IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ~運命の先へ~
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第28話 「乙女のツケは高くつく」
前書き
留学も終わりが見えてきたGASHIです。日本が恋しい・・・。
部屋に帰った俺はベッドに寝転がりながらボーッとしていた。シャルルの件もボーデヴィッヒの件も自分一人では動けない。退屈な授業に疲弊した身体を休める絶好の機会だ。そう、そのはずなんだ・・・。
「ねぇー、暇ー。構ってよー、れーいくーん。」
そう、この邪魔極まりない訪問者さえいなければ。何が構ってだ、このワガママ生徒会長は。勝手に合鍵作って部屋で寛いでたくせに。部屋に設置されたオモチャの撤去でも面倒なのに鍵まで変えなきゃならないんだぞ。色々面倒なことしてくれやがって。
「うるさい。こっちだって暇じゃないんだ。さっき散々対局してやったんだからさっさと帰れ。」
「だって一局も勝てないんだもん。おねーさん、慰めてほしいなー。」
「負かした相手を慰めるってどういう状況だよ・・・。」
何より気が気でないのは俺が束さんからの連絡待ちだってこと。この女がいたらもちろん邪魔だし、だからといってすぐに対応しなければ束さんの機嫌が悪くなる。ちょっと手荒な手段を使ってでも退出願いたいところだ。
「いい加減帰れよ。俺は用事があるんだよ。」
「用事?もしかしてそれって篠ノ之博士絡みだったりするのかな~?」
「そうだよ。お前がいたら邪魔なんだ。」
アッサリ口を割ったことに驚いた様子の更識。しかしすぐにニヤニヤし出す。端正な顔立ちが台無しだぞ。それとすり寄ってこないで色々当たるから良い匂いしちゃってるから。
「ふっふーん、それを聞いちゃあ帰るわけにはいかないかなー?」
「そうかよ。じゃあ・・・。」
徐に携帯を取り出す俺。仕方ない、最終手段といこう。・・・あ、束さんからプライベートチャネル来ちゃった。これは可及的速やかにこの邪魔者を摘まみ出さねば。よし、この番号で良いな。
「・・・ほれ。束さんの。」
「へ?」
発信状態の携帯を手渡す。何事かと思って画面と俺を交互に見つめる更識。素直に電話を耳に当てるべきか迷っているようだ。画面に表示された番号に見覚えはない様子。第一関門クリアだな。
「ほら、早く出ないと切れちまうぞ。俺は二度もチャンスを与えるようなお人好しじゃないし。」
「わ、分かったわよ!・・・もしもし?」
コール音が切れたの確認して口を開く。このタイミングで連絡先の声を聞かれるわけにはいかない。・・・うむ、上手く隠せたようだ。元々更識も冷静な状態じゃなかったし、これで詰みだ。
『・・・そういうことか。』
「へ?・・・あ、嘘!?」
更識もお相手も一瞬で状況を把握できたようで実にありがたい。さっきからすっごい睨まれてるけど今の優越感に比べれば些細なことだ。あー、超面白い。
『今から向かうから覚悟しておくことだ、更識。精々言い訳を考えておくことだ。』
「は、はいー。お待ちしておりまーす・・・。」
通話を切った更識は黙って携帯をこちらに差し出してきた。珍しく俯いていて表情は窺い知れないがなんか小刻みに震えてる気がする。もうすぐ夏なのに寒いのかな?なんて使い古されたボケを言うつもりはない。これは100%純正の怒りだ。
「れーいーくーん?何てことしてくれるのかなぁ、君は!?」
「千冬さんに電話しただけだけど?」
すっとぼけているようでそうではない。だって事実だもの。俺が千冬さんに電話して、必要があったから更識に携帯を手渡して、更識と千冬さんが通話した。それだけ。な?この上なく単純だろ?
「電話しただけって、貴方さっき篠ノ之博士の番号だって・・・。あ。」
「気づいたな、バカ会長。」
そう、俺は「束さんの」とは言ったが「束さんの電話番号」なんて言った覚えはない。というか言ってない。
「ちゃんと電話したろ?"束さんの"友人に。」
「やってくれるわね・・・。まあ私の不注意が原因か・・・。」
まったくもってその通り。暗部の重鎮ともあろう人間が不注意極まりない。まあ束さんと話せるかもと思って舞い上がっちまったんだろうけど。あの人超弩級の有名人だからなー。あとは俺の抜群の演技力の賜物だな。・・・そこ、そんな白けた目を向けない。
「おねーさんを騙したツケは高くつくわよ。覚悟しておいてね。」
「はいはい。分かったからさっさと帰れ。」
テンプレのような捨て台詞を残して更識は去っていった。ドアが閉まる直前に千冬さんの声が聞こえた気がする。これは連行不可避だな。骨を拾うほどの仲じゃないから上手い具合に生きて帰れよ。
「・・・さてと。」
嵐が去った、と言いたいところだがこれからもっと面倒なことが待っている。先程から耳元でうんざりするほどコール音が鳴り響いているのだ。間違いなく拗ねてるな、こりゃ。とりあえず相手の要求を聞こうじゃないか。
「・・・どうも。お待たせしました。」
『この束さんを差し置いて他の女の子とイチャコラしてるなんて良い度胸してるねー、れーくん?』
開口一番で皮肉とはご機嫌斜めなことで。会話してくれる辺り思ってたよりは機嫌は悪くないようだが。・・・ってちょっと待て。なんで束さんが応答する前の俺の状況を知ってるんだ?この人確かにチートだけど、流石に人類の枠は超えてないはずだぞ。目覚めちゃったの?良い迷惑なんだけど。
「なんでそんなこと知ってるんです?」
『いやぁ、持つべきは親友だよねー♪』
・・・なるほど。どうやらあの鬼寮監、呼び出された腹いせに束さんに余計なことをチクったらしい。危惧していたほど怒っていないのはそういうことか。久々に千冬さんと話せて嬉しかったんだろうな。まあそのせいで俺が被害に遭ってるわけだが。
「・・・把握しました。それでどうすれば機嫌を直してくれますか?またケーキでも買っていきましょうか?」
とりあえずいつもの手段を提示してみる。ちょっぴり高級なおやつか、好物を作るか、だいたいはこの2つで機嫌は直る。性格がお子様なおかげで手間がかからなくて助かる。さてさて、今回は何をご所望だろうか?
