英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第205話
~エルベ離宮・紋章の間~
「”帝国解放戦線”と言えば”通商会議”の時にも襲撃して来たエレボニアのテロリストでしたな……そして”身喰らう蛇”と言えば”リベールの異変”に加えてエレボニアの内戦の裏で暗躍していたという犯罪組織…………」
「その……リィンさんはメンフィル帝国が”帝国解放戦線”のリーダーと”身喰らう蛇”の最高幹部と思われる”蛇の使徒”の一人をメンフィル帝国が拘束していると仰っていますが……」
リィンの話を聞いたアルバート大公は考え込み、クローディア姫は不安そうな表情でリウイを見つめた。
「…………ああ、事実だ。カイエン公を拘束する際に奴等も拘束した。」
「リィンさんは二人の”減刑”と仰っていましたが………メンフィル帝国に拘束されている二人の処罰は既に決定しているのですか?」
リウイの話を聞いたアリシア女王はある事が気になり、真剣な表情で尋ねた。
「それは…………」
「現在は”処刑”の予定じゃ。」
アリシア女王の問いかけにイリーナが複雑そうな表情で答えを濁している中リフィアが静かな表情で答えた。
「ええっ!?い、幾ら相手がテロリストのリーダーや”結社”の最高幹部とは言え”処刑”は余りにも惨いのではないでしょうか……?」
「……そもそも一体何の”罪”で二人を”処刑”する事にしたのですか?幾ら二人がカイエン公同様内戦の元凶であるとは言え、メンフィル帝国が拘束したのですからエレボニアの内戦の件は関係ないですよね?」
リフィアの答えを聞いたクローディア姫は驚いた後反論し、エイドスが静かな表情で問いかけた。
「まず”帝国解放戦線”のリーダーであるクロウ・アームブラスト。当事者であるクローディア姫とアルバート大公は覚えていると思うが奴はオズボーン宰相を暗殺する為にテロリスト達をオルキスタワーに送りこんで暗殺を狙い、暗殺失敗の際にはタワーの屋上に停泊させたヘリを自爆させてタワーごとオズボーン宰相を葬ろうという計画を立てた”首謀者”だ。万が一タワーが崩壊した際、”通商会議”に参加していたリフィア達がそれに巻き込まれてしまえば最悪命を失っていただろう。皇族の命を脅かしたという”罪”は重い。」
「そ、それは……しかしあの事件は未然に防がれたではありませんか!」
「―――実は後に判明したのですがあの時”帝国解放戦線”は他の方法でオズボーン宰相や各国のVIPの方々に加えてクロスベルの民達ごと葬ろうとしていたのです。どちらかというとそちらに対する”罪”が重いとの事です。」
「え………」
「我々に加えてクロスベルの民ごとというのは一体どういう事なのですか?」
エリゼの説明を聞いたクローディア姫は呆け、アルバート大公は戸惑いの表情で尋ねた。
「……その件に関しては私が説明をさせてもらう。エレボニアとカルバードのテロリスト達に襲撃されたあの会議の日にガレリア要塞が”帝国解放戦線”に襲撃され、一時的に”帝国解放戦線”によって占拠されてしまった。」
「ええっ!?」
「まさかそのような事が起こっていたとは……!しかし何故そこで先程の話が関係するのですか?」
オリヴァルト皇子の説明を聞き、クローディア姫と共に驚いたアルバート大公は真剣な表情で尋ねた。
「…………!!まさか…………ガレリア要塞に搭載されてある”列車砲”で”クロスベルごとオズボーン宰相を葬ろうとしていたのですか”?」
「………………はい。」
そしてある事に気付いて信じられない表情をしたアリシア女王の推測にアルフィンは悲しそうな表情で頷いた。
「そ、そんな…………」
「各国のVIPの方々どころかクロスベルの民達まで巻き込もうとしていたなんて……」
「……なるほど。その件も考えれば確かに極刑が降されてもおかしくありませんな。」
「「…………………」」
アリシア女王の推測を肯定したアルフィンの答えを聞いたクローディア姫は表情を青褪めさせ、ユーディットは信じられない表情で呟き、セルナート総長は納得した様子で呟き、ヴァイスとエルミナは静かな表情で黙り込んでいた。
