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青砥縞花紅彩画

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11部分:神輿ヶ嶽の場その一


神輿ヶ嶽の場その一

                   第二幕 神輿ヶ嶽の場
                   同  谷底稲瀬川の場
足軽一「おい、大変なことになったのう」
足軽二「おう、姫様のことじゃな」
足軽一「うむ、小太郎様と共に出奔されたことじゃ」
足軽二「あの大人しい姫様がのう。わからぬことじゃ」
足軽一「呑気なことも言ってはおられぬぞ。小太郎様は謀反人じゃ」
足軽二「それは知っておる。てっきり亡くなられたとばかり思うておったが」
足軽一「生きておられたとはのう。だがかなり落ちぶれておられるそうだぞ」
足軽二「そうであろうな。さて、姫様はご無事なのか」
足軽一「今のところはな。わび住まいの中で頑張っておられるらしい。糸や機を手にとってな」
足軽二「(それを聞いて感嘆して)健気なことじゃ」
足軽一「この辺りにおられるとは聞いておるがな」
足軽二「(頷いて)うむ」
足軽一「この辺りはあらかた探したし別の場所に移ろうぞ」
足軽二「そうじゃな。それがいい」
足軽一「あちらに行こうぞ」
足軽二「よし」
 二人はその場を去る。右手に消える。それと入れ替わりに弁天が千寿を連れて左手から出て来る。
弁天「(足軽達の消えた方を見て)今のはまさか」
千寿「間違いありませぬ。我が小田家の者です」
弁天「遂にここまで来ましたな」
千寿「(青い顔をして)はい」
弁天「ですが見つかるわけにはいきませぬぞ。ここが肝心の時」
千寿「わかっております」
弁天「お疲れでござろうが今は耐え時。観念して下さいませ」
千寿「貴方様とご一緒なら何処までも。さあ行きましょう」
弁天「(頷いて)はい」
千寿「では参りましょう」
 二人はそのまま舞台の中央に向かう。そしてそこでふと立ち止まる。
千寿「如何なされました」
弁天「これはよい(明るい顔で)」
千寿「何かよいことでも」
弁天「姫、喜びなされ。あちらに辻堂が見えまする」
千寿「辻堂が」
弁天「はい、そちらでちと休みましょうぞ。女子には山道はこたえましょうから」
千寿「よろしいのですか」
弁天「はい。ではあちらへ」
千寿「わかりました」
 二人はそのまま舞台の右に向かう。そこに石が二つ置かれる。
 弁天はそこの右の石に座る。千寿は左に座る。
弁天「(耳を澄ませながら)もうここには追っ手はおりませぬぞ」
千寿「まことですか」
弁天「はい、声が遠くへ向かっておりまする。もう諦めて下っているかと」
千寿「(明るい顔になって)まことでございますか」
弁天「ええ。これで難は避けたかと」
千寿「それは何より」
弁天「(千寿の顔を覗いて)姫、お疲れでしょう」
千寿「え、いえ(それを否定する)」
弁天「いえ、隠さずとも。追っ手はもう来ませぬし」
千寿「左様ですか」
弁天「さ、どうか素直にお話下され。咎めはしませぬ故」
千寿「それでしたら。やはり足が痛うございます」
弁天「左様でござったか」
千寿「(頷いて)はい」
弁天「無理もござらん。かなり歩きましたからな」
千寿「それにいささか心細いのです」
弁天「山ですからかな」
千寿「はい」
弁天「(辺りを見回して)ここはかなり深いですからなあ。猪や狼も出ますぞ」
千寿「(それに驚いて)まことですか」
弁天「左様。お気をつけなされ。山は危のうございますぞ」
千寿「わかりました。ところで」
弁天「はい」
千寿「小太郎様の屋敷というのはどちらでしょうか。もうかなり歩きましたが」
弁天「屋敷でござるか」
千寿「はい。仮住まいとお聞きしておりますが」
弁天「如何にも」
千寿「何処でしょうか」
弁天「(思わせぶりに)お知りになりたいか」
千寿「勿論。もうすぐでしょうか」
弁天「はい」
千寿「それはどちらで」
弁天「(ふてぶてしい顔で笑って)ここでござる」
千寿「(最初言葉の意味がわからず)えっ」
弁天「ここが拙者の仮の住まいでござる」
千寿「まことですか」
弁天「左様、実はこの山には二人の盗賊がおりましてな」
千寿「盗賊」
弁天「そうです、そのうちの一人は南郷力丸。この名は御存知ですかな」
千寿「噂では。何でも海賊だったとか」
弁天「その通り。気の荒い男でしてな。そしてその相方もおるのです。その男のことも聞いておりましょう」
千寿「はい。弁天小僧だとか。時として女にも化けるとか」
弁天「そうです、実に悪賢い奴でしてな。色々と悪事の限りを尽くしておるのです」
千寿「何と恐ろしい」
弁天「恐いですかな」
千寿「ええ。その様な者達がこの山に潜んでいるかと思いますると」
弁天「いや、恐がる必要はありませぬぞ」
千寿「(不思議そうに)何故でしょうか」
弁天「そのうちの一人が今ここにおるからです」
 笑みになる。
 
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