『・・・プレゼント。』
「はい?」
『れーくんから何かプレゼントして欲しいなーって。食べ物じゃなくて何か形に残る物で。』
・・・えっ、今なんて言ったこの人?プレゼント?形に残る物?今までにない要求に動揺を隠せない。こういう女の子っぽいワガママとは縁遠い、というか無縁に近い人のはずなんだけど。どういう風の吹き回しなの?ヤバいどうしよ、想定外すぎて後の展開を用意してないよ。
「・・・えっと、どうしました?誕生日はまだだったと思うんですけど・・・。」
『ん~?べっつに~?ただれーくんからそういうの貰ったことないなーって思っただけだよ~?ホントだよ~?他意はないよ~?持つべきものは親友だよ~?』
「・・・もしかしなくても誤魔化す気皆無でしょ、束さん。」
これも確実に千冬さん案件だな。あの人、どんだけ呼ばれたの根に持ってるんだよ。もしかして更識の言ってたツケってこれのことか?随分と他力本願な代償があったもんだぜ、まったく・・・。
「分かりましたよ。今度帰る時までに何か見繕っておきます。」
『わーい、やった~♪れーくん大好き~!』
「はいはい・・・。」
とはいえどうすっかな・・・。束さんって滅多に外出しないから服飾品贈っても意味ないだろうし。服っていってもロリータ趣味の服を男の俺が買うのは難易度高いよなぁ。何でも喜んではくれるんだろうけど、実用性を考えないと・・・。
『さてさて、れーくんの愛情溢れるプレゼントは楽しみに待っておくとして~。頼まれた件だけど・・・。』
「あ、その前に良いですか?」
『ん?何かな?』
危ない危ない。プレゼントに思考を巡らせすぎて肝心の用事を忘れるところだった。
「実は、ちょっと聞きたいことがありまして・・・」
『・・・というわけだよ。分かったかな?』
「ええ、とても分かりやすかったです。ありがとうございました。」
俺が静聴していたのは一夏に聞けなかった過去。第二回モンド・グロッソにおける千冬さんの不戦敗についてである。俺が期待してた通り、束さんは簡潔に事の顛末を説明してくれた。
『ちなみにれーくんはこのお話をどう思ったかな?かな?』
「そうですね・・・。とりあえず言えるのは千冬さんらしいってことですね。」
一夏の誘拐、千冬さんの試合放棄、ドイツ軍の協力、そして一夏救出。そりゃあ一夏絡みなら千冬さんにとっては最優先事項だろう。同時に一夏が負い目に感じる理由もよく分かる。あのお人好しなら誘拐された自分を責めるはずだ。
(だが腑に落ちない・・・。)
一夏や千冬さんではない、ボーデヴィッヒが分からない。あいつは一夏と戦う理由があると言った。率直に考えれば、それはこの不戦敗事件だろう。千冬さんの歴史に敗北の結果を刻んだ一夏という存在を憎悪する。形振り構わず千冬さんを説得するほど慕っているんだ、当然あり得る。
『おーい、れーくん?もしもーし?』
だがボーデヴィッヒは「一夏を認めない」と言った。あれは「許さない」とか「憎い」とかそういう次元ではない気がする。一夏という存在そのものを否定しているのだ。生半可な気持ちじゃないはず。
『れーくんってばー。ねー聞こえてるー?』
仮に俺の想像以上にボーデヴィッヒが千冬さんを慕っていたとしても、千冬さん自身には微塵も影響していない過去のために特定の存在をあそこまで否定するようなクレーマーになれるものだろうか?況してや学園転入まで一夏という存在をほとんど知りもしなかったであろう人間が。
『おーい、れーくーん?束さんおこだよー?そろそろ返事してくれないと束さん拗ねちゃうぞー?』
俺は憎悪という感情をよく知らないが、無理なんじゃないだろうか。何かあるはずだ。もっと根深い、もっと個人的な、ラウラ・ボーデヴィッヒという存在に関わる根源的な原因が・・・。
『・・・もうっ!れーくん!』
「うわっ。」
束さんの大声で思考の迷路から解放される。おっと、すっかり自分の世界に入り込んでしまった。目の前の束さんは頬をプクーッと膨らませて拗ねている。何これ可愛い。
『そのすぐ考え事しすぎて周りが見えなくなる悪い癖直した方がいいって、束さん言ってるよね?忘れたのかな?』
「いえ、滅相もございません・・・。」
ヤバい、これガチの説教する時のトーンだ。脱線どころか正座してお小言を聞かなきゃいけない。流石に面倒なので本題に入って食い止めよう。後は食べ物で釣る。これ最強。
「お説教は今度帰省した時に聞きますから、本題を聞かせてください。ね?またご馳走作ってあげますから。」
『・・・むぅ。はぐらかされた気がするけど、まあいっか。えっとね・・・。』
束さんが話し始める。今夜は少し働かなきゃいけないだろう。夜はまだまだ終わらない。
後書き
最近IS読んでないや・・・。
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