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真田十勇士

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巻ノ四十二 大谷吉継その十二

「是非共」
「願ってもない申し出、しかし」
「このことはですな」
「父上、そして誰よりもです」
「関白様にですな」
「お許しがあった上で」
 幸村は慎重な口調で大谷に述べていく。
「そうして」
「進めていきたいと」
「はい、そうしたいですが」
「武家としてですな」
「武家の婚姻は主の許しがあってこそ進められるもの」
 これは諸大名の分国法にもある、真田家が仕えていた武田家の法においてもこのことは確かに定められていた。無闇な婚姻で家臣達が下手に力をつけて主家に対したり他国の者が入り込むのを防ぐ為だ。
「ですから」
「そのことはそれがしも承知しております」
 これが大谷の返事だった。
「既に関白様からはお許しを頂いています」
「だからですか」
「関白様にもですな」
「言われました」
 幸村はこのことも答えた。
「何処となく」
「それではです」
「はい、後はですな」
「そちらのお話になります」
「わかりました、それではです」
 幸村も大谷に応えて言う、
「父上に文でお伝えしてです」
「そのうえで」
「お話を進めるということで」
「そうお考えですな」
「はい、それでは」
 こう話してだ、大谷は。
 幸村に自分が淹れた茶を差し出してだ、そうして。
 その茶を飲む幸村にだ、こうも言ったのだった。
「それがし探しておりました」
「娘殿の婿になる方を」
「これまで」
「そうでしたか」
「娘がいとおしく」
 父としての愛情も見せた。
「長い間その相手を探していたのですが」
「そのお相手がですか」
「そうでした」
 これまではというのだ。
「娘には天下の英傑をと考えていたが故に」
「では」
「真田殿ならばと思いまして」
「お声をかけて頂いたのですか」
「はい、買い被りだと思われますが」
「それがしはとてもです」
 謙虚さ故にだ、幸村は大谷が見ていた通りの返事で返した。
「そうした者ではないと思います」
「そうですか、しかしです」
「大谷殿が見られると」
「そう思いまする」
 幸村は天下の英傑であるというのだ。
「このことはおそらく関白様も同じでしょう」
「だからですか」
「この話をお話した次第です」
「そうですか」
「ではこのお話を進めさせて頂きます」
「関白様にも正式にお話をされて」
「そして真田殿にもです」
 幸村の父である昌幸にもというのだ。
「そうさせてもらいますので」
「では」
「娘をお願いし申す」
 今から頼むのだった。
「そして共にです」
「歩めとですな」
「そう願っておりまする」
「わかり申した」
 幸村は茶を置いて大谷に答えた。
「では話が整えば」
「はい、その時は」
「それがしも誠心誠意を以て応えます」
「さすれば」
「しかし、それがしは」
 幸村はあらためて言った。 
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