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真田十勇士

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巻ノ四十二 大谷吉継その八

 そのうえでだ、彼はまずは兼続を見て言った。
「久しいな」
「申し訳ありませる」
「謝ることはない、越後におるならな」 
 それならというのだ。
「それも当然じゃ」
「そう言って頂けますか」
「だからな」
 こう言うのだった。
「だからじゃ」
「お許し頂けますか」
「許すも許さぬもない、しかしな」
「それがしが、ですな」
「いつもこの大坂におれば」
「常にですか」
「わしも御主に会えるのだがのう」 
 こう無念そうに言うのだった。
「返事は同じか」
「それがしは上杉家の者です」
 兼続の返事は毅然としたものだった。
「ですから」
「そう言うか、ならよい」
 男も納得した声で返した。
「むしろそう言ってこその御主じゃ」
「上杉家の者だと」
「そうじゃ、上杉殿はよい家臣を持たれておるわ」
 こうも言って笑ってだ、そして。
 次に幸村達に顔を向けてだ、そのうえで彼等に声をかけるのだった。
「さて、それでじゃ」
「はい」
「わしのことは知っておろう」
「関白羽柴秀吉公」 
 幸村は彼の官位と名を呼んだ。
「そう見受けますが」
「その通りじゃ、わしが羽柴秀吉じゃ」
 明るく剽軽ささえ感じられる声でだ、秀吉は幸村に答えた。
「帝より本朝の政を任されておる」
「この大坂において」
「そうじゃ、そして御主がじゃな」
「真田源四郎幸村にございます」
 ここで幸村も名乗った。
「真田家の者です」
「次男であったな」
「左様です、そして」
 後ろに控える十勇士もだ、幸村は秀吉に紹介した。
「この者達はそれがしの家臣でありますが」
「この者達もわしは呼んだ」
「この場に」
「御主のことは聞いておる」
 笑ってだ、秀吉は幸村に話した。
「知勇兼備にして仁愛も兼ね備えた者としては」
「それがしをですか」
「聞いておった、そして後ろの者達は」
 十勇士達も見て言うのだった。
「その御主に仕える剛勇と忠義を持った者達」
「その様にですか」
「聞いておる、確かにな」
 幸村主従を見回してだ、秀吉は話した。
「皆よい目をしておる、特に御主はな」
「勿体無きお言葉」
「御主、ただ武芸に秀でているだけではないな」
 秀吉は幸村にさらに言った。
「古今の書を常に読み学問も修めておると聞いておる」
「それが務めと思いまして」
「武家のか」
「はい、戦の兵法人としてあるべき姿、政を学ぶ為に」
「そうじゃな、だからこその知勇兼備じゃな」 
 秀吉もここまで聞いて納得した声を述べた。
「日々努めておる」
「それを怠れば」
「やはり武家ではないか」
「そう考えております」
「そうか、見事じゃ」
 秀吉は確かな笑みになった、そして。
 そのうえでだ、幸村にこうも言ったのだった。
「御主、三万石を欲しいか」
「三万石ですか」
「はじまりはそれだけじゃ」
 その三万石はというのだ。 
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