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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)

作者:sorano
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第224話

同日、19:10――――



~カレイジャス・甲板~



「…………(やっと……全員揃う事ができたな……)」

「―――ここにおったか。」

リィンが甲板で物思いにふけているとヴァンダイク学院長がリィンに近づいてきた。



「学院長?俺に何か御用ですか?」

「うむ。近い内君は仲間達と共にオズボーンと決着をつけに行く。その前にオズボーンが何故君をユミルの雪山に捨てたのかを教えておこうと思ってな……」

「え……学院長は俺とオズボーン元宰相の事を知っていたのですか!?」

ヴァンダイク学院長の言葉を聞いたリィンは信じられない表情で尋ねた。

「……当時軍人であったオズボーンは儂の部下じゃったからな。勿論オズボーンの番いであるイレーナ君の事も存じている。」

「”イレーナ”……その人が俺の本当の……あの、学院長。俺の本当の母は……」

名前も知らなかった自分の本当の母親の名前を知る事ができたリィンは自分の本当の母親の名前を決して忘れないかのように繰り返して口にした後、既に答えを予想しているかのように辛そうな表情でヴァンダイク学院長に問いかけた。



「……残念じゃがイレーナ君は亡くなっておるよ。――――12年前の”百日戦役”でな。」

「!!……”百日戦役”という事はイレーナさんもオズボーン元宰相と同じ軍人で、メンフィルかリベールとの戦争によって亡くなったのでしょうか……?」

ヴァンダイク学院長の話を聞いてある事を推測したリィンは辛そうな表情で問いかけた。

「いや……イレーナ君はエレボニア人でない所か、リベール人でしかも”遊撃士”じゃ。」

「ええっ!?イレーナさんはリベール王国の出身で、しかも”遊撃士”だったんですか!?」

自身の本当の母親の出身を知ったリィンは信じられない表情をした。



「うむ……イレーナ君はリベールの”ボース地方”にある村――――”ラヴェンヌ村”の出身でな。村の農園で働いて生きる事より、世界を見て廻る事を夢見ていた彼女は村を出て遊撃士になったのじゃ。そして遊撃士の仕事の関係でエレボニアを訪れてオズボーンと出会い、結ばれ……君が生まれた。」

「………………その、何故イレーナさんは”百日戦役”で死去したのですか?」

「……運悪く”ハーメルの悲劇”が起こる直前でイレーナ君だけ里帰りしていてな……”百日戦役”が勃発した事により彼女はエレボニアに戻る事ができなかったのじゃ。そしてラヴェンヌ村を防衛するリベール軍との戦闘の最中に放ったエレボニア軍の焼夷弾が村に降り注いでな……村人達の避難誘導を率先して行った事で逃げ遅れた彼女はその時に…………」

「……………………」

本当の母親の最後をリィンは辛そうな表情で黙って聞いていた。



「イレーナ君の最後を知り……そしてイレーナ君が死ぬ原因となってしまった”百日戦役”の”真実”―――”ハーメルの悲劇”を知ったオズボーンは帝国政府に怒りを感じると共に、イレーナ君のような犠牲者を2度と出さぬ為に軍を退役し、政治の道を目指したのじゃ。―――幼い君をシュバルツァー男爵に託す為にユミルの雪山に捨ててな。」

「!!という事は父さんと母さんは俺の両親の事も知っているのですか!?」

「うむ。そして肝心の君を捨てた理由じゃが……魑魅魍魎が住まう政治の世界に踏み込むオズボーンは自身の”敵”によって君に危害が加えられる事を心配し、帝国貴族の中でも権力に興味がなく、民を、家族を大切にし、そして”百日戦役”によってエレボニアをも超える強国メンフィルの加護を受けられる事になったシュバルツァー男爵に君を託す事にし、男爵夫妻に事情を説明した後君をユミルの雪山に捨てたのじゃ。――――君がシュバルツァー家で幸せに生きる事を願ってな。」