「……どういう事ですか?そのような話は初耳です。エレボニアは何故当事者である我々にもそのような事件があった事を報告してくださらなかったのですか?」
一方アルバート大公は厳しい表情でオリヴァルト皇子達を見つめて問いかけた。
「……お恥ずかしい話になりますがテロリストにガレリア要塞が占拠されてしまい、各国のVIPの方々の命を脅かしてしまったという失態を隠す為に情報操作を行いました。」
「それは…………」
「エレボニア帝国の立場を守る為に情報操作、ですか。」
「国としては正しい判断だな。」
クレア大尉の説明を聞いたクローディア姫は複雑そうな表情をし、エルミナとヴァイスは真剣な表情で呟いた。
「……しかし情報操作を行ったその件を何故メンフィル帝国は存じているのですか?」
「メンフィル帝国とはガレリア要塞の件を内密にする代わりに当時実習活動でガレリア要塞に訪れていた”Ⅶ組”のメンバーの中にメンフィル帝国の”客将”であり、トールズ士官学院に留学していたエヴリーヌ殿がいらっしゃいまして。事件が起こった際彼女はメンフィル帝国にガレリア要塞で起こった事件を報告した後エレボニア帝国に無許可で”列車砲”を破壊してしまったのですが……メンフィル帝国よりガレリア要塞の件を内密にする代わりにエヴリーヌ殿の行動をとがめないという内容もあったのです。」
アリシア女王の疑問に対し、オリヴァルト皇子は静かな表情で答えた。
「ええっ!?エ、エヴリーヌさんが”列車砲”を!?」
「エヴリーヌ……”魔弓将”ですか。生身で”列車砲”を破壊するとは噂以上の凄まじい使い手ですな。」
驚愕の事実にクローディア姫は驚き、セルナート総長は静かな表情で呟いて真剣な表情でリウイ達を見つめた。
(あ、あの娘、そんなとんでもない事をやっていたの!?)
(”魔神”ならば兵器の破壊も容易い事ですわ。)
(アハハ……フェミリンスさんは当然としてママもできる気がするよ。)
(そういうミントだって”竜化”すれば破壊できると思うんだけどな……)
ジト目になったエステルの小声にフェミリンスは静かな表情で答え、苦笑しているミントの小声を聞いたヨシュアは疲れた表情で推測していた。
「話が逸れてしまいましたが……クロウ・アームブラストの件を一端置いておくとしまして、”身喰らう蛇”とやらの最高幹部を”処刑”する”罪”は一体何なのでしょうか?」
その時エイドスが話を戻してリウイ達を見つめて尋ねた。
「”蛇の使徒”の”第二柱”―――”蒼の深淵”ヴィータ・クロチルダはこの場にいる全員が存じていると思うが国際犯罪組織。加えて奴は下手人アルティナ・オライオンにユミル襲撃が起こった際混乱に紛れてアルフィン皇女と共に”シュバルツァー男爵家”の娘の一人であるエリス・シュバルツァーの誘拐を指示した首謀者だ。」
「”シュバルツァー”という事は先程の話に出て来た…………」
リフィアの説明を聞いたアルバート大公はリィンとエリゼを見つめ
「―――はい。当時誘拐されてしまったエリスは俺の妹でそちらにいるエリゼの双子の妹に当たります。」
「……………………」
アルバート大公の言葉に続いたリィンに視線を向けられたエリゼは何も答えず静かな表情で黙り込んでいた。
「貴族の令嬢誘拐の首謀者である事だけでは極刑の判決が出る可能性は低いが、ゼムリア大陸で自らの野望の為に暗躍していた国際犯罪組織の最高幹部なら極刑の判決が出てもおかしくないな。しかもエリス嬢を誘拐して国家間の関係を戦争状態に陥らせてしまったという重罪もある。」
「……そうですね。実際”身喰らう蛇”は”リベールの異変”を起こした首謀者であり、エレボニアの内戦の裏で暗躍していた”協力者”でもあったのですし、メンフィルとエレボニアを戦争状態に陥らせた元凶の一人でもありますしね。」
「それは…………」
ヴァイスとエルミナの話を聞いたクローディア姫は複雑そうな表情をし
「フム…………リィン・シュバルツァー殿。その二人の”減刑”を嘆願する理由を尋ねても構わないだろうか?」
考え込んでいたアルバート大公はリィンを見つめて尋ねた。
