撃を凌ぐ。まだ《N・グロー・モス》の攻撃は残っていたが、《速攻のかかし》によって強制的にメインフェイズ2となる。
「……なら、オレはネオスとブラック・パンサー、グロー・モスで、トリプルコンタクト融合!」
メインフェイズ2――十代が操る三体のモンスターが一体となっていき、時空の穴よりネオスの融合体が帰還する。
「《E・HERO カオス・ネオス》!」
全身に先鋭化した鎧を纏ったネオス。その姿とトリプルコンタクト融合体は伊達ではなく、フィールド魔法《ネオスペース》の強化も合わせて、フィールドの最高攻撃力をBloo-Dから更新する。
「ターンエンド!」
「俺のターン、ドロー!」
十代の切り札クラスのモンスターたる、トリプルコンタクト融合体の一種ことカオス・ネオス。フィールドにいるだけでプレッシャーとなるが、維持のためにはフィールド魔法《ネオスペース》が必須という弱点は存在する。
「俺はカードを一枚伏せ、魔法カード《ブラスティック・ヴェイン》を発動! 今伏せたカードを破壊し、カードを二枚ドローする!」
だがエドのフィールドにあるBloo-Dによって、エンドフェイズに帰還する効果をも無効にされている。十代もこれを狙っていたのだろうが、ならば《ネオスペース》にBloo-Dを破壊するまで。
「破壊したセットカードは《リミッター・ブレイク》! このカードが墓地に送られた時、デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」
そしてセットカードを破壊して二枚ドローする魔法カード《ブラスティック・ヴェイン》と、破壊されることで効果を発揮する《リミッター・ブレイク》のコンボにより、遂にマイフェイバリットカードが特殊召喚される。果敢に攻撃表示で特殊召喚された上に、新たな旋風がフィールドに舞い踊る。
「さらに《ブラスティック・ヴェイン》でドローした、《スカウティング・ウォリアー》の効果を発動! このカードが通常のドロー以外で手札に加わった時、このモンスターは特殊召喚される!」
特殊召喚されるのは《スピード・ウォリアー》だけではなく、《スカウティング・ウォリアー》も自身の効果によりフィールドに並び立った。そして墓地から一枚のカードを抜き取ると、エドたち三人にそのモンスターを見せつけた。
「そして墓地の《音響戦士サイザス》の効果。このモンスターを除外することで、除外されている音響戦士を特殊召喚出来る! 舞い戻れ、《音響戦士ピアーノ》!」
《手札抹殺》によって墓地に送っていた《音響戦士ピアーノ》の効果により、《グラヴィティ・ウォリアー》のシンクロ素材になった後に除外されていた、《音響戦士ピアーノ》がフィールドに再び現れる。
「レベル4の《スカウティング・ウォリアー》と、レベル3の《音響戦士ピアーノ》をチューニング!」
そして息をつかせる暇もなく、新たなモンスターを呼ばんとチューニングされていく。合計レベルは7――エクストラデッキから閃光が零れた。
「集いし闇が現れし時、光の戦士が光来する! 光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライトニング・ウォリアー》!」
閃光とともにフィールドに降り立った、全身に鎧を纏った光の機械戦士。Bloo-Dやカオス・ネオスに対抗するように、スピード・ウォリアーとともにそれらと対峙する。
「そして《アームズ・ホール》を発動。通常召喚を封じることで、デッキトップを墓地に送り、装備魔法カードを手札に加える。俺は《バスターランチャー》をスピード・ウォリアーに、《パイル・アーム》をライトニング・ウォリアーに装備!」
さらに通常召喚の権利を使っていないため、装備魔法をサーチする魔法《アームズ・ホール》の発動が可能。デッキからサーチした装備魔法を加えた、二枚の装備魔法がそれぞれ《スピード・ウォリアー》と《ライトニング・ウォリアー》に装備される。《スピード・ウォリアー》には身の丈を遥かに越す《バスターランチャー》を、《ライトニング・ウォリアー》には腕に装着された《パイル・アーム》を。
「《パイル・アーム》は装備モンスターの攻撃力を500ポイントアップさせ、発動時に相手の魔法・罠カードを一枚破壊する!」
《パイル・アーム》の標的は、もちろんのことながら十代の《ネオスペース》。これでカオス・ネオスはエクストラデッキに戻る……としたいところだが、そのデメリット効果はBloo-Dの効果封殺で無効となっている。
「バトル! 《スピード・ウォリアー》でBloo-Dに攻撃!」