ヴァンダイク学院長の昔話を聞いたリィンの脳裏にふと幼い頃の出来事が思い浮かんだ。



”リィン”……どうか健やかに育ってくれ。……女神よ……願わくばこの子だけは――――――



「………………ぁ………………」

自分をユミルの雪山に捨てた人物の顔――――オズボーンに似た男性の顔を思い出したリィンは呆けた声を出した。

「……帝国政府で働き始めたオズボーンは次々と実績を叩き出し、僅か1年で”宰相”に就任した。じゃが政治の裏に潜む”闇”に浸かりすぎた事や平民である奴が”宰相”に成り上がった事を嫌う貴族達と敵対し続けた影響なのか、あの馬鹿は目的の為に多くの人々を不幸にし、周りの人々どころか自分すらも”駒”と見立てて利用する事で自分の立場を強くする事をし始めた。あれだけ大切にしていたイレーナ君との間にできた自分の息子であるリィン君まで利用する話を聞いた時は、あの馬鹿はもう”後戻りできない所まで墜ちた”と思ったわい……」

リィンの様子に気付いていたヴァンダイク学院長は話を続け、重々しい様子を纏って呟いた。

「……………………」

「……すまぬ、リィン君。どんな理由であろうと親が子を捨てる等あってはならぬ事。儂がオズボーンが幼い君を捨てる事を止めていれば………いや、もっとあの馬鹿を見ていればこのような事にはならなかったかもしれぬし、君に長年辛い思いを抱かせる事も無かったかもしれぬ。」

語り終えたヴァンダイク学院長はリィンを見つめて頭を深く下げた。



「……頭を上げて下さい、学院長。確かに俺は自分が捨て子であり、そんな俺を育ててくれた父さん達に申し訳ない気持ちがあったのは確かですが………同時に父さん達―――シュバルツァー家に出会えて本当に幸せだと今でも思っています。オズボーン元宰相とイレーナさんには申し訳ありませんが……俺にとっての”家族”はシュバルツァー家です。」

「………そうか。イレーナ君と当時のオズボーンは君の幸せを願っておった。じゃから君のその答えは決して間違っておらんよ。」

「学院長………………」

実の両親を否定したにも関わらず、自分の答えを尊重して優しげな微笑みを浮かべるヴァンダイク学院長をリィンは静かな表情で見つめていた。



「奴との決戦の際は儂も教官や生徒達と共に君達の”道”を切り開き、君達の”翼”である”カレイジャス”を防衛するメンバーに加わるつもりじゃ。見果てぬ夢を見続けるあの馬鹿の討伐は君達に任せる。」

「……わかりました。」

ヴァンダイク学院長の言葉を聞いたリィンは決意の表情で頷いた。

「さて……儂はそろそろ失礼するぞ。」

「お疲れ様です。―――あ。学院長、最後に一つだけ尋ねたい事があるのですがよろしいでしょうか?」

「む?何じゃ?」

リィンに制されたヴァンダイク学院長は不思議そうな表情でリィンを見つめた。



「……俺の本当の母の……イレーナさんの墓はどこにあるのでしょうか?せめて墓参りくらいはしたいと思っていますので……」

「おお、そうじゃったな。肝心な事を伝え忘れているとは儂も年じゃな。―――――リベール王国の”ボース地方”のラヴェンヌ村の墓地の奥地にある”百日戦役”で犠牲になった村人達の名前が彫られている慰霊碑にイレーナ君の名前が彫られ、そこにイレーナ君が眠っておる。」

「リベールの……―――ありがとうございます。オズボーン元宰相との決戦が終わって、状況が落ち着いた後墓参りに行かせて頂きます。」

「フフ、その時はアルフィン殿下を始めとした君の番いの女性達も連れて行った方がよいのではないか?イレーナ君も驚くじゃろうな。息子がアルフィン殿下どころか、多くの女性を番いにしたのじゃからな。」

「ハハ……考えておきます。」

その後ヴァンダイク学院長と別れたリィンはトリスタや士官学院を見回り始めた。 
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