「クロウ・アームブラストに関しましては恐らくリィンさん達にとって大切なクラスメイトだからでしょうね……」
「え………まさか”帝国解放戦線”のリーダーは”Ⅶ組”に所属していたのですか!?」
リィンの代わりに複雑そうな表情で答えたイリーナの話を聞いたクローディア姫は呆けた後驚きの表情でオリヴァルト皇子達を見つめて尋ねた。
「…………はい。短い期間とは言えクロウさんも”Ⅶ組”の一員でしたわ……」
クローディア姫の疑問にアルフィンは悲しそうな表情で答えた。
「何らかの形でクロウ・アームブラストの”減刑”をするように求めてくることは予想していたがまさかこの会議で求めてくる所か”蒼の深淵”の減刑まで求めるとはな……――――シュバルツァー。何故”蒼の深淵”の”減刑”まで求める?奴はお前にとって大切な家族であるエリスを誘拐した元凶の一人だろうが。」
腕を組んで考え込んでいたリウイは真剣な表情でリィンを見つめて問いかけた。
「確かにクロチルダさんはエリスの誘拐を企てた首謀者ですが……そのエリスはリウイ陛下達のお蔭で傷一つなく無事に救出されました。クロチルダさんも自分が犯した罪を償うべきですが、だからと言って”処刑”はやり過ぎです。誘拐された本人であるエリスや父さん達―――シュバルツァー男爵夫妻も俺と同じ考えでクロチルダさんの助命嘆願書も書いて頂き、陛下達に嘆願書を提出する為にこの場に持って来ました。」
「え…………」
「―――見せてみろ。」
リィンの言葉にエリゼが呆けている中、リウイは嘆願書を渡すようにリィンに指示をした。そしてリィンはリウイ達に自分とエリス、シュバルツァー男爵夫妻の助命嘆願書を渡し、リウイ達はそれらを読んだ。
「まさか助命嘆願書まで用意して来るとはな……」
「むう…………仮にエリゼが処刑に賛成していたとしても多数決でリィン達の意見を優先すべきじゃな。」
「あなた、リフィア。誘拐された本人や家族のほとんどの方々が”蒼の深淵”の”減刑”を嘆願しているのですから認めてもいいのではありませんか?」
「…………………」
嘆願書を読み終えた後考え込んでいるリウイとリフィアにイリーナが指摘し、エリゼは静かな表情で黙り込んでいた。
「なお助命嘆願書とは別にクロウやクロチルダさんの減刑を求める署名も集めてあります。」
「なぬ!?」
「…………一体どれ程の数の署名を集めた?」
リィンの口から出た予想外の答えにリフィアは驚き、リウイは真剣な表情で尋ねた。
「―――トールズ士官学院の生徒並びに教官全員、第三、四、七機甲師団に所属する方々全員、”鉄道憲兵隊”に所属する方々全員、そしてログナー侯爵とハイアームズ侯爵を含めたノルティア州とサザーランド州の領邦軍や貴族達全員の署名です。もしその署名がこの場に必要ならば今すぐお渡しできます。」
「ええっ!?」
「何と……!」
「それ程までの膨大な数の署名を一体いつの間に集めたのですか?」
リィンの説明にクローディア姫とアルバート大公が驚いている中、アリシア女王は目を丸くしてリィンを見つめて尋ねた。
「今回の会議が始まるまでの期間全てを使って集めました。」
「…………会議が始まるまでの期間、”カレイジャス”が毎日頻繁に各地を飛び廻っていたという報告は聞いていたが……その署名の為だったのか。」
リィンの話を聞いたリウイは真剣な表情で考え込みながら呟いた。
「なおその署名には私達―――”アルノール家”も全員署名している。」
「また署名活動をする事を決めた際にまだユミルに滞在していたエイドス様やエイドス様のご家族にも署名して頂きましたわ。」
オリヴァルト皇子の後に答えたアルフィンは微笑みながらエイドスを見つめ
「フフ、そう言えばそんな事もありましたね。」
「無論エイドス様が署名されたのですから、その場にいた私を含めた七耀教会の関係者も全員署名しています。彼が持っている件の二人の減刑を嘆願する署名書には記されてはいないが七耀教会に所属する者達は全員署名したとみなしても構いません。何せ我々七耀教会が崇める存在である”空の女神”の意志こそが七耀教会が最大限に尊重すべき事ですので。」