ならば次の標的は自ずと決まったようなもので、《スピード・ウォリアー》はBloo-Dへとその砲塔を向ける。今やBloo-Dの攻撃力は《パワー・ツール・ドラゴン》を吸収したことで、その攻撃力は3050にまで上昇しているが、それこそが好都合だった。
「装備した《バスターランチャー》の効果。相手モンスターの攻撃力が2500以上の時、装備モンスターの攻撃力を2500ポイントアップさせる! バスターランチャー、シュート!」
《パワー・ツール・ドラゴン》を吸収したことにより、《バスターランチャー》の発動条件を満たし。最大出力のバスターランチャーがBloo-Dに向かっていったが、それは巨大な大盾に防がれていた。
「リバースカード、《D-シールド》。発動後装備カードとなり、装備したBloo-Dは守備表示となり戦闘では破壊されない」
「くっ……」
どうやらそう上手くいく訳ではなかったようで、エドのフィールドに伏せられていた《D-シールド》により、《バスターランチャー》による一撃は呆気なく防がれた。その上守備表示にもなると、戦闘ダメージすら与えられずに。
「なら……《ライトニング・ウォリアー》で、《おジャマ・イエロー》に攻撃! ライトニング・フィスト!」
残る《ライトニング・ウォリアー》の攻撃だったが、カオス・ネオスに攻撃力では適わず、《D-シールド》による戦闘破壊耐性を得たBloo-Dを攻撃しても意味はない。ならばと万丈目の《おジャマ・イエロー》を攻撃すると、破壊には成功した筈が、何故かその場にそのままね姿で――いや、色が変わっていた。
「墓地から罠カード発動! 《おジャマーキング》! 俺のモンスターが破壊された時、墓地からおジャマモンスターを特殊召喚出来る!」
やはり万丈目も何か墓地に送っていたらしく、《おジャマ・イエロー》の戦闘破壊には成功したものの、墓地から発動する罠カード《おジャマーキング》の効果。墓地のおジャマモンスターを代わりに特殊召喚するという効果により、破壊された《おジャマ・イエロー》の代わりに、先のターンで十代に破壊された《おジャマ・ブラック》が蘇生された。
結局は差し引きゼロという結果に終わり、苦々しげにしながら俺はバトルを終了するする。《おジャマ・イエロー》を戦闘破壊したことで、本来なら《ライトニング・ウォリアー》の効果が発動されるのだが、それはBloo-Dによって無効となって。
「……ターンエンドだ」
「オレのターン、ドロー! ……ふっ、エースモンスターの揃い踏みといったところか」
こちらからターンを移行された万丈目が、カードを引きながらそうして不敵に笑う。エドのBloo-D、十代のネオス――がコンタクト融合した姿である、カオス・ネオス、俺のスピード・ウォリアー。
「そうなれば、俺もエースを呼ばない訳にはいくまい! 通常魔法《思い出のブランコ》を発動! 蘇れ――《おジャマ・イエロー》!」
――そして万丈目のおジャマ三兄弟。とりわけその中でも特殊な、《おジャマ・イエロー》の姿。俺と十代に破壊されていたが、再びフィールドにおジャマ三兄弟が結集する。
「悪いがこのデュエル、オレ様が貰った! 魔法カード《おジャマ・デルタ・サンダー》を発動!」
「デルタ・サンダー……?」
おジャマ三兄弟が揃った際に発動する、相手フィールドのカードを全て破壊する魔法カード《おジャマ・デルタ・ハリケーン》――ではなく。奇しくも万丈目の代名詞とも言える、サンダーの名を関した魔法カード。万丈目の強気な勝利宣言と同時に、おジャマ三兄弟も空中に円陣を組んで高速回転しつつ、帯電しながら浮かび上がっていく。
「《おジャマ・デルタ・サンダー》は、おジャマ三兄弟がフィールドにいる時、相手の手札・フィールドの数×500ポイントのダメージを与える!」
「ッ!」
それは誰の息を呑む声だったか。デュエルも終盤でライフを少なくなってきたプレイヤーたちには、それは十二分以上のオーバーキル。空中で回転していたおジャマ三兄弟が、いつの間にか雨雲のような姿に形を変えていた。
「くらえ! おジャマ・デルタ――」
『――サンダー!』
降り注ぐ雷撃。それに対抗するかのように、俺は最後まで残っていたリバースカードを発動した。
「伏せてあった《ダメージ・ポラリライザー》を発動! 効果ダメージを与えるカード効果を無効にし、お互いにカードを一枚ドローする!」
俺のフィールドに伏せられていたカードは、亮が使っていた罠カード《ダメージ・ポラリライザー》。効果ダメージを無効にして一枚ドローする、というカード効果によって、《おジャマ・デルタ・サンダー》の効果は無効となった。円陣を組んで浮かび上がっていた三兄弟も地に戻り、万丈目のバーンダメージによる決着は失敗する。
「なるほどな……最後の伏せはそれか。やはりこのデュエル、このオレに勝利の女神は微笑んでいるらしい」
「……ほう」
しかして《おジャマ・デルタ・サンダー》を無効化されたにもかかわらず、万丈目はさらに勝利を確信した笑みを深めていき、勝利宣言を撤回しないままに。《ダメージ・ポラリライザー》の効果でドローしたカードを見ることもなく、おジャマ三兄弟に更なる命令を下す。
「見せてやる、オレたちの力をな! おジャマ三兄弟を攻撃表示に変更!」
正確には、《思い出のブランコ》の効果によってこのターン特殊召喚された、《おジャマ・イエロー》は元々攻撃表示だったものの。万丈目の宣言した通りに、おジャマ三兄弟は――攻撃力0のモンスターが三体、攻撃表示の意を示す。
「Bloo-D……確かになかなか厄介だが、エド、お前のフィールドという隙がある! リバースカード、オープン! 《ギブ&テイク》!」
真に最後のリバースカード――先の万丈目のターンに、《融合解除》とともにフィールドに伏せられていた、通常罠カード《ギブ&テイク》が日の目を見る。そのカードの効果は、自身の墓地から相手フィールドにモンスターを特殊召喚する、というもので。
確かに万丈目が指摘した通りに、この場で唯一エドのフィールドにのみ、Bloo-Dの効果封殺の影響はない。ならばエドのフィールドにモンスターを特殊召喚すれば、Bloo-Dがいようとモンスター効果を発動出来る、というのは道理だったものの。
その、エドのフィールドに特殊召喚されたモンスターは――
『我ら、黒蠍盗掘団!』
「は?」
「え?」
「あいつら……」
プレイヤーたちから三者三様の感想が響き渡り、エドのフィールドに《黒蠍盗掘団》が特殊召喚された。元・セブンスターズでありカードの精霊だった彼らは、確かに万丈目が預かっていたが、《黒蠍盗掘団》が一つに纏まったモンスターとして現れていた。
「いくぞ貴様ら! 万丈目サンダー・スペシャルだ! 三兄弟で黒蠍盗掘団に攻撃!」
『合点だ旦那!』
そして万丈目の指示の下、黒蠍盗掘団とおジャマ三兄弟が戦闘していく。既にエドにそれを防ぐリバースカードはないが、特に奇をてらう訳ではなく、万丈目のライフポイントが削られていく。しかして確か、全員が集合した《黒蠍盗掘団》の効果は。
万丈目LP3500→500
「《黒蠍盗掘団》の効果発動! このモンスターが相手ターンに戦闘ダメージを与えた時、デッキから魔法カードを墓地に送らねばならない!」
つまり戦闘ダメージを与えられた万丈目が効果を適応し、万丈目はデッキから三枚の魔法カードを墓地に送らねばならない。その発動条件に一枚のカードが脳裏に浮かぶと、おジャマ三兄弟がそれぞれ一枚のカードを持っていることに気づく。
「まさか!」
「そのまさかだ! オレが墓地に送るのは《ジャックポット7》!」
エドの驚愕の言葉に、俺と十代もそのカードを確信する。おジャマ三兄弟が持っているカードは《ジャックポット7》と、相手のカード効果で三枚墓地に送られた時のみ、その効果を真に発揮するという珍しいカード。
そしてその効果は――
「特殊……勝利……!」
――かのエクゾディアなどと同じく、その時点で勝利が確定する特殊勝利の効果。デッキから相手のカード効果で墓地に送られると除外され、自身の効果で除外ゾーンに三枚揃った時、そのプレイヤーはデュエルに勝利する。そんなカードを――万丈目は、おジャマ三兄弟と黒蠍盗掘団を使って揃えたのだ。
「終わりだ!」
そうこう言っている間にも、おジャマ三兄弟が持った《ジャックポット7》のカードは巨大化していき、何故かその端には導火線がついていた。黒蠍盗掘団がその導火線に火をつけたかと思えば、おジャマ三兄弟はそれをこちらに放り投げて。
『――――ッ!』
エドLP1600→0
十代LP2400→0
遊矢LP900→0
「お前ら……オレの名前を言ってみろ! 分からなければ、言って聞かせてやる!」
爆炎と歓声が響き渡るデュエルステージにおいて、唯一勝者として立ったままの万丈目が、腕を天に突き出した。
「一!」
『十!』
「百!」
『千!』
「万丈目、サンダー!」
『サンダー! サンダー!』
「万丈目!」
『サンダー―――ッ!』
後書き
『Are you ready?』→「うん!」→「イヤッッホォォォオオォオウ!」とか、「今日の最強カードは《E・HERO カオス・ネオス》!」(召喚されただけ)とか、「生きていたのか! ライトニング・ウォリアー!」(実に最後のDEBANはデス・デュエルのオブライエン戦)とか、色々言いたいことはありますが、何よりもまず。
サンダー! サンダー!
万丈目、サンダー!
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