見つめられたエイドスは苦笑しながら答え、セルナート総長は口元に笑みを浮かべて答えた。
「ええっ!?あ、あの……今の話は本当なのでしょうか?」
セルナート総長の話に驚いたユーディットは驚きの表情でセルナート総長とエイドスを見つめて尋ねた。
「はい。既に教皇を含めたアルテリアの上層部の方々には私が話を通しておきました。」
「セルナート総長………エイドスさん……」
セルナート総長とエイドスの予想外の助け舟にリィンが明るい表情でセルナート総長とエイドスを見つめている中、アリシア女王とクローディア姫、そしてアルバート大公がそれぞれ視線を交わして頷いた後リィンを見つめて言った。
「リィンさん。もしよろしければ私とクローディアも話に出て来た二人の減刑嘆願の署名をさせて頂いても構いませんか?」
「確かに二人の罪は重いですが……”処刑”以外にも償う方法はあると私とお祖母様は信じています。」
「私もアリシア女王陛下達と同じ考えだ。我がレミフェリアにも”処刑”という処罰はあるが、相当な重罪でない限り”処刑”という方法は取らないしな。」
「あ、ありがとうございます……!―――ヴァイスハイト陛下。図々しい頼みと承知しておりますが三国の皇族達が将来親類関係になるという国際的に明るい話になりますので、どうか二人の減刑嘆願の署名をして頂けないでしょうか?――――お願いします!」
アリシア女王達による予想外の助け船にリィンは明るい表情で頭を下げた後ヴァイスを見つめて頭を下げた。
「フッ、まさかここでもお前達の婚姻を最大限に利用して来るとは俺も想像していなかったぞ。………………―――いいだろう。俺の娘と将来の義理の息子に免じて署名してやろう。エルミナとユーディも署名してやってくれないか?」
(お父様……)
リィンの嘆願に感心していたヴァイスは静かな笑みを浮かべて答えた後エルミナとユーディットを見つめ、ヴァイスの答えにメサイアは微笑み
「はい。父の野望に巻き込まれたお二人は私にとっても他人事ではありませんので。」
「……今の状況を考えると署名を断る方が愚策です。」
ユーディットは静かな表情で頷き、エルミナは疲れた表情で答えた。
「―――エステルさん。貴女達も署名してあげてはどうですか?」
「へっ!?い、いいんですか!?」
そしてアリシア女王に視線を向けられたエステルは驚いた後アリシア女王を見つめて尋ねた。
「ええ。”身喰らう蛇”の件は彼らと関わり続けて来たエステルさん達にとっても他人事ではないですし。」
「ありがとうございます!――――リィン君、二人の減刑嘆願の署名、あたしもするわ!」
「勿論ミントも!」
「僕も署名させてもらうよ。」
「フウ……仕方ありませんね。ここは空気を読んで私も署名してさしあげますわ。」
「あ、ありがとうございます……!」
「フフ、後は私達だけになってしまいましたね。」
「ハア……こんな展開になるとは予想もしておらんかったぞ。」
(兄様…………)
「……………………」
エステル達もリィンの味方をした事により、場の雰囲気が完全にクロウとクロチルダの減刑の雰囲気になった事にイリーナは微笑み、リフィアは疲れた表情で溜息を吐き、エリゼは優しげな微笑みを浮かべてリィンを見つめ、リウイは静かな表情で黙ってリィンを見つめていた。
~バリアハート・クロイツェン州統括領主城館~
「あいつら…………ったく、どこまでお人好しなんだよ…………」
「フフ……まさか結社の”蛇の使徒”である私を助ける為にここまでするなんて……エマやリィン君達にもそうだけど各国のVIPや七耀教会にまで大きな借りができてしまったわね…………」
それぞれが幽閉されている部屋で端末で会議の様子を見ていたクロウとクロチルダは苦笑しながら呟いた。
~エルベ離宮・紋章の間~
「―――リウイ陛下。恐れながら意見をさせて頂いても構わないでしょうか。」
周囲の様子を見回したリィンは決意の表情でリウイを見つめて言った